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3S探索者の代理人  作者: かんだ
第六章 代理人、リゾートへ行く
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8. 激震

 「さて、そろそろ帰りますか」


 薫が空き缶を自分の収納魔法にぽいぽいと入れて立ち上がる。薫子もぐいっと涙を拳で拭いて同じようにごみを拾い始めた。


 とそこへ、大きな地鳴りと共に地面が揺れた。

「地震!?」

 薫が叫ぶが、すっと桜子の顔が真剣なものに変わった。

「違う、ダンジョンだ」

 桜子は遠く岩場の向こうを見つめる。

「あっちに古いダンジョン跡があった。でも昼間は何の変化もなかったのに」

 困惑を浮かべる横顔に、緑色の瓶が渡される。


「一応、ポーション。酔いが覚める」

「ありがと」

 桜子はそれを受け取って一気に飲み干す。

「え、ちょっと待って。これえらく美味しいけど、いくらするの?」

 ぎょっとして桜子が薫を見る。

「価格は忘れた。節税対策で大量に購入したので」

「こわ、え?何それ、こわっ」

 桜子の表情が歪む。薫はしれっと遠くを見て誤魔化した。


 薫は収納魔法から装備を取り出す。薫子も首から下げているペンダントに装備を収納しているという。二人はその場で後ろ向きで着替えた。

「振り返ってもよくなったら声かけてください」

 薫が焦ったように言うので、桜子は少し笑った。本当にこの男は顔に似合わない紳士である。


「様子を見に行く」

 桜子が歩き出すのに、薫も従った。


 二人身体強化でかなりのスピードで岩場の向こうにあった洞窟を目指す。洞窟はすでに活性化しており、モンスターを吐き出し始めていた。

電撃魔法(ライトニング)

 薫が初級の電撃魔法を唱えると無数にいたモンスターの半数が黒焦げになった。桜子もスキルを発動する。

【流星剣】

 剣圧で広範囲のモンスターが吹き飛んだ。

 まだ活性化したばかりのダンジョンなので、モンスターの突出が少ないのが幸いだ。


 洞穴の入り口近くまで二人が歩み寄る。

「中に入りますか?」

 薫が尋ねる。桜子は少し首を傾げる。どうにも先ほどからチリチリと首元に嫌な気配がするのだ。

「そうだな、少し見てみるか」

 と足を踏み入れようとした瞬間、彼女が剣を抜き薫の斜め上を切りはらった。


「ははは、上手い上手い」

 小柄な影が方向を変えて岩場の上に着地する。

 薫はなすすべもなく、立ち尽くすだけだった。おそらく、狙われたのは自分だ。


「こんな凄腕の護衛が付いてるとは思わなかった。迂闊だったなぁ」

 ペロリと舌を出す少女。15、6歳だろうか。

「あんたを殺せば秋人が発狂すると思ったのに。ざーんねん」

 黒いゴスロリのような衣装を着た少女は悪びれることもなくそんな事を述べた。

 桜子が剣を正眼に構える。


「うわ、本気にならないでよ。あんたとやり合う気はないよ」

 少女はさらに二人から距離を取った。

「このダンジョンを活性化させたのはお前か」

 薫が静かに尋ねる。

「ん、そうだね」

 彼女は軽く答える。

「何故、そんなことを?」

 薫が眉を寄せた。

「何故って、面白そうだから?」

 ぞくりと薫の背筋が凍った。この少女が本気でそう言ってることが分かったからだ。


「あ、雷神の雷鎚(トールハンマー)撃つのはやめてヨね。こんなところでそんな大技撃ったらどんなことになるか見当もつかないから」

 少女はきひひと癇に障る笑い方をしたが、薫は戦慄する。彼の第四位の魔法の名前も威力も知っているようだ。


「お前は何者だ。何が目的だ」

 桜子の問いかけに、不意に彼女は今までのようなふざけた表情ではなく、本気の嬉しそうな笑顔を見せた。


「名前尋ねられるなんて最高!あたしの名前はアンカー・サマー。私たちの目的はこの地球をダンジョンと神獣様に返すこと」

「なんだ、その狂った目的は」

 桜子が叫びながら、剣圧を放つ。

「うわ、まじで遠距離も可能なのね。魔法師でもないのにとんでもないわ」

 くるくると宙で回転して距離を取る少女。それから、不意に背後を振り返った。


閃光剣(スラッシュ)

 詠唱と共に、白熱の焔が襲い掛かる。秋人だ。

「うぎゃーマジ勘弁。

【障壁展開】」

 少女の声と共に無数の魔法陣が浮かび上がり、秋人の剣を相殺した。


 駆け込んでくる秋人を見て少女は笑う。

「残念、時間切れか。センセイを殺すのはまたの機会に」

 少女はふわりと飛び上がり、駆け付けた秋人のすぐ目の前に降り立った。


 秋人もこの行動は読めなかったのか、少女に突っ込む形になった。

「秋人!」

 咄嗟に薫が叫ぶ。


 少女は秋人の体を抱き留め、そしてその唇を奪った。

「っ!!」

「それでは、勇者さま。ご機嫌よう」

 さらに追加でついばむような口づけの後、何もなかったように少女は飛びあがり、そのまま岩場を上手く使いながら、駆け抜けていった。


 秋人が咄嗟に膝を付く。

「毒消し!」

 桜子に言われるまま薫は収納から一番強い毒消しを取り出して、秋人に渡そうとしたが、咳き込む秋人の口から鮮血がしたたり落ちた。

「桜子さん、こっち使って!」

 薫がエリクサーを放り投げながら、身体強化を使って少女を追いかける。

「ちょ、これエリクサーじゃないか!」

 悲鳴が聞こえてきたが、薫は全力で走りながら魔力を溜める。



「はは、センセイが追いかけてきたのか。あの女だったらやばかったけど、そんなに死にたい?」

 少女がクルリと振り向くと同時に、薫が杖を構える。


雷神の雷鎚(トールハンマー) 改 16檄】

「は?」

 聞いたこともない詠唱に少女の顔が歪む。


 薫の背後に雷神の魔法陣。さらに、そこから16本の光が走った。

「えっ、ちょっと、待って」

 少女が慌てるも、薫は容赦しない。

「お前は許さん!よくも秋人のファーストキスを台無しにしやがったな!!」

「え?そこ??」

 少女が驚嘆する。(ちなみに遠くで聞いていた桜子も「そこ!?」と叫んでいた)


 薫が杖を振るうごとに雷撃が少女に向かって走る。何本かは避けたが、間髪入れず追いかけてくる閃光に少女は捕まった。

「ぎゃあっ」

 悲鳴が上がっても容赦しない。薫は少女が動けなくなるまで攻撃を止めなかった。


「ちょ、女の子にひどくね?」

 少女が半分焦げながらぼやく。

「甘いなぁ、殺さないの?」

 近寄ってくる薫に向かって少女は嗤った。

 しかし、薫は挑発には乗らなかった。


「俺は弁護士だから、誰かを裁く権利はない。お前の罪は司法にゆだねる。ただし、武装解除は探索者(シーカー)の仕事だな」

「ちっ」

 彼女は、もはや腕の一本も動かすことができない。

 薫が収納から縄のようなものを取り出した。これは、探索者(シーカー)を捕まえるための魔道具で、一時的に能力を封じることができるのだ。絶望が彼女に押し寄せてきて、彼女は低く呻いた。


「さっきのは、何?」

 少女が苦し紛れに尋ねる。薫はふんと鼻で笑った。

「俺は同じ過ちは繰り返さない男だ」


 コントロールが難しいのは出力が大きいからだ。

 だから、絞る必要があるのだが、あの最大火力を絞るのはやはり限界がある。そこで、薫が考えたのは小分けにすることだった。

 エネルギーとして貯えつつ、最適な大きさで数回にわけて攻撃するように改良した。

 分ける量によって、一撃の強さが変わる。今回は相手を殺すためではなく捕まえるためだったので、今の出力を選んだのだ。

 これで、コントロールと範囲の限定が大きく前進した。

 欠点は全弾撃ち尽くさないと暴発することである。一度やって秋人に珍しく怒られた。


「はは、固有魔法を改良って聞いたことない。センセイは相変わらず変態だね」

「ほっとけ、とにかく色々聞きたいことが…」

 薫が少女を捕まえる直前、不意にそれは起こった。

「え?」

 いきなり少女の額に赤い光線が当たったと同時に、1メートルほどの氷の槍が少女の頭を貫いた。

「なっ」

 薫は飛び退りながら、射線の方向を見る。遠く、少女よりさらに小柄な人影が見えた。


「あんなところから…」

 薫は防御魔法を展開するも、それ以上その人影は襲ってくることなく立ち去った。

「口封じか…」

 後味の悪い想いで薫は事切れた少女を見た。

 まだ未成年のように見える少女をこんなに簡単に殺すなんて。

「一体、何なんだ、こいつら」

 薫は少女の開いたままの目を閉じ、そっと手を合わせた。

桜子「秋人、薫さんはいつもこんな風にポーション代わりにエリクサー使ってるの?」

秋人「けほ、はい。薫はたぶんあんまり値段とか見てないです」

桜子「大丈夫なのか?その…金銭的に」

秋人「薫が言うには探索者の報酬はあぶく銭なので消える前提で使ってるらしいです」

桜子「一般人の金銭感覚はよくわからんな」

当夜「いや、あれは一般人の感覚じゃないっす」

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