案外すぐに帰ってきたりするかも……
「美奈、乃々愛は?」
自分の部屋にて美奈に俺は問いかける。
「いない」
「どこに行ったのかは?」
「確証はない。だけど、たぶんダンジョン」
「ッチ、あのバカ。俺たちのルール忘れたのかよ」
色々な感情が湧き上がってくるけど、今はそんなこと言ってる場合じゃないな。
「皆を呼んでくれ、緊急会議だ」
異変に気づいたのは、一昨日くらいだった。
いつもなら一撃で倒せるはずのモンスターに手間取っていた。
戦闘での立ち回りがソロ冒険者のものに近かった。
そして、決定的となったのは今日。
あんな弱々しい乃々愛は初めて見た。
帰ってからも変わらず、落ち込んだままでどこか思い詰めていた。
だから、もしかしたらと思ったんだ。
「さて、全員集まったな」
俺の部屋に、凪沙、美奈、陽菜乃、千代が座っている。
「じゃあ、緊急会議を行う。早速本題に入る。乃々愛はどこにいると思う?」
皆に問いかける。
「ダンジョン」
「ダンジョンよね」
「ダンジョンです」
「え?ええ?」
1人を除いて口を揃えてダンジョンだと言う。
千代、あまり気にするなよ。
「俺もそう思う。じゃあランクは?」
「乃々愛はバカじゃない。Cランク」
乃々愛と一番仲が良い美奈が確信を持ったように告げる。
乃々愛の実力だと、ソロで確実なのはCランクダンジョンだろう。
「ここら辺のCランクダンジョン……それに加え剣士向けは……」
脳内のダンジョンの情報を照らし合わせて、乃々愛がいそうなところを浮き彫りにしていく。
「大方この4箇所といったところか。じゃあ、俺がここ。凪沙がここ。陽菜乃と千代はここ。全員、気をつけて行ってくれ」
「ま、待って!私じゃCランクダンジョンなんて無理だよ!」
千代の焦った声が耳に響く。
不安なのだろう。
「安心しろ。お前の弓の実力はもうBランク冒険者と変わらない。それに、俺の付与魔術をかけておく。その上、陽菜乃がいるんだ。死なねえよ」
「で、でも!」
「不安なのは、分かっている。でも頼む、手を貸してくれ。俺一人じゃ、乃々愛を確実に救えることができないんだ。こんなリーダーでごめんな」
千代が無理な場合はどうすれば……。
サタンは、行けるか?俺と離れすぎた場合どうなるか分からないけど、やるしかないな。
「っ!ごめん、弱音を吐いちゃった。そうだね。私ならやれる。修は間違ったことを言わない」
やめて。俺はそんな偉大な人物なんかじゃないからね。
今すぐさっきの言葉を取り消したくなってきた。
もう、いいや。
「じゃあ、あの我儘な騎士様を迎えに行くとするか」
◆◇◆◇◆◇
乃々愛と私の関係、何なのだろう?
友だち?親友?仲間?
全部そうなんだけど、全部どこかしっくりこない。
それ以上に乃々愛は私のお姉ちゃん的存在なのだろう。
なのに、どうして私に相談してくれなかったんだろう。
乃々愛のことだから皆に迷惑をかけると思ったのだろう。
酷い。それで乃々愛が勝手に死んだら、私が殺してやる。
だから生きててね、乃々愛。
ようやく掴んだんだ、人形なんかじゃない。人間としての楽しい日常。
終わらせたくなんかない。
私たち、『夜』には乃々愛が必要だ。
代わりなんてどこにもいない。皆がそう思っている。
だから死なないでね、乃々愛。
◇◆◇◆◇◆
「武器召喚『剣』」
暗殺者の技術である、『気配遮断』と『抜き足』を使い、背後からモンスターを仕留める。
「バカ野郎っ!少しは自重しろよ、俺の左手!」
必死に右手で抑えるが左手は止まらない。
そして、掴んでしまった。
1つの魔石を。
「クソッ、俺は乃々愛を助けに来たんだぞ!これじゃまるでお小遣い稼ぎに来たみたいじゃねえか」
ま、まあいい。
拾おうが拾わまいがどのみちスピードは変わらないんだから。
このお金で皆を労ろう。うん。
俺は魔石を集めつつ下層へ潜った。
◆◇◆◇◆◇
「『火炎放射』」
目の前から迫るモンスターを魔法で一気に殲滅する。
魔石?
こんな重要なときにいちいち魔石を拾おうとする、クズがどこにいるの?顔を拝んでみたいわ。
さすがの修だってしないわよ。
……やっぱり、さっきの発言は取り消すわ。
私は自分の実力に自信がないから拾わないわ。まあ、修くらいになってくると拾っても拾わなくても変わらないのよ。
よし、なぜだか分からないけど訂正したほうがいいと言う勘に従ってみた。
なんだか、心がほっとした。そして、少し悲しい気持ちになってしまった。
本当になんでだろう。
◇◆◇◆◇◆
「はっ」
5体のモンスターに矢が刺さり絶命する。
「流石です」
兄さんの言うとおり、千代さんの実力は相当のものだ。
私なんか必要じゃなかった。
「あ、ありがとうございます!」
「どうして敬語なんですか?」
ずっと前から気になっでいた。兄さんにはため口なのにそれ以外の皆には敬語だったから。
……あ。
「もしかして、兄さんと交際でも?」
「ひぃっ。ち、違います!ただ緊張して!」
「ああ、そういうことですか。早く慣れると良いですね」
「は、はい!」
どこか安心した様子の千代さん。
何か怯えてたような気がしたけど気の所為かな。
「それより、どうして先程から魔石を集めているんですか?」
千代さんの言うとおり私はさっきから千代さんが倒して落ちた魔石を拾っている。
千代さんはその行動に疑問を持ったらしい。
「いえ、兄さんへプレゼントです」
恐らく、兄さんなら拾っている。だから、私も拾って後で兄さんに渡すのだ。デートを条件に。
完璧な作戦だ。
「では、拾い終えたので行きましょう」
「は、はい!」