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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

……はずなのに

作者: 七乃ハフト

「順番来ませんね」


 私は彼に話しかけながら、自分たちの順番が来るのを待っていました。


 今いるのはホテルの空部屋で、今日はデートで来ていました。


 このホテルは彼のお気に入りで、私も一目で気に入ってしまいました。


 いつも使うお馴染みの部屋で、何度も彼と愛を囁き、身体をひとつにしていました。


 今日も一週間ぶりに会った彼とホテルに来たのに、事件のせいで全てご破産になってしまったのです。


 その事件は殺人事件のようでした。


 私達を含む全ての宿泊客は各々部屋で待機する事になり、事情聴取の順番を待っていました。


 彼から貰ったハンカチで右手を擦っていると、ドア一枚隔てた廊下からは慌ただしい足音や微かな話し声が聞こえてきます。


 現場は血の海だとか、一緒にいた筈の女性が見つからないとか。


「犯人見つからないみたいですね」


 ハンカチで手を擦りながら、スマホで時刻を確認すると深夜でした。


 今日はもうデートを再開することもできそうにありません。


 手持ち無沙汰になったので、スマホでネットニュースをチェックすると、まだ事件のことは載っていませんでした。


 けれども気になるニュースを見つけます。


 十年前、今いるホテルの部屋で起きた殺人事件の記事でした。


 気になったので読もうとすると、突然スマホの画面が真っ暗になってしまいます。


 充電したはずなのに。


「こんばんは」


 顔を上げると目の前に男の子がいました。


 今時珍しいブレザーに蝶ネクタイに短パン。


 そこにメガネを加えたらまるで、漫画の少年探偵のような少年です。


「こんばんは!」


 さっきより大きな声で挨拶してきたので、ハンカチで右手を擦りながら挨拶を返します。


「こ、こんばんは」


「良かった。聞こえてないのかと思いました」


「ごめんなさい。ところで私に何か用?」


「うん。僕見ていたんです!」


「何を?」


 私はハンカチで手を擦りながら聞き返します。


「お姉さんとおじさん、ベッドの上で裸でピッタリとくっついていましたよね。

 おじさんは犬みたいな息づかいで怖かったけど、お姉さんは「あんあん」ってまるで嬉しそうな声出してて、何だか分からないけど恥ずかしくなってしまいました」


 この子、私達の事を見ていた? でも何処にいたの?


 右手を擦り続ける左手に思わず力が入ります。


「君。私達の事を覗き見していたの? 一体どこで」


 私が語気を強めても、少年はどこ吹く風といった様子で話を続けます。


「二人とも満足したように少しの間動きを止めてたけど、そのあとバスローブ? だっけ。それを着てお話したね。

 おじさんが「もう別れよう」って切り出したら、お姉さん「なんでそんな事言うの⁉︎」って今にも泣きそうな顔してた」


 この子の言うことは最後まで聞いてはいけない。そう思っても私の身体は金縛りにあったように動きませんでした。


 動くのは右手を擦る左手だけ。


「その後お姉さんテーブルにあったアイスピックでおじさんの首を刺したんだよ。

 おじさんはお姉さんを突き飛ばすと、自分でそれを引き抜いた。

 その時首から噴水みたいに血が吹き出したんだ。

 部屋中真っ赤になるほど、ね」


 カラカラに渇いた喉から何とか声を絞り出します。


「私はそんな事してない! 見てよ! 彼は隣にいるんだから!」


「僕にはお姉さんしか見えないけれど?」


 首を動かすと隣にいた筈の彼の姿はありませんでした。


「それに証拠もあるよ。右手をさっきから拭ってるハンカチ。よく見ると赤いシミがついているね。

 それって凶器の指紋を拭き取った時についたんだよね」


 純白のハンカチには、点々と赤いシミが付着していました。


 何故右手を拭っていたかも思い出します。


 彼の首を刺した時の感触を一刻も早く消し去りたかったから。


 外からノックの音。私が自白する時がきたみたいです。


「僕一度でいいから殺人事件を解決してみたかったんだ。じゃあねお姉さん!」


 少年の姿は透明人間のように透けて消えてしまった。


 入れ替わるように復活したスマホの画面には、十年前の殺人事件の被害者の写真が表示されました。


 霊感なんてなかったはずなのに。


 ーお・わ・りー

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