プロローグ 始まりの前日
晴れ晴れとした快晴の中、一人どんよりした少年がいた。
目元まで掛かった黒髪に黒い瞳で黒色を基調とした制服を着た少年。
彼の名を斑鳩麒 幽といった。
「はぁ、憂鬱だ。」
彼のテンションが低い理由は彼の持っている一枚の紙によるものであった。
その紙には『学園長室に来なさい』と書かれていた。
「日本一の魔法学園に入学してから一ヶ月に一回は学園長に呼ばれることがある不具合を誰かなんとかしてくれ。」
彼が在住している魔法学園は世界有数の魔法学園であり、日本一でもあるユーリガル学園。
この学園は入るだけでそれ相応の素質を持つ証明なのだが、彼は他とは違い特待生としての入学だった。
理由は主に二つ。
一つ、彼は世界で唯一魔法が使えないものである。
一つ、彼は魔法理論に関しては世界クラスの成績を誇っている。
この二つによる入学が許可されている。
ちなみに入学を認めた学園長いわく
「魔法を扱えないなりの戦い方や魔法魔法の対処に期待しているよ〜。」
とのこと。
「めんどくせぇ。」
「何がめんどくさいんだ?幽。」
横から声をかけてきた茶髪ロングの白を基調とした幽と似たデザインの制服を着た少女。
彼女の名は桂峰 蒼という。
彼女は幽の幼馴染みであり、幽が魔法を使えない事に偏見を持たない数少ない一人である。
「ん?あぁ、蒼か。いやな、毎回恒例の学園長からの呼び出しだ。」
蒼は溜息をつく幽を見て苦笑を浮かべると
「あぁ、いつものか。今回はなんだ?」
と言う。
幽は更に深い溜息をつくと
「知らねぇんだな、これが。」
と嘆くように語る。
「まぁ、問題起こして呼ばれる事は無いんだからいいんじゃないか?」
「帰りたい。けど帰ったら絶対なんで来なかったって怒られる未来が見える。」
始終暗い顔をしている幽に蒼は時計を見て慌てた顔をすると
「しまった、これから部活で呼ばれてるんだった!すまん、幽!先に失礼するぞ。」
幽の返答を聞かずに慌ただしく走っていく蒼。
「やれやれ、俺も行くかね。」
頭を掻きながら渋々、幽は学園長室に足を向け歩き出す。
後に彼はこう語る。
此処が自身の人生の分岐点の最たるものだったと。
◇
学園長室の前まで来た幽は扉をノックした。
「誰?」
中から声がかえってくる。
「斑鳩麒 幽です。」
「あぁ、幽君?入っていいよ〜?」
「失礼します。」
扉を開けて中に入ると学園長と書かれたネームプレートの乗っている机の前で手を組んでいる赤髪の幼女がいた。
「学園長、今回は何の用でしょうか?」
そう、この幼女こそが世界有数の魔法学園の学園長である斑鳩麒 アルフェである。
「幽君?いい加減お母さんって呼んでくれてもいいのよ?家族でしょ?」
そして幽の義理の母親でもあった。
元はイギリスの財閥の一つのフェルレイア財閥の娘であったが日本人の斑鳩儀 火蔵に一目惚れし家柄を捨て日本に来て結婚し、さらに学園を建て学園長になったという逸話を持つ人である。
実年齢は少なくとも三十後半であるのは確かである。
因みに火蔵はロリコン疑惑でとても苦労したらしい。
「公私混同してらっしゃいますが?」
引き攣った笑顔を向ける幽に対してあっけらかんとした表情で笑うアルフェ。
「なら仕方ないね。家ではお母さんって呼んでよね?」
「それより本日俺を呼んだのはどのようなご用件で、ですか?」
「スルーはよく無いと思うけど、そうだね、本題に入るとしようか。」
アルフェは机の引き出しから書類を取り出すと幽に渡す。
「これは?」
「今度留学生として来る生徒の資料。幽君には、彼女の案内をしてもらうから。」
「彼女?しかも何故俺が案内を?」
首をかしげる幽にアルフェは手を振りながら
「詳しくはその資料を読んでからね。」
と言う。
資料を広げ読み始める幽。
次第にその顔は驚きに染っていく。
「どういうことですか?アメリカNo.1の魔法使いであるフィン・セラトエラの娘であるリエル・セラトエラがこの学園に、アメリカにはわが校より良い学園があるのでは?」
アルフェも苦々しい表情で
「そうなんだよね。けれど彼女たっての志望なんだよ。わが校への留学は。」
「何故ですか?」
「それ理由が幽君に案内を頼む理由でもあるって事さ。彼女はね、幽君に会いに来たんだ。この世界で唯一魔法が使えない幽君に。詳しくは彼女本人に聞いてくれればいい。」
厄介ごとに巻き込まれた事に気づいた幽は今日、何回目になるかもわからない溜息をついて呟く。
「めんどくせぇ。」
その言葉をアルフェは咎めることなく苦笑いをしていた。
異世界転生物の他に書きたくなったので書きました。
感想などもらえるとありがたいです。