家族
待ちに待った、我らが休日。
この二日間で疲れた身体を癒そうと思ってたんだけど、千代の育成があるためダンジョンだ。
「今から千代とダンジョン行くけど、誰かついてこない?」
俺1人に苦痛は味わいさせないぜ。
皆で一緒に苦しもう。それが、パーティーってもんだろ。
「行くわ」
「行く」
「兄さんとデート」
お、3人釣れた。凪沙と美奈と陽菜乃だ。
ありがたい。でも、陽菜乃の発言はおかしいよ。
デートするなら、家一択だろ。疲れねえし。
「乃々愛はどうする?」
乃々愛だけ返事がなかったので、聞いてみる。
「私はいいよ!今日は、家に行くんだ!」
「そうか。じゃあ、皆によろしく言っといて」
「うん!」
乃々愛は走って去っていった。
元気なやつだな。
時々思う。俺のやる気とか元気とかは乃々愛に全部取られているんじゃないかって。
ま、乃々愛と出会う前からこんな性格だったから違うんだけどな。
◆◇◆◇◆◇
「るんるん、るん……」
よく分からない曲を口ずさみながら、私は歩く。
私の家はパーティーホームからそんなに離れていない。
「元気にしてるかな、あの子たち」
今から会う妹弟たちのことを考えると不思議と気分が上がってくる。
ふと、視界の端にある冒険者パーティーが入る。
三人組のパーティーだ。
魔術士と回復術士と剣士だ。
あれは……騎士かな?
剣士系統のジョブには、剣士、騎士、細剣士など様々な種類で溢れている。
その中でも一番最弱と呼ばれているのが、『剣士』。
騎士ほど、力がなく。細剣士ほど、速くない。
万能型。悪く言って器用貧乏なのだ。
私は、それでも良いと思っていた。Aランクまで行けたし、これで、通用するから。
でも最近、千代ちゃんが来た。
修は、これ以上仲間を増やさないと思っていた。
だから、もしこれからダンジョンで私の力が通用しなくなったら、私の代わりに新しい仲間を。
そんな妄想が頭をよぎる。
修はそんなことをするような人じゃない。そんなこと誰よりも分かっているはずなのに。
◆◇◆◇◆◇
「ただいま〜!」
私の家は、街の外れにある孤児園だ。
私は親の顔を知らない。生まれてすぐに捨てられたのだろう。
でも、悲しくはない。
「あ、乃々愛おねーちゃんだあ!」
「おねーちゃん!」
何故なら妹弟がいるから。それに、仲間も。
私を見るなり10人を超える年端もいかない子供たちが駆け寄ってくる。
「ちょっと待っててね、お母さんと話ししてくるから」
子供たちの頭を撫でながら、立ち上がる。
「えぇ、遊ぼうよ!」
「逃げるなあ!」
子供たちが、喚き出す。
ほっとけばそのうち静まるから今は無視する。
私は奥の部屋に入った。
「お母さん、私だよ。乃々愛」
「はーい」
返事をしたのは若い女性。
一体、何歳なんだろう。
「あら、久しぶりね」
お母さんが嬉しそうに駆け寄ってくる。
若いな。
「久しぶり、お母さん」
それから、私は学校の話などをした。
「それで、今月は大丈夫?」
「……ええ、今月も乃々愛のおかげで子どもたちも元気よ」
「よかった〜」
実はこの孤児園は経営難なのである。
だから、私が冒険者として稼いだお金を毎月お母さんに送っている。
「……でも」
お母さんの表情が少し沈んだ。
「どうしたの?」
「……」
言いづらそうなお母さん。
「お願い、教えて。子どもたちを助けたいの」
大体は予想できている。結構、前からその予兆はあった。
「実は、経費が上がって」
「やっぱり。それでどのくらい?」
予想通りだった。この孤児園を運営している人は極悪人で、私たちから多額のお金を摂取しようとしているのだ。
しかも、払えないとなればお母さんの身体を要求してくる。
実際、私が冒険者になるまではそうして払っていたんだと思う。
「1000万よ」
「え?!先月の約2倍も?!」
ダメだ。私のダンジョンで稼ぐお金じゃ全然足りない。
私の貯金を切り崩せばどうにかなるだろう。
でも毎月、しかもどんどん上がっていくってなれば……。
「できます」
ダンジョンに行く回数を増やそう。でも、仲間に迷惑はかけたくないから一人で。
「……ダメよ。自分では気づかないものだけど、あなたは確実に疲れてる。身体も心も」
……嘘?私が冒険者しているのバレてる?
私たちのパーティーにはルールがある。
その一つが絶対に他人に正体がバレてはいけない。
うちのパーティーには、世間から正体がバレるとまずい人が所属している。私は違うけど。
まあ、そんなルールがあるからお母さんたちには私が冒険者しているのを黙ってるんだよね。
変に聞かれても困るし。
「いい。これ以上身体を売ってはダメよ。これからは私が犠牲になるわ。いえ、そもそも乃々愛に任せたことが間違いだったのよ。乃々愛はこんなにも汚れてしまった。ああ、私はなんてことを。ごめんなさい、乃々愛」
「ちょ、ちょっと落ち着いて、お母さん!」
まさか私が身体を売っていると思われてたなんて。
なんかやだな。でも、冒険者だって言えないし。
私の初めては修にあげるの!
「と、とにかく大丈夫だから!じゃ、じゃあ待たね!」
私は逃げることにした。
誤解、どうやって解こうかな。