乃々愛「修!プレゼントだよ!」
「あっ!乃々愛おねーちゃん!」
「今日こそ遊ぼう!」
孤児園に行くと私の元へ集まってくる、子どもたち。
「はいはい、後でいっぱい遊んであげる」
一人一人の頭を撫でながら、お母さんの元へ向かう。
「お母さん、乃々愛だよ」
扉をノックして中に入る。
ソファーにお母さんが座っていた。
「久しぶりね、乃々愛」
「そうだね。はい、これ今月分の」
私はお母さんに1000万円が入った茶封筒を手渡す。
お母さんは、それを受け取る。
「……本当にごめんね。あなたにこんな辛い思いばかりさせてしまって。変なおじさんとかに酷いことされなかった?」
「さ、されてないよ〜あ、あは、あはははっ」
私が身体を売っているということは、お母さんの中では確定しているらしい。
もう、どうにでもなれ。
「私も少しでも働ければいいのに……」
哀しそうにうつむくお母さん。
「ダメだよ。お母さんは子どもたちの面倒を見なきゃいけないんだし。お金は私がちゃんと稼ぐから、安心して」
悔しそうに両手の拳を握る。
「ごめんね、本当にごめんね」
本当のこと言いたくなってきた。
本当は冒険者なんだよって。それはそれで心配されそうだけど。
こっちこそ、嘘ついてごめんね。いつか本当のこと話すから。
「大丈夫だって。それより、来月の経費は?」
お母さんの肩が『経費』に反応してビクッとなる。
十中八九、経費が増えたのだろう。
どのくらい増えたのかな?
大丈夫、今の私の貯金は1000万円はある。多少の増量は余裕だ。
「こ、今月のちょうど倍よ」
「……」
一瞬、お母さんが何を言っているのか分からなかった。
その言葉は次第に脳に届き、
「え、えええぇぇぇぇぇ!」
私は絶叫した。
今、私の貯金は1000万円。
今月、後1000万円も稼がなくちゃいけないの?
きつい。
「こ、今度こそ私が稼ぐわ!あなたはもっと身体を大事になさい」
お母さんがオロオロしている。
「だ、ダメだって!お母さんがいないと誰が子どもたちの面倒を見るの?!
私なら大丈夫だって!最近、(深夜ダンジョンに)慣れてきたから!」
「慣れが1番いけないのよ?!」
そういうことじゃない!
言いたいけど言えない。
「じゃ、じゃあ私はもう帰るね!ばいばい!」
もう逃げよう。
私はお母さんの説得を諦めることにした。
「あ、待ちなさい!」
「またね!」
「あ、乃々愛おねーちゃん!」
「また、帰るの?」
泣きそうな顔になってる子どもたち。
私は思わず足を止めそうになるが、後ろにはお母さんが。
仕方がないか。
「はっ」
私は地面を蹴り、空で回転しながら子どもたちの頭上を越える。
スタッ。
「うわー!かっこいいー!」
「何それー!俺にも教えてー!」
一気にはしゃぎ出す子どもたち。
「いいよ。でも、これは心が強くないとできないの。だからまずは皆、泣き虫を直そうね。次に来たときに直ってたら教えてあげる!」
「ええー」
「今教えてよ〜」
「だーめ。じゃ、皆バイバーイ!」
私は皆に背を向け走り出す。
「乃々愛!」
後ろから、お母さんの声が聞こえた。
私は振り返り、笑顔を見せる。
「だいじょーぶ!」
私が家族を守るから。
◆◇◆◇◆◇
孤児園を抜け、歩き始める。
私に任せてとは言ったんだけど、実際は結構危ないんだよね。
「おお〜、これはこれは乃々愛ちゃん」
この声は、
「……松尾さん」
孤児園の経営者さんだった。
彼に不快な気持ちを抱くのは間違っているのは分かっている。多額の経費を要求するとは言え、それさえ払えば子どもたちの世話はきちんとしてくれる。
それでも、自然と奥底から湧いてくるこの嫌悪感。
「いや〜大きくなったね〜」
松尾さんのいやらしい視線が私の身体を巡る。
そして、私の胸元に来た瞬間、ため息をつかれた。
おい、どこ見た。
「それより、来月の経費は払えそうですか〜?」
ニヤニヤとした顔をした松尾さん。
「……払います」
正直厳しいけどダンジョンに潜る時間を増やして。
「その様子じゃ厳しそうだね〜」
誰のせいで。
そんな言葉が出そうになるのを私はぐっとおさえる。
ここでこの人を怒らせて子どもたちに何かあったら。
「乃々愛ちゃんに良い仕事があるんだよね〜。実は乃々愛ちゃんのことを、良いと言うおじさんがいてね〜。その人と一夜を過ごすだけで、1000万だよ〜」
悪寒が走った。
額に騙されてはいけない。それを呑んだら私は私でいられなくなる。
修や仲間たちと笑い合うことすらできなくなってしまう。
「大丈夫です。必ず指定された金額を納めてみせます」
私はダンジョンに潜る時間を増やすことを決意した。
私の初めては絶対に修にあげるの!