ボードゲームカフェのスタンド使い
今、僕の傍らに立っているものがいる。
下町のとあるボードゲームカフェにいる。何をしているのかと問われればもちろんゲームだ。
ここのカフェではある文化がある。その名も『スタンド』だ。
その『スタンド』っていうのが何なのかというと、経験者が初心者の後ろに経ってルールを教えたり、戦術を教えたり、見逃していることを教えたりする。その姿が『ジョジョの奇妙な冒険』に出てくる『スタンド』そっくりだったのでそう呼ばれている。
そうとも。後ろにいるのが僕の『スタンド』だ。
彼はこの店で一番古株の常連――初めのころ僕は彼を店員だと思っていた――で、皆から1目置かれる存在だ。
今回は初体験のゲームなので僕に『スタンド』が付くことになった。
僕はスピードやかるたのような反射神経が得意で、「はい、ウノって言ってなーい」って言うのも一番早い。だけど、ポーカーのような心理戦をともなうようなゲームは不得手だった。
今行っているゲームも心理戦が大きなウェイトを占めている。そのため『スタンド』におんぶにだっこの状態だ。
「今の状況なら、どの手を選んでも悪くはならない。好みの手を選ぶんだ」
「単独で駒を動かすのは危険だ」
「気をつけろ、奴から狙いはお前だ。今のうちに逃げた方が良い」
彼のアドバイスにより、僕の順位は6人中3位だ。なかなかいい線だし、1位と2位は前半で強引なプレイをしていたため、今後は下位メンバーからの攻撃にさらされるだろう。そう考えると、さすが『スタンド』といったところだ。
その後、2位を追い抜き僕が1位になった。
そして、ゲームは進み手番は1位の男だ。このダイスロールに結果によって勝敗が決まる局面だ。
「この瞬間がたまらねえ」と言いながら1位の男はダイスを片手にジュースを飲んでいる。
自分の手番以外の時に飲めよ、と僕が思っていると。
「ゴホゴホ」と1位の男が、むせ始めた。
どうやら、ジュースが肺に入ってしまったらしい。
男はせき込みながら胸をさすり、呼吸を整え、大丈夫だ、と告げた。
男がダイスロールをしようとした次の瞬間――
「そいつにダイスを振らせるなーッ」と背後から声がした。
僕は咄嗟に身を乗り出し、男の手首をつかむ。反射神経には自信があるのだ。
「何なんだ、いきなり」と1位の男が言う。
「貴様の胸ポケットにあるのはなんなんだ?」と僕の『スタンド』が言う。
僕の隣の人がポケットを探る。
「ダイスが『もう1個』あるだと~」と言ってダイスを胸ポケットから出した。
『スタンド』がプレイヤー全員に向かって話し始める。
「みんな数学の授業を覚えているか? 確率の問題文でこんなフレーズが書かれていなかったか『同様に確か』ってな。そうとも、すべて目がでる確率は同じ。じゃあないと『不公平』だ。だが、そのダイスの目は『同様に確か』じゃあない」
1位の男の手からダイスが落ちた。その出目は『6』、男が勝利する出目だった。
その後、3回ダイスロール繰り返したが、出目はすべて『6』だった。
「『たまたま』連続で『6』が出たのかもしれない。検証を続けるか?」と『スタンド』が1位の男に問いかける。
1位の男は捨て台詞――公序良俗に反する類の発言なのでここでは書けない――を吐いて店から出ていった。
「やれやれだぜ」
『スタンド』だった男がため息を吐く。
「さすがですね。城之内さん」と僕が『スタンド』だった男に言う。
その時僕はふと思った。
どちらかと言えば僕が『スタンド』で、彼が『スタンド使い』ではないだろうか、ってね。
大学の研究室でゲームをする時にこんな風習がありました。