俺の夢?それならもう叶いつつあるよ
「よし、じゃあ深夜冒険へレッツゴー!」
Cランクダンジョンへと足を踏み入れる私。
今の時刻は11時。
今までは2時には切り上げていたけど、今日からは3時半まで潜っている予定だ。
「えい!」
モンスターの胴体が分かれる。
「とりゃ!」
モンスターの首が吹き飛ぶ。
「おりゃ!」
モンスターの……飽きるなあ。
結構前から私の中にはその感情が宿ってしまっていた。
まあ、こんな時は昔のことを思い出すのがいいんだよね。
例えば、私と修が出会った頃のとかね。
◆◇◆◇◆◇
「誕生日おめでとう、乃々愛」
皆に祝われた15歳の誕生日。
ここは、孤児園。何らかの原因で親がいない子どもたちがここで生活している。
私はここで1番の年上で、皆のお姉ちゃんとして生活している。
「お母さん!私ね、皆のためにお金を稼ぐの!」
子どもではあったけれど、ここの経費を払うために毎日お母さんが働いていたのは知っていた。
毎日遅くまでだ。
「うん、ありがとうね」
お母さんや皆の笑顔が好きだった。
だから、皆を守りたい。
私は冒険者になることにした。
そうと決まればすぐに行動を移す。
「ねぇねぇ、私をパーティーに入れて!」
色々なパーティーに当たってみた。
「あ?ッチ、バカにしてんのかぁ?どっか行け、クソガキが」
「君、小学生?私はママじゃないよ?」
でも、どこのパーティーも相手にしてくれなかった。
当時は気づけなかったけど、当然のことだと今では分かる。
私は残念なことに少しだけ、本当に少しだけ体つきが幼い。身長は小さく、体型も……。
だから、中学3年生であるにも関わらず私はよく小学生に間違われる。
それで、そんな小学生をパーティーに入れるはずがない。
パーティーとは互いの命を預けるもの。
剣も持ってすらいない小学生がパーティーに入れてもらえるはずがなかった。
それでも、その時の私はそれに気づかずに1週間も色んなパーティーに話しかけた。
「うぅ、どうして誰も入れてくれないの〜」
途方に暮れた私は空き地のベンチで1人泣いていた。
子どもたちの前では隠していたけど、私は意外と泣き虫だった。
空は赤くなっていて、帰らないといけないはずなのに、涙が止まらない。
「どうしたの?」
ふと、頭上から声がかかった。
低くいけど、包み込むような優しい声だ。
顔を上げると黒髪の男の子が私を見ていた。
「大丈夫?」
彼の心配するような表情に私はいつの間にか事情を話していた。
「……ちょうどいいな」
「うん?何か言った?」
「いや、何でもないよ。それよりも、良かったら俺と一緒に冒険者にならないか?」
彼が私に手を差し伸べる。
彼の表情をうかがうけど、私をからかっている様子はない。
じゃあ本気で私を誘っているの?
こんな私を?
「さっきも言ったけど私、素人だよ?」
「知ってる。それでも俺は君が良い。これから俺はパーティーを作る予定だ。君にはうちの騎士になってほしい」
「……騎士」
パーティーの守護者、騎士。誰もが一度は憧れるジョブ。
でも、
「私は『剣士』だよ?」
「知ってる」
「だから私は『騎士』になんか――」
「大丈夫。君は騎士になれるよ。俺が騎士にしてみせる」
子どもの戯れ言だと思った。私も子どもだけど。
まあ、どちらにせよもう当たるパーティーないからいっか。
「分かった。よろしくね」
私は彼の手を取る。
「ああ、よろしくな」
「あ、名前は?私は岡本乃々愛、15歳だよ。ジョブはさっきも言ったけど『剣士』」
「そういえばまだ名乗ってなかったな。俺は佐木島修、15歳だ。ジョブはない。まあ、いわゆる『ジョブ無し』だな」
……へ?今、すんごい言葉が聞こえたような。
別に差別をしているわけではない。
でも、冒険者をするにあたって『ジョブ無し』は大丈夫なのかな?
とても不安になってきた。
「じゃあ、まずは乃々愛に剣術を教えようか」
「え?あ、うん」
今日はここで解散となった。
私が教えてもらうの?
そんな疑問を抱いて帰路についた。
◆◇◆◇◆◇
「じゃあ、やろうか」
修につれられてやってきたのは辺りを木で囲まれた、森。
私と修は剣を持って対峙している。
ほ、本当にやるんだ。
剣は学校の授業でしか扱っていないけど、修よりかはできるはず。
少し手加減しよ。
私は修が構えたのを見て、私も構える。
……あれ?なんだろう。動けない。攻撃すれば殺られる。
「構えがダメだ。隙がある」
私は騙されたと思って修のアドバイスに全て従ってみた。
◇◆◇◆◇◆
分からなくなった。
修って何者なんだろう。『ジョブ無し』って嘘なのでは?
それ程の剣の実力だった。手も足も出ない。
「ごめんね、修」
私の口から溢れる。
「ん?どうしたんだ?」
「『ジョブ無し』と聞いたとき、実力を疑っちゃった」
「気にしないよ。『ジョブ無し』は無能の象徴。これは間違ってない。俺が異質なだけだ。だから、乃々愛は悪くないよ」
凄い、と思った。剣の実力もそうだけど人間としても。
私は修についていきたいと思った。
「俺には夢があるんだ。俺はそれをどうしても叶えたい。だから、一緒に強くなろう」
一体どんな夢なのだろうか?世界最強とか?
「うん!よろしくね!」
修の夢がなんだろうと私はそれを全力で手伝おうと思った。
「ははっ、夢にまた一歩近づいたな。乃々愛、俺のために働いてくれ。そして俺を養ってくれ。ニート生活こそが俺の夢だからな」