過労しすぎじゃない?
「岡さんっていつも元気で悩みとかなさそうだよね」
「ほんと羨ましいな」
「えへへ。そうかな〜」
こんなふうに、私はよくそんなことを言われる。
でも、ちゃんと人並みに悩みはある。ただそれを表に出さないだけで。
妹弟がいる中、私は弱音を吐くわけにはいけないのだ。
そして、パーティーのメンバーとして強くなくてはいけない。
何故なら私は『夜』の――
◆◇◆◇◆◇
「あ〜また外した〜」
今、私たちはDランクダンジョンにいる。
千代ちゃんの育成のためだ。
指導は修がしている。
低レベルダンジョンだから、私たちはいらないんだけど、皆ついてきている。
修がダンジョンに行くのはレアだから、嬉しいのだ。もちろん私も。
出てくるモンスターのほとんどは千代ちゃんと修が倒している。
私たちはただ見ているだけ。
「剣を扱っていただけあって反応がいいわね」
「うん。逸材」
そう。千代ちゃんは弓士でありながら、長年剣の練習をしてきた。
そのため、弓士とは思えない程の動体視力を持っている。弓士としての実力をそのまま伸ばしていけば、簡単にAランクにいけるだろう。
「負けてられないね!」
私は2人に笑いかける。
「ええ、そうね」
「うん」
◆◇◆◇◆◇
深夜。
「えい!」
私はCランクダンジョンにて、モンスターをなぎ倒していた。
お金が足りない。お金がほしい。お金が来た。いっぱぁい。
そこまでは行ってないないけど、お金がほしいのは事実。
孤児園の経費が払えなくなる。今月は貯金を切り崩して確実に払える。でも来月になれば分からない。
だから、睡眠時間を削ってまでダンジョンに潜らないといけない。
「……もうここまでかな」
ボス部屋の前まで足を進めて、私は足を止めた。
ボスは一人で狩るな。これが冒険者の鉄則だ。
ボス部屋でイレギュラーが発生した場合、そのボスは高ランクで出てくるから。
Cランクダンジョンでイレギュラーが発生した場合、ボスはBランクかAランクレベルとなる。
修はAランクボスを1人で倒したらしいが、修は例外だ。
私は自分がAランクボスを倒せるなんて驕ってない。
私は、ボス部屋に背を向け踵を返した。
◆◇◆◇◆◇
家の前にたどり着いた私はそっと扉を開ける。
優しい皆のことだ。私の事情を知れば、手伝ってくれるだろう。もしかしたら、自分たちの貯金を分けてくれるかもしれない。
でも、いけない。今は千代ちゃんに時間を割くべきだし、皆にも皆の夢や抱えているものがある。
私だけ、皆に甘えるわけにはいけない。
家に入ったら、お風呂に入りベッドにつく。
ダンジョンのランクに関わらず、ソロで潜るのはかなり疲れる。パーティーなら他の仲間に任せる、背後などに注意しないといけないからだ。
私は、一瞬で眠りについた。
「乃々愛、起きて」
「んん?」
どうしたんだろ。美奈が私を揺さぶる。
「寝坊してる」
嘘だ。私は朝が弱いわけでもないし、ちゃんと早い時間に寝るようにしている。
「……あ」
そういえば、昨日ダンジョンに潜ってて寝る時間が結構遅くなってたんだった。
私は恐る恐る時計を見る。
8:00
「遅刻だぁ!」
まだだけど。でもかなりヤバい。
「どうして、もっと早く起こしてくれなかったの?!」
美奈に問いかける。すると、美奈は無表情ながらもどこか誇るように言う。
「乃々愛が気持ちよさそうだったから、私も一緒に寝てた」
言われて、美奈に視線を移した。
美奈の格好はまだパジャマだった。
「美奈も遅刻じゃん!」
起こしてくれたから、美奈は準備終わっている状態だと勘違いしてた。
「ふふん」
無表情でドヤ顔しないで。
私たちはその日盛大に遅刻をかました。
明日からは目覚ましをかけよう。
◆◇◆◇◆◇
「はっ」
千代ちゃんの放つ矢が空気を切り裂きモンスターの胸に。
モンスターは魔石を破壊され断末魔を上げる間もなく死んでいった。
「10回連続だな」
千代ちゃんは恐ろしい程のスピードで成長している。
凄いな。
私ももっと頑張らなくちゃ。
調子に乗った私は深夜に潜る時間をさらに増やしてしまった。
とてもきついです。
でも、そのおかげでかなりのスピードで貯金が増えている。
もう少しで、最初の2倍に達しそうだ。
来月分がどのくらい増えるのかは分からないけど、この分なら恐らく大丈夫だろう。
安堵とともに私はベッドの上で瞼を閉ざした。