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3S探索者の代理人  作者: かんだ
第六章 代理人、リゾートへ行く
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2. 再会

「秋人!」

 ロビーで手続きを待っていると、不意に背後から声が聞こえた。


「霧崎さん!!」

 振り返るとそこには、長身で抜群のプロポーションを誇る美女の集団が立っていた。

 アークエンジェルの全員が勢ぞろいである。


「こんにちは。久しぶり」

 にこりと桜子が笑う。

「はい。療養ですか?」

「まあ、そんなとこ。ここのところ忙しかったから、皆で少し休養しましょうってことになった」

 桜子はこっそりと秋人の耳にささやく。

「君のことを知っている人間は少ないから、どうせ休むならここを使ってくれって後藤さんに言われたんだ」

 秋人は苦笑を零した。後藤の苦労が偲ばれる。


「き、き、霧崎桜子!!」

 背後の部員が慄きざわめいている。

「う、すごい。アークエンジェル全員いる」

「き、如月君、知り合いなの?」

 部員全員が浮足立った。それくらい彼女たちは有名人だ。


「秋人君のお友達?」

 アークエンジェルのリーダー、康子が首を傾げる。

「今日は美術部の合宿です」

 秋人が答えると、アークの面々は実に複雑そうな顔をした。どうしても意識の中で『如月秋人』と『美術部』が繋がらなかったらしい。恐る恐るリサが尋ねる。

「秋人君が美術部員なの?」

「はい」

 にこりと笑って秋人が頷く。さらに困惑の空気が広がった。


「秋人は絵が上手いんですよ」

 不意にいつも一緒にいるはずのもう一人の声がして、桜子はあたりを見渡す。

 部員の背後から薫が人数分のカードキーをもってやってきた。


「お待たせ。全員二人部屋でとのことでしたのでそのように手配しましたが、本当に一人部屋じゃなくてもいいんですか?」

 薫の言葉に顧問は首をぶんぶん振った。

「いえ、こんな立派なところに泊めていただくのに、一人一部屋なんて贅沢言えませんよ。もともとの保養所は4人部屋ですし」

 顧問はそう言いながら薫からキーを受け取った。


「神崎さんもこちらに?」

 桜子が尋ねる。

「はい。手続きの関係で。残念ながら私は仕事です」

 おどけた顔でパソコンが入ったカバンを指さす。

「えー、遊べないんですかぁ。かわいそー」

 ヨナと久美が抗議するように声を上げる。薫は苦笑している。

「こら」

 康子が窘めてから

「それじゃあ、またあとで」

 と桜子たちもフロントに手続きしに行った。



「ふええええ。流石AおよびSランク探索者(シーカー)専用」

 部員たちがきゃいきゃいと騒いでいる。

「サインもらえばよかったぁ」

 と嘆いていると、部長が珍しく窘めた。

「今回は特別にお邪魔させてもらってるんだぞ。神崎さんのご迷惑になるような行動は慎むように」

 いつもはあまり堅いことは言わない男だが、必要な時はきちんと責任を果たすので、皆部長のことは尊重している。なので、彼が厳しいことを言う時は素直に従った。


「じゃあ、各自部屋に荷物置いたら、2時にロビーに集合。スケッチ道具忘れるなよ」

 顧問の掛け声に「はーい」と答えて、自分の部屋に散っていった。



 美術部の男子は部長と秋人だけなので、自然と二人は同じ部屋だ。

 何気に秋人は関係者以外と二人で過ごすのは初めてである。色々と当夜にレクチャーもしてもらったが、ぼろがでないように気を付けないと…と思っていた矢先のことだ。


「如月は荷物は神崎さんにもってきてもらったのか?」

 部屋に入ってから部長が尋ねる。どう見ても秋人の荷物の量が画材などを持ってこなければならない筈なのに、全然少ないのだ。

「あ、ああ。うん、そう。えへ」

 秋人は笑ってごまかした。ついうっかり収納魔法に入れてきてしまったのだ。

「困った奴だな」

 部長が苦笑で流してくれたので助かった。


 秋人は大荷物を持って歩くという経験がそもそもないので、まったく意識していなかった。

 これに関しては、薫は美術部の合宿にそもそもそんな大荷物が必要だということに気が付いていなかったし、当夜は先に送ったのだと思っていたから、二人ともスルーしてしまっていた。


 まさか収納魔法の使用自体がアウトだということに、秋人が気が付いていないなど流石に想像もしていなかった。


「・・・・ちょっと、薫のとこに取りに行ってきます」

 慌てて秋人は部屋を飛び出した。



「やばい、やばい、やばい」

 小声で呟きながら薫を探す。スマホで薫の部屋番号はもらっていたので、その方向へ走った。

「お、あっくんじゃん。どうしたの、急いで」

 途中で買い食いしていた当夜に会ったので、薫の部屋へ案内してもらう。


「そりゃあまた、大失態だな」

 事情を話すと、当夜は呆れ顔だ。

「だって、あんな大きな荷物持ち歩くと思わなかったんだ」

 秋人の常識は非常識である。

「みんな持ってただろ。」

「全然気にしてなかった」

 秋人はがっくりと項垂れた。そもそもソロ活動主体だった秋人にとって、両手を空けておくのは必須条件だったのだ。それが巷では不自然だとは思っていなかった。


「先生ー、秋人きたよー」

 当夜がノックもせずに部屋の扉を開ける。


 と、そこにはベッドの上で半分服を脱がされている薫と、上に乗っかている金髪の女という光景が繰り広げられていた。


「うわあああああ」

 慌てて当夜が秋人の目を手で押さえる。

「せんせー、流石に昼間っからそれはどうかとー、どうかとー」

 当夜が抗議するも、薫も必死である。

「ばか!違う!お前俺の護衛だろ、見て分からないのか!襲われてんだよ」

「えっ」

 当夜が答える前に秋人が飛び出した。


「薫を離せ!」

 しかし女は、薫の体を足で抑えながら飛びかかってきた秋人の手刀を避け、さらにその手首を掴んで投げ飛ばした。秋人は空中で一回転して壁に足を着くと、今度は慎重に方向を変える。

 薫を確保されている以上、下手な手は打てない。

 が、そこでようやくその場に秋人がいることに気が付いた薫が慌てて叫んだ。


「秋人!?ストップ!!ストップ!!!」

 女も叫ぶ。

「酷いよ、薫ちゃん。あたし、秋人君に殺されちゃうよ!!」

「いきなり襲ってきたあんたが悪いんだよ」

 薫が女を押しのけた。あっけなく女が薫の上から退いたので、秋人も少し冷静になった。

「襲ってないよー、あまりにもダサい服着てるから脱げって言ったんだよーーー」

 べそべそと女が泣いている。


「それより、なんで秋人がいるんだ。」

 服を着なおしながら薫が尋ねる。

「あれ?加賀谷さん?」

 秋人が瞬きして女を見た。

 以前にみた時とずいぶん雰囲気が違う。薫を押さえられて焦っていたので、気が付かなかったが知り合いだ。秋人があの『如月秋人』だということを知っている数少ない部外者である。


「そう、加賀谷凛子だよー。久しぶりだねー、背が伸びたねー、秋人くん。あれ?なんで秋人くんもそんなだっさい恰好してるの?あたしがあげた服は?」

 目が座っている。秋人は釘を飲んだような顔で押し黙った。


「ねー、ねー、薫ちゃん。秋人くんにもモデルやってもらってよー。バカ売れだよーーー」

「アホか。させるわけないだろ。」

「いいじゃーん。美少年は国の宝だよーーー」

「お前には今度凄腕の会計士を紹介してやる。絶対に気が合うはずだ」

 薫は眉間を抑えて呻いた。

ヨナ「美術部は想定外だったな」

康子「剣道部とか柔道部とかそういうのかと」

桜子「いや、それ危険だから。相手が」

薫「いや、ほんとに上手いんですよ!」

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