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3S探索者の代理人  作者: かんだ
第五章 代理人、副業の業界事情にキレる
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9. 救出依頼

 薫はおおよその依頼の目途がついた。だからはっきりと軽蔑の視線を浮かべ後藤を睨みつけた。

「後藤さん、見損ないました。秋人、帰るよ」

 薫が踵を返す。


「あなたは残ってください」

 後藤に言われ薫は眉を寄せた。

「緊急招集です。Sランクのあなたは残ってください」

 後藤の言葉に薫は肩を竦めた。


「わかりました。当夜、秋人を家まで連れて帰って」

 薫の声は冷たい。当夜はヒリヒリとした空気に逆らえず、秋人の腕をそっと取ったが秋人は動かない。

「僕も残ります」

 秋人にもだいたいの依頼の目途は立っている。しかし、どうして薫がこんなに怒っているのかが分からない。

 この依頼は自分に頼まれるのが一番リスクが低い。ここにいる全員が知っている筈だ。


「だめだ、帰りなさい」

 薫は断固として秋人に帰宅を促す。

「だけど、薫。霧崎桜子さんを殺せるのは僕だけだ」

 秋人の言葉にしんと部屋中の空気が静まり返った。


 薫は目から怒りの焔でも噴出して殺さんばかりに後藤を睨みつけた。こんな言葉を秋人に言わせた男に対しての怒りで頭がおかしくなりそうだった。


「まだそうと決まったわけじゃない」

 言い訳にしか聞こえない言葉だと後藤は思った。彼らの好意を逆手にとっての卑怯な振る舞いだ。この依頼に見当がついた秋人が、けして断らないことを知っていて呼んだのだ。


 後藤の説明は簡潔だった。

 ゴールデンウィークに薫たちが見つけた支配の指輪についてはすぐに全探索者(シーカー)に通知された。詳しい見かけや不自然な宝箱のドロップなどについても共有された。探索者(シーカー)たちも自分がモンスターとしてダンジョンボスにされる指輪などというアイテムは恐ろしくて冗談ではなかった。あっと言う間に話題になり、周知されていった。

 しかし、霧崎桜子のパーティー、アークエンジェルだけは違った。彼女たちは女性ばかりの5人のパーティーなのだが、間の悪いことにその一報が入った時に電波の届かないかなり深層のダンジョンにトライしていた。


 そして、そこで例の宝箱を開けたらしい。

 彼女の異変に気が付いたパーティーリーダーが咄嗟に帰還魔法を発動させたので、桜子以外のメンバーは帰還することができた。そして、この恐ろしいニュースをギルドに報告できたという訳である。



「おそらく桜子が支配の指輪を装着している。ダンジョンは丸の内第一ダンジョン。最近進化したらしいということで、彼女たちが捜査にはいってくれていた」

 後藤の声が苦い。

「彼女がボスとし最下層64階にいるはずだ。指輪を破壊することができれば、呪縛から解放される可能性が高いらしい。そうすれば、桜子を助けることもできる」

 後藤はそう説明を締めくくった。


「へえ、それはまた。支配の指輪をくっつけて能力値の上がったSランクの探索者(シーカー)を殺さず止められるとか、どんな腕利きの探索者(シーカー)がいるんですか?アメリカあたりから借りるんですか?」

 薫の皮肉に後藤が押し黙る。


「そこにいるじゃん」

 春日猛が秋人を指さす。

「てめえ、ふざけてんのか。15歳に何させようってんだよ」

 薫がそう言うと、

「げ、未成年とかマジかよ」

 と猛が頭を抱えた。流石にそこまで年下だとは思っていなかった。


「でも、他に方法がないのよ。お兄さんには申し訳ないけど彼が挑んでくれたら助かるわ」

 金藤の言葉に薫が反論しようとするも、秋人が薫の袖を引いて止めた。


「薫、僕がこの依頼を受けないと薫も出なくちゃいけなくなる。そんなことになったら薫は死んじゃうよ」

「それは…」

 関係ないと続けようとしたが、秋人にとって重要なのはそこだけだ。


「この中で霧崎さんを殺さず止められるかもしれないのは僕だけ、殺してでも止められるかもしれないのも僕だけだ。」

「君は15歳だ。そんな狂った依頼を受ける必要はない!」

「薫は僕とずっと一緒にいてくれるって約束したよね?僕が霧崎さんを殺しても嫌いにならないでいてくれる?」


 情けないことに薫は涙を堪えるのが難しくなってきた。自分の力のなさを痛感する。自分がもっと強ければ、力があれば秋人にこんな依頼を受ける選択肢を与えなくて済むのに。

 彼のいう事は事実で、否定しようがなかった。


「俺はどんな結果になっても君を嫌うことはないよ。でもそれよりも、俺は君を行かせたくない」

 理性では秋人のいう事も、後藤のしていることが一面として正しいのも理解している。

 でも、感情が納得できない。悔しそうに顔を伏せる薫に向かって秋人は小さく笑った。


「なら、僕は大丈夫。この依頼は受ける」


 秋人の言葉に一番苦しんでいるのは薫ではなく後藤である。

「如月秋人くん」

 後藤が呼びかけた。秋人が振り返る。


「本当にすまない…私は君に緊急招集を…」

 最後まで言わせることなく、一瞬で後藤との距離を縮めた秋人は彼を手刀で昏倒させた。

「後藤さん、わざと契約違反するつもりだったね。びっくり」

 秋人の言葉に薫は苦虫を噛み潰したような顔をする。


 契約の門(カヴェナント)での約束通り、後藤が先程の招集を正式にかければ、彼はここで死んでいた。要するに後藤は命がけで今回の依頼を秋人に受けてもらうつもりだったのだ。


「あああああ、まじでムカつく。クソじじい」

 薫の声が部屋中に木霊した。

猛「巌の旦那、守護天使って…」

巌「気をつけろよ、一歩間違えると首が飛ぶぞ、法的に」

猛「なに、それ、こわ」


取り敢えず続けてみようかと思います

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