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3S探索者の代理人  作者: かんだ
第一章 弁護士、代理人になる
9/28

9. 審議官

えっと…昨日初めて投稿されている形式で本文確かめて、タイトルが間違えていたことに気が付きました。

大失態です。正しくは「3S探索者の代理人」です。

「では、証人を」


 倉田が薫を呼ぶ。

 薫はふっと息を吐いた。練習したのだ。かなり。「大丈夫、できるよ!」って3S探索者が太鼓判を押してくれたのだ。できるはずである。


「神崎薫、殺人未遂の被害者で、狙われた事務所の所有者で、弁護士です。そして…」

 一呼吸、こちらも芝居っけたっぷりに薫は間を開ける。


「そして、探索者(シーカー)の審議官です」

 薫が証言台で宣告する。



 その単語に法廷がざわついた。半分はその単語の意味が分からなかった。しかし、半分の人々はその単語を知っていた。法曹界に身を置く者なら知らないでは済まされない単語だった。


「審議官…」

 藤堂の顔色が変わる。

 薫は藤堂の顔を見てにっこりとほほ笑んだ。嫌味なほど美しい笑顔だった。


「私は彼らに諮られ、ダンジョンの崖下に突き落とされました。幸い、本当に九死に一生を得るような幸運によって生きながらえましたが、ダンジョンで24時間以上過ごしました。おかげでダンジョンの恩恵をうけジョブを得ました」

 法廷は針が落ちる音すら聞こえるのではないかと言うほど静まり返っている。


「私が得たジョブは『審議官』。別名審判職、正義の番人、法と契約の守護者、そして…」

 右手を薫は軽く上げる。


審判の眼(ハイ・スコープ)

 呪文を唱えると彼の右手周辺の空気が歪む。そこへ何かの像が浮かび上がり、形を取っていく。


 ダンジョンの中で、男女が腕を組んでいる映像、顔に歪んだ笑みを浮かべた佐代子と城島の姿をはっきりと映し出された。


「ダンジョンの外でもその魔法は『証拠』として採用されます」


 映像の中で佐代子と城島は口汚く薫を罵り、聞くに堪えない暴言を吐き、頭を殴られて身動きできない薫を迷いなく崖下に投げ落とした。


 法廷に悲鳴が上がった。それくらいリアルで容赦ない映像だった。人がこれほどまでに醜い顔ができるのだと傍聴席に座った聴衆は息をのんだ。



「で、でたらめだ!」

 城島が喚く。

「こ、こんなの嘘だ、でっちあげだ!!」

 警官の静止を振り切って城島が映像を散らすように体を入れたが、薫はすっと腕をあげて映像を彼の手が届かない場所に移動させた。

 弁護士をやっている佐代子は、その映像がこの裁判にどう影響を与えるかよくわかっていた。


 この魔法は弁護士からしたら垂涎の的なのだ。

 何しろ、防犯カメラや録音などができなかった事象を再現できるのである。

 人や物、建物などの場所に関する「記憶」を再生する。それも確たる証拠として。

 映像として保存することも可能だった。


 そんな能力が欲しくない弁護士などいない。しかし、日本ではほぼこのジョブをもっている弁護士はいないし、世界でも大変獲得率の少ないジョブである。


 それはなぜか。


 危険だからである。


 ダンジョンに潜るのは命がけなのだ。24時間ダンジョンで過ごしてジョブを得るだけならまだ耐えられる。しかし、その魔法を得るためにはダンジョンにいるだけではだめで、少なくても10レベルは取らないと取得できないのだ。


 苦労して金をかけて法を学び、難しい試験を経て資格を得た弁護士は、そんな危険な目に合いたくないのである。

 確かにこの魔法は便利だが、持っている人が少ないのなら弁護士同志で不利益を被ることもない。故に取得率が非常に低いジョブなのである。



 映像の中では崖下に薫が消える。

 ここからは薫が見たことがない映像だ。


 審判の眼(ハイ・スコープ)は人の記憶や場所の記憶を映像化できる魔法だ。さっきまでは薫の記憶の映像だったが、ここからは佐代子の記憶の映像だ。


 城島と二人で悪事の成功を喜び、祝杯を挙げる映像

 薫の死亡届を出す準備を喜々として行う映像

 ビルの売値を確認する二人の醜悪な笑顔

 事務所に乗り込み、若手の弁護士やベテラン事務員を追い出す映像

 そして、事務所で不貞行為に耽る二人の怪しい雰囲気、服に手が伸び、それから…


「やめて」

 佐代子が叫ぶ。


「まあ、ここまでにしておきましょう」

 薫が右手を降ろすと、映像は掻き消えた。

 憎い相手でも女性である。こんな映像を不特定多数の人の目に晒すのは忍びなかった。


「き、君が審議官になったという証拠は…」

 藤堂弁護士が苦し紛れに薫に尋ねた。薫は懐から銀色のカードを取り出す。

「はい、ギルドカードです。どうぞお確かめください」

 薫は慇懃にカードを渡した。

 この為に、事務所を取り返した後、速攻探索者ギルドへ出向いてカードを発行してもらったのだ。


 もちろん、彼のジョブはしっかりと認定された。



「あ、それ、気を付けてくださいね。銀色なんで結構貴重なんですよ」

 にっこりと笑った薫に藤堂は何とも言えない表情を浮かべる。もちろん、ギルドで交付時に職員に教えてもらったのである。ちなみに金色だったらの件を聞いて青くなった。


 銀色はAランクの探索者(シーカー)のカードだ。指紋なんて付けたら探索者(シーカー)ファンが炎上することを藤堂は知っていた。ハンカチを出してカードを受け取る。


「どうして、いきなりこんな高ランクになったんだね」

 真剣にギルドカードを見つめていた藤堂のもっともな言葉に薫は微笑んだ。

「すごく運がよかっただけですよ」

 そんな言葉でざっくりとまとめてしまった。

 しかし、納得できない人はなお食い下がった。



「こんな映像が証拠になるわけないじゃないか」

 城島が叫ぶ。傍聴席に記者たちも慌ててあちこち検索している。

「審議官の魔法が正式に証拠採用されるのは、刑法第89条で定められている。」

 藤堂が苦々しく答える。


 これで、彼らの殺人未遂は確定だった。

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