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やり残したこと

 どのくらい時間が経ったかな。

 分かんないや。

 魔石はだいぶ溜まってきた。


「ふっ」


 目の前から迫るモンスターを横薙ぎで払う。

 モンスターは魔石を残して消える。

 それを拾う。


 肺が痛い。呼吸がしづらい。足が重い。


 全身が悲鳴を上げるが、それを無視して歩みを進める。


 疲れたな。


『岡さんっていつも元気で悩みとかなさそうだよね』


 うるさいな。

 そんなんじゃないよ。


 元気にしないといけないの。私はお姉ちゃんだから。騎士だから。

 悩んでいる素振りなんて見せない。家族に仲間に心配をさせない、それが最高のお姉ちゃんであり騎士だ。


『グガアアァァ』


「うるさい」


『ギャッ』


 どうして、私はこんなに頑張っているのだろう。

 こんなにボロボロになって。

 今月が凌げても、来月はそうはいかない。


 なら、あの男の言うとおり身体を売れば……



『良かったら俺と一緒に冒険者にならないか?』


『君にはうちの騎士になってほしい』


『大丈夫。君は騎士になれるよ。俺が騎士にしてみせる』


『一緒に強くなろう』



「……どうすればいいの、助けてよ修」



 私の口から漏れた心の悲鳴。

 誰にも聞かれることもなく、ダンジョンの闇へ溶け込んでいった。



◆◇◆◇◆◇



「はぁはぁ、最下層到着」


 かなりのハイスペースで来た私はダンジョンの壁に寄りかかって休む。


 すぐ隣にはボス部屋に繋がる扉。


「帰ろっか」


 ゆっくりと立ち上がる。

 身体が痛い。

 動きたくない。


 はあ。これから毎日この生活か。


 もうちょっとだけ多く稼ぎたいな。


 例えば、一体を倒しただけでそれなりの報酬が出る、ボスとか、ね。


「あはは、流石にそれはないな。イレギュラー起こる可能性もあるし」


 『ボスだけはソロで挑むな』

 有名な冒険者界のルールだ。


 でも、もしもボスを倒せたら?


 私、1人で倒すことができたら?


 家族を助けることができる。


 ――もっと楽が、できる。


 キィぃー

 ……ガタン


「……あれ?いつの間に入ったんだろ。でもしょうがないよね」


 目の前に現れる巨大なモンスター。


「オークキング」


 豚のような醜い顔を持つモンスター。

 速さはないが手に持つ棍棒を力強く叩きつけてくる。

 一度でも当たれば致命傷になりうるだろう。


『ブフォぉぉぉオオオッッ!!』


 オークキングが棍棒を振り上げ走ってくる。

 やっぱり遅いな。


 これは、簡単だ。


 振り下ろされる棍棒を余裕のある跳躍で躱す。

 オークキングの頭上を通過し、着地。


「はあっ!」


 一気に決める。

 首を切り落とす。


「ッ!意外と硬い?!」


 ――ピシ


 なら、もう一回!


「はっ!」


 ――ピキッ


 ダメだ!硬すぎて刃が通らない!


「ふぅー」


 一旦落ち着け。


 突きでいこう。

 首元に穴を開けていこう。何回かしたら死ぬだろうか?どうでもいいか。オークキングの攻撃は当たらないんだから、死ぬ心配はない。


「はあっ!!」


 剣を持つ右腕を引き、オークキングの喉元目掛けて、繰り出す。

 細剣士の技術。『高速刺突』だ。

 よし、まずは1回目。


 ――パキンッ


「はあ?」


 辺りに散らばる銀色の鉄くず。


 剣が折れた。

 それに気づくのに数秒時間がかかった。

 そして、その隙を見逃すモンスターはいない。


『ブフォおおうううぅぅぅッッ』


「ッッ!!」


 大振りの横薙ぎ。

 オークキングの体重が加わり、さらにスピードが増している。


 ――避けれない!!


 思いきり手をクロスさせ、守りの態勢に入る。


 ゴキッ


「がはぁっ」


 吹き飛ばされ、後ろの壁にぶつかる。


 こ、呼吸ができない!

 腕の骨は粉砕して、剣もまともに持てない。

 口の中は鉄の味。意識は既に朦朧としている。


 私の元へオークキングが歩いてやってくる。

 ゆっくりと足音を鳴らして。


 これは、もうダメだ。


 敗因はなんだろう。挙げればきりがないな。

 最近、剣の手入れを怠っていた。ソロで挑んだ。身体も心もボロボロだった。


 ああ、私はもう死ぬのか。


 オークキングがだんだんと近づいてくる。


 これで楽になれる。


 足音が鳴り止む。

 顔を上げると、気持ち悪い笑みを浮かべたオークキングがいた。


 思い残したことは……。


 私を慕ってくれる子どもたち。


 いつでも私の味方でいてくれたお母さん。


 暖かい仲間たち。


 親友の美奈。


 そして、修。


「……だ」


 オークキングが見せつけるように棍棒をゆっくりと持ち上げる。


「嫌だ」


 やり残したことがある。


 修の夢を一緒に叶えようって。


 最高の騎士になろうって。


 家族を守ろうって。


 まだ、何一つも叶えちゃいない!!


「死にたくないよ」


 助けて。


 身勝手な願いなのは分かっている。


 最初から仲間を頼らなかったのは私。


 それでも、


「助けてよ、」


 喉から絞り出した小さな声。


 分かっている、こんな都合よく現れるわけがない。


 それでも、


「助けてぇっ、修!!」


 振り下ろされる、棍棒。


 目をつむる私。

 今に来る衝撃を待ち受けて。


『ブヒ?』


 え?


 来るはずの棍棒は私の目の前で止まっていて、私の身体が何かが包み込むを感じる。

 どこか暖かいものが。


 口角が上がる。思わず涙も溢れてしまう。


「待たせたな、乃々愛」


 剣を悠然と構えた修の姿。


「ううん、ありがとう。後、ごめんね」


 私は安心して意識を手放した。


 





 

 

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