増える苦労
少年は走っていた。
今日は──『 』の誕生日。
今まで貯めていたお小遣いで『 』の欲しがっていた本を買いに行っていた。
さらにネックレスも一緒に買ってきた。
今は、その帰り。
そして、『 』が待っている家に着く。
扉を開けて靴を投げ捨て部屋に飛び込むように入る。
「『 』!誕生日おめで・・・え?」
そこはパーティーの装飾の施された部屋ではなくただ、赤い部屋。
ペンキをぶちまけたように赤黒い部屋には黒いゴシック調のドレスを着た少女がいた。
「あら?お兄ちゃん、どうしたのかしら?」
少女は三日月のような笑みを浮かべながら少年の方を向く。
「・・・『 』?なんだよ、この部屋。そ、それに父さんと母さんは何処に行ったんだ?」
「クスクス、目の前にいるじゃない。ちょっと形が変わってしまっているけれど。」
そこに人の形をしたものは少女と少年の二人しかいない。
しかし、目を凝らせば其処には『元』人間だっただろう塊の様なものがある。
「・・・お、お前、まさか。」
少年は手に持っていたプレゼントを落として半歩後ろに退く。
少女は軽やかにステップを踏み、少年の前に来る。
「ええ、そのまさかよ?私が、『殺した』のよ。けど、この人達が悪いのよ。お兄ちゃんを・・・おっと、これは秘密だったわね。」
当たり前のように語る少女に言葉を失う少年。
少年には『殺した』以降の言葉は聞こえているのかはわからない。
「そんなことよりその包みはこの子へのプレゼントね?でも残念だわ。この子、精神的に閉じこもっているもの。」
「お前、誰だ?」
クルクルと回りながら少年の方に目だけをやり、口にする。
「誰だと思う?『 』だと思う?別の誰かだと思う?」
その声は甘いのに寒気を及ぼすおぞましさを有していた。
「・・・正解はどちらもよ?特別大サービスで教えてあげるわ。」
少年の前から陽炎のように揺らめきながら消えた少女。
「私は『魔女』。」
少年の後ろから揺らめきながら現れる少女。
「!!」
「私は『 』よ?そして、『 』は私。でも私は『 』じゃないわ。」
「あ、ああ。」
少年はもう考える事を放棄していた。
彼の心は嘘だという言葉で埋め尽くされていた。
「この子、『 』に産みついたもう一つの人格、かしらね?それとも・・・」
「あぁぁぁぁぁぁ!」
「さて、教えてあげれるのはここまでよ。じゃあ、お兄ちゃんもさようならしましょうか。」
妖艶な、醜悪な笑みのまま、少女は、『魔女』は少年の顎をひき、し少年の口を塞ぐ。
少年の意識は暗闇に飲まれた。
◇
「っ!はぁはぁ、ゆ、夢・・・か。」
幽はベットで飛び起き、息を荒くしながら夢を振り払うかのように頭を振る。
「大丈夫?ゆー君、水飲む?」
幽の隣にいたリエルがペットボトルを差し出してくる。
「ああ、ありがとう。」
ペットボトルの中身を一気飲みし落ち着いた幽は改めてリエルの方を見て・・・
見て・・・
「何でいるの?」
そう呟いた。
それもその筈、この部屋は二人部屋だが今は幽1人しかいないのだから。
まだ夜だが、幽は試験が終わったら夕食をとらずに部屋に帰り鍵をかけてベッドに突っ伏したのだ。
鍵は幽と管理人の火蔵しか持っていない。
「それなら簡単よ。だって今日から私もこの部屋に住むから。」
幽は何言ってんだこいつ、みたいな顔をして固まった。
「何言ってんだこいつ」
「表情で分かってたのになんで口にするの?」
「いやいや、なんでこの部屋なんだよ!?俺とお前性別的に間違い起きたら困るだろ!?」
しかし束の間、すぐ様リエルに抗議する幽。
「私も火蔵さんにこの部屋でゆー君と同室だけどこれから頑張ってね!て言われて鍵渡されただけだし?」
「あの人は!?俺一言も聴いてねぇよ!?」
叫びながら扉を開けて管理人室兼アルフェと火蔵の愛の巣(生徒間の一部の呼称)に走っていく幽。
「私放置ね。まぁ、いいわ。今の内にゆー君のベッドでゆー君の匂いを堪能しましょう。」
彼女も例に漏れず変人・・・いや、変態だった。
幽がそのことを知るのはもう少し先のお話。
「説明しろやクソ管理人がぁ!?」
怒りが爆発した幽は管理人室の扉を容易く蹴り破り突入していた。
「うぉ!生身でこの部屋の扉を蹴り破れる幽君凄いでしょう!?で、どうしたんだい?」
のんびり酒盛りしている火蔵とアルフェは幽に優しい目線を向ける。
「どうもこうもねぇよ!?なんで俺とリエルが同室なんだよ!?」
「ああ、それかい?今更部屋を変えるとギクシャクしそうだから一人部屋の人のところに一緒にって話だったんだよ。で、空いてる部屋が幽君しか無かったから。」
「男女同室は世間の目があかんだろ?間違いが起きたらどうする気だよ!」
ワッハッハーと酔っ払ったアルフェが笑いながら幽に告げる。
「フィンの奴から伝言だよ。『手を出したければ出せ。しかし、責任はきちんと取れ。むしろ何処の馬の骨か知らん男よりお前の方が安心出来る。』との事です。」
「・・・あのオッサン見た目に反して親馬鹿だからなぁ。と言うか10年前に会っただけの男の方が安心てあいつの交友関係どうなってんだよ。」
悟ったような目でどこかを見つめる幽に対してアルフェと火蔵は酒を注いだコップを渡してくる。
「飲む?」
「俺まだ学生だぞ。」
「この国は飲酒18からだけど幽君の場合未成年とは言えないのが難点。幽君今18だろ?」
「高校一年行かずに留年してるからな。」
幽は高校を一年行かないでいたのだが理由が魔道具の研究で引きこもったというのがまたなんと言うか・・・。
「それに、幽君だから間違いは起きないだろ?
(同意の上か、彼女に襲われるならあるだろうけど。)」
「そうだね。
(他にも何人かに襲われそうだよね。)」
二人にしては珍しく慈しむような目を向けて来る。
「何だその目は。この件はもう分かったからいい。戻って寝る。」
扉を何処から出したのかわからない工具類で修復して管理人室を出ていく幽。
「あの子本当に何処から工具類とか出してるんだろうね?」
「きっと何処かに四次元ポケットがあるんだよ。」
酒盛りは徹夜で行なわれ、翌日二日酔いのアルフェとピンピンしている管理人が目撃されていた。
ガチャ運死んでるんだよ。
課金しても水着清姫来ないよ。
まだ諦めてはいないけど!
来いよ清姫!
いやマジで




