第8話 心の魔物
今日も見てくれるのか。
俺も頑張んないとな。 byクレナイ
二回戦目まで少し時間がある。
せっかくだし、実際に観客席に出向いてみる。
観客席がやけに冷たい。
盛り上がりが一切見られないのだ。
???「あ〜あ、終わっちゃったよ。何が2年の注目選手だ?」
2年生の注目選手、『天使の才能』。
リンを、軽く圧倒している。
リン「なんなのよ、あなた。」
???「本当に自分のことしか、頭にないんだな。」
先輩相手に煽り口調な1年生。
クレナイ「アルト...『竜の勇者』か。」
俺が見に来た頃には試合が終わっていた。
始まったのはついさっきのはずだが、
実況も黙り込んでしまっている。
クレナイ「何があったんだ...」
俺がつぶやくと、アルトはそれに反応したようにこちらを向く。
俺とアルトの目が合う。
アルトは俺に対して、威嚇するように、魔力を放出する。
俺もそれに対して、睨みつける。
“魔物”と“最強”
縄張り争いのような雰囲気。
実際は1秒もなかった出来事だが、体感では10秒はあった。
アルトは、控室に戻り、俺は、『夢幻の社』へ向かう。二回戦目に向けた、最終調整のために。
〜夢幻の社〜
バキバキ!
クレナイ「ん?」
先着がいたようだ。
ーー特待生以外場所を知らないはずなんだが?
???「コノ匂イ、人間ダ。」
今の一声で、背筋が凍る。
今の声は人間じゃない。魔物か?
言葉を話せる魔物は、例外なく、
ーー強い。
ピピッ!
腕輪の数字が変化する。
“20%”
クレナイ「20?よし、いいってことだな...」
腕輪の数字が20になる。
それは、ラリスからのサインだ。
〜昨日〜
ラリス「腕輪の数字は、我が操作する。基本は5%だ。【創造神】も使うな。ただし、数字が20を超えたら、それは我からのGOサインだ。好きにしろ。」
〜そして今〜
魔物は、二足歩行の熊系だ。
熊系は、体が冷えると簡単に倒れる。
俺は、魔物の背後に移動。手を魔物に向ける。
クレナイ「【氷結火...」
???「待って!」
女性の声だ。気配からして、1年生か?
俺は咄嗟に詠唱をやめる。
いくら無詠唱で発動できても、詠唱した方が、性能がいいのだ。
魔物は、威勢を失い、女性の元へ。
クレナイ「!?」
魔物は跡形もなく消えた。
女性「ごめんね。君、クレナイ君?次、試合。」
クレナイ「あっ、忘れてた。」
俺は急いで会場へ走る。
女性「5%じゃ、勝てないのかな...」
女性が意味深につぶやくが、その時にはもう、クレナイはその場にはいなかった。
〜会場〜
実況「ついに!ついに!始まります!第二回戦だァ!」
観客たち「「「うぉぉぉぉぉ!!!!」」」
俺は控え室で息を整える。
会場には対戦カードが表示された。
実況「二回戦目の第一試合目はァ?!」
実況「特待生、『本物の最強』クレナイィ!」
観客C「俺この子応援しようかな?」
観客D「あり!私も気になってた!」
一回戦目よりかは盛り上がっている。
実況「観客席からの盛り上がりが聞こえるぞ!あの一回戦目を見て、クレナイに惹かれたようだァ!」
入場がてら腕輪を見る。
“5%”
クレナイ「やっぱ戻ってるか...」
実況「対するはァ?1年生!『気分屋』ミスラニトォォ!」
観客たち「「がんばれぇ!!!」」
制服を着崩した女性が入場する。左手に持っているのは、枕にようだ。
ミスラニト「また会ったね。クレナイ君。私ね、君と戦ってみたかったんだ。」
こいつ、さっきのか。分かってて会いに来たんだろうな。
とても落ち着きのある、ゆったりとした声。頭から離れない甘い美声だ。
実況「彼女の一回戦目は、一方的!2年生相手に無傷勝利!今回はどう出る?!」
実況「さぁ!ゴングが鳴ったァ!!」
ミスラニト「いくよ。“ベア”!」
右手を胸に当てる。瞬きをしない間に、彼女はピンク色の煙に包まれた。
煙からは、
ーーさっきの熊系の魔物。
ベア「主人様、ワタシハ、アイツ、許セナイ!」
ミスラニト「殺ってきて。」
ミスラニトの笑みがこぼれる。
まるで、お母さんからおやつをもらった子供のようだ。
でも、瞳だけが凍っている。
クレナイ「この魔物、厄介だ。5%で仕留められる気がしない。」
俺は冷静になって考える。
ほぼ確実に、あいつのスキルは、調教の、亜種だ。
ーーなら、勝ち確だ。
でも、彼女の目は、笑っていた。
ズドン!
重みのある音が、フィールドから鳴り響く。
魔物は無視、本人を倒せばいい。
ベア「主人様!」
ベアが声を荒げる。
俺は一歩強く踏み込み、迫ってきたベアの横を抜ける。
ミスラニト「そんな甘くないよ。」
クレナイ「くそっ!」
ミスラニトとベアの位置が入れ替わる。
ベア「【重撃】!」
俺は腕に魔力を集中、防御する
ーーが、
体で反響する一撃に、
バキ!
ズドオオン!
俺は場外へ吹っ飛ばされる。
実況「今回も決まったァ!調教系の弱点を利用した、反撃だァ!」
俺は難なく戻った。
左腕に力を込める。
ーー反応は無し。
指先が動かず、魔力も流れない。
ミスラニト「腕、折れたね。」
左腕には強い衝撃が走った。折れない方がおかしい。
折れたのが左腕だけで良かった。
ミスラニト「反応はいいんだけど。そんなんじゃ守れないよ?」
また位置が変わり、俺はベアと向き合う。
ミスラニトに近づくと、それはベアに近づく事になる。
クレナイ「厄介だな。」
入学して初めての、“危機“が迫る。




