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3S探索者の代理人  作者: かんだ
第六章 代理人、リゾートへ行く
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10. 黒い迷宮核

 まだ再活性してからさほど経っていなかったからか、最下層といっても16階までしかなく、さして苦も無くたどり着いた。

 しかし、その光景を見て、皆が口を噤んだ。

 最下層のボスを倒したその先にあるはずの迷宮核は、見たことない様子だったのだ。


「黒い…迷宮核」

 康子が小声で呟く。

「見たことは?」

「ないわ」

 薫の問いかけに彼女は首を振る。何といっても、この中で一番探索者歴の長いのは彼女だ。薫が見たことがある迷宮核はアメリカと赤坂第4ダンジョンの2つだけだ。だが、それらはすべて透明なガラス体でできており、ここにある迷宮核は黒い。形は薔薇のようだが全身真っ黒である。


「普通に魔法で引っこ抜けるかな」

 薫が首を傾げると、他の全員が奇異なものを見る目で薫を見る。

「この様子を見て、その言葉が出てくるの先生らしいっす」

 当夜がまとめて皆の気持ちを代弁した。

「え!?なんでさ」

 薫が心外という顔をする。

「普通は、もっとこう警戒するでしょう。あからさまに様子が違うんだから」

「だけど、これ潰さないと閉鎖できないからね」

「そうなんだけどさあ」

 何とか言ってよという感じで当夜はアークのメンバーを振り返るも、彼女たちはさっと視線を外した。


 とはいえ、いつまでも眺めている訳にもいかない。


「少し攻撃してみる?」

 桜子が剣を構える。すっとアークエンジェルはいつもの陣形を取った。

 先頭にタンクのヨナ、そのすぐ後ろに剣士の桜子と攻撃魔法師の康子、回復魔法師のリサと斥候の久美は一番背後。久美は獲物を弓に変えている。リサは防御魔法を展開している。

 それらの陣形を阿吽の呼吸でとるところが、いかにもプロだった。


「かっこいい」

 薫が思わず感嘆の声を上げる。

「いや、普通っすよ。普通。俺たちが変なだけ」

 当夜は頭を抱えている。

 彼らはだいたい、秋人がどっかり先陣、後ろで薫が防御魔法を全開で展開し、当夜が薫を守るという陣形に見えない陣形が常だった。当夜は密かに脳筋陣形と呼んでいる。


 ヨナと桜子が迷宮核の攻撃範囲に入ると、途端に迷宮核が触手を振るった。茨の蔓のようなそれをヨナと桜子が斬り落とす。

「攻撃方法も威力も通常と変わらないか」

 桜子が零す。しかし、前回の指輪のこともあるので、迂闊に近づくようなことはしない。

「私がやるわ」

 康子が杖を掲げる。


百國火焔(ミレニアムフレーム)

 康子が詠唱を唱えると、巨大な火球が迷宮核へ正確に放たれた。


「おお」

 薫が思わず声を上げる。実は、薫は秋人以外の魔法を見たことがないのだ。

 真っ赤な炎は迷宮核にぶつかると紫色に変化した。迷宮核は抵抗するように蔓を伸ばして暴れた。しかし、焔の勢いは止まらず火だるまになった迷宮核は燃え尽きた。


百國火焔(ミレニアムフレーム)だと一度火が付いたら、全部燃え尽きるまで消えないから根まで絶やせる。これでこのダンジョンは閉鎖できるだろう」

 康子が杖を降ろすと、薫と当夜は思わず拍手した。

「いやあ、かっこいい」

「先生、あれですよ。目指す姿は」

 二人の言葉に康子が照れたように笑う。


「いつもはどうしてるんだ?」

 桜子が尋ねる。

「秋人が『異界閉鎖(クローズ・ワールド)』を唱えるからそれで引っこ抜くんだけど、あれは俺もまだ取得してない」

「あー、あれねー。難しいわねえ。うんうん」

 と康子とリサが頷く。

「そんなに難しいのかい?」

 ヨナが尋ねると、魔法師三人はうーんという顔をした。

「なんというか、根が浅いのはいけるんだけど、深いのはなぁ」

「根が途中で切れちゃうのよね」


 康子とリサの言葉に、薫はうんうんと頷く。薫は自分のコントロールがダメなだけかと思っていたが、二人の言葉を聞いて少しほっとした。

 しつこいようだが薫が知っている魔法師は秋人だけなのだ。彼はよく分かっていなかったが、実は秋人はかなり高難度の技を当たり前のように使っているのだ。


 迷宮核が消し炭になった部分の土を、薫は収納魔法に入れておいたスコップを使ってジップのついたビニール袋に掬い入れた。

「後藤さんのお土産にしよう」

「あ、丸投げする気だ」

 当夜が苦労性の後藤の姿を思い浮かべていると、ぼそっと薫が呟く。

「俺、まだ怒ってるし」

 その言葉に、当夜は無言を貫いた。触らぬ神に祟りなしである。


 迷宮核が潰えたので出口が現れた。一応警戒して石を投げてみたり、魔法を撃ってみたりしたが、大丈夫そうなので全員で出口を潜る。なんなく外に出ることが可能だった。

「おそらく、あの黒い迷宮核はあの連中が閉鎖ダンジョンを活性化させるためのツールなんだろうけど、支配の指輪みたいな機能はないみたいだな」

 薫の言葉に全員が頷く。

「まあ、もしかしたら実装は『まだ』ってだけかもしれないけど」

 その言葉に、全員が嫌な予感を覚えた。

 薫は黒い迷宮核もおそらく人工物だと想定していた。


「薫!!」

 洞穴の外に置いて行かれた秋人が走ってくる。

「秋人、走って大丈夫か?」

 薫が言うと、彼は少しすねた顔で頷いた。

「大丈夫だって言ったのに」

「いや、だって結構血を吐いてたし、それに…」

 薫はすごく嫌なそうに顔を歪めた。

「あんなわけわからん女にファーストキスを奪われるなんて、不憫すぎる。ショックだっただろう」

 ぎゅっと薫が秋人を抱きしめる。

 何のこと?という顔でアークのメンバーと当夜が桜子を見る。桜子は無言を貫いた。


「キスなら前にしたことあるから平気だよ」

「え?そうなの?」

 薫はホッとした顔になった。どうやらずっと心を痛めていたらしい。しかし、ここからが爆弾発言だった。


「なんか変なおばさんに抱き着かれた時に。怖かったから逃げたけど。赤城さんにすごく怒られた。」

 びしっと何かが割れる音がした。当夜が振り返ると洞穴の開いていた岩壁の亀裂が増えている。

 当夜が恐る恐る薫の顔を見る。彼は無表情だった。


「そんな事何回かあったの?」

 薫の声が平坦なことに秋人は気が付かないが、秋人以外の全員が怖くて震えている。

「一回だけ。なんか、流石に不味いからやめろって坂田さんが言ってたから…あの薫?」

 薫の様子がおかしいことに秋人は気が付いたが、原因が分からない。


 きゅっと薫の眉が悲しそうに寄った。それから、秋人の頭をぐりぐりと撫でる。今のような子供扱いに、最近では少し文句を言うのだが、今日の薫の顔を見ているとそんな事を言うのが憚られた。


「そのうち、秋人に可愛い彼女が出来たら、きっとそんなこと忘れる」

「できると思えないけどな…」

 秋人はそう言ったが、薫は

「大丈夫、秋人はかっこいいからね。俺が保証するよ」

 と小さく笑った。なぜか、秋人はその笑顔に胸が痛かった。

当夜「先生、まだ起きてます?」

薫「・・・・・・・」

当夜「あの、俺外見回ってこようかなーって」

薫「・・・・・・・・・・・(怒)」

当夜「(怖くて眠れない)」

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