1. ある日の休日
なんかあとがきで反応くれると嬉しいです言うたら
本当に増えてびっくりしました。すごく嬉しかったです‹‹\(´ω` )/››‹‹\( ´)/››‹‹\( ´ω`)/››ありがとうございます。
それでは、第七章開始です。またも季節外れの夏休み回です。
土曜日、事務所が休みなので、薫は出かけることにした。もうじき盆休みなので、秋人を旅行にでも連れて行こうかと思い立ったのだ。
自分でネットで組むのもいいが、たまには旅行会社に丸投げして、いかにもな観光地に行くのも悪くないと思った。
「できれば、新幹線に乗る旅がいいかな」
着替えながらそう呟く。凛子から送られたジャケットはよそ行きすぎて使えないので、いつもの麻ジャケットを羽織った。姿見で一応おかしくないかチェックしたところ、ふと髪の長さが気になった。
「伸びたな。切ってくるか」
行きつけの美容院に電話すると、ちょうど16時なら空いているというので予約した。
「ランチをどっかで食べて、旅行会社に行って、美容院に行って、夕飯はデパ地下で美味そうなものでも買って帰るか、秋人とタイミングがあったら回転寿司でも行くか」
なかなかにいい感じの休日の計画が立ったので、薫は上機嫌で出かけた。
秋人は今日も学校に行って、文化祭用の作品を制作しているらしい。かなり大きな作品だそうで、「楽しみにしててね」という事だった。
薫は旅行会社の受付で番号札を受け取った。世間一般でいうところの盆はもう来週に迫っている。こんなぎりぎりに盆休みの計画を立てようなどという酔狂な客はあまりいないと思っていたが、世の中案外計画性のない人間というのはいるようで、受付番号は25番だった。
「意外と混んでるな」
日本で一番有名どころの旅行会社なので仕方ないかと待合のソファに向かった。
ソファ横のラックに並べてある日本旅行のペラペラのパンフレットをいくつか抜き取った。
「金沢もいいよな。酒も海鮮も美味いし。大阪はユニバーサルフィルムジャパンは夏は暑いからなぁ。京都は秋人は修学旅行かもな…。名古屋…いっそ福岡か?」
パラパラとめくっていると、不意にスマホが震えた。振動モードにしているので音は鳴らないが、一度で切れないので通話だろう。
薫は邪魔にならないように店の外に出て、通話ボタンを押した。
『もしもし、神崎先生。突然すいません』
巌だった。
一応巌には秋人の懸念がなくなったことは軽く伝えていたが、彼はどうやら赤城を締めあげて他に問題がないかどうか確認をしたらしい。
「何かありましたか?」
『電話ではちょっと。その…もしよろしければ、盆にでも我が家にいらっしゃいませんか』
どうやら、あまり電話では言いたくない話のようだった。
薫は巌の誘いを吟味する。彼らの本拠地は神奈川県の鎌倉だ。新幹線には乗れないが、近場の適当な観光地としてはなかなかに悪くない。しかし、旧家は盆などは忙しいのではないだろうか。その懸念を口にすると、巌は静かに笑った。
『そんなものより秋人くんの方が大切です』
きっぱりと言い切られては仕方ない。了承の意を伝えて通話を終えた。詳しくはまた後程ということで、薫は旅行会社の店内に戻り、取った番号を店員に返却した。その時、薫の容姿に色めき立った店員にしつこく旅行計画を立てようと誘われたが、丁寧に断って店を出た。
「時間余ったな…」
薫は時計を確認して、美容院までの時間をどこでつぶすか考えた。
「古本屋でも行くか」
薫の料理以外の趣味は読書である。最近は忙しくてあまり本を読む時間がなかったが、鎌倉での暇な時間に読むのも悪くない。別に新規で購入できないわけではなかったが、薫はあの少し埃っぽい懐かしい空気感が好きなのだ。
「現金おろしとこう」
さほど高価な蔵書を買うわけではないので、下手したらカードではなく現金でと言われる可能性がある。最近ほとんどカード決済しているので、気が付くと財布にほとんど現金が入ってないことが多いのだ。
店の外を少し歩くとATMがあった。無人だったので薫は機嫌よくカードを入れる。
「3万円くらいか」
薫は秋人からの報酬や、探索者としての利益もあって現在かなり裕福だが、生活のレベルはほとんど以前と変えていない。唯一の贅沢は、晩酌が以前は発泡酒だったところをビールに変えたくらいである。
「ん?」
ぺらりと出た明細を見て、薫は瞬いた。
「あれ?」
残高の0が多い。
秋人からの報酬は弁護士業の利益なので、個人の口座ではなく事務所の口座に振り込んでもらうことにした。だから、薫個人の口座にはあの恐ろしい0の羅列はなくなっている筈だったのだが。
「え?ナニコレ?詐欺?」
普通は減ってるもんじゃないのか?と薫は何度も確認する。慌ててもう一度ATMに駆け寄り、残高を表示させた。
「は?え?どこの振り込み?」
もしかしたら何かしらの犯罪に利用されているとか、弁護士として洒落にならんと慌てて、スマホから銀行口座へアクセスする。
「どこのどちらさんの振り込みだ?」
どうやら怪しい振り込みではなさそうだが、この名前は…と薫は頭を抱えた。
『アークエンジェル ニュウキン ¥100,000,000』
壁に頭をつけて、しばらく考え込む。
「意味がわからない」
薫は口座の画面を見て途方に暮れた。
「あの、これは困ります」
この前のリゾートホテルで手に入れたアークエンジェルのリーダーである鎌田康子の連絡先に薫は電話をかけた。幸い彼女はすぐに出てくれた。
『正当な報酬ですので、ご遠慮なく』
電話の向こうの声は明るい。
「いや、あの件につきましては、ギルドからの依頼ですので、既にあちらから報奨は受け取っていますので」
桜子救出はギルドからの緊急招集依頼だったので、支払いはギルドから行われた。かなりの高額だったが、当夜によるとSランクへの緊急招集依頼なら妥当だということだ。もちろん、一番報酬の比重が大きかったのは秋人だったが、当夜もかなりの金額が振り込まれたようで、喜んでいた。
『それは依頼の遂行による利益ですから当然ですわ。今回私たちからの入金は桜子を救っていただいたことに対する謝礼です』
謝礼で一億円とか、薫の金銭感覚ではついていけない。せいぜい10万円、多くても100万円くらいが一般的なものではないかとやんわり言ってみると、電話の向こうの空気が変わった。
『まさか、神崎先生はうちの桜子の命の値段がそれっぽっちとおっしゃるのですか?』
「いえ、滅相もない。そういう事ではなく…」
薫は慌てて返答するも、先方の気持ちは揺らがない。
『本当はもっと振り込むつもりだったんですが、後藤さんが神崎先生が困るからやめなさいっておっしゃるので、妥協しました』
ナイス、後藤さん!と薫は心の中で拍手した。できればもう3桁ほど削ってほしかったが。
「あ、もしかしてこれ秋人の分も入ってますか?」
こうなったら秋人の口座に振り替えちゃおうと薫は思ったが、
『まさか!秋人くんと当夜さんにも同じだけ入金したに決まってるじゃないですか!』
Sランク探索者の金銭感覚が理解できない。
『我々はSランクのパーティーです。現在日本で一番稼ぎの良い探索者なので、お気になさらず』
康子は引く気はないらしい。薫がほとほと困っていると、不意に電話の向こうの声が変わった。
『もし、神崎先生がこの金額が多すぎるということでしたら、一つお願いがあるんですが叶えていただけますか?』
いつもの薫なら内容を聞く前に頷いたりはしなかった。しかし、今はとにかく口座の0にショックを受けていたことと、美容院の予約時間が迫っていたこともあり
「分かりました。私にできることなら」
と安請け合いをした。
『よかった!実は、桜子を先生のご自宅で預かっていただきたいのです』
康子のお願いに薫が絶句したのは、言うまでもない。
康子「後藤さん、秋人くんと神崎先生と朽木くんに謝礼を振り込むので口座教えてください」
後藤「いや、個人情報ですから」
康子「振り込みなので問題ないでしょう」
後藤「いくら振り込むんですか?」
康子「一人3本で」
後藤「・・・・1本にするなら教えます」
明日は100話記念の小話を活動報告にアップしますー




