⑥あんみつと寒天とせんぱい
最近すごく暑い。気付いたら季節は真夏に移ってて、おはぎの姿をあまり見かけなくなったなぁと思ってた。季節感が出るのは、和菓子屋さんだからということもあるけれど、成希せんぱいとわたしは前より少し、親密度が上がった感じがしてそれで汗も出て来てる感じがした。
「桜月さん、今日も暑いね」
「そ、そうですね~」
確かに外はすごく暑い。だけど、和菓子屋さんの店内はむしろ涼しい。そのはずなのに、カレの隣に座ってるだけで何だかとても熱を感じるのはどうしてだろう。
「顔、赤いけどもしかして、冷房が弱いかな?」
「えとえと、だ、大丈夫です。これはあの、たぶん日焼けです」
「あ、そっか。桜月さんは学校の中庭でいつも食べてるんだよね? それもウチの商品たちを。暑いの大変なのに、なんかごめんね」
「せんぱいが謝る必要なんて全然っ、無いんですよ~。だから気にしないでください」
やばいやばい。確かに季節的に暑いから顔も赤くなりやすいけど、まさか成希せんぱいの隣にいるだけでさらに赤くなるんです。なんて言えないよ。
ポテチ一枚がこんなにもわたしに影響を及ぼすなんて思わなかったよ。月イチは駄菓子屋さんでポテチを買う。だけど、そのことをわざわざせんぱいに伝えるわけじゃ無い。
それなのに、1人で食べていることがまるで内緒にしている感じがするなんてどうしてそう思うようになったんだろう。
以前はわたし一人で甘い物は何でも食べていたのに、成希せんぱいと一緒にいるようになってから、カレはわたしに甘えてくるようになった。それを嫌とも感じることが無いし、断る理由も無いからだけど。
「まだ顔が赤いね。あぁ、そうだ! 桜月さん、まだお腹はいっぱいでもないよね?」
「は、はい。問題ないです~」
そう言うと、せんぱいはお店の奥に入って行き冷蔵庫か何かを閉める音を出して、お盆に乗せてなにかを運んできてくれた。
「暑い時って、これもオススメだよね。って、三家の宣伝も兼ねてるんだけど、桜月さんはあんみつも好きかな?」
「も、もちろんですっ! 透明な寒天とかの感触が大好きなんです。こしあん派のわたしですけど、あんみつの粒あんって、粒あんだからこその美味しさが引き立ってると思うんですよね」
「そう言ってもらえると、作って来た甲斐があるなぁ」
「えっ? これ、せんぱいの手作りなんですか?」
「一応ね。あんみつくらいは作れるよ」
和菓子屋さんのせんぱいは、イチゴとか苦手な物もあるのにそれでも、自分のウチの商品を全て覚えてしかも、作ったりもするなんてよっぽど好きじゃなきゃ出来ないことだよね。
「わたし、おっくうだから自分ではあまり作らないんです。あ、もちろん作れないわけじゃ無いんですよ。でもこうして、せんぱいが作ってくれたあんみつを今から食べられるだなんて、すごく嬉しいです!」
「はは、何か照れるね。俺は確かに店の子供だけど、お客さんに出せるほどのレベルじゃないんだよ。だからこれは、桜月さんと俺だけの特別なあんみつってことで内緒にしててね?」
「は、はいっ! せんぱいとわたしだけの秘密にします」
そんなことを言われたら、ますます最初の一口をスプーンですくうことが出来ないよ。せんぱいが何かを待っているのも何となく、分かってしまうしどうしよう……これってなに? なんなの――