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孤独 side千代

「あなたのジョブは〈弓士〉ですね」


 6歳になった日、私はジョブ鑑定を行った。

 ジョブ鑑定は病院にて、血液で分かる。


「ねぇねぇ、きゅーしってなにぃ?」


 幼かった私には弓士が何なのか分からなかった。

 だから、一緒にいた両親に尋ねる。


 しかし、両親は家に帰り着くまで一切口を開かずに、家に着くと、


「弓士は無能の証だ。千代、お前は今日から剣を握れ。人並みの才能の無いお前は死にものぐるいで剣を振り続けろ」


 両親はその日から私の目を見ることがなくなった。

 愛情も与えられず、それどころか私は一つの広い小屋みたいのに強制的に住むことになった。


 6歳離れた兄からはゴミを見るような目で見られて、一つ年下の妹からはいつもバカにされる。


 朝起きたら、まず剣を振る。走る。その後食事。終えたら、夕方までまた剣を振る。夕食。入浴。睡眠。


 そんな日々の毎日だった。


 手には豆だらけ。毎日疲れ果てて、それでも続けるしかなくて。

 誰にも褒められるわけもなく私は機械のように毎日を過ごしていた。


 小学校を通い始めたのは、小学4年生からだった。

 それまでは、剣の実力が無さすぎて柊木家の恥として家から出させて貰えなかったのだ。


 小学校に通うことになって久しぶりにお父さんと話した。


「お前がこの柊木家出身だとはバレないようにしろ。せいぜい、この家に泥を塗るようなことはしてくれるなよ」


 久しぶりに話したことがそんな会話で、私はショックを受けた。

 お母さんはお父さんの隣にいるけど私に一切目を合わせようとしない。


 ねぇ、二人ともどうして私を見てくれないの?

 剣士じゃなかったのがそんなにいけないことだったの?

 私を見てよ。


 何度も口に出そうと思ったが、どうしても喉から上がらない。

 怖かったんだ。

 もう、失うものなんて何もないのにね。


 学校では、長く人との接触を禁じられていた私は人との接し方を忘れていて話せない。

 人から話しかけられても返せない。

 流行についていけない。


 私は自然的に独りとなっていった。


 学校に行けば自分を変えてくれると思っていた。

 でも、実際は変わらなかった。

 家でも学校でも独り。


 とても辛かった。

 私の心はだんだんと凍りついていく。



◆◇◆◇◆◇



 たまにあるジョブに分かれて行う実習授業では、私は剣を選んでいた。


 私にはこれしかない。そんな自己暗示に似た呪いがかかっていた。


 模擬戦では、いつも順位は真ん中くらい。


 私はその結果に満足して親に報告してみた。


「ねえ、私ね今日剣の模擬戦で真ん中だったよ!」


 緊張で言葉が空回るが、頑張って伝えた。


「……」


 二人は私の話が耳に入っていないように私の横を素通りして行った。


 そうか、もう二人は私に期待なんかしてないんだ。


 今まで騙しながらしていたけどもう無理だ。


 私はもう二人に愛を求めることを止めることにした。



◆◇◆◇◆◇



 数年経って私は自分を変えれるのは自分しかいないのだと気づいた。


 まずは人との接し方を学んだ。次に容姿を整えた。

話し方を変えて、流行にも敏感に捉えた。


 その甲斐があり高校で私はカーストトップと呼ばれるようになった。


 学校は楽しかった。皆、私を見てくれる。

 でも、たまに楽しくないときもあった。


 実習練習のときだ。


 小学4年生くらいまで続けていた素振りをすっかりやめていた私の実力は、ジョブ持ちの人たちと大きな差がついていた。


 剣を持つと周りから嘲笑う声が聞こえる。

 剣を振ると周りから人が離れていく。


 待って!私を、独りにしないで!


 ……あ。


 ふと、視界の端に映った一人のクラスメート。


 あれは、佐木島?


 佐木島のことは知っていた。ジョブ無しで有名だからだ。

 いつしか、私は彼を見下すようになった。

 そうすることで私の心を満たしていたんだ。

 ああ、私の下はちゃんといるんだな。


 そんなクズみたいな人間に堕ちきっていた。



◆◇◆◇◆◇



「千代、俺と付き合えよ」


 ある日の放課後、よくつるんでいる男子に呼び出されたから来てみたら告白された。


 確か、この人って……。


 よくつるむ女子が好きだった人だ。


「ごめんね、私誰とも付き合う気ないんだ」


 そもそも、付き合うということに興味がなかった。


 その男子は断った後もしつこかったが、諦めて帰って行った。


 次の日、学校に行ったら誰も私と視線を合わせてくれなかった。

 声をかけても無視される。


 不安になっていつもの集団のところに視線を移す。


 皆が嘲笑っていた。

 私を指さして。

 中には、昨日告白を断った男子がいた。


 大方私は嵌められたのだろう。


 怒りを通り越して笑いがこみ上げてくる。


 必死になって作り上げた人間関係がこんなに脆かったなんて。


 いや、私自身彼らに歩み寄ろうといていなかったから、当然か。


 ああ、また私は独り。

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