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3S探索者の代理人  作者: かんだ
第三章 代理人、海を渡る
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1. ニューヨーク・ニューヨーク

第三章開始です。

感想とか評価とかリアクションとかめっちゃ励みになっております。がんばります!

 空港でスーツケースを受け取り、薫は大きく伸びをした。


「うーーーーん。よく寝た!憧れのファーストクラスだったのに、ひたすら寝てたな」

 薫の言葉に秋人は眉を下げた。

「ごめんね、薫。公判忙しかったんでしょ」


 4月の頭に3年続いていた裁判が結審する。その資料や手続きで薫がここ何日も忙しかったのを秋人は知っていた。

 その裁判は亡き師匠が最後に担当していたもので、薫が案件を引き受けたのだ。

 だから、薫にとってその公判が、とても思い入れのあるものだと秋人は知っている。それなのに、こんなところまで自分のためについてきてくれたのだ。


「いやいや、秋人のおかげで、こんなすっごい飛行機に乗って、ニューヨークまで無料で来れたんだから、俺はすごく得した気分だよ」

 薫は本気でそう思っている。

 ダンジョンが顕現するようになってから、海外旅行というものは酷くハードルが高くなったのだ。

 その為、お値段も天井知らず。海外旅行の料金は、ダンジョン前の価格とは0が1つ違うのである。


「俺の人生で海外旅行ができるなんて、思ってなかったよ。夢みたいだよ。ありがとう、秋人」

 薫の言葉を聞きながらも、秋人は浮かない顔をしていた。


「飛行機嫌いだった?」

「ううん」

「酔ったとか?」

「大丈夫」

 秋人は小さく首を振る。

 薫は不思議そうに首を傾げたが、何やら思いついたらしく、ショルダーバッグから取り出して見せた。


「これは?」

 秋人が今度は薫に尋ねる。新書より少し大きめの本だった。

「地域の歩き方っていうすごく有名な観光ガイドブックのアメリカ NY版」

 薫の言葉に秋人は「え?」という顔で彼の顔を見返した。


「秋人はどこに行きたい?マンハッタン?ソーホー?MOMAは絶対に行こうね。あとはミュージカルとかは好き?俺は歌とお芝居はばらばらにしてほしい派だけど、秋人はどう?」

「いや、薫…今回は観光じゃなくて…」

 秋人の言葉に薫は指をちっちっちっと振って見せた。 

「スケジュール通りにいけば、3日も余裕がある。少しくらい観光する時間はあるよ。せっかくここまで来たんだから、日本では見られないものを見て帰らないとね」

 いくらこの時代がバーチャルに長けているとはいえ、リアルを凌駕するには至っていないのだ。


「この世で一番の贅沢は『体験』だよ、秋人」

 薫はウィンクしてみせた。その顔が恐ろしいほど決まっている。周りの女性陣がざわざわしていた。



「ミスター・キサラギ?」

 二人がそんなやり取りをしていると、背後から声がかかった。

 振り返るとそこには長身の金髪美女が立っていた。

「ああ、良かった。少し遅れてしまったみたいで申し訳ありません」

 彼女は流暢な日本語で話しかける。そして、薫に向かって握手の手を差し出した。

「お初にお目にかかりますわ、ミスター・キサラギ」

 その差し出された手を薫は見つめ、そっと秋人の肩を押した。

「あー、こっちがミスター・キサラギね。私は彼の代理人の神崎です」

「えっ」

 金髪美女は思わず驚きの声を漏らし、

「え、でも、中学生って聞いて、あ、やっぱり情報ミスだったんだなって。え、こんな…小学生とは…」

 ごふっと薫は笑いをかみ殺しきれず咳き込み、小学生と言われた秋人は流石にショックを受けたようで、頭上に「ガーン」という文字が浮かんでいるような顔で女性を見上げていた。


「失礼、ミス?彼は4月から高校生ですよ」

「え、いやだ。失礼しました。」

 彼女は慌てて体制を立て直す。そして、愛想笑いを必死に取り繕って、改めて秋人に手を差し出した。


「ようこそ、アメリカ合衆国へ」

 秋人は差し出された手をそっと握った。

 瞬間、彼女に気づかれないレベルの魔力でスキャンを施す。彼女の情報を密かに抜いて、何食わぬ顔で秋人は手を離した。



「わたくし、アメリカ陸軍の軍曹でキャシー・グレンと申します。あなた方のアテンドを仰せつかっております。横田に5年在籍していたのと、祖母が日本人なので日本語は話せます」

 彼女の自己紹介に

「如月秋人です。探索者(シーカー)です」

「同じく、神崎薫、彼の代理人で探索者(シーカー)です」

 と二人が応える。彼女の部下らしき人が二人の荷物を運び始めた。


「あら、あなたも探索者(シーカー)なんですか?」

 どうやら、彼女は本当に案内役というだけで、あまり詳しくは知らないらしいと薫は思った。

 ある程度情報に詳しい者なら、秋人を招待するなら薫が付いてくるのは自然なことと判断するだろうから、薫のことも調査するはずである。

 当然、彼が審議官でありSランクの探索者(シーカー)であることは知られているはずだ。



 彼女の後ろをついていきながら、薫と秋人はこっそりと小声で会話していた。

「どうだった?」

「Bランクの真ん中くらい。たぶん、武闘系のジョブ、おそらく拳闘士。魔力はあまり多くない。仕込みの武器は3つ。制御リングは1つ。」

 ほとんど唇を動かさず秋人が話す情報は、さきほど秋人が彼女と握手した時に得たものだ。


 アメリカの探索者(シーカー)は日本と違い軍人の割合が高い。もちろん、日本と比べてというだけで、一般人の探索者(シーカー)の方が数は多いのだが。

 もともとダンジョン顕現時代に、先頭を切って制圧していたのが軍人だったことからそうなったのだった。

 ただ、この軍人系探索者(シーカー)と一般人系探索者(シーカー)の間には微妙な壁があり、一般人の探索者(シーカー)はギルドのアメリカ支部が管理し、ひいてはそのトップは国際探索者連盟だが、軍人系の探索者(シーカー)はアメリカ軍に所属しており、最高司令官はアメリカ合衆国大統領だ。


 その違いがたびたび火種となり、もめごとの元になる。

 今回、秋人たちが呼ばれたのも大きく見るとそれが原因だった。

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