⑤ポテチ一袋と運ばれのカレ
たまにはわたしだって、口中をリフレッシュする時がある。普通にご飯を食べる時はさすがに、甘い物は混ぜない。それとは別に、普段のわたしは誰から見ても常に甘い物を手にして口にしている。
味覚を戻す。正確には、甘さの味覚を磨くために違う味を覚えさせてからまた取り入れるみたいなことをしてる。
そういう時、あまりしちゃいけないって親や学校からも言われてるけど買い食いをする。その時に買うのが塩味のポテチ。一袋を買って、手に取って少しずつ食べる。そうすることで甘々な口中が……と言うよりは、舌の感覚が鋭さを増す様な気がするからあえてそうしてた。
それがまさか、成希せんぱいに見られてしかも、あんなことになるなんて……
学校帰り、家の途中にある古くからある駄菓子屋さんに立ち寄ってみる。と言っても、月イチくらいは顔を見せてるから行けばお店のおばあちゃんは喜んで迎えてくれるけど。
お店で買うものはいつも一緒。塩味のポテチを一袋だけ。いつも、和菓子とかケーキとかにお小遣いを使っているから、お菓子はあまり食べていないけれど口中リフレッシュの為に買っている。
たまには音の出る食べ物を口にするのも悪くなくて、しかもパリパリとやや硬めの揚げ物だから感触も歯ごたえもいい。家ではほとんど食べないから、外で買い食いするポテチはわたしにとっては特別な時間かもしれない。
駄菓子屋さんの軒先に置いてある木イスの上で一枚一枚、口にしていたわたしはこの日、自分でも驚くほど大胆なことをしてしまう。
「あれっ? 珍しいところにいるね。桜月さん」
「あっ、成希せんぱい!?」
成希せんぱいの両手は何か道具の様なもので塞がれていて、大変そうだった。
「あぁ、これ? うん、俺って和菓子屋の子供だから茶道を習わなきゃいけなくてね。それの道具なんだ。ごめんね、手を止めちゃって。やっぱり、桜月さんが何か食べてる時って美味しそうに嬉しそうにしているなぁ」
「茶道なんですね、すごいなぁ。ごめんなさいです。何だか、1人だけで食べてて……」
「……桜月さん。よかったら、それを一枚だけ俺にくれないかな? 俺も普段はソレを口にしないんだけど、キミが食べてるのを見てたら欲しくなっちゃった。い、いいかな?」
こ、これって、ケーキの時の逆バージョン!? しかも直接手で触って、せんぱいの口に運ぶの? あわわわわ……い、いいのかな。
「手、手があの、すでに何枚か食べてたのでその……」
「うん? 大丈夫」
成希せんぱいの両手は道具でふさがっている。カレの口は、わたしからのポテチ一枚が運ばれてくるのを今か今かと待ち望んでいる。これはもう期待に応えるしかない。
「じゃ、じゃあ、ど、どうぞ……」
何てことは無いはずのポテチ一枚を、手に取ってせんぱいの口に運んだ。わたしの指がせんぱいの口にわずかに触れたけどすぐに、手を引っ込めた。
パリパリと音を出して、せんぱいも嬉しそうにはにかみながら、わたしを見つめていた。
「桜月さんはそのお菓子をたまに買うの?」
「え、えと、月に一回くらいです」
「そうなんだ。それじゃあ、また見かけたら食べさせてもらっていいかな? 桜月さんさえよければ……」
「も、もも……もちろんですっ。で、でも、わたしから食べさせるとかそんなの、いいんですか?」
「嫌じゃ無ければ、なんだけど駄目……かな?」
成希せんぱいはまるで、おねだりする犬のような表情をわたしに見せて来る。や、それは反則です。
「ぜ、全然、大丈夫です! 任せて下さい!」
「良かった。桜月さん、ありがとう」
何故かお礼を言われてしまった。両手が塞がってない時でも、わたしが食べさせるってことで合ってるのかな?
うぅ……また胸がギュッとしてる。これ、この気持ちって何だろ? なんかすごくふわっとする。