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3S探索者の代理人  作者: かんだ
第一章 弁護士、代理人になる
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6. 覚醒者とジョブ

 秋人がジェスチャーで薫に己の手を見ろと促す。薫の体はうっすらと緑色に輝いていた。


「これは?」

 すっと光が消える。

 それと同時に先程まで、もう立てないのではないかと思っていたはずの体に力が戻ってきた。痙攣していた足もしっかりと動く。


「神崎さんは、ダンジョンに入って24時間経ったので、何かジョブを得ています。そういう状態を我々は『覚醒した』と言います」

「俺も探索者(シーカー)になったってこと?」

「まあ、広い意味では」

「へーーーー」

 驚きである。

 薫は自分が探索者(シーカー)になるなど夢にも思っていなかった。



「外に出たらギルドの受付でカードをもらうと正式な探索者(シーカー)に登録されて、ランクが付きます。今は神崎さんは野良探索者でランクがありません。ジョブとレベルとスキルだけですね」

 ポーションを飲んで効果を十全に発揮するのは覚醒を済ませたものだけだ。

 その場合、体がほんのり魔力に反応して光るらしい。秋人の説明に薫は感心しきりである。



「おかしいと思っていたんです」

 秋人が言う。

「いくら根性があったとしても、ダンジョンの階層をいっきに32階も駆け上がるなど一般人には無理な話ですよ」

 実は秋人は薫がへばったら背負って駆け上がるつもりだった。そのくらいはどうってことない手間だったが、大人の男である薫にそれを言うのは微妙だった。ぎりぎりまで黙っておいた方がいいだろうと、秋人は判断していた。



「俺、何のジョブかな」

 ほんの少しだけ興奮気味に薫が言う。

 切羽詰まっているけど今は休憩中だ。どうせなら楽しんだ方が精神衛生上よいはずである。この切り替えの良さが薫の持ち味である。


「調べましょうか?」

 秋人が懐から薄い板状のものを取り出した。

 ギルドカードである。これには秋人の探索者(シーカー)としての情報が刻まれているが、別人が手にしてもある程度の判定が出るのだ。


「どうぞ、手を載せて」

 秋人の言葉に薫はつばを飲み込んだ。



 探索者(シーカー)に憧れない子供なんていない。


 幼いころは探索者(シーカー)ごっこに明け暮れ、テレビで見るダンジョン踏破の情報に心を躍らせたものだ。

 すごい魔法使いだったり、最強の戦士だったり、ヒーローになる夢を見ないものはいないだろう。


 いつしか現実の波にのまれそんな妄想は忘れてしまうけど。


 今、それが目の前にある。


 薫は震える手で秋人が差し出す金色のカードに手を添えた。

 ちなみにこのカードが金色なのは秋人がSランク以上の探索者(シーカー)だからだ。

 こんな汗まみれの手で無造作に触ったとなれば、他の探索者(シーカー)から袋叩きに合うような無礼な行為だったが、そんなことは薫は知らない。



 ジョブはダンジョンで24時間過ごすと得られるダンジョンの恩寵である。ジョブによって人類はモンスターと戦う力を得たと言ってもいい。


 魔法や特別な技能、戦闘能力、身体能力の向上など、得たジョブによって人はいろいろな能力を手に入れ戦う手段を得た。

 しかし、誰しもが戦うのに有利なジョブを得られるわけではない。

 ジョブは基本的にランダムに与えられる。料理人や仕立て屋、葬儀屋などというジョブもあった。

 探索者(シーカー)を目指すものにとって、有利なジョブを得られるかどうかは最初の試練なのだ。



 しかし、中にはランダムではなく、ある程度どんなジョブを得るか予測できる場合もある。

 それは、もともとの職業に特殊な技能や資格が必要な場合である。

 なぜかダンジョンはある程度その仕事に相応しいジョブを与える傾向にあった。


 たとえば、医師や看護師などは回復系のジョブを、獣医や畜産農家、飼育係などはテイマーのジョブを、名工とか職人は鍛冶師や魔道具師などの生産系のジョブを得ることが多かった。

 もちろん、その現象はアルバイトや少しかじった程度の職能ではまったく現れない。

 ダンジョンでのジョブが外での仕事から影響を受けるのは、あくまでも「達人」レベルまで己の能力を高めている人々だけの特権だった。



「これが俺のジョブか…」

 薫はカードの上に浮かんだ文字をなぞった。薫に与えられたジョブはかなり珍しいもので、日本で取得している人はほとんどいない。しかし、本人的には納得のものだった。

 秋人は、ジョブより薫のレベルに目を奪われていた。


「神崎さんはダンジョンに入るのは、本当に初めてですよね?」

「うん、そうだよ。」

 薫は頷く。頭の中でこのジョブを得たことでいろいろと変わった計画を練り直していたところだったので、秋人が何に驚いているのか気が付いていなかった。


「レベルが42になっています」

「え?」

 40超えれば達人だ。おそらくギルドからランクはAを与えられる。

「いや、ないないない」

 薫は大きく首を振った。ダンジョンに落ちてまだ24時間をいくらか過ぎたくらいだった。そんな素人がAランクなどあり得ない。


「たぶん…」

 おそらく、薫はまったくの何のダンジョンの恩恵も受けていない一般人、ゲーム風に言えば雑魚である段階で56階のボスを単独で征伐した。そのことで経験値などに大幅なボーナスがついたのだろうというのが秋人の考察だった。

 おまけにここまでに上がってくるのに秋人と臨時のパーティーを組んでいる。

 秋人が倒したモンスターの経験値は、すべて薫にも分配されていた。レベル87の秋人にとって通路にでてくる雑魚モンスターなど、経験値に何一つ影響がない塵芥田だが、薫にとっては違う。


「いや、でも俺何もしてないし」

 薫は秋人の後ろを必死でついていっただけだ。

「うん、でも神崎さんのジョブは後衛職だからね。パーティーの配置としては問題ないって判断されたんだと思うよ、ダンジョンに」

 秋人の言葉に薫は納得するしかない。

 ダンジョンの現象について専門家がそういうならばそうなんだとしか言えないではないか。

「これ、後衛職なんだ」

 薫が自分のジョブ名を指さして言う。秋人はすごくいい笑顔で頷いた。


「神崎さんにぴったりのジョブだね」

 そう嘯いたのだった。


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