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高校戦争  作者: 波島祐一
11/26

第十一話:アルファ・チーム不在の戦闘

改訂しました。

「もしもし……岡部(おかべ)です」

(どうした。威力偵察の失敗を詫びるつもりか?)

「ええ、それもありますが……」

(次のSST合同訓練……九月五日のことか)

「はい。坂ヶ丘SSTの半数がいない間を利用し、三個小隊、五十四名で急襲します。……ついては、五・五六ミリ弾を一万五千発程お願いしたいのですが」

(……いいだろう。それと、こちらに新入荷のRPKが四挺あるんだが、使ってみるかね)

「RPK……軽機関銃ですか。しかしRPKは七・六二ミリ弾では。弾の共用ができないと……」

(いや、五・五六ミリ仕様のRPK74だ。七十五連ドラムマガジンの試作品もある。分隊支援火器があれば、君らも戦いやすいだろう)

「分かりました。ありがたく使わせてもらいます」

(ああ。じゃあ、納期が決まったら連絡する)

「はい。では、失礼します」


 岡部義樹(よしき)は、携帯電話を机に置いた。

 彼は、坂ヶ丘、小架羽、横崎(よこざき)の三高校のFDT隊員を事実上、統括している高校三年生だった。この三校には、合わせて八十四人のFDT隊員がいる。

 岡部はFDT隊員として二年五ヶ月、学生の非行防止法、そしてSDFと戦ってきた。

 だが、その結果はどうだ? ここまで必死に戦っても非行防止法は変わらず、部下のFDT隊員はもちろん、SDF隊員も含む同年代の高校生が傷ついてきただけじゃないか。

 だから、今回の急襲作戦は、必ず成功させる。坂ヶ丘高校を占拠し、生徒を人質として、政府に非行防止法という悪法を即刻無くすよう要求する。

 坂ヶ丘のSDF隊員には悪いが、正義のために犠牲は仕方がない。





 九月五日、午前九時三分。古典の授業中だった。孝は教室の窓から、グラウンドの方を眺めてみる。

 グラウンドの校舎寄りに、いくつもの土嚢(どのう)が積み上げられ、数人のSDF隊員が歩哨に当たっている。

 今日は、県内のSSTが合同で訓練を行う戦技競技会が、陸上自衛隊坂ヶ丘駐屯地の演習場で行われる。そのため、SSTのアルファ・チームは現在、学校にいない。学校防衛の要であるSST隊員が半数近くいなくなるのだから、FDTの襲撃にはこの上ないチャンスと言えた。

 そのため、土嚢を積んで弾除けを作り、歩哨を立たせて襲撃に備えているのだった。

 近くには小架羽高校や横崎高校もあるが、学校の立地上、坂ヶ丘高校は襲撃に適している。FDTが攻撃を仕掛けてくる可能性は高かった。

 銃声が響いた。始まったようだ。


(緊急連絡。現在、多数のFDTが学校近くに展開している模様。生徒は教室の窓を閉じて下さい。SDF隊員は即時、SDF棟に集合して下さい)


 孝と友井は、駆け足で教室を飛び出した。



 午前九時二十三分。完全装備のSSTおよびSDF普通部隊が応戦のため、校舎の外に展開した。すでに、小競り合いが始まっている。


「土嚢を盾にしろ! ……いいか、一人も校舎内に入れるな」

 浦波が怒鳴った。SST隊員はブラボー・チームの六人しかいないため、玄関方面に高林と渡瀬、グラウンドに浦波と孝、屋上に結城と葵が配置された。さらに、多くのSDF普通部隊の隊員が並ぶ。FDT隊員たちは、数十メートルまで迫っている。


「発砲許可! っ!」


 グラウンド側の土嚢を盾にした孝は、弱装弾を装填したM4A1のセイフティを解除し、トリガーを引き絞った。フルオートで放たれた小銃弾がFDT隊員たちの近くに着弾の火花を散らす。こちらに近づきつつあったFDT隊員たちが、木に隠れるのが見えた。

 あちこちで無数の発砲音が立て続けに響き、空薬莢が撒き散らされていく。

 まるで、本当の戦場にいるようだ。いや、これは戦場だ。

 マガジン内の弾が切れ、ボルトストップ。孝は土嚢に身を隠した。マガジンを交換していると、孝の隣にいたSDF隊員が呻き声を上げ、持っていたMP5を落とした。


「大丈夫か!?」

「う、腕を撃たれました……!」


 孝は近くのSDF隊員に、撃たれた隊員を医務室に連れて行くよう指示し、再びM4を構えた。

 孝は不自然な事に気づいた。何人か、やけに連射速度が速く、マガジンチェンジの途切れの少ないFDT隊員がいる。まさか……。


「班長! 敵に軽機関銃手マシンガンナーがいます」

「こっちも確認した! RPKだ」 冷静な浦波の声が返ってきた。


 これまで見てきたFDTの武装はAK-100シリーズのアサルトライフルや拳銃のみで、RPKなどの軽機関銃は無かった。どうやらFDTが新しい武器を仕入れたらしい。


「中原、屋上(そっち)から狙撃できるか! 西側のグラウンドの木の陰だ」

(よく見えない……! 緒方、数発でいいから撃ち合える?) 緊張した葵の声が返ってきた。撃ち合うのを見て、軽機関銃の位置を特定する気らしい。葵は優秀だが、実戦経験はまだ少ない。

「了解、行くぞ!」


 孝は土嚢の陰から身を乗り出し、音を頼りにM4を発砲した。すぐにRPKが撃ち返して来る。

 孝が隠れると、頬から血が出ていた。幸い、かすり傷だった。


(オーケー!)


 連射の銃声に混じって、スナイパーライフルの銃声が響いた。





 葵は思わず、舌打ちした。

 孝の撃ち合いでRPK射手の位置が分かり、発砲したものの、手元が狂って外れたからだ。実戦の緊張に、まだ慣れていない。

 慌ててM24のボルトを引き、次弾をチャンバーに送る。ボトルネック形状の空薬莢が屋上の地面に落ち、金属音を響かせる。


「次で仕留めます!」


 再びスコープを覗き、RPKに十字線(レティクル)を重ね、深呼吸してからトリガーを引いた。

 M24から放たれた七・六二ミリ弾が、RPK射手の右腕を直撃する。

 すかさず、RPK本体も狙撃し、撃てないよう破壊した。


(実戦の初スナイピングにしては上出来だ、中原) 浦波が褒めた。

「ありがとうございます!」

(玄関方面にもRPKがいる。こっちも頼むよ!) 高林の声も続いた。

「了解!」





 今回の戦闘は、やけに長引いており、しかもSDF側が少し不利だった。その原因が、屋上から狙撃できない位置にいる、二人のRPK射手だ。


(緒方、野球のバックネット方向のRPK、排除できないか?) 屋上の結城からの依頼だったが、難しい内容だった。

「ここからは無理です!」


 孝はM4のマガジンを交換しながらマイクに吹き込んだ。足元には三個の空になったマガジンと、無数の空薬莢が散らばっている。M4のマガジンは、残り四個。孝は射撃モードをセミオートに変更した。土嚢からM4を構えると、木の陰から出ているFDT隊員の片足が見えた。孝はM4のドットサイトを覗き、赤い点をそのブーツに重ね、一発撃った。

 (くるぶし)辺りを撃たれたFDT隊員が転倒する。足を押さえ、呻き声をあげた。近くのFDT隊員が撃たれた隊員を引きずり、後退していく。

 なるべく早く、止血してやれ。

 孝は心の内で呟いた。直後、孝が隠れる土嚢に大量の銃弾が命中した。RPKに狙われたらしい。

 孝はM4を突き出し、銃声のする方向にフルオートで撃った。だが、すぐに弾が切れた。

 そのRPKのせいで、すでに五人の隊員が戦闘不能になっていた。SDFの方が圧倒的に不利だ。


「各自、持ち場を死守しろ! FDT(やつら)を近づけるな」 浦波が叫ぶ。 


 逆転するには、葵の死角にいるRPKを潰すしかない。孝は腹を決めた。


「班長! おれがRPKを潰します」

「どうする気だ?」 浦波は厳しい表情で孝を見た。

「サッカー部の用具庫まで行けば狙えます」 六十メートルほど離れたところだが、すぐ近くにFDT隊員たちが展開していた。

「そこまでしなくていい! もうじき小架羽のSSTが援護に到着するはずだ」

「時間が無いんです! 行きます!」


 孝は新しいマガジンをM4に装着し、浦波に「援護頼みます!」と告げて駆けて行った。


「おい!」 あのバカ。浦波は内心そう思った。FDTの真正面から突っ込もうとするなんて、自殺行為だ。「中原、緒方を援護しろ! サッカー部用具庫まで走る気だ」


(了解!)


 葵の返事を聞いてから、浦波は自分のM4のマガジンを交換し、近くにいたSDF隊員に怒鳴った。


「いま走って行ったやつを援護しろ! フルオートで弾幕張れ!」





 野球のバックネットに陣取った岡部は、戦況に満足していた。

 RPK射手の二人はスナイパーにやられたが、まだ二人残っている。さらに、部下たちの士気も高まっている。

 いける。SDFに勝つことができる。

 岡部は思わず、笑った。

 だが、視界に白い煙が見えて、岡部は目を細めた。発煙筒か……?

 その直後。

 白い煙の中から一人の男が現れたかと思うと、その男は正面にいたFDT隊員二人を素早く撃ち倒した。ボディアーマーを着用しているとはいえ、近くで弱装弾を食らえば骨が折れるほどの衝撃になるはずだ。

 単独で特攻か。哀れな男だ。





 孝は援護射撃の助けを借りつつ、M4をフルオートで掃射しながら用具庫に近づいた。あと三十メートルという所で、弾が切れた。 

 目の前には、マガジンチェンジを完了したFDT隊員がいる。

 ヤバい。

 そう思った次の瞬間、そのFDT隊員が後ろ向きに昏倒した。

 狙撃か……?


(危なかったね、緒方!) やはり、葵が狙撃したのだった。

「借りだな!」


 指切りバーストで発砲しつつ、用具庫の裏に隠れる。ちょうどFDTの側面に回った形だ。用具庫に銃弾が集中する。

 見つけた。RPKだ。

 孝は伏せた状態で、草の隙間からRPKの射手を照準し、トリガーを引いた。三発が射手の腕を抉り、二発がRPKを破壊する。


「RPK排除!」

(援護する! 戻って来い!)


 浦波の声だった。だが、孝は愕然とした。M4のマガジンが無い。すべて撃ち尽くしたのだった。孝は舌打ちし、M4のスリングを肩に掛け、レッグホルスターからシグP226自動拳銃を抜き、撃鉄を起こした。「戻ります!」

 P226を片手で発砲しつつ、全速力で土嚢の方に戻る。走っているとき、何発かがヘルメットやボディアーマーを(かす)めたようだった。

 足が棒になりそうになるが、とにかく走る。止まったら死ぬ。

 土嚢の後ろに辿りついた時、P226は弾切れになっていて、遊底(スライド)がホールドオープンしていた。


「このアホ! 無茶しやがって、普通なら死んでるぞ!」 浦波が孝のヘルメットを小突いた。

「すいません」

「まったく。……これ使え」 浦波はそう言って、M4のマガジンを孝に渡した。

「どうも……」


 その後は、あっけなかった。小架羽高校のSST隊員六人が援護に到着し、さらにFDTは弾薬が尽きてきたらしく、形勢は逆転。FDT隊員は次々に、撤退を開始した。

 そして、午後二時五十六分。戦闘は終結した。

 怪我人はSDF側が十九名、FDT側が二十二名だった。奇跡的に、死者は出なかった。

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