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高校戦争  作者: 波島祐一
15/26

第十四話:クリスマス事件(前編)

改訂しました。

「暖房弱いな、ここ」


 十二月十八日、昼休み。山崎が弁当の卵焼きを頬張りながら言った。確かに、教室内は少し肌寒く感じる。


「確かに……他の教室は、ここほどじゃなかったな」

「ハズレだよな、この教室は。おんぼろスチームヒータめ」


 山崎は愚痴が多い。「そうボヤくなって」 と苦笑した孝は、おにぎりをかじりつつ、窓の外に視線をやった。地面は濡れていないが、視線を上げれば、どす黒い雲が空を覆い尽くしていた。


「そういや、来週はクリスマ……」

「調子はどう? 二人とも」 山崎の言葉を遮ったのは、突然現れた杏子の声だった。「うわっ!?」 孝と山崎は異口同音に驚く。

「宗像、気配を消していきなり登場するの止めろ」 孝はまったく気づかなかった。

「ん? 普通に歩いてきたつもりだけど」 杏子は首を傾げてから、孝と山崎を交互に見やった。「ところで、二十四日は終業式だけど、放課後の予定は決まってる?」

「遊ぶ予定」 と山崎。孝は手帳のスケジュール欄を開き、「特には……」 と返した。

「じゃあ暇ってことね」

「おい!」 と突っ込んだ山崎を無視して、杏子は続ける。「二十四日は美奈の誕生日兼クリスマス会なので、二人とも参加よろしく」

「ちょっと待て、委員長の誕生日? なんでおれたちが……」 と山崎が抗議を始めたが、またもや杏子が遮る。

「え? クラスメイトでしょ」

「クラスメイトなら他にも……」

「他にも声かけて、今のところ六人が参加予定よ。じゃ、そゆことで」


 杏子は足早に去っていった。


「毎回のことだけど、何なんだろうね、あのふてぶてしさは」 山崎が呟いた。

「さぁ……」


 孝はいきなりの誘いに呆然としつつ、内容を反芻(はんすう)する。二十四日に内田の誕生会兼クリスマス会。ちょうどSDFは非番だし、クリスマスを一緒に過ごすような相手もいないので、まぁいいかと思った。

 手帳にボールペンで予定を走り書きし、閉じる。窓の外に視線を向けると、雪がちらつき始めていた。





「整列!」


 その日の放課後。グラウンドに、訓練ローテーションの第三小隊とSSTブラボー・チームが集まった。全員が戦闘服、ボディアーマーに抗弾ヘルメット、MP5の戦闘装備だ。

 体育科教師兼SDF一等学佐の倉田が訓練指導に立っていた。「今日は、寒中行動訓練だ」


「これより、坂ヶ丘第二墓地までの往復ランニングを行う」


 第二墓地まで、片道ざっと六キロ。その途中、勾配のきつい坂道を数百メートル走る必要がある。しかも今は雪が降っている。SDF隊員たちがざわついた。「マジかよ」「帰りてぇ」


「雪で転ばんようにしろ。かかれ!」


 倉田の怒鳴り声で、隊員たちは一斉に駆け出した。校門を出て、歩道を走ってゆく。

 近くにいた友井が孝に話しかけた。


「座学の連中がうらやましいぜ」

「まったく」

「緒方!」


 いきなり名前を呼ばれ、孝は「はい!?」 と声の方を向く。他のSDF隊員たちに混じり、倉田もランニングに参加していた。


「SSTたるもの、普通部隊と同じペースでいいと思うな! 第三小隊の誰か一人にでも遅れたら、もう一往復追加だぞ!」

「り、了解!」 冗談だろうと言いたいのを我慢して、孝は走るペースを上げた。


 その日の訓練のあと、数人の隊員が風邪でダウンした。





 十二月二十三日。

 この日、孝は機嫌が良かった。今日は非番。SDFの訓練は休みなのだ。珍しいことに、明日も非番。二日連続というのは、なかなか珍しい。明日は誕生会兼クリスマス会の予定が入っているが、今日はフリーだ。

 早く帰ってゆっくり休もうと思い、孝は教室掃除でほうきを掃くペースを上げる。今日は掃除当番だった。


「緒方」 教室掃除も終盤に入った頃、名前を呼ばれた孝がそちらを見ると、一人の女子生徒がゴミ箱の前に立っていた。クラスメイトで同じく掃除当番の工藤沙希(くどうさき)。足元には、ぎっしり中身の詰まったゴミ袋が四つ。「ちょっと、これ持ってくの手伝ってくれない?」

「いいよ」 と返し、孝はほうきとちりとりを片付けた。ゴミ袋は校舎外の集積場所まで持っていかなければならないが、二往復するのは大変だろう。

「ありがと」 と微笑んだ沙希とゴミ袋を二つずつ持ち、廊下を歩き出す。

 

 階段を降り、一階を進む。ゴミ集積場所は、裏口から外に出なければならない。


「明日の誕生会、参加するんだよね?」

「ああ」

「プレゼント、もう買った?」

「え?」 と孝は隣を歩く沙希を見た。

「買ってないの?」 と、沙希は元々大きめの瞳をさらに見開いた。

「そういえば、全く考えてなかった」

「誕生会なんだよ? プレゼント要るに決まってるでしょーが」

「た、確かに……」 


 沙希は裏口のドアを開け、雪のちらつく校舎外に出た。「うー、寒い」

 孝もそのあとに続いて外に出る。裏口から集積場所までは、十メートルもないくらいだ。寒いので、小走りで向かう。


「意外とそういうところ、疎いんだね」 と沙希は呆れたような声を出しながら、集積ボックスの蓋を開いてゴミ袋を突っ込む。

「疎くて悪かったな。今日買いに行くよ」 孝もゴミ袋を集積ボックスに投げ入れた。

「美奈ちゃんの分と、皆で交換するプレゼントの二つだよ。今日はSDFのお仕事はないの?」

「ああ、今日は休みだから」


 どうせ非番なのだ。バスで駅前まで行けばショッピングモールも百貨店もあるし、なにかプレゼントにちょうど良い物が買えるだろう。

 だが、何を買えば良いのか? そこで孝の思考は停止した。今まで、同年代の女子にプレゼントなど買ったことがない。

 また駆け足で裏口に戻り、校舎に入る。教室へ戻る足を動かしながら、プレゼントは何がいいのか考えるが、妙案は浮かんでこない。


「そ、そんなに黙りこくって考えなくても……」 隣で苦笑した沙希の言葉で、孝は我に返った。

「工藤は何買ったんだ?」 参考になるかと思い、思い切って訊いてみたが、沙希は悪戯っぽく舌を出して、「内緒」 と言った。

「言っちゃったらつまんないでしょ?」


 沙希は教室のドアを開け、中に入った。すでに、他の掃除当番のメンバーは解散済みで、教室には誰もいなかった。孝は自分の机に向かい、鞄にノートや教科書を入れて帰る準備をした。ブレザーの上から、コートを羽織る。最後に鞄を持って出入口に向かおうとすると、同じようにコートを着た沙希が近くに立っていた。「あの……」 と俯き気味になり、閉じていた沙希の厚めの唇が、数秒の間を置いて動いた。


「良かったら、プレゼント選び、手伝おうか?」





 坂ヶ丘駅前の大型ショッピングモールは、クリスマスイヴの前日ということもあってか、混雑していた。同行する沙希のアドバイスを受けつつ、何ヶ所かの店舗を回って美奈の誕生日プレゼントとクリスマスのプレゼントを購入した孝は、普段よりも緊張している自分に気づいた。

 沙希を異性として意識している、というわけでもなさそうだった。単に、同年代の女子と二人きりで出歩く経験がこれまでなかったからだろう。バディの葵と二人で深夜の校舎を巡回するのとは、状況が違いすぎる。


「無事にプレゼントも買えたことだし、帰ろっか?」


 沙希がそう言ったとき、ふと階下のフードコートが目に入った。それなりに人は多いが、空席がないわけでもなさそうだ。


「買い物付き合ってもらったお礼に、甘いものでもご馳走するよ」 沙希の同行がなければ、プレゼント選びに倍以上の時間がかかっていたはずだ。

「本当! 嬉しいな」


 買い物中の雑談で、沙希は甘党だということを聞いていた。何がいいか問うと、たい焼きがご希望だったので、先に座っているように沙希に伝え、孝はたい焼き屋のカウンターに向かった。


「すいません、抹茶と、カスタードをひとつずつ……」


 注文する孝の声は、バイクの排気音にかき消された。空吹かしを繰り返すような音に、悲鳴やざわめきも混じる。反射的に振り返ると、フードコートの通路に二台のスクーターが侵入してきていた。当然、乗り入れ禁止のはずなのだが。

 通路の家族連れやカップルを空吹かしで蹴散らして進むのは、ヘルメットも被っていない、まだ孝とそう変わらない年代に見える少年二人だった。同年代でも、孝には一生理解できない人種であることは一目瞭然だったが……。

 すぐ警備員に取り押さえられるだろう、と思ったが、甘かった。少年二人は沙希が座っているテーブルに近づくと、「きみ、かわいいね」「一人なの?」 などと声をかけ始めた。

 近くに警備員の姿は見えない。仕方ない、と孝は沙希のテーブルに向かう。


「おい」 と少年たちの背中に声をかけた。

「ああ!?」 と睨みを効かせてこちらを振り向いた二人は、やはり孝とそう離れていない年齢のようだった。ダッフルコートの下に学ランの襟も見えた。高校生だろう。

「連れに何か用?」 早く来いよ警備員、と毒づきつつ、孝は無表情を維持して問う。学校外で銃も特殊警棒もないが、訓練で培った徒手格闘は使える。素人の二人程度になら負けない。問題があるとすれば、この二人が何らかの武器を持っていた場合だ。

「いま取り込み中なんだよね、すっ込んでてね」 少年の一人が孝に吐き捨て、すぐ沙希に向き直る。「遊びに行こうよ、楽しいからさぁ。おれらロク高なんだけど、きみどこの生徒?」


 ロク高というのは隣の市にある高校の略称だが、偏差値は県内でも最低クラスだ。


「うわ、頭わるぅ」 顔をしかめて言った沙希は、しまった、というふうに慌てて口を両手で覆った。

「なんだとてめぇ!」「馬鹿にしやがったな!」 と少年たちは沙希の腕を掴み、無理やり立たせようとする。

「やめて!」 沙希が悲鳴を上げた。


 血管がぶちりと音を立てた気がしたが、どうでも良かった。孝は無言で少年の片方の肩を掴み、強引に振り向かせると、指で鎖骨の辺りを押してやった。

 押しどころを心得た突きに、少年の体は簡単に後方に倒れた。隣のテーブルと椅子にぶち当たり、派手に転倒する。その様子を見た孝は、SSTの訓練で教えられた体術が功を奏したことに口元を緩ませる。これを見れば、もう一人も怯むだろうと思った。だが、後頭部に当てられた硬質な感触に、その希望的観測は打ち砕かれた。

 ゆっくりと後ろを振り返ると、こちらに自動拳銃を突きつける少年と目が合った。樹脂部品を多用したグロック17。奥までライフリングが刻まれたバレルが見えた。どこで手に入れたのか知らないが、実銃だろう。治安の悪化に伴い、民間人も免許を取れば拳銃を買えるようになったが、満二十歳以上が条件だ。未成年の拳銃所持は基本的に銃刀法違反となる。


「邪魔しないでくれるかな。殺しちゃうよ?」


 少年は憎悪のこもった視線を、銃口と一緒に孝に向けていた。次の瞬間にも、撃たれて死ぬかもしれない。孝は頬を汗がつたうのを感じた。アドレナリンが噴き出しているようだ。鼓動が速くなっている。

 だが、少年はグリップの握り方からして素人だった。至近距離で銃を突きつけていること自体、とんでもない愚行だ。どう考えても、銃の取り扱いに慣れていない。隙は必ずできるはずだ。


「きみたち、何をやっているんだ!」


 やっと来たか。駆けてくる二人の警備員をちらと見やり、孝はすぐに少年に視線を戻す。少年は孝に突きつけていたグロックを警備員に向け、「来るな!」 と怒鳴った。

 警備員たちは銃を向けられ、足を止める。

 次の瞬間、孝は少年のグロックをスライドごと掴み、床に向けた。はずみで発砲されたが、弾は床に穴を開けただけだった。強く掴まれたスライドは後退せず、次弾は装填されなかった。少年は続けてトリガーを引こうとするが、当然撃発は起きない。

 孝はそのままグロックを捻る。ぼきり、とトリガーにかかっていた少年の人差し指が折れる音と同時に、絶叫が響く。

 グロックを奪い、少年を倒して膝で押さえつけた。まともに扱えもしないくせに、武器を持っただけで自分が強くなったと勘違いし、他人に危害を加えようとする下衆。こんな奴らがいるから、この国の治安は地に堕ち、兄さんは死んだんだ……!

 怒りが膝に込める力を増幅させ、少年の呻きが大きくなる。再び警備員たちが駆け寄ってくる足音に、到着したパトカーのサイレンが混じっていた。





 十二月二十四日、始業前。

 朝から雨が降っていた。夜間警備明けの渡瀬と結城、数分前に登校した孝がいるSST室のテレビは、天気予報を映していた。


「今日は大荒れだな」 ソファに腰掛けた渡瀬がため息まじりに言った。

「大雨洪水注意報、出てますね」 孝はシグザウアーP226に弾倉を挿し、ホルスターに入れた。


 テレビが全国ニュースを映し始めた頃、葵がSST室のドアを開けた。「おはようございます」


「おはよう」 室内の三人がそれぞれ返す。葵はそのまま武器庫へ入って行った。


 少しして、テレビが地方ニュースを伝え始めた。トピックスの一覧に『ショッピングセンターでバイク暴走』 という文字を見つけ、孝は昨日のことだと気づく。

 P226を持った葵が武器庫から出てきた。渡瀬と結城はあくびなどしながらテレビの液晶画面を見ている。


(二十三日午後六時ごろ、坂ヶ丘駅前のショッピングモールで、バイクでモール内を暴走し、拳銃を発砲した疑いで、十七歳の少年二人が逮捕されました)

「物騒だな。うちの生徒も良く行くところじゃないか」 と渡瀬は腕を組んだ。

(少年らはバイクでモール内に乗り入れ、偶然その場にいた県立坂ヶ丘高校の女子生徒に声をかけたところ、別の男子生徒が止めに入ったため、逆上して拳銃を発砲したということです)

「うちの生徒が被害者みたいだな」 と結城が言った。

(止めに入った男子生徒はSDFの隊員で、拳銃を奪い、少年を取り押さえました)


 テレビ画面がスタジオのアナウンサーから、防犯カメラらしい映像に切り替わった。フードコートの鳥瞰映像に、バイクの少年二人、沙希、孝、周囲の野次馬が映っていた。発砲から取り押さえまでの映像が流れていた。拡大された粗めの映像ではあったが、知り合いが見れば誰だか想像がつくだろう。

 三人が同時に孝を見る。「いや、実は……」 と、孝は昨日の顛末を説明した。


「それはお手柄だったな」 一通りの説明を聞くと、渡瀬は感心したようだった。

「撃ち殺されるかと思いましたけどね……」

「一緒にいたのは彼女?」 と結城が訊いた。葵が急に咳き込んだ。

「いや、ただのクラスメイトですよ」

「まぁ、何にせよ、こういう経験はいざというときに役に立つはずだ。忘れるなよ」 渡瀬は鞄を持って立ち上がる。「そろそろ教室行くか」

「そういや、一限小テストだった。じゃ、お先に」 結城も渡瀬に続き、SST室を出て行った。

「緒方、今日非番だよね?」 葵が訊く。

「ああ」 答えながら、孝は鞄を持った。そろそろ、おれも教室に行かなければ。

「終業式のあと、暇かな?」 

「ごめん、今日は用事があって。他の日で良ければ……」 調整するよ、と続けようとしたが、言い切る前に葵に遮られた。 

「あ、用事あるならいいや。じゃあね!」


 葵は自分の鞄を引っ掴み、足早にSST室から出て行った。何の話だったのだろうと孝は考えたが、思い当たる節はなかった。





 正午過ぎ。終業式後の一年三組の教室に、七人の生徒が残っていた。誕生会兼クリスマス会に参加するメンバーだった。他の生徒たちはすでに、それぞれ部活に向かったり、帰宅するなどして解散した。


「揃ったわね。じゃあ行きますか」 と杏子が鞄を持って立ち上がり、他の生徒たちも続いて教室を出た。「SDFは休みなの?」「今日は非番なんだ」「珍しいね」 などと雑談をしながら、階段を降りて一階、生徒玄関へ向かう。孝は先にSDF棟で武器の返却を済ませていた。


 校舎から出て、正門から出ようとしたときだった。下品な排気音が空気を震わせたかと思うと、高校前の市道からビッグスクーターが正門に突入してきた。スクーターは先頭を歩いていた杏子の目の前をかすめるようにして、校内道路をグラウンドの方へ暴走していった。続いて二台、三台、四台。乗っているのはいずれも少年のようだった。


「なんなのあのバイク! 危ないでしょうが」 危うく転びそうになった杏子が、スクーターの後ろ姿に向かって怒鳴った。

「おれも誰かさんに、自転車で轢かれそうになったけどな……」 


 孝がぽつりと言ってやると、「バイクとチャリじゃ大違いでしょうが!」 と杏子にネクタイを引っ張られた。スクーターに向けた怒りが残っていたのか、意外と強い力でネクタイが締まり、まずいと思った孝は反射的に、強めに杏子の両肩を掴んだ。

 華奢な肩だった。小さく悲鳴を上げた杏子がネクタイを離し、そのままの体勢で固まる。「ごめん。つい」 と孝がその肩から手を離すと、「ううん……」 と杏子は目を合わさずに首を振った。急に気まずくなり、孝はとりあえず締まったネクタイを緩める。


「あいつら、うちに何の用だろう」 山崎がグラウンドの方を睨みながら言った。「ちょっと見てくる」

「いや、こういうのはSDFの仕事だ」 孝は山崎を制止した。昨日のショッピングモールのように、誰が武器を持っているか分からない浮世だ。下手に丸腰の生徒が対処するのは危険だった。

「そうそう。せっかく美奈ちゃんの誕生会なんだから、巻き込まれる前に行きましょ」 今日のメンバーの一人、竹内未央(たけうちみお)が言った。


 たった四人、大した脅威ではないだろう。孝は非番ということもあり、対処は当直のSDF隊員らに任せようと思った。他の六人に続いて正門を出ようとしたとき、急に振り向いた工藤沙希と目が合った。彼女は少し驚いたように目を大きくしたが、すぐ前を向いて再び歩き出した。

 そういえば、昨日の高校生もバイクでフードコートに乗り入れていたな、と孝は思い出した。そして今朝のニュースでは、被害者がはっきり坂ヶ丘高校と報道されていた。

 まさかな、と思ったが、一度気になると駄目な性分だった。高校前のバス停で、孝は「やっぱり様子を見てくる。内田の家、場所をメールしといて」 と他のメンバーに言い残し、制止も聞かずに駆け出した。

 正門に戻り、先ほどのスクーターを追うようにグラウンドへ。ぽつぽつと、降り出した雨がアスファルトに染みをつけ始めていた。

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