表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/70

願い、求め、成就する

「やはり、百億なんて無理ですよね〜自称『マスター』」


 チェックメイトと言うようにニヤリと笑う松尾さん。


 何故か、かっこいい。主人公みたい。


「そうだな、もう少し低くできないか?」


 まあ、あるんだが。


「それはできませんね〜。百億ぴったし、今ここで、払っていただけないと〜」


 よし、これくらいでいいだろう。


 俺は陽菜乃に視線を向ける。陽菜乃は少し首を縦に振る。


 乃々愛ママが不安そうにこちらを見てくる。


「ふっ」


「……何が可笑しいんですか?」


 思わず口から漏れた笑みに、松尾さんが眉を顰める。

 横を見れば美奈を除く4人が肩を震わせている。


「いや、別に。ただ、百億円程度で大丈夫だったのかと」


「戯れ言を。あなたたちの格好から見て、百億円なんて大金を持っている様子はない」


「はあ、確かに今は持っていないな」


「はっ、今すぐ出さないと売りませんよ?つまり、あなた方はもう諦め――」


「『次元収納』」


 俺の前の空間が歪み、狭間ができる。


 最近、習得した支援術士の魔法。4次元に容量は限られてはいるけどモノを収納する魔法だ。

 俺は狭間の中に手を突っ込み、あるものを取り出す。


「ほら、百億だ」


「……は?」


 松尾さんは机の上に出したケースを勢いよく開き、確認する。


「……くっ。た、確かに百億円ですね」


 悔しそうな表情を見せる松尾さん。


「じゃ、じゃあ!」


「やっぱり二百億……いや五百億でした」


 咄嗟に今までの発言を取り替えようとする松尾さん。


「『ヒナ』」


「はい」


 陽菜乃が手に持つ機械のスイッチを押す。


『百億で売りましょう』

『百億ぴったし、今ここで、払っていただけないと〜』

『今すぐ出さないと売りませんよ?』


 松尾さんの今までの発言が流れ出す。


 俺たちはさっきみたいに急に条件を変えられるのを防ぐために陽菜乃に声を録音してもらっていたのだ。

 陽菜乃は盗聴器をいっぱい持っているからな。

 よく、俺の部屋とかカバンに陽菜乃の盗聴器がある。


「……っ!クソ、こうなったら……いや〜私、うっかりと乃々愛さんの正体をバラしてしまいそうですね〜」


 松尾さんは今度は脅しにきやがった。


「――ひっ」


 ところが、松尾さんが突然小さく悲鳴を上げる。

 首元に振れるナイフを感じて。


「殺すよ?」


 と、松尾さんの背後からナイフを立て無機質の声で脅すのは美奈。

 音も立てずに松尾さんの背後にいつの間にかいた。


「お前ごときを消すことなんていくらでもできるんだぞ。例えばダンジョンに裸で置き去りにする、とかな。証拠は残らないし、自殺となるだろう。

 もう、お前の主人公補正は終わったんだよ。

 選べ。死ぬか、百億か」


「主人公補正?」


 乃々愛が首をかしげる。

 気にすんな、こっちの話だ。


「ひゃ、百億でぇ!」


 松尾さんが震えながら叫ぶ。

 おい、バカ。叫んだから喉に少しナイフが刺さってんぞ?まあ、どうでもいいけど。


「了解」


 俺は、松尾さんに百億が入ったケースを渡す。

 受け取った松尾さんは急いで立ち上がり扉へ、もつれながらも走る。


「あ、ちょっと待って。万が一警察とかに訴えようとしたり、『ノア』の正体をバラそうとしたりした場合は、殺しに行くよ(美奈が)。

 嘘だと思ってる?舐めるなよ。こっちは全員Aランク冒険者のパーティーだ。警察如き、俺らの相手じゃない。誰も捕まえられない。

 まあ、とにかく見てるからな」


「は、はいぃ!!」


 顔を青ざめて出ていく松尾さん。

 まあ、これだけ脅しとけば変な気は起こさないだろう。


「終わったな」


 俺はソファーに腰をかけてしみじみと口に出す。

 疲れた。


「うん。皆、本当にありがとね」


 乃々愛が涙ぐむ。


「仲間だから」


 そんな乃々愛に美奈が優しく声をかける。


 よし。これで一件落着だな。


「あ、あのー。一体、何がなんだかまだ理解できなくて」


 あ、まだ終わってなかったな。


「これからは『夜』がこの孤児園の経営者となります。何かお金に困ったり、人手が足りなくなったりしたらいつでも言ってください」


 俺はそれだけ伝えて、仮面を外して外へ行く。

 俺に続いて仲間もついてくる。


「乃々愛、お前は残れ。向こうで待ってるから」


 乃々愛ママが乃々愛と話したそうな顔をしてたからな。



◇◆◇◆◇◆



「冒険者をしているって本当だったのね」


 修のはからいで二人きりとなった、私とお母さん。


「うん。そうだよ、今まで黙っててごめんね。パーティーのルールで決まってて」


「……そう。一応聞くけど悪事に手を染めたりはしてないわよね。殺人とか」


 不安そうな顔のお母さん。

 やっぱり、やりすぎだったんだよ。

 美奈はしょうがないけど、修に関しては絶対に途中から楽しんでやってたでしょ。


「そんなことないよ!本当に良い仲間なんだよ!」


「ふふっ、分かったわ。乃々愛の表情を見れば伝わる。良い仲間に出会ったのね」


 一転して笑顔になるお母さん。


「うん!私、そこで『騎士』をしてるの!」


「『騎士』……そう。良かったじゃない、乃々愛。夢が叶って」


「夢……?」


 そういえば私の夢って何だっけ?

 ものすごく小さい頃にどうしても叶えたい夢があった気が……。


「覚えてない?小さい頃『私、大きくなったら騎士になるの!』って言ってたの」


 ……あ。思い出した。そうだった。自分のジョブが剣士だと分かって騎士になれると思ったあの頃。


「それなのに、私のせいで、あなたは経費を稼ぐ為に夢を捨てたと思ってた。私はずっとそれが心残りだった。私は子どもの夢を叶えてあげれなかったって」


 お母さんの肩が震える。

 私の目を見るお母さんの瞳は潤っている。


「でも違った。こんなにも強くなって。

 ありがとう、家族を守ってくれて。あなたは最高の『騎士』よ」


 瞳から雫を溢しながら微笑むお母さん。


 私の好きな笑顔。

 守りたかった笑顔。


「良かった、ちゃんと守れたんだね。私、ちゃんと、ちゃんとできたんだ。

 お母さん、私の方こそありがとう。私を愛してくれてありがとう」


 頬に伝う湿った感触。

 私は精一杯の笑顔を向けた。










 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ