11.剣戟
すいません、間違って2話更新してます。もー何回やれば気が済むのか…
秋人はダンジョンを最速で駆け抜けていく。防御魔法を己に掛けながら、近寄るモンスターを切りはらっていく。最短で行かなくてはならなかった。何故なら薫が絶対に追ってくるからだ。
おそらく当夜に頼んで薫を縛り付けてどっかに監禁してもらうことはできただろうが、さすがにそれはしのびなかった。
「薫は絶対啖呵切って、ものすごい勢いで追いかけてくるだろうな」
クスリと笑いがこぼれた。
あの人は本当にどうしようもない。おそらく自分の為に命をかけてしまうだろう。
これ以上自分が手を汚さずに済むように、これ以上自分が傷つかずに済むように。
「別にそれは平気なんだけどな」
薫がいてくれるなら、そんなことはどうだって構わない筈だった。
でも、もしもそうなったら。
なぜか秋人は
薫の顔をもうまともに見れない気がした。
当夜と楽しく笑いあうこともできない気がした。
クラスメイトや、部活の先輩…美香にも会えない気がした。
なにより、もう絵筆を持てなくなるような…そんな気がした。
「頑張ろう」
秋人は最善を尽くして霧崎桜子を救う決意を固めるのだった。
最下層は岩がごつごつとした視界のよくない広間だった。
そこまでに倒したモンスターは人型が多かった。おそらくダンジョンボスはサイクロプスかそのあたりだったのだろう。しかし、広間の中心でじっと虚空を見つめて立っているのは人間の女性だった。
霧崎桜子である。
理性のない瞳をしている。髪が風もないのに吹き上げられゆらゆらと揺れていた。それは彼女の魔力が噴出しているからだ。おそろしく高い魔力が伺えた。
秋人は初めての強敵にゴクリと唾を飲み込んだ。
強いモンスターなら何度も戦ってきた。死ぬような目にも合ってきたが、今回の敵は今までのとは格が違った。
「こりゃあ、なかなかしんどい依頼だな」
秋人は小さく呟いた。
一歩、ボス部屋に足を踏み入れた途端、彼女が弾かれたように攻撃を仕掛けてきた。その剣を受けた秋人は戦慄した。あまりにも重く正確な一撃だったからだ。
霧崎桜子のジョブは剣士。純粋に剣技に特化した戦士だ。
秋人は魔法剣士だから系統としては同じだが、積み重ねてきた重みが違う。
彼女は名門霧崎家の跡取り娘で、幼いころから免許皆伝のスーパーエリート探索者だった。
探索者になってからすぐに頭角を現し、若手の中ではトップの実力を誇っていた。さらに、他の探索者がぐずぐずしているAとSの壁もなんなく打ち破った。もしも秋人の存在がなければ、彼女こそ当代一の探索者と言われていただろう。
しかし、本人は謙虚で真面目な努力家だった。一日も休まず剣を振り、鍛錬を欠かさない。秋人のことを意地悪く聞かれても、「いつもすばらしい活躍をしていらっしゃる。尊敬している」ときっぱりと返していた。
彼女が参加している女性だけのパーティー、アークエンジェルはリーダーこそ他のメンバーに譲っていたが、実際は彼女が中心のパーティーであり、その活躍は群を抜いていた。
秋人は今初めて自分の剣が相手に敵わないという事態に直面していた。今まで「負けそう」と思ったことはあっても、「負けた」と思ったことはなかった。
「ぐっ」
弾き返され、大きく地面を転がって相手の剣から逃れた。今の一撃を防げたのは秋人が自分に防御魔法を展開していたからに過ぎない。
秋人は魔法が使えるが、桜子は使えない。その分、豊富な魔力はスキルに全振りだ。
通常魔法剣士はどっちつかずで器用貧乏と言われてきた。しかし秋人は剣も魔法も努力を惜しまず、鍛錬してきたつもりだった。
しかし、こうして純粋な剣技の技量で初めて差をつけられている。
支配の指輪で底上げしているのは魔力や体力、筋力であって、彼女の剣技は純粋な彼女の努力の賜物だった。
同じ剣士だからこそ、秋人は桜子の鍛錬の量を察することが出来た。それは、凄まじいまでの積み重ねの果てに得られる結果だった。
「上等」
秋人はニヤリと唇の端を上げて笑った。
剣戟は何十合も続いた。
それは命ぎりぎりのやりとりだったが、秋人にとっては生まれて初めての真剣勝負だった。霧崎桜子は、秋人が父より上ではないかと思った初めての相手だった。
大きく打ち込んだ後、秋人が着地した地面が突如崩れた。ボス部屋の壁や床は二人の攻撃でボロボロになっていて足場が悪かったのだ。
「しまった!」
秋人が初めて見せた隙を彼女は見逃さなかった。
【流星剣】
人間味のない声がスキル発動を知らせる。桜子の第四位固有スキルが秋人に襲い掛かった。
秋人は吹き飛ばされ壁に激突し、一瞬呼吸が止まった。
しかし、前回と同じミスは冒さず頭部を中心で守ったため、気絶は免れた。
だが、今のスキルを防ぐために展開していた防御魔法は一気に崩れて霧散している。
慌てて体を起こすも、桜子は縮地法を使って至近距離で次の剣技を繰り出していた。
【斬雪剣】
秋人はある程度のダメージを覚悟して、双剣を構え防御の体制を取った。
しかし、攻撃は訪れなかった。彼女のスキルは突然消滅し、秋人の横に桜子は剣を突き立てて止まった。
恐る恐る秋人が桜子を見上げる。
「少年…」
桜子の唇が小さく動いた。
「いい腕だ」
苦しそうに、だが、にこりと笑う。額から汗が噴き出していた。彼女が今指輪の呪いに必死に抗っているのが見て取れた。震える唇が音を紡ぐ。
「私を殺してください」
瞬間、秋人は悟った。
自分にそれはできないと。
薫「車のキー、当夜に預けっぱなしじゃないかっ、クソ」
警備員「お客様、何か問題ですか?」
薫「タクシーアプリって、ああっ、電池切れてる。もう走るしかないか、俺の馬鹿」
警備員「春先過ぎても変なのいるよな」
すいません、すいません
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