-俺が何をしたと言うのだ-
桜が美しく咲き誇る季節、春
暖かい日差しが木々の間をすり抜け、湊人の顔を照らした。
眩しくもどこか優しいそれに目を細める。
周りに植えられた桜の木が風に揺れて小さく揺れた。
第一志望である桜塚高校に入学することができた湊人は、新しく始まる高校生活に胸を踊らせていた
新しい制服、新しい鞄に新しい友達……
欲を言えば彼女も欲しいな、と湊人は自身の未来図を想像して楽しんでいた。
そう、昨日までは漫画のような青春が送れると信じきっていたのだ
「あ、あの金髪の子だよ。入学初日に他校に喧嘩売った挙句無傷で帰ってきた子」
「知ってる。東郷湊人でしょ?怖いよねぇ」
湊人は振り返った。女子生徒2人がこちらの様子を窺いながら噂話をしている。女子生徒2人が湊人が自分たちを見ている事に気が付くと、慌てて目を逸らす。
湊人が声を掛けようと口を開くと女子生徒2人はそそくさと走っていってしまった。
入学式から3日目、授業が開始される前に全く身に覚えの無い噂が流れ始めた。
中学生で高校生に喧嘩で勝った、全国模試で1位だったなどという途方もない噂が。
答えは全て、ノー、否定である。
確かに湊人は他人に勘違いされやすい身なりをしていた。親から受け継いだ金髪につり目、更に高身長という事で周りに自然と威圧感を与えているのかもしれない。
中身はただの平凡な、周りと何ら変わりない高校生だと言うのに。
「あー、本気でどうしよう。三年間ぼっち生活とか本気で笑えない……」
湊人は呟きながら学校を目指す。
今日こそは友達をつくるんだと心に決めて。
全てはたった三年間しかない青春を謳歌するために___
少し坂を登ったところに桜塚高校は立っていた。
楽しそうに笑う生徒、部活に励む先輩の声……
湊人はそれを羨ましそうに眺めていた。
カチャリと自分の下駄箱を開ける。中には新品の上履きが入っていた。
「何だ?これ」
湊人は上履きの上に置かれていた手紙を手に取った。
果たし状と墨で大きく書かれた紙である。
__今時果たし状を書く人っているんだな
湊人は果たし状を開けた。中には同じく墨で書かれた字がスラスラと並んでいる。
しかし達筆過ぎて読めない。わかり易くいえば、日本史の資料を解読しろと言われているような字であった。
きっと噂に騙された人が遊びでこれをいれたのだろう。
この学校には喧嘩をするような人はいるはずがないと信じたかった。
湊人は暫く果たし状を眺めていたが、それをポケットにしまう。
そして足取りを保健室へと向けた。