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3S探索者の代理人  作者: かんだ
第六章 代理人、リゾートへ行く
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8. 酒盛り

「あー、神崎先生と霧崎さんは手伝い不要です」

 30分後、二人は部屋から追い出された。


「解せん」

 桜子が呟く。薫はうんうんと頷いた。

「手伝ってやろうって言ってるのに、追い出すなんてひどくないか」

「ええ、まったく」

 二人はぶつぶつ言いながら、フロント横の自販機に向かった。

 ガコンガコンと音を立ててビールの缶が落ちてくる。

「何缶飲みますか?」

 薫が尋ねると桜子は

「うーん、沢山」

 と答えた。薫は手に持てるだけでは飽き足らず、収納魔法に何缶か突っ込んだ。

「行きましょう」

「うん」

 とぼとぼと二人で歩いて、ホテルのプライベートビーチへ向かった。


「かんぱーい」

 薫と桜子の二人で缶ビールを開けて飲み始めた。

「ふふふ、お子様にはできない宴会をやってやる」

 桜子はやけくそである。

「みんな楽しそうにしてるのにズルい」

 子供のように唇を尖らせる。

「だいたい、あんな細かいものに色塗れとか無理だろう」

「そうだそうだー」

「線の内側を塗ればいいだけとか、線が切れてるからわからないだろ」

「そうだそうだー」

「少しはみ出したくらいであんな怒らなくてもいいじゃないか」

「そうだそうだー」

 というわけで、二人は役に立たなかったので、助っ人失格になったのである。


「霧崎さんも絵は苦手?」

「うん。神崎さんも?」

「俺は、母親の腹の中に絵心を忘れてきた男と言われている」

「私は、絵筆を持つのは冒涜だと言われている」

 二人、一瞬沈黙した後「かんぱーい」とやけくそのように缶を打ち合わせた。

「あと、霧崎さん、やめてね。昔男子から剣士が『きりさき』なんてダジャレみたいだなって言われ続けたから嫌なんだ」

 と桜子が言うと、薫は眉を寄せて

「男ってなんでそんなくだらないこと言うんでしょうね」

 と嘆く。

「それでは、俺のことも神崎ではなく薫と呼んでください」

 と缶ビールを掲げながら言い放った。

「それじゃ、桜子呼びと薫呼びにかんぱーい」

「かんぱーい」

 酔っ払いである。



「ビールって美味しい!気分いいー」

 どうやら、桜子は数缶でかなり酔っているらしい。

「あんまり飲んだことないの?」

 薫が尋ねると、桜子は苦笑を浮かべた。

「パーティーとか宴席でワインや日本酒なんかは飲むことあるけど、仕事だからね。楽しく飲むってことはあんまりないかな。薫さんは?」

「俺は夕飯時に1缶。休みの前の日は、秋人がおまけでもう1缶だしてくれた時は2缶」

 ふふふと笑う。

「アークのメンバーとは飲まないの?」

 薫が尋ねると、桜子はうーんと首を傾げた。

「そういえば、あんまり飲みはしないかなぁ。お店とかで飲むとどこで写真撮られるか分からないしね」

「人気商売は辛いね」

「えー、薫さんも同じSランクなのに」

 ぶつぶつと桜子がぼやく。

「俺の正業は弁護士なので」

「Sランク探索者(シーカー)が副業なんて聞いたことないわ」

 あははと桜子が笑った。



 足元の砂を蹴とばす。

「私、霧崎の跡取りから外されそうなんだ」

「え?」

 唐突な彼女の言葉に薫は聞き返す。


「弟が10歳になってね。この前ジョブが判明したんだけど、剣聖だって」

「それは…」

 剣聖は剣士より上位ジョブと言われている。


「弟は後妻さんとの子供で、まあよくある話。私は目の上のたんこぶだったわけだけど、この前の失態で廃嫡しやすくなったんだろうな」

 桜子は俯いているので、表情は薫からは見えなかった。

「失態とは?」

「モンスターになりかけた当主なんて見苦しいってさ」

 桜子の声が震える。

「もう嫁に行ってもいいぞだって。彼氏いない歴年齢の女によく言うよね、そういうこと」

 ずっと霧崎家の為に尽くしてきたのに、霧崎家のお偉方が彼女に対して冷たかった。

 彼らは結局のところ、自分たちの主人が女であることが煩わしかったのだろう。分かっていてもやるせなかった。


「康子たちは、霧崎家のやり方にかなりむかっ腹立てて、私を元気づけるためにここへ連れてきてくれたんだ」

「いい仲間だね」

「そうだろう」

 にこっと桜子は笑う。

「いい仲間だから、あんまり愚痴を言うのはね。みんな、怒っちゃうし。私はこんなの平気だよって顔をするんだけど、たぶんバレてるんだよなぁ」

 はーと桜子はため息を付いた。


「俺で良かったらいつでも愚痴を聞くよ。そういう仕事だし」

 薫の言葉が意外だったのか、桜子は少し目を丸くした。

「弁護士なんて、裁判で『意義あり』って叫ぶ仕事だと思われているだろうけど、9割以上事務所で人の愚痴を聞くのが仕事だからね」

 にこりと薫が笑った。


「それ、やめようよ」

 桜子が不意にぽつんと言った。

「薫さん、秋人と笑ってる時と他の人と全然顔違うから。私の時は無理に笑わなくていいよ」

「そう?」

 くすりと薫が苦笑を零す。

「今のはホンモノ」

 と桜子が告げると、薫は参ったと両手を挙げた。


「俺は剣のことはよくわからないけど、秋人が凄いのは知ってる」

 薫がポツリと話す言葉に、桜子は耳を傾ける。

「秋人は魔法も剣もどっちも気が狂ったように鍛錬したんだろうと思う。ご両親の仇を討つために、たったの10歳からずっと」

 桜子は黙ってビールを一口飲んだ。苦い味がする。

「だけど、この前秋人は凄く嬉しそうにあなたのことを話していた。あなたの鍛錬とその技術にとても感動してた。あなたを止めるために一人で出向いた時、秋人はおそらくあなたを殺さなくてはいけないことを覚悟していた。でも、あなたの努力の積み重ねとあなたの人柄を見て、どうしても殺したくなかったと。秋人は初めて、たぶんそう思った。俺はそのことにとても感謝してる」

 桜子は缶ビールをぎゅっと握った。


 まだ少し違和感のある右手。この指を断ち切った時、秋人は天が落ちてくるかと思うほどのショックを受けたらしい。彼が失敗らしい失敗をしたのは、あれが初めての事だった。それくらい、桜子の指を大事に大事に思ってくれたのだ。


「あなたは、あの『如月秋人』にそう思わせた人だ。もっと自信を持っていい」

「・・・・・っ」

「誰が要らないと言っても、あなたの仲間はあなたを必要と思ってる。俺も秋人もあなたの味方だ。それに、個人的に…」

 薫はポケットからスマホを取り出した。

「ずいぶん前から俺はあなたの大ファンです。」

 薫のスマホの待ち受けはうんと古い桜子の写真だった。初めて大きな仕事をやり遂げた時の写真。


「これ…」

「あなたが初めて征伐したダンジョンは、俺の家族を飲み込んだダンジョンが、再度ダンジョンブレイクを起こしたものでした」

 桜子は目の前の男の顔をじっと見つめる。


「家族の仇をとってくれてありがとう」

 彼は静かに、そしてこれ以上ないほど美しく微笑んだ。


 桜子の目から涙が零れ落ちた。ハラハラとそれは月明りを反射して、頬を伝い砂浜へ落ちていく。

 長い間の努力や鍛錬が報われるのはこういう時だった。

康子「それでこれはどういう読み物なの?」

華「えっと、その禁断の恋的な」

輝美「わあ、ヨナさんすごく上手ですね」

康子「そうなのよね。私たちの中で一番実は細かくて神経質なのこの子なのよね」

リサ「反対に大雑把で適当なんですよね、桜子」

ヨナ「あれ?久美は?」

康子・リサ「偵察」

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