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 鳥居の前に来て立ち止まる。狐の姿は見えなくなっていた。持久力の無い私は息が切れていて必死に呼吸を整えた。鳥居を見て月城神社だと確認していると、後ろの葉が擦れる音がした。母が来たのだ。捕まる、と思い鳥居を潜った。そこはやはり、見慣れている月城神社だった。

奥へと走って逃げる。しかし隠れる場所もなく、すぐに私の目にはこちらに向かっている母が映った。もうこれ以上逃げ場はない。少しずつ近づいてくるそれに、私は腰が抜けその場所に座り込んでしまった。

一歩一歩私との距離が縮まり、私の目の前に来た時、それは突然歩みを止め俯いた。恐怖で立てない私はじっと見つめることしかできなかった。すると急に呻き始め、それは見る見るうちに巨大化していった。それは大きな鼠に変わったのだ。

目を離すことができないでいると、こちらを鋭く睨みにやりと笑った。もう母の姿などそこには無い。体の神経が全て停止するのを感じた。

私はここでこの鼠に殺されるのだ。目も瞑れずしっかりと鼠と私は目を合わせていた。

すると、ひゅっと風の音がした。動くことが出来ず固まっていると、目の前の鼠から突然血が噴出した。何が起こっているのか、頭の中はぐちゃぐちゃで真っ白だった。

ゆっくりその鼠は真っ二つに割れ、地面へと倒れていった。その鼠から目が離せないでいると、何処からか金属音が耳に入った。視線を上に上げ真っ直ぐ前を見ると、その先には青年が一人こちらを見つめ立っていた。

少しつりあがった目に銀色の髪、手には日本刀、そして黒色の狩衣を着ていた。そして、それ以上に目に付いたのは頭から生えている黒色の獣の耳と、数本の尻尾だ。

けれども、それに対して不思議と恐怖感は無かった。何故か、安心感が得られたのだ。

すぐにその青年は私の前から消えた。しかし一回ほど瞬きすると、どうやって移動したのか私の前に青年は現れたのだ。吃驚して少し声を上げて後ずさるとゆっくりと刀を持っていない右の手を差し出してきた。手を取れ、ということだろうか。青年の顔を少し見てから震える手でその手を取った。

「お前は月城か」

そう一言低い声で彼は私に聞いた。自分の名字を言われ驚き、答えを言えないままでいると、再び彼は私に尋ねた。先ほどよりも声は少し柔らかかった。

「はい」

小さく掠れた声で言うと、つり上がった目を細めそうか、と呟いた。なんとなく恥ずかしくなって下を向いていると、彼の手が離れて、私の目を覆った。そこから触れた肌は私の手より冷たかった。

動くことが出来ないでいると、「眠れ」と優しい声を私に掛けた。すると、だんだん瞼が重くなって視界が霞んでいった。眠気に勝てず目を閉じると、「また」という声が耳に入った。それでもその言葉の意味を理解する余裕は無く、意識は直ぐに暗い所へ落ちていった。

彼とはまた何処かで会うような予感だけ、心に残っていた。

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