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脚力さいつよお嬢に捕まった男はおぱんつの夢を見るか

作者: 初月・龍尖

 

 

 

 Tグループの総本山であるビルの1室に今年の新入社員が集められた。総勢何人かはわからないが1室を埋め尽くすほどの人数だった。

 正面のモニタが起動し会長の長い話、もとい訓示が始まった。1時間ほどが過ぎて会長の長ったらしい話が終わり数人を残して退出させられた。

 なぜか残された数人は一列に並ばされた。

 白髪交じりの男が列の前に一脚の椅子を設置した。

 その男の姿は会社員と言うよりも執事と言った方がいいような姿だった。

「お嬢。準備が整いました」

 執事風の男が声を上げる。嫌に低い声だった。

 扉が蹴り開けられひとりの女性。いや、少女が飛び込んできた。

「待ちわびたぞ、キサキ」

 執事風の男、キサキは少女に向かって一礼をして左手を椅子の方に向けた。

「お嬢。まず座ってください」

「そうね。まずは、じっくり見ないといけないから」

 並んだ男のほぼ全員が異様な負の気に呑まれていた。

 キサキからは冷たい目で見られ、少女からは上から下まで舐め回される様に見られ、何がなんだか解らなかった。

 しばし少女は男たちをじっとりと見てキサキに書類を渡され脚を組み読みだした。

 組んだ脚の隙間からおぱんつがちらりと見えたがそれに気が付いのはひとりだけだった。

 人数分の書類をさっと読み終わり少女は椅子から立ち上がった。そして、真っ先におぱんつに気が付いた男の前に立ち股間を蹴り上げた。

「ヘンタイっ! わたしの下着で興奮するクソムシがっ!! 去勢してやる!!」

 泡を吹いて崩れ落ちる男を尻目にキサキは少女をなだめた。

「お嬢。お嬢の脚力で蹴られたら不能者になってしまいます落ち着いてください」

 泡を吹いた男はどこからともなく現れた男たちがさっと運んでいった。

「んー↑ふんふん♪」

 少女は鼻歌を唄いながら一人ひとり足先を踏んでいった。彼女の靴は少しヒールが高くその先で刺す様に踏んでいった。

 悲鳴を上げる者はすねを蹴られ、我慢しても顔に現れれば腹パンをされた。

 そうして残ったのはふたり。

 辛うじて最後まで耐えたひとりは脚が震えてしまったので結果的に尻を思いっきり蹴られてアウト。

 もうひとりは最初から最後まで微動だにしなかった。

 少女は動かなかった男のネクタイを引っ張ると顔を近付け満足そうに言った。

「あんたが新しいわたしのイヌ、いいえアリね。よろ」

 少女にそう語りかけられても顔色を変えない男にキサキの目が光った。

 実際には緊張の山を超え立ったまま気絶していただけなのだが。

 少女にネクタイを引っ張られまるで犬の散歩の様に部屋から連れ出された男、アリカタは正気に戻って慌てた。

(女の子に引っ張られてる? 何で? 俺はどこで意識を失った? どこに連れて行かれるの?)

 混乱の渦に放り込まれたアリカタは流されるままエレベーターでビルの上部にある少女の自宅まで連れ込まれた。

「たらまー」

 少女は扉を開く時に足蹴りする癖があるようだ。気の抜けた声と共に玄関を蹴り開いた。

「お嬢、家は資産です。大切に扱いましょう」

 後ろについていたキサキは一応ながら少女に忠告をした。

 少女の声を聞きつけて奥から一人の女性が現れた。

「あらあらまあ。おかえりなさいレンリちゃん」

 少女、レンリを成長させて柔らかくしたような女性だ。レンリの母リナである。

「その子が今年の子?」

「そ。キサキ、履歴書」

 さも当然の様にアリカタの履歴書はキサキの手からリナへと手渡された。

「へええ。いい大学を出ているのねえ」

 履歴書を一瞥するなりリナは声を上げた。

(え? 一瞬見ただけだよな? 速読? マジで?)

 アリカタは速読は習得している、と思っていたが上には上がいるものだ。

「さて、あんたはさっきからわたしの事をいやらしい視線で見ているわね。クソアリ。腹パンがいい? それともその玉を潰されたい?」

 アリカタは即座に脚を折って床に両手をつけた。

「どうか、玉だけは。平に、平にご容赦を……」

 下げた頭にレンリは左足を載せアリカタの少し浮いた額を思いっきり床に打ち付けた。

「まあいいや。まだ時間があるからな。次は無いぞ」

 脳が揺れ混乱するアリカタは無意識に顔を上げてしまった。その目に写ったのはスカートからのぞく緑色のストライプおぱんつだった。

 アリカタの視線を確認したレンリは

「死ね! クソアリ!!!」

 と吠えてアリカタの顔を躊躇なく蹴り上げた。

 レンリはキサキになだめられながら頬の腫れたアリカタとあらあらと呟くリナを残して奥へ消えていった。

 腫れた頬に手を当ててリナは

「レンリちゃんはなんでこんなもやしが好きなのかしら。男って言ったらもっとガッチリとした筋肉のある子がいいと思うのに……」

 と呟いた。

 

 

 どうやらあれでもまだ手加減をしていたようだ。そう思わせられたのはアリカタがレンリの下っ端(アリ)になってすぐの事だった。

「アリ。これだ」

 レンリが指したのはサンドバッグだった。吊るされている物では無く人が抱えて耐えるタイプのやつ。

 アリカタはそれを抱え踏ん張る。歯を食いしばりレンリから繰り出される蹴りの衝撃の備える。

 まるで交通事故の轟音の様な音がトレーニングルームに響きアリカタはサンドバッグと共にその場に立ち尽くした。気絶をして。

 緊張が過ぎたのだろうアリカタはその体をただの棒としてサンドバッグと床を繋げた。

「おお、わたしの蹴りを受けて立っているやつがいるとは。よし! もっかい蹴ってやる!」

 隅でじっと待機するキサキはふたりを見つめていた。

 何度蹴っても微動だにせずサンドバッグを支え続けるアリカタに満足していた。そして、レンリは満足するはずだとも感じていた。

 アリカタの足が汗で滑って転げるまで蹴りは続いた。

 気絶から回復したアリカタの目に最初に飛び込んできたのはしっとりと汗で服が濡れたレンリだった。服がぺたりと肌に張り付き主張する所は主張するその姿を見てアリカタは目を細めて思った。

(俺はロリコンじゃない。俺はロリコンじゃない。あ、でも勃ちそう)

 思いっきり蹴る事が出来て満足したのかレンリはアリカタの邪淫な気配に気がつく事は無くトレーニングルームを後にした。

「アリカタくん、水を飲むんだ。死ぬぞ」

 キサキから渡された水を一気に飲み干しアリカタは大きくため息を吐いた。

「キサキさん。これ、毎日ですか?」

「週イチだな」

「週イチですか……」

「体幹を鍛えるいいトレーニングになるぞ。相手との駆け引きも学べる。まあお嬢は直情型だから素直に蹴りが来るが」

「俺、私もお嬢って呼んだほうがいいのですか?」

「先に呼ぶべきではないな。向こうに答えて呼ぶべきだ。そうしないとさっきまでの蹴りが直接自分に来ると思ったほうがいい」

「あれが直接は、流石に死にますって。あの顔に入った蹴りが手加減されていた物とは到底思えないんですが」

「人間生きようと思えば存外生きているものだぞ。とりあえず着替えてこい。自室を貰っただろう?」

「え、ええ。本当にいいんですか? 新入社員が社長宅で年頃の娘さんと一緒に住むなんて……」

「その辺りはいいから早く着替えてこい」

 水をもう一本持っていけ、キサキはそうアリカタを追い立てた。

 

 

 与えられた自室(と言っても独房みたいな部屋だが)へと戻り社宅に運び込んでいたはずのダンボールからスーツを取り出し汗が引いた頃合いを見計らって身に纏う。

 ネクタイを締めキサキから渡された水を少しずつ口に含み飲み込んで気分を落ち着けてゆく。

 目を閉じると浮かぶのは先程までのレンリの姿だった。

(暴力少女、でも見た目は可愛いんだよなあ。やべ、また勃ちそう)

 アリカタはマゾなのか、それともただ単にレンリの色香にやられているだけなのか。そこの所はアリカタ自身でも判らなかった。

 頭の中で悶々とした思いがくるくると回っていると扉がノックされた。

「キサキだ。出てこられるか?」

「はい。汗も引きましたし大丈夫です」

「では、挨拶をするぞ」

「はい」(挨拶? 誰? 誰に? 社長? 会長? 俺は死ぬ?)

「そう固くならなくていい。あいつらはただ陽気なおっさんと思えばそれでいい」

「そんな感じでいいんですか?」

「私たちの直属の上司はお嬢だからな。会社とは切り離して考えろ」

(とうさん、かあさん。俺、入社する会社を間違えたかもしれません)

 アリカタは心の奥で祈りを捧げた。

 

 キサキの後に続きリビングへ入ると中にはレンリとリナ、それに加えてふたりの男とひとりの女性がいた。

「やあやあ、来たねアリカタくん」

 髭をたくわえた男が口火を切った。どこかで見たことのある顔だとアリカタは思った。

「おとうさま。まずは自己紹介ですよ」

 リナが促すと

「おお、そうだったな。Tグループの会長をしているイサオだ。よろしくアリカタくん」

 と豪快に笑った。画面でしか見ていない会長の顔がすぐ目の前にあった。

 続けて

「私は社長のナリヒトだ。よろ」

 とアロハシャツの上からでも分かる筋肉を持った男が自己紹介をした。

「で、この人が家政婦のソノタさんです」

 リナが言うと家政婦のソノタは一礼をした。言葉は発しなかった。

 アリカタは名乗ってお辞儀をした。

 ナリヒトはそんなかしこまらんでもいいよとアリカタに近寄りアロハシャツを勧めてきた。

 レンリの蹴りを受けて無事なニンゲンがこいつかあ。どんな筋肉をしている? とイサオは興味津々だった。

 アリカタは礼をした直後から再び気絶した。社長と会長に挟まれ脳がオーバーヒートを起こしたのだ。

 ただ、短時間で何度も気絶を繰り返した為に”相槌を打つ”や”軽い返答を返す”と言った技術を脳が無理やり習得してしまった。なので傍から見ていたらしっかりと会話に参加している様に見えた。

 そんな様子を見てキサキは内心でホッとため息を吐いた。

(あのふたりをあれだけあしらえれば上々。やはり彼で良かった)

「パパ、おじいちゃん。手を出すのはそこまでにして。わたしのアリなんだから」

 レンリはかかとを鳴らしながらアリカタに近づきネクタイを引っ張った。

「あんたもわたしのモノだって自覚を持て!」

 そう吠えて再びアリカタは顔面を蹴り上げられた。

 アリカタの視界がちかちかと光り、脳が揺れる。薄れる意識の中で目に入ったのはピンクドットのおぱんつだった。

 全く同じ場所を蹴り上げられ前回よりも少し腫れが大きかった。

「あらあらまあまあ。照れちゃってそんなに気に入ったのかしら」

 リナはアリカタの頬に濡れタオルを当てつつレンリをからかった。

「毎年の事なんだし、べつに」

 ついっと顔をずらしてそっぽを向いたレンリの頬は少し赤らんでいた。

「そうかそうか、ようやくレンリに春がきたなあ。いや、長かった」

 ナリヒトはアリカタの上着をいつの間にか脱がせてアロハシャツに替えていた。

「もやし、レンリはなぜ筋肉が付いてない男を選んだのか」

 イサオは真剣に悩んでいた。

「今の女の子は細身の子が好きなんでしょう。わたしは筋肉さんが付いていたほうが好きですよ」

「「筋肉、筋肉はすべてを解決する!」」

 イサオとナリヒトはリナの言葉に呼応する様に自らの筋肉を見せるポーズをとった。

 そんなふたりを見てレンリは

「だから嫌なんだって」

 と小さい声で呟いた。

 

 

 アリカタは天蓋付きの大きなベッドを前に正座をしていた。目の前では最近知り合った女の子が大胆にポーズを決めている。

「俺はロリコンじゃない。俺はロリコンじゃない」

 自分の呟きにエコーがかかり壁で反射され増幅をして耳に返ってくる。

 目の前の女の子はゆっくりとスカートめくりあげる。そこにはなんだか見覚えのあるピンクドットのおぱんつが……。

 

「うわああああ!!!」

 

 叫び声と共に目覚めて見えたのは白い天井だった。左右に首を振るとなんだか枕が温く柔らかい。

「ここは、俺の部屋……。部屋、か。変な夢見た」

 アリカタは荷解きの済んでいないダンボールに囲まれた布団に寝かされていた。

「俺は、お嬢が好きなのか? お嬢とそう言う関係になりたい? いやいや、まだ会って数日だぞ。俺がマゾと言う事もありえる。ありえる?」

 うーん、と頭を捻っていると頭の向こうから声が入った。

「どんな夢見てたのか言ってご覧なさい」

「いや、お嬢がピンクドットのおぱんつを俺に見せて……」

「へー、ふー、ほーん」

 アリカタの背に冷たい物が走った。

「れ、レンリお嬢様? いらっしゃるので?」

「いる。もちろんじゃない」

 寝た状態にあるアリカタの顔の上にレンリの顔が覆いふさがった。その顔は満面の笑みだった。

「いつ、どこで、わたしの下着をみたのか。じっくり聞かせて貰おうか。ああ、最初に蹴った時と着けていた柄が違う物の様だし、本当に」

 どこで見たんだ? んん? そう低く吠えてレンリはアリカタのネクタイを持って首を吊り上げた。

「正直に! 正直に言います! 先ほど偶然見えたんです。本当に、偶然です! 信じてください!」

「ほーん、偶然見た物が夢に出るくらい意識してるってコトか。クソアリ。おまえはわたしをなめているな?」

 アリカタは再び蹴られる覚悟をした。しかし、レンリから蹴りは飛んでこなかった。代わりにレンリはアリカタの額に自分の額をこつんと打ち付けて言った。

「わたしと、おんなじだ」

 それは今までのレンリの口調とは違う見たままの少女の口調だった。

「えっ……」

「わたしは、一目惚れした。アリさん。あなたに」

 レンリは額をくっつけたまま語りだした。

「最初に出会ったのは偶然見た履歴書。あなたの写真を見て。びびっときた」

 本当に一目惚れなんてあるんだなって驚いたとレンリは額を擦り付けて言った。

「わたしは結婚相手を決める為に新入社員をあてがわれてた。優秀なやつばっかり。逆ハーでも良いぞとか言われてもぜんぜんピンとこなかった。パパやおじちゃんが選ぶのって筋肉がすごい人ばかりだったから」

 優秀なんだけど毎日毎日筋肉の話しされると嫌になっちゃってさ、レンリはそう言いながらアリカタの頬を撫でた。

「わたしにも筋肉が強いのが遺伝してて。ごめん。何度も蹴って痛かったよね」

 レンリの表情が少し曇った。逆さにその表情を見たアリカタは泣きそうな顔に見えた。

「お嬢。実は俺、蹴られた記憶があまり無いんだ。多分、飛んでる」

「えっ?」

 アリカタの告白にレンリは目を丸くした。

「俺、緊張しいでさ。度を越すと意識が飛ぶんだよね」

 アリカタはついでに記憶もと変な笑い顔をした。

「今まで気が付かなったけどマゾっぽい感じがするんだ。それにお嬢の蹴りは安心して受けられた」

「そ、それはもちろんあなたを思った蹴りだから。そう、思いのこもった蹴りだよ」

 レンリは髪をいじりながらそっぽを向いた。

「お嬢が俺を選んだら。俺はどうなるんです?」

「どうにもならない。わたしの物だって正式に決まるだけ。それにアリにはもう捨てるものは、ないよね」

「……、やっぱり知ってるんだ」

「もちろん。好きな人の事はなんでも、じゃないけど知ってるつもり」

 レンリの胸が主張してアリカタの視線が泳ぐ。

「アリ。見て、いいよ。あなただけ」

 レンリはアリカタの耳にそう囁いてそのまま唇を落とした。

 

 

 アリカタは正式にレンリの物となった。まだ結婚は出来ないが仮予約という事で書類は提出された。

 アリカタは俺が跡継ぎになるのか? と変に勘ぐったがレンリは兄がいるからわたしとアリは自由だよと答えた。

 

 レンリとアリカタはビルの1室で同棲する事となった。仮とはいえ書類が提出されているのだから一緒に住めや、と軽いノリで。

 その部屋(3LDK)への引越し祝いでパーティーが行われていた。

 主催したのはレンリ。参加者はふたり。レンリの友人だ。女性3男性1なのでアリカタは肩身が狭い。


「レンちゃんっ。その人が婚約者(フィアンセ)?」

 両手をふりふりレンリに話しかける少女。レンリの親友1号、セナ。

「本当にアリっぽい。興味が引かれる。触っていいいか? レンリ」

 眼鏡の奥からじっとアリカタを見つめる少女。レンリの親友2号、ハシュカ。

「そう。わたしの婚約者(ペット)のアリ。こいつはわたしのものだ。触るなハシュカ。シッシッ」

 レンリはアリカタを触ろうとしていたハシュカから腰に抱きつき威嚇しつつ離した。

「ひゅーひゅー!」

「ふむ、男の生態には興味がある。やはり私も婚約者(ペット)が欲しいな」

(逃げて! 世の中の男超逃げて!)

 とセナはレンリをおだて、ハシュカは間近で見る”男”と言う生物に興味津々だった。

 ハシュカとレンリの攻防はパーティーが終わるまで続いた。

 セナはアリカタと言うよりもアリカタを懐に入れた状態のレンリに絡んでいた。

 まだ未成年である為パーティーは18時にはお開きになりセナとハシュカは送迎車に乗って帰っていった。

 

「うー、年下の女の子ばかりだったから精神的疲労がひどい」

 アリカタは大人が3人くらい入れそうな湯船で身体を伸ばした。

 浴槽に背をゆだね温かい湯に浸かっているといきなり風呂場の扉が開いた。

「来たぞ」

 そこには一糸まとわぬ姿で仁王立ちするレンリがいた。

 前を隠す事もせず腰に手を当てて立つその姿を見てアリカタはすっと足を立てた。

「お、お嬢。前を隠して、隠して」

「いいのいいの。遅かれ早かれ見る事になるんだから」

「いや、心の準備って物が……」

「そんなのいらないよ。はい動いて動いて」

 レンリは何事も無かったかの様に身体を洗い湯船に入ろうとした。

 アリカタはレンリとは反対方向に身体を向けようとしたが彼女がそれを許すはずがなかった。

 あっという間にアリカタの足の間にレンリは収まった。

 柔らかい肌が触れる。

 胸に頭をつけて心臓の音が聞こえるなどとレンリはアリカタで遊んでいた。

 鼻をくすぐるオンナノコの匂いがアリカタのアレを起立させるのは当然だった。

 もちろんレンリはすぐに気がついた。

「背中におっきいのが当たってるけど興奮してる?」

 アリカタはなんと口にしたらいいのか判らなかった。

 ただ、ひとりになりたいとだけ口にした。

「大丈夫。わたしもひとりになりたい。えっちはまだ早いと思うし。すごくドキドキしてる」

 そう言ってレンリは器用に背中越しで見えないはずのアリカタのあれを弾いた。

 頭の部分を弾かれた衝撃で放射しそうだったが気力で我慢した。だが、限界が近い。

 陽に焼けた肌を視界いっぱいに見ていじられて限界だった。

「ごめんお嬢。もう出ないと。のぼせてきた」

「あう、わたしも頭がくらくらしてきたかも」

 一緒に出る? とレンリが身体を反転させて首を傾けた。

 小麦色の肌が、地味に主張する物が、まだ生え揃わないあれが、アリカタの目の前に広がる。

 より一層硬さを増し興奮する自分を抑えてアリカタは無言で湯船から上がり手早く着替えて部屋に逃げ込んだ。

 レンリは目の前で動く反り上がったオトコのアレを瞬きせずに見ていた。この瞬間を逃してはいけない。いま目を閉じたら。そう思ってアリカタのアレをじっと見つめた。目はアリカタの背を、出ていった浴室の扉を見つめ続けた。

 アリカタのいなくなった浴室でレンリは。

 レンリの小麦色を思い出しながらアリカタは。

 次の朝がぎくしゃくしたのは言うまでもない。

 

 

 なんとかレンリを見送ったアリカタの元に見計らったかの様にキサキが顔を出した。

「アリカタくん。おはよう」

「あ、キサキさん。おはようございます」

 手を止めて頭を下げようとしたアリカタにキサキは続けるように促してソファーに腰掛けた。

「それで? ヤッた?」

 そのストレートな言葉にアリカタはむせた。

「い、ヤッてないです。まだ早いじゃないですか」

「いや、年頃の女の子と旺盛な男性だったらすぐヤると思っていたのだが違ったか」

「ぐ……。我慢しました」

「……、ヤッたって言ってたら蹴り飛ばしていた所だ」

(せえふ! でもまだ地雷がありそう……)

 アリカタは作業する手は止めずに心の中で呟いた。

「お嬢から聞いたか?」

「新入社員をあてがわれて逆ハーレムの話ですか?」

「聞いたのか。それについてはなんて言ってた?」

「優秀だけど筋肉に偏り過ぎだと」

「やはり押しが強すぎたんだな……」

「反抗期もあるんじゃないですか?」

「お嬢はいつだって反抗期だったよ。変わったのはお前のおかげだ」

「俺?」

 アリカタが手を止めて首を傾けるとキサキはにやりと笑った。

「お前の履歴書を見てから女らしくなった。恋する女はすぐ分かる。小さなときからずっと見てきたからもうお嬢の親みたいなものだ」

「親、ですか」

「俺はな。教育係だったんだよ。お嬢の」

「教育……」

「蹴り武道の師範代しててな。引き抜かれたたんだ」

「あー、筋肉の英才教育。ですか」

「まあな。あのふたりから直でお嬢の蹴りを鍛えるように頼まれていつの間にかこんなになるまで一緒にいる」

 キサキは白髪交じりの髪をかきあげた。

「それも、もう終わりだな」

「やめるって事ですか?」

「ああ。お嬢は引き止めるかもしれないが俺の役目は終わった。あとはお前が引き継ぐんだ。アリカタ」

「えっと、お嬢の事を色々ご教授願えませんか?」

「勿論だ。全て教えてやるよ。お前がお嬢をずっと支えられるように」

 

 アリカタに全てを伝え終えたキサキはあっという間に居なくなった。レンリが必死に引き留めようとしたがそこは長年一緒にいた弊害だろうレンリの考える事はキサキによって先読みされており気が付いたら部屋は空っぽだった。

 キサキの部屋の扉を開き膝から崩れ落ちるレンリをアリカタは優しく撫でる。なんて事はせずサンドバッグの前に連れて行って思いっきり蹴りを入れさせた。

 うおおおおおおおおおおおおと叫びながら全力で蹴りを入れるその脚力は普段の(と言っても普段もおかしいのだが)レンリからは考えられないほどの物だった。

 アリカタは衝撃がサンドバッグから伝わった瞬間に意識が飛んだ。ついでに身体も宙に舞った。

 

 

 

「ただいまー」

「おじゃましまーす」

「おじゃまする」

 アリカタが玄関を開けるとレンリがセナとハシュカと一緒に立っていた。

「たびたび愛の巣に来てごめんねー。あ、これおみや」

「私からはコレだ」

 セナから渡されたのはクッキーの詰め合わせだった。ハシュカは何も持っておらずアリカタの手をさっと取ろうとしてレンリにはたき落とされた。

「がるる……」

「むう。行けると思ったのだがな」

「ハシュちゃん。そろそろ自分の婚約者(もの)見つけたらー? で、レンちゃんとどこまで行ったー?」

「いやいや、まだ主従なんで」

「アリ。お前はわたしのぜんぶを見てまだ主従というのか?」

 その言葉にセナは口を覆いふるふると揺れた。ハシュカは目を細めて冷ややかにアリカタを見た。

「レンちゃん……。レンちゃんが、おとなになったっ……!」

「コレがロリコン」

「いや、んー。まあひとつの階段は登ったな。うん。まあ、アリはロリコンでどMだな」

 レンリの余計なフォローにアリカタは頭を抱えそうになった。

「お嬢、誤解を招く言い方はちょっと……」

「なんだよアリ。わたしをぜんぶ見ただろ? 上から下まで」

 腰に両手を当てて胸を張るレンリ。服の下から主張する胸に目が行きそうになったアリカタだったがセナとハシュカがいる手前視線をそちらに向けられない。

 未だに口に手を当ててぷるぷる震えるセナと目を細めてじっとアリカタを見つめるハシュカ、鼻息を荒く胸を張るレンリへパンパンと手を叩いて奥へと誘導した。 

「お嬢、いつまでもお客さんを玄関に放って置くのはいけません。靴を脱いで。ハイ。入りましょう。」

「「「はーい」」」

 この子らって一応成人に近いんだよなあなどと思いつつアリカタはセナから受け取ったクッキーとジャスミンティーを出しソファーで雑談するさんにんから離れた。

 その姿をレンリとハシュカはちらちらと横目で見てセナはそのレンリの姿を横目で見ると言う変な構図が出来上がっていた。

 突然セナとハシュカの方へ振り向いたレンリは小声で相談を持ちかけた。

「セナ、ハシュカ。わたしって魅力ないかな」

「レンちゃんに魅力がなかったらセナには皆無だよ」

「私も同感」

「……、一緒にお風呂入っているだけで襲われないのはおかしい」

 その告白にセナはまた口に手を当てた。そして小声で叫んだ。

「レンちゃん! レンちゃんから襲っちゃえばいいよ!」

 ハシュカも目を見開いて口をぽかんと開けた。

「今の話、本当?」

「うん。入っているのに襲われないのはおかしい」

 レンリはちらりとアリカタを確認して

「でも、わたしからってはしたなくない?」

 と小さくなった。

「もう結婚するんだし大丈夫だよ。あ、ちゃんと避妊しないとだめだよ」

「でも、でも……」

 そう言いつつ身体をさらに小さくするレンリを見てセナは目を見開いた。

「あのワイルドなレンちゃんがこんな乙女に……。恋のちからってすごい」

「やはり私も婚約者(ペット)を探さないと。お父様に進言してみよう」

 ハシュカはあれやこれやと呟いて自分の世界に入っていた。

 セナは興奮してはいたが大声は出さずにレンリとのヒミツの会合を続けていた。

 アリカタがジャスミンティーを継ぎ足しに来た時は他愛もない会話に切り替えられるほど興奮した状態で冷静だった。

 ハシュカはひとり自分の世界で理想の婚約者(ペット)を思い描いていた。

「ハシュちゃん。ふたりで婚約者(フィアンセ)見つけようねー!」

 背を叩かれたハシュカはようやく自分の世界から這い出てセナの手をとって上下に振った。

「セナ。あなたとなら良い婚約者(ペット)が見つけられそう」

「あ、わたしも手伝うよ。いつでも呼んで」

「レンちゃん。自分だけの婚約者(もの)があるからって上から目線はゆるさんぞー!」

 手をわきわきと動かしたセナがレンリへと襲いかかる。結果ははじめから分かっているがそれでもそういうお約束である。

 そんなふたりを微笑んで見ていたハシュカは飛んできたセナに押しつぶされて気絶した。

 ハシュカが目を覚ますとレンリに膝枕されておりセナが心配そうに覗き込んでいた。

「ごめんハシュカ。飛ばす向きを間違えた」

 ハシュカはレンリの頬に手を当てて小さく呟いた。

「手加減、衰えてる」

「まじ?」

「あっ! だからいつもより飛んだんだあ!」

 あっけらかんとセナは叫んだ。手加減の甘い状態の蹴りを食らってぴんぴんしているセナの身体は頑丈なのだった。

 その輪の外で右へ左へうろうろと動くアリカタは一部始終を見ていなかった事に自責の念を感じていた。

(年頃のオンナノコが気絶。しかも男がいる部屋で。事案になってしまう!)

 どう頑張ってもアリカタが考えるほどの事は起きないであろう。アリカタが飛びかかってもレンリとセナに一蹴されて終わりである。

 

 

 

 

 

 レンリが玄関前に到着するとアリカタが立っていた。

「なんだ? 出迎えなんて」

 アリカタは不思議な顔をするレンリを玄関扉を閉じた所でお姫様抱っこした。

「おいクソアリ。降ろせ! 降ろせ!! 降ろせったら!! おーろーせー!!!」

 肘を受け、蹴りを受けてもアリカタは無表情でレンリを抱き上げて歩き続けた。

「おい!!! そろそろ降ろせったら!!!」

「お嬢。いいえ、レンリ。座ってください」

 腕の中で暴れるレンリをアリカタはそっと椅子に座らせた。

 レンリは座った事でようやく落ち着いたのか周囲を見渡して口をぽかんと開いた。

「アリ……。これは」

 そこにはテーブルいっぱいの料理。グラスがふせられナイフとフォークが並べられている。

「こ、これ。アリが作った……の?」

 レンリが言葉をひねり出すとアリカタはようやく笑顔を作った。

「きみのために作ったんだ。まあ俺だけの力じゃないけど」

 この日の為にアリカタはソノタから料理の訓練を受けた。厳しい訓練だったがレンリの為ならと一所懸命にこなした。

「レンリ、お誕生日おめでとう。成人おめでとう。結婚しよう」

 アリカタは片膝をつきレンリの右手をとって甲に唇を落とした。

「あっ……」

 レンリは一瞬気が遠くなった気がしたが慌てて顔を左右に動かした。

「アリ。これサプライズでパパとかおじいちゃんとか出てくるんじゃないの?」

 その言葉にアリカタは首を振った。

「俺もみんなで祝った方がいいって言ったんだけどさ。大人の時間だってさ」

 アリカタはすっと立ち上がると部屋を出た。

 出ていった方角からがらがらと何かを引きずる音がしてアリカタはホワイトボートを持ってきた。

「それ、今日の為に買ったの?」

「違うよ。会社の備品を借りてきた。社長……、お義父様に許可もとってある」

 ため息をつくレンリに「見て、レンリ」とアリカタは言葉をかけた。

 それと同時にホワイトボードを裏返す。するとそこにはレンリの誕生日、成人を祝う電報が貼り付けられていた。

「これはお祖父様。これはご両親。こっちはお兄様夫妻」

「直接言えばいいのに……」

「セナちゃんとハシュカちゃんからも来てるよ」

 レンリが慌てて近寄ると確かにセナとハシュカの名前で祝電が来ていた。

「あいつら……。この事知ってたな」

「ごめん。内緒にして貰ってた」

 祝電を前にぼーっと立つレンリの右手をアリカタは再びとって言った。

「レンリ、結婚しよう」

 レンリは反射的にアリカタの頭に抱きついた。そして、額をコツンと頭に当ててて呟いた。

「うん……。うん。する。します。アリ……、ちがうや。ミキヒロさん」

「どうする? 今から書く? それとも食事?」

「えっと、シたいって言ったらだめ、かな?」

「俺はゆっくりと食事をしたい。語らいたい。けどきみがそう言うならそれに従うよ。だってきみのものだから」

 レンリに手を引かれてアリカタは寝室へ消えた。

 夜が更けるまで料理はそこにあり続ける。せっかくレンリの帰宅時間に合わせて作られた料理だったがヒエラルキーはレンリが最上位なのだった。

 

 浴槽の中でアリカタの膝に収まったレンリはうっとりとした表情で腹を擦った。

「1回でいけるかな?」

「どうだろう。運の問題も大きいからなあ」

 それにしても、とアリカタは顔をしかめた。

「レンリはワイルドだと理解していたはずだけど想像以上だった。傷にお湯が染みる」

 首筋や腕、背中など色々な所に引っかき傷や噛み跡がついていた。

「ごめん。興奮しちゃって」

 しゅんとするレンリの頭を撫でてアリカタはやわらかく笑った。

「最近蹴ってなかったらそれもあるかもね」

「そうだった。ちょっと忙しくって」

「上がったら料理を食べよう。栄養をとらないと」

「でも、冷めちゃってない?」

「温め方も教えてもらってるし、一応冷めても大丈夫な料理にしてる」

「そっか」

 しばらく話を続けてお風呂から上がったふたりは一緒に料理を温め直し食べた。

「お酒解禁と言う事でワインがあるけどどうする?」

「ちょっと今は無理かな」

 大ぶりの肉を豪快にかじりながらレンリは首を小さく横に振った。

「そういえばレンリは就職ってどうするの?」

「あー、色々と来てはいるんだけどさ。わたしがなりたいのとは違ったのなんだよねえ」

「レンリは何になりたいの? 気になるな」

 アリカタが首を傾げるとレンリは視線を肉からアリカタに移してにやりと笑った。

「空港のアレ。麻薬とか探すやつ」

「もしかして逃げた相手を容赦なく蹴られるからとか思ってる?」

「え? だめなの?」

「過剰な取締で訴えられるかもしれないよ。多分だけど」

「ええー! 私の蹴りが活かせると思ったのに!」

「ホコリが立つから素振りしないで」

 ふたりだけの夜は長く続いた。今日から毎日ふたりだけの夜が過ごせるのかとドキワクしたレンリだったがそこから数週間はパーティーが詰め合わせになっておりその感情処理に付き合わされたアリカタは合間合間に筋肉をつけていて良かったと本気で思ったりしたのだった。

 

 

 

 

 

「レーカ姉。父さんどこにいるか知らない?」

「おとうさんならおかあさんに引っ張られて出ていったよ」

「ええっ。マジかあ。お菓子作ったから見て貰おうと思ったんだけど……」

「あんた本格的におとうさんに似てきたね……。マジで男なの?」

 レーカ姉だって母さんにそっくりじゃないか、と喉の奥まで上がってきた弟だったが絶対に蹴られると判っていたので口には出さなかった。

 だが遺伝とは怖いものだ。即座に考えがレーカに筒抜けになった。低く腰を落として足にタックルで組み付かれた。弟は必死に抵抗したがそれは虚しく終わり両足を固定され胸ぐらを掴まれた。

「あんたそろそろ彼女作ったほうがいいなじゃない?」

 息が当たるほど思いっきり顔を近づいてレーカが問うた。

「レーカ姉もだろ」

「あんたの友達って女ばっかりじゃない。よりどりみどりでしょ」

「いや、友達と恋人は違うよ。レーカ姉だって男友達のが多いでしょ?」

「わたしのは下僕」

「そこでさらっとそう言う単語が出てくるのはおかしいと思うけど」

「わたしは意図して男を集めてるけどあんたは洗脳ハーレムでも作ってんのかってくらい自動的に女が集まるのよね」

「普通に友達なんだけど……」

「わかんないぞ。水面下で協定が結ばれているかもしれないし」

「……そんな協定。ありえるの?」

「ありえる。あんたって優良物件だし」

「ぼくってそんなに優良?」

「うん。引く手数多だと思うよ。姉お墨付き」

「レーカ姉のお墨付きは本当って事じゃないか……」

「おかあさんだっておじいちゃんから逆ハー作ってもいいぞって言われてたくらいだから血脈的にそうなのかもねー」

「マジ?」

「おとうさんとおかあさんに聞いてみなよ。マジな話だから」

 

 その日の内にアリカタとレンリを捕まえた弟くんはレーカの言葉がどこまで本当なのかを聞いてみた。

「あれ? 言ってなかったか? 逆ハー作らされそうだったって」

「キイテナイ」

「お前の好きなようにすればいいよ。ちなみに追うなら複数の女を攻略しとけよ。俺みたいに捕まったら終わりだ」

「何だアリ。わたしになにか文句でもあるのか? んん?」

「いや、そう言う意味じゃなくてだな」

 ソファから立って風切り音を立てながら素振りをするレンリから逃げようとするアリカタだったがこれも定めというのか即座に胸ぐらを捕まれ顔面に蹴りが入った。

 久しぶりの蹴りだったのであっという間にアリカタの意識は飛んだ。

 最後に目に写ったのは淡いピンクのレースおぱんつだった。

 

 

 

 

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