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3S探索者の代理人  作者: かんだ
第五章 代理人、副業の業界事情にキレる
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17. 剣に生き

「だから、言っただろ。怒ってないって」

 当夜が呟く。

「でも、あの…指はもう大丈夫ですか?」

 秋人の質問に桜子は右手中指を動かして見せる。

「うちの回復魔法師は優秀だからね。神経までもうくっついてる。三週間くらいリハビリしたら元に戻るから心配しないで」

 心配そうな顔で見つめる秋人を、桜子は眺めた。


「君が如月秋人なんだ」

「はい」

「いくつ?」

「15歳です」

 全員絶句である。

「え、いつから探索者(シーカー)なの?」

 リーダーが恐る恐る尋ねる。

「10歳?」

 秋人の答えに全員の顔色が変わった。


「違法、違法、違法!!!」

「ちょお、セクハラ保護者説明しろ」

「酷い!!」

 薫が地味にダメージを受けているのを見かねて、秋人が助け舟を出した。

「あの、ごめんなさい。薫は僕の為に必死だったんです。悪く言わないでください」

「や、秋人、あれは自分でもフォローできない。自業自得だよ」

 はははと薫が自虐的に笑う。


「まあ、ゆっくり説明をお聞きしましょう」

 桜子が鷹揚に頷いた。


「秋人はご両親が亡くなってから5年ほど、ギルドの一部職員による不正な搾取対象になってまして、その事は去年発覚しました。現在は私が保護者を務めています」

 薫が名刺を差し出す。

「弁護士?」

 お前が?という視線と共に、胡散臭げに桜子が目を細める。


「昨日の発言なのですが…私『審議官』というジョブも実はもっておりまして、一応探索者(シーカー)の端くれです」

「ああ、貴方がそうなのか」

 久々にSランクが出たと聞いていたが、これまでに名前を聞いたことがなかったのでぴんと来ていなかった。

「あの時、霧崎さんから指輪を切り離すために秋人は20秒必要だと言いました。それで、私の魔法を使うことにしました。固有魔法の第二位【審判の日(ジャッジメント)】は、質疑応答タイプの魔法ですが効果の副産物として対象を動きを止めることが可能なんです」

「なんだそれ、インチキくさ」

 ヨナが呟く。薫はふっと笑った。


「やってみましょうか?」

「え?」

審判の日(ジャッジメント)

 」

 薫の詠唱とともにアークのメンバーは桜子以外は皆身動きできなくなった。


「ヨナさん。お名前は吉田尚子さんが本名ですか?」

「はあ?ちげーよ」

ギルティ

 ヨナが赤くなって反論すると、薫の手元から緑の色の稲妻が走ってヨナの足元に着弾する。いつもより全然威力が弱いが、初めて見たメンバーには分からない。

「うえ」

 小さく火花を散らす雷に全員が棒を飲んだような顔をした。

「吉田尚子さんであってますか?」

「合ってます」

トゥルー

 ヨナが涙声で頷くと雷は稲妻が現れなかった。


「以上」

 ぱんと薫が手を叩くと途端に金縛りのように動けなかった体が動き出した。

「ちょっと!!」

 ヨナが怒ろうとしたところ、リーダーが止めた。

「あんたが悪い。」

「そうだよー、インチキ呼ばわりは魔法師には御法度だよ」

 魔法職二人に言われてヨナが「悪かったよ」と呟く。


「とまあ、この魔法を使って霧崎さんの動きを止めようとしたんですよ」

 ふうと薫がため息を付く。

「ところが、彼女と私では格が違いすぎました。普通は詠唱だけでほとんど動けなくなるんですけど、彼女を止めることが出来なかった。なので、質問をしなくてはいけなかったんです。それも、彼女が絶対に答えたくない質問を選ばなくてはならなくて。」

「すんなり答えられちゃったら動けるようになってしまうのですね」

 流石に魔法職だけあって康子は薫の意図に一番先に気が付いた。薫は頷く。


「それでですね、まあその仕事でハラスメント講習会に関わったばかりでして、その時に聞いたセクハラ発言の事例が脳裏をよぎりまして、咄嗟に()()()!って」

 薫は再度深々と頭を下げた。

「申し訳ありませんでした」

 桜子はあの時、霧が晴れたように脳天を直撃したとんでもない質問を思い出して苦笑した。

「理解しましたので、それについては不問にします」

 苦笑半分に桜子に言われ、薫は大きく息を吐いた。弁護士がセクハラで訴えられるなんて前代未聞だ。



「それとですね、重ね重ね申し訳ないのですが秋人のことは、できるだけ伏せていただけるとありがたいのです」

 薫がそう言うと桜子は首を傾げた。

「どうして秘密にしているのですか?」

「もともとの経緯は、ギルドの一部職員が秋人のご両親の遺産や、彼のダンジョンでの功績を横取りするための策略から始まったんです。彼らは、秋人が自分たち以外に会わないとギルドに報告していました。実際は彼が未成年だということと彼を搾取していることを隠すための小細工でしたが。」

 薫の言葉に全員が不愉快そうに眉を寄せた。


「連中はもう罰を受けているので、そこはご安心ください。しかし、秘密にしていたせいで、もう何というか『如月秋人』の虚像が大きくなりすぎてしまって」

 秋人は自分の事を説明されてるのが居心地が悪いのか、何度も椅子に座りなおしてもぞもぞしていた。


「今の秋人では背負いきれないと我々は判断しました。彼はまだ未成年で高校生です。学業もありますし、社会常識も身に着けているところなんです」

「なるほど」

「ですので、彼がせめて成人の18歳になるまでは、できるだけ伏せておこうというのが児童福祉局とギルドと私の出した結論になりました」

 『児童福祉局』という単語と『如月秋人』が結びつかなすぎる…とアークのメンバー全員が思った。


「今は?」

 桜子が秋人に尋ねた。

「今は幸せ?」

「はい」

 秋人は笑顔で答える。

「そう。ならよかった」

 桜子が笑った。


「あの時は酷いことを言ってごめんなさい」

「酷いこと?」

 秋人は首を傾げた。

「私を殺してくださいって頼んでしまった。悪かった」

「いえ」

 秋人は首を振った。あの言葉がなければ、秋人は自分の気持ちに気が付かなかっただろう。取り返しがつかないことにならずに本当に良かった。


「あの、もしよかったら、いつかまた僕と稽古していただけないでしょうか?」

 秋人がそう言うと、桜子は驚いたように目を見開いた。

「私でいいのか?」

「はい、怪我が治ったら是非」

 秋人は頷く。

「あなたは、亡くなった父以来、初めて僕より強いと思った剣士です。」

「っ!」

 その言葉がどれほど桜子を慰めたか、秋人は分からなかった。


 ずっと見えない『如月秋人』と比較され続けてきた桜子は、どこかでやはり割り切れない思いを抱えていたのだ。

「喜んで」

 桜子は涙を堪えるように俯き、大きく頷いた。

康子「しかしまさか15歳とはね」

ヨナ「流石に歳下だとは想像してなかったわあー」

桜子「あ、でもメチャクチャ強いよ。私のこと殺すつもりで来てたら、たぶん私負けてたと思う」

康子「…3人には取り敢えず謝礼金は」

一同「3本以上」


薫「…なんか寒気がした」

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