朝のちいさな奇跡
掲載日:2025/11/06
朝、目が覚めた。
気持ちのいい朝だ、布団の中で大きく伸びをする。
カーテンの隙間から差し込む朝日が、枕元のスマホを照らしている。
――通知はゼロ。ニュースの速報もなし。
目の前に広がっているのは、何も変わり映えもしない、毎朝の光景。
扉越しに聞こえるトースターの「チン!」という音、そして、自分を大声で呼ぶ母の声。
あって当たり前と思う、日常の朝。
けど、全部が、奇跡の積み重ねなのだ。
――阪神淡路の朝。地面が割れ、家が崩れた。
――地下鉄サリンのニュースが流れ、通勤の電車が怖くなった。
――誰かの「当たり前の毎日」が、誰かによってある日突然、奪われてしまう。
ママから聞いた話を子どもの頃は、それを遠い物語のように聞いていた。
こんな事は自分のソバでは起きる訳はない、と。
でも、大きくなった今なら、少しわかる気がする。
これはカミサマの気まぐれ、小さな奇跡の積み重ねでたまたま自分のソバで起きていないだけだ、と。
だけど、こんな奇跡の積み重ねの いつも通り が、世界でいちばん大切なものなのかもしれない。
「……今日も、何も起きないといいね」
フトンの中でそう呟いて、小さく笑った。
何もないことが何よりの幸せ、と。




