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3S探索者の代理人  作者: かんだ
第三章 代理人、海を渡る
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11. 拘束

 薫と秋人は陸軍のとある一室に監禁されていた。


 薫の宣言通り、弾は薫に向かって放たれたが、銃口から放たれた弾はパトリックに方向を変えた。

 彼は己の撃った弾に撃たれ瀕死の重傷となった。


 薫と秋人は、エヴァンスとパトリックを抱え、迷宮最下層から脱出した。迷宮核を引き抜くとダンジョンは閉鎖される。その場合、地上に出られる出口が最下層に現れるのだ。

 ダンジョンから迷宮核が持ち出されると、完全にダンジョンは消滅する。


 そして、ダンジョンから帰還した二人を待っていたのは、完全武装の一個小隊だった。

 薫は秋人と引き離されないのならという条件で、おとなしく彼らの指示に従い元の施設に連行された。


 監禁されている部屋は、一応ちゃんとした応接セットが置かれ、シャワーとトイレもある1部屋で、牢屋などではなかった。

 体裁は気にしているらしいと薫は「ふん」と鼻を鳴らす。

 薫には分からないが、部屋は結界で閉じ込められているらしい。アメリカ陸軍で一番ランクの高い探索者(シーカー)は、確か結界術が得意の魔法師だったはずだ。

 彼女なら秋人を閉じ込められると踏んだのだろう。


 その秋人は終始無言だ。

 よほど怖かったのだろうと薫は心配している。確かに、如月秋人は3Sランクの探索者(シーカー)で、Sランクのダンジョンを3つ平定した猛者だが、戦った相手はすべてモンスターだ。拳銃で殺されそうになるなんて経験は15歳の少年には重すぎる。


 薫はため息をついた。

 パトリックの正体には薄々気が付いていた。秋人に話しておくべきだった。

 しかし、秋人は存外嘘がつけない性格なのだ。パトリックが誰かの手先で、自分たちに危害を加える可能性があると先に話してしまうと、おそらく強く警戒してしまうだろうと思った。だから、話さなかった。


 できれば、自分たちの実力差に怖気づいて辞めてくれることを薫は願っていた。

 そうなれば、楽しい外国でのダンジョン探索の思い出だけが秋人に残る。それがいいなと思っていたのだが、パトリックの野望の内容まで頭が回ってなかった。


 五輪や各スポーツの世界選手権など、アスリートにとっての最高峰の舞台には、探索者(シーカー)は参加できない。するとしても重いハンデを背負った上に、記録は参考記録扱いで、メダルももらえない。

 目指してなったのではない探索者(シーカー)になってしまって、長年の努力を無に帰されたアスリートの無念を、薫は想定できなかった。


 おそらく、パトリックはあの時、死んだ方がマシだと思ったのだ。これ以上、実現しなかった夢を追い求めるのが苦しかったのだろう。

 だから、薫の言葉が真実だと分かっていても引き金を引いたのだ。己の人生に幕を下ろすために。


「秋人…」

 ソファで小さくなっている秋人に薫は声を掛けた。

「手伝って」

 薫の言葉に秋人は不安そうに顔を上げた。薫はニヤリと悪魔的な笑みを浮かべた。



 日本人たちを監禁している部屋を監視しているカメラは、急ごしらえだったことから1つしか設置できなかった。

 画面の中で二人はなにやら家具を移動し始めた。大きめのカウチソファやローチェストを移動する。どうやら西日が入るのを嫌がったようである。


「図太い奴だな」

 おそらく少年ではない方の提案だろう。少年は委縮して静かになっている。

「ま、いくら3Sランクの探索者(シーカー)とはいえ、ローティーンの子供だからな」

 と馬鹿にしたように監視の軍人は呟やいた。

 移動したカウチソファに寝転んでくつろぎだした薫に

「いいご身分だが、すぐ焦ることになるぜ」

 男は小さく笑った。



 監禁ライフが3日になろうとする頃、いい加減飽きてきた時に、部屋のドアがノックされた。

「失礼するよ」

 慇懃な態度で入ってきたのは、先日大失態を晒したトーマス・フランクリン中尉とその叔父、さらにその取り巻き連中だった。


 薫は収納魔法から出したビスケットをかじっていた。秋人はクッキーをちまちま食べている。食事も水も提供されないので、仕方なく二人は非常食を齧っていたのだ。


「おや、食事中だったかね」

 男は嫌な笑みを浮かべているが、薫はチラリと見ただけで無視を決め込んだ。


「貴様の魔法による攻撃で、わが国の軍人が2人も危篤状態なんだが、その態度はどうかと思うね。逮捕されている自覚はあるか?」

 トーマスの言葉に、薫はため息をついた。何度もやりとりしているが、一向に話が進まない。


「・・・・私が攻撃したわけではありません。きちんと証拠として映像もお見せしたし、契約上何の問題もない行為です。その上、放っておいてもよかったところを、わざわざ助けてやったんですから、そちらは平身低頭して謝罪の言葉を述べ、部下を救ってくれたことに感謝するべきでしょう」

 薫はすらすらと反撃の言葉を述べた。トーマスの癇に障ったようだった。

「自分の立場をよく考えろ。だいたい、当事者の出した映像など証拠にもならん」

「私は審議官です。私が魔法で提出する映像は国際裁判でも通じる立派な証拠ですよ。何なら国際探索者連盟に問い合わせてください」

「そんなもの通用するものか!このインチキ魔法師め」

 統合作成本部長が激高する。


「いいか、ここはアメリカだ。あんな私的な組織の勝手な法など守る義務はない。貴様は軍法会議に掛けられるのだ」

「いや、私は民間人なので、貴方がたの軍法裁判に掛けられる筋合いはないですよ」

 薫の答えをトーマス笑った。


「貴様は軍属になるのだ。刑を免れるにはそれしかない。そうしてアメリカ陸軍に身を粉にして仕えろ」

「ええええええ」

 薫は嫌そうに顔を顰めた。


 一体アメリカ陸軍の教育はどうなっているのだろう。帰還して以来会えていないジョージの事も気がかりだった。

 そもそも、国際探索者連盟についての暴言といい、自分たち日本人への差別発言といい、公の場で言ってはならない内容を、こうも当たり前に宣言するには、それなりの土壌が必要だった。


「そりゃ、アメリカの民間探索者(シーカー)が協力したくないわけだよな」

 こんな選民意識が軍服着ているような組織なんて、近づきたいわけがない。

 そもそも、他国の高ランク探索者(シーカー)に言いがかりをつけて、国家権力を笠に着て自分たちの国に引き入れようなどとしていることが分かれば、国際探索者連盟が黙っていない。

 訴えを起こせばすぐにも勧告体制に入るだろう。そうなれば、アメリカは終わりだ。そのことを思って、薫は顔を顰めた。

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