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3S探索者の代理人  作者: かんだ
第三章 代理人、海を渡る
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6. ダンジョン探索 1

 薫はすっかり冷え込んでしまった雰囲気に、肩を竦めてジョージに尋ねた。


「本日の探索はどうしますか?」

「予定通りに」

 ジョージが応える。薫は「大丈夫か?」と目で促したが、ジョージは首を振った。

「秋人は4月から高校生だろう?いきなり欠席させるわけにはいかないからな」

 ジョージの言葉にニコリと薫は笑った。

 その顔は「分かってるじゃないか」という顔なことはジョージは理解している。おそらく、ここで延期などと言おうものなら、契約違反としてさっさと帰国してしまうつもりだったのだろう。


「それで、案内役は?」

 薫が尋ねるとジョージは一人の細身の軍人を呼んだ。

「パトリック・オルソン准尉。工兵隊の隊長で探索者(シーカー)としてはCランクだ」

「よろしくお願いいたします」

 綺麗な姿勢で敬礼して見せた。


 薫と秋人はここで初めて見る敬礼に感心しきりである。

「おお、なんか軍人らしい人に初めて会ったな」

「うん」

 二人の言葉にジョージは苦笑いである。

「小柄な人で探索者(シーカー)をってことだったので、彼を推薦したんだが問題ないか?」

 ジョージの言葉に薫は秋人を見る。

「どう、いけそう?」

「うん。彼なら大丈夫。さっきのエヴァンス軍曹とかだとちょっとめんどくさいから」

「うん?」

 秋人の返事にジョージは首を傾げた。

「いざって時は秋人がオルソン准尉を背負って走るので」

 代わりに薫が応える。

「いや、私は軍人ですので、背負われるとか…そんな」

 オルソン准尉は不本意そうに訴えたが、薫は遠くを見る。

「うん、まあ…一緒に行けばわかるよ」

 薫の言葉に不穏なものを感じてジョージはオルソン准尉を見つめる。

「いけるか?」

「はっ」

 彼も不吉なものを感じつつ、命令に従うと決めた。すると、横から声がかかった。


「ちょと待った!俺も連れてってくれ!」

 エヴァンス軍曹である。

「いや、君さっきの秋人の言葉聞いてた?君は背負って走るの大変だから無理」

 薫がばっさり切り捨てたが彼は諦めない。

「や、俺は放っておいてくれていい。助けてほしいとか言わん」

「いや、だからって見殺しにはできないでしょ」

「自分のケツは自分で拭く。死んでも訴えない!ほら、あんたが証人だ」

 エヴァンスは薫を指さして言う。

「ううん…まあ確かに契約では我々が守る義務があるのは一人だからね。あなたは範囲外になるけどいいの?」

 薫の言葉にエヴァンスは大きく頷く。


 ジョージは勝手な事をするなと言いたいところだったが、この男に最高級の探索者(シーカー)の仕事を見せるのは、今後のアメリカ陸軍のダンジョン活動におおいに有効だと判断し、黙認することにした。


「お前、減俸だからな」

 しかし、勝手な行動はそれなりに処分しないと、軍の組織は成り立たない。ジョージの厳しい発言にエヴァンス軍曹は情けない声で「そんなぁ」とつぶやいていた。



 ニューヨーク・マンハッタン第5ダンジョンへは、エヴァンスの運転する車で向かった。

 二人が特に何の装備も用意していないことに、パトリックはハラハラしていたが、Aランクの探索者であるエヴァンスは気にしない。


「着いたぜ」

 街中にぽっかりと空く入り口。

 ここがニューヨーク・マンハッタン第5ダンジョンである。


 薫はフムフムと周りを見渡す。

「マンハッタンのど真ん中とか、まあよく今まで閉鎖しなかったもんだ」

「いや、東京は、ほとんどの区にもあるじゃないか」

 エヴァンスの言葉に薫は肩を竦める。


「大物を残してるのは銀座、渋谷、新宿くらいで、あとはほとんどDだよ。秋人!」

 薫が秋人に声をかけると秋人は大きく頷く。

「たぶん、B判定くらい」

「そっか」

 ダンジョンのレベルを図っていたらしい。

 雑談をしているのかと思っていたら、秋人の方が重要な役目をしていたようである。見逃したことに二人は青ざめた。


 今回の任務はもちろんダンジョンを閉鎖するのが目的だが、もう一つ重要な役目があった。

 それはSランクの探索者(シーカー)のやり方を学ぶことだ。


 現在、アメリカ国軍のはSランクの探索者(シーカー)がいない。

 何度かチャレンジはしているのだが、ギルドはガンとしてカードを更新しない。ランクの更新だけは探索者(シーカー)ギルドのアメリカ支部しかできないので、いやがらせなのではないかと軍では言われている。


 その事を車の中でエヴァンスが話したところ、薫はエヴァンスにカードを見せろと言った。そして、エヴァンスのギルドカードを見て一つため息をつく。


「ああ、これではそりゃあ、Sにはしてくれませんね」

 薫の言葉にエヴァンスもパトリックも驚いた。

「判定の基準が分かるのか?」

「簡単ですよ。ほら、ここに小さくレベルが書いてあるじゃないですか」

 ランクの下に小さく数字が刻まれている。その横には日付が一緒に記載されていた。


「これは、あなたが50レベルになったことと、その日付がかかれている。なんと3年前です」

「こんな小さな数字気が付いてなかった」

 エヴァンスの言葉に薫も秋人もあきれ顔だ。


「アメリカの軍隊は、ちゃんとギルドに教えを請うた方がいいと思いますよ。Sランクはレベルが51にならないと貰えません。3年以上更新されていないということは、エヴァンス軍曹はSになるには決定的に、何かが足りないとダンジョンに判断されているんです」

「ダンジョンに?」

 パトリックが思わず尋ねた。

「そう、ダンジョンに。レベルとジョブはダンジョンから与えられる恩恵です。そこには必ずメッセージがある。何を為すのか、何を目指すのか。あなた方はダンジョンに対する畏敬が足りない」

 薫の言葉に、二人は納得のいかない顔だった。


 しかし、おそらく二人はこれから知ることになる。ダンジョンの声に応えた探索者(シーカー)のすさまじさを。

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