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3S探索者の代理人  作者: かんだ
第二章 代理人、保護者になる
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6. 如月家

 相談事が片付いたので、再度お茶をもらいなおし雑談をしていた時のこと、薫は巌に尋ねた。


「巌さんは秋人くんのご両親と親交があったのではないかと後藤さんから聞いたのですが」

「後藤というと、後藤剛ですか?」

「はい、結局どうやらあのままギルドマスターに正式に就任するみたいですよ、後藤さん」

 薫の苦笑に巌も同じような表情を浮かべた。

「今のギルドのマスターをやろうなんて気骨のある職員はほとんどいないでしょうからねぇ」

 一馬もため息をつきながらお茶を一口含んだ。


 腹芸が苦手で曲がったことが大嫌いな元探索者(シーカー)である彼のことを信頼している探索者(シーカー)は多い。

 薫は苦労しているだろう後藤の顔を思い浮かべつつ尋ねた。

「そんなにギルドは荒れてますか」

「いやあ、荒れない方が嘘でしょう。坂田が結構あちこちで賄賂やら裏金工作していたみたいで、信用回復にてんてこ舞いですよ」

 そんな忙しい中、秋人に会うために時間をとってくれているのは、薫にとってもありがたい。

 何しろ、薫は探索者(シーカー)的なことには何の助言もしてやれないのだ。



「ああ、失礼。話が逸れましたね。秋人くんのご両親は私より若かったんですが、凄腕の探索者(シーカー)でね。変わり者でしたが」

「変わり者…ですか?」

「はい、ご両人とも名門出身などではなく、ごく一般人からの探索者(シーカー)ルートでして、おまけに訓練校も通ってなかったんですよ。しかし、あっというまにSランクになったくらい凄腕の探索者(シーカー)だったんですが、どういう経緯で探索者(シーカー)になったのかは聞いていないのです。」


 そもそもこの二人はあまりマスコミの前に出たがらなかったので、公式の記録が少ないのだ。積み上げられた征伐の記録だけが、二人を実在の人物と証明しているようなものである。


「二人ともダンジョンが大好きでしてね」

 ふうっとため息を就いて巌は回想に身を委ねた。

「暇さえあればダンジョンに潜っているタイプの探索者(シーカー)でした。旦那さんの方が武人タイプで凄腕の剣士、奥さんの方が魔法師タイプで結界術が得意な方でした。」

「珍しい取り合わせだったんですね」

 巌の話を興味津々に一馬も聞いていた。

 巌は思い出して苦笑を浮かべた。あの二人ほど息がぴったり、思考回路も一致しているカップルは見たことがなかった。


「何というか、良い人たちではあったんですが、社会常識的には若干微妙でして、ダンジョンの中に家を建てたり、畑を作ったり、ギルドの決めたルールから逸脱することも多かったので、後藤さんはもしかしたら結構苦労させられてたかもしれませんね」

「ダンジョンで暮らしてたんですか?」

 何とも言えない顔で薫が尋ねる。

「ええ、奥様が大変優秀な魔法師だったので、簡易結界を永続使用するとかのよく分からない術式を構築していましてね。常識外の収納魔法から2LDKくらいののコンテナを結界内に取り出して使ってましたよ。年中ダンジョンの中で生活している感じで、言い難いんですがおそらく秋人くんは10歳くらいまで、ほぼダンジョンで過ごしていたんではないかと思います」

 薫と一馬はともに「嘘だろ」という顔をしていた。


「あの二人の子供があの如月秋人だと判明した時に、私はやはりあの二人の言っていたことは正しかったのだと確信したのです」

 巌の言葉に薫は首を傾げた。

「彼らはダンジョンにいる時間が長ければ長いほど優れた探索者(シーカー)になる。探索者(シーカー)に有利な魔力や能力が伸びると言っていました。子供をダンジョンで育てていたのも、その実験に近かったのではないかと思います」

 思わぬ言葉に薫の眉が跳ね上がった。


「もちろん、二人がお子さんを可愛がっていたことは知っています。よく自慢もされたし、二人が本当に危険なダンジョンに向かうときは、ちゃんと地上に戻してシッターなどに預けていたことも知っているのですが、同時にあの二人はお子さんの事を話すときにいつも『この子は自分たちより若い頃からダンジョンに馴染んでいるから、きっとすごい探索者(シーカー)になる』と自慢していたのも事実です。」

「・・・・・・・・」

 巌は困った顔で囁いた。

「倫理観が狂っているというのは、そういう所です。社会的にアウトな境界線が彼らは少し緩かった。だからといって、その考えを誰かに強要したりはしてなかったですし、何というか、まったくの他人同士でどうやってあんな風に考えられる者同士でくっついたのかが永遠に謎なんですがね」

 巌の言葉に薫も一馬も何とも言えない顔になった。



 その話の内容を聞いて薫は少し迷ったが、以前から巌に頼もうかと思っていた件を話すことにした。

「その…秋人はですね、ご両親の顔を覚えていないらしいんです」

 薫の言葉に巌も一馬も驚きの表情を浮かべた。昔の事とはいえ5年前のことだ。そこまで忘れてしまうものではないだろうと思うのは当然だ。


「ご両親と死別した最後の体験が、おそらくショックで色々と忘れてしまったのだろうというのが、カウンセラーの見解です。」

 薫は顔を伏せる。痛ましい内容に朽木親子は眉を寄せた。

「そして、彼は忘れてしまったことに対してひどく罪悪感をもっているようです」

 朽木家の親子は黙って聞いている。

「それで、今度秋人と会う席を設けますので、ご両親の話をしてあげてもらえませんか?できれば、写真なんかがあれば尚いいんですが…」

「会わせていただけるんですか!?」

 親子の食いつきが激しくて、薫は苦笑する。


「はい、何しろ一番最初にギルドに秋人のことを調べるように頼んだのは一馬さんなんでね」

 一馬は薫の発言に苦い顔をする。一応、そういうことになっているが、それは大嘘なのだが。根がまっすぐ真面目な朽木の人間には苦しい立場である。


 もちろん、心情的に受け入れがたいとはいえ、その立場を放棄するつもりはない。

 これは秋人を守るための嘘であり、それが償いの一環だと言われれば受け入れることは、一馬にとっては当たり前のことだった。

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