裏切られて死んだ大剣豪は転生と召喚の末帰ってきました
俺の、剣の鬼、大剣豪と称えられたシグレの人生は、唐突に終わった。
国王は俺の一生の主だった。彼に心酔していたのだ。国王の決断力と強い意志。そして俺の知識と力あれば、俺たちは無敵だと思っていた。だから気がつかなかった。唯一の主、アトサム王がこの大陸を統一してから、少しずつ魔力の根源ともいえる、魂がすりへっていく事に。
この世の生物の基準は魔力を宿すものである。そして魔力を宿す者は魂を有している。
その魔力にはそれぞれに適性があり、それによって未来の選択が大幅に変わってくるのだ。
魔力の優劣は魂によって変わると思われがちだが、実際は違う。魔力の優劣によって魂の器が決まる。王も俺も相当な魔力を持っていたし、その事を誇りに思ってきた。だが、深く考えてはいなかったんだ。王の魔力より俺の魔力の方が多かった事を。
よくよく考えれば当たり前だった。彼が俺を殺そうとしたのは。王の右腕とも言われ、国の機密をいくつも知っている俺は、自分より魂の器が大きい俺は邪魔でしかないのだろう。俺が王の配下であっても誰かが俺を持ち上げて、クーデターを起こせば?俺自身が国王の暗殺を狙えば?
俺が王に従っているだけ。実質この国はツートップ制だった。それじゃ、綻びが生まれるだけだ。俺は、死ななきゃなんない。
俺が馬鹿だった。
そんな事を死の瀬戸際まで考えていた。俺は、今、魂を大幅にすり減らして寝込んでいる。まだ三十四歳なのに体は老人のようにしわくちゃで、死に掛けのそれのように腕を上げただけでプルプルと震えた。生き物は老化の際、魂が少しずつ削れていく。剣の鬼たる俺を殺すには、剣も握れないほど老化させるため魂を削るくらいしか方法がないのだ。
ははっ。笑いたくなる。俺はまだ、やりたいことだっていっぱいあった。
走馬灯が走る。師匠が、孤児だった俺のスラム街の家族が。部下達は、きっと大丈夫だ。あいつらは、俺が死ぬことが正しいって分かってる。きっとこの国の戦士は皆、俺が死ぬ意味が分かってる。それが正しいことも。
怒りは、わかなかった。王が俺を殺すのは国を安定させる、最後のパーティー。これでこの国は漸く完成する。
だけど、ただただ寂しい。信頼していた主に俺は、裏切られたのだ。そう思うだけで、心臓が痛い。
戦争だらけで、ひたすら戦っていたあの頃を、俺は初めて想った。