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3S探索者の代理人  作者: かんだ
第四章 代理人、高校生と春を過ごす
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4. 尾行

すいません。本日間違えて2話アップしちゃってます。

1話前も更新しておりますので、読み飛ばされてたらすいませんヽ(;▽;)ノ

「それはデートだわね」

 姉にそう言われて、工藤美香は困惑した。


「いやいや、姉さん。相手は入ったばかりの1年生よ」

「でも、男の子なんでしょ」

「まあ、そうだけど」

 美香の中では、あの少年はそういう範疇ではなかった。確かに如月秋人君は顔はいい。雰囲気もある。しかし、そんなものはどうでもいいのだ。


「たぶん、あの子めっちゃ才能あると思う」

 美香は眼鏡を押し上げながら、姉に向かってそう言い切った。


 彼が初めて描いた油絵は、今美香の部屋に飾ってある。彼女がそれを気に入ったと言うと、あっさりとくれたのだ。

「全然絵の描き方とか習ったことないんだって」

 小さなキャンバスを見つめながら、美香は言った。

「あの子の才能を伸ばすのが、先輩の使命なの」

「男っけがないあんたに、ようやく春がきたのかと思ったのに」

 妹の言葉に、姉はやれやれと肩を竦めた。


 美香は自分の才能の限界を既に見切っている。

 美大にはいけるだろうけど、自分には、作品を世に出すことで食べていけるような才能はないと分かっていた。

 でも、あの美術を齧り始めた少年は違う。美香には確信があった。



 翌朝、美香は少し早めに家を出た。

 如月秋人という少年はどこか浮世離れした雰囲気のある子だった。もしかしたら待ち合わせ場所にたどり着けないかもしれない。新宿はダンジョンがいくつもあるし、電車の出口を間違えると厄介なのだ。

 彼が迷ったら迎えに行ってあげなくては…と彼女は思った。


 しかし、待ち合わせ場所に行くと、もう彼は到着していた。彼女は慌てて小走りに駆け寄った。待ち合わせは11時だったが、今はまだ10時30分だ。


「ご、ごめんなさい。時間を伝え間違えたかしら」

 美香の言葉に秋人はふるふると小さく首を振った。

「僕の保護者が女性を待たせてはダメだって」

 秋人の言葉に美香は苦笑をした。

「紳士なのね」

「うん」

 秋人は嬉しそうににっこりと笑った。彼女は何故かその笑顔から目を離せなくなった。


「い、行きましょう」

 無理やり視線を外す。

「まだ、画材屋さん空いてないから、どこかで少し時間潰す?」

「はい」

 秋人は素直に頷いた。



「で、なんで私は尾行なんてしないといけないのよ」

 加藤法律事務所の会計士、小山ミドリが耳につけた小型マイクに向かって囁く。帽子にサングラスにマスク姿で怪しい限りである。


『仕方ないだろう、俺や当夜じゃ魔力で秋人に速攻でバレるんだ』

 ミドリのイヤホンには薫のぼやき声が伝わった。骨伝導のイヤホンマイクは、魔力を使わない製品としては最高級品で、お値段は数十万円。

「これ、経費では落ちないわよ」

『分かってるよ』

 薫が舌打ちする。


「もう、なんだって私が推しのデートを監視しないといけないのさ」

『推し言うな』

「あ、なんかカフェに入っていく」

『画材屋がまだ開いてないんだろう』

「…慌てないか」

『ミドリ、時給払ってんだから真面目にやれ』

「探偵にでも頼みなさいよ」

『そこまでするような案件じゃない』

 ミドリはため息を付いた。

「過保護」

『分かってる』

 薫はため息を付く。


 秋人のことを信用していないわけではないのだが、学生同士のお出かけが同性同士なら、全然心配しなかった。当夜とも買い物に行ったりもしているし、その延長線だと思えば何も問題はない。


 だが、相手が異性となると話は変わる。

 秋人はおそらく本人はさっぱり気が付いてないが、絶対にもてる。

 友達がいないと本人は嘆いていたが、女子は牽制しあっているのだろうといのがミドリの見解だったし、薫もその意見には賛成だった。


 しかし、同級生を飛び越えて部活の先輩が先にくるとか…想定外である。

 実は、同級生の調査は既に終わっている。

 朽木家の方も気を使ってくれたようで、他家の探索者の血縁や、企業関連の人間ではないことは調査済みである。

 でも、部活の先輩までは想定外だった。


『変な勧誘や、怪しげな契約とか、相談事がなければいい。大丈夫だとは思うんだが、秋人は世間ずれしていないし、それに』

 薫は己の灰色の中学生と高校生時代を思い返す。

『変な女に絡まれても、秋人にはうまく遠ざけるテクニックはないからな』

「嗚呼、経験者は語るってやつか」


 ちなみに小山ミドリとは中学生からの付き合いだ。彼女は自分より年の若い男の子しか守備範囲ではないので、常に同級生の薫は恋愛の対象外である。


『俺はできれば秋人には気立てのいい、優しい、しっかりした嫁さんと幸せな家庭をもってほしいと思っている』

「キモい。お父さんか」

『普通に秋人は資産だけでも、金目当ての玉の輿狙いの女子とかに群がられても不思議じゃないからな』

 秋人の資産は国家予算並みである。


 もともと国家予算並みの資産を持っていた両親の相続分、本人が探索者(シーカー)になってから稼いだ分、ドロップ品の売買価格、この前のアメリカとの報酬など恐ろしい金額が並んでいる。おまけに税率もSランクなので、超低金利である。


『頼りにしてるよ、ミドリ』

 ミドリはちっと舌打ちをしてから通信を切った。



 秋人はテーブルに並べたデザートの山をせっせと口に運んでいる。

「如月くんは甘い物好きなのね」

「はい。一回に食べるのは3つまでって約束してるんで、3つだけ。こんな綺麗なところに来たの初めてなので、嬉しいです」

 にこりと彼は笑った。


 見たことないようなキラキラした装飾が施されたパフェ、色鮮やかなストロベリークレープ、フルーツどっさりのパンケーキがドンと秋人の前に置かれている。


 女子高生が大好きなオシャレカフェのメニューは、後藤と行くような喫茶店とは彩が違う。カラフルでかわいらしいデザインのデザートに秋人は感動していた。

 本当は5つくらい食べたい。


「先輩は一個だけでいいんですか?買い物に付き合ってもらうお礼にごちそうしなさいって、僕、保護者に言われてます」

 美香は秋人の言葉にクスリと笑いを零した。

「普通は1個だよ、如月君。あと、奢ってもらわなくてもいいよ。先輩だからね」

「そうなんですか?」

「うん、そう」

 楽しそうに美香が頷く。ほへーと秋人が気の抜けた返事をした。


「その…立ち入ったことなら答えなくていいんだけど、如月くんってもしかしてご両親いないの?」

 美香は先ほどから秋人が「保護者」という単語を使うのが気になったのだ。

「そうなんです。僕、両親は10歳の時にダンジョンで死んじゃってます」

 秋人は少し困ったように眉を下げた。


「ごめんなさい。無神経なこと聞いてしまったわ。…その…もしかして画材買う、予算がないようなら…」

 美香は己の迂闊さを呪った。

 轟学園は私学なので比較的裕福な子が多い。あまり周りに災害孤児がいない環境なのだが、まったく皆無なわけではない。奨学金制度だってしっかりしているし、災害孤児の入学があってもおかしくない。


「あ、大丈夫です。親の遺産とかありますし、お金沢山持ってるので、買い物はなんでもできます」

「そういうこと、ペラペラしゃべっちゃダメ」

 美香は頭を抱えた。これはダメだ。社会常識的警戒心がだいぶ抜けている。


「如月くん、もしかして…ちょっと普通じゃない育ち方してない?ちゃんと学校行ってた?」

「な、なんでわかるんですか?」

 ぎょとして秋人の大きな目が見開かれる。

「分からないわけないじゃない」

 心底驚いている秋人に、がっくりと肩を落とす。このまったく擦れてない感じ、怖すぎる。この容姿でこの警戒心の無さ。保護者は何をやってるんだと憤った。


「その保護者の方には今日はなんて言って出てきたの?」

「えっと、部活の先輩が買い物に付き合ってくれるって」

「その人、快く送り出してくれた?」

「うーんと、楽しんでおいでって。でも、たぶんすっごく心配して、あそこに友達を付けてくれてます」

 秋人はカフェの端っこで紅茶を飲んでいるミドリを指さした。

「へ?」

 美香が秋人が指さした方向を見ると、帽子、マスク、サングラスの恰好をした女性が

「ごふっ」

 と紅茶を吹き出していた。


「・・・・・・・・・」

 美香はミドリの様子を眺めて、秋人に視線を戻す。

「いい方なのね」

「はい」

 ニコリと秋人は笑った。薫のことをほめられると、自然と秋人の笑顔は深くなるのだった。

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