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3S探索者の代理人  作者: かんだ
第八章 代理人、文化祭へ行く
124/128

5. 文化祭 土曜日 10:00

 秋人は朝から大忙しである。

 早朝は美術室の準備だった。ついうっかり大きな石膏像を動かすのに、人手を呼ぶのがめんどくさくなってこっそり一人で動かしているところを美香に見られて怒られたりした。


 美術室がある程度できたら、今度はクラスの方だ。

 秋人が教室に到着すると、智輝が「遅い!」と怒り出す。

「そんな事言っても、僕はもともとあっちが本番なんだけど」

 ぶつぶつ言いながら、秋人が幽霊の衣装に着替える。


「今日は神崎さんはくるのか?」

 智輝が聞くと秋人はにこりと笑った。

「うん。午前中はお化け屋敷の方にいるって言っといたから。あ、でも…」

「ん?」

「友達と一緒にくるかも」

 流石の秋人もアークエンジェルの霧崎桜子と同居していて、彼女を薫が連れてくるかもということは、おおっぴらに言ってはならないことくらいは理解していた。


「そっか。じゃあ、きたらサクッと中に通すわ。絶対騒ぎになるから」

「…そうだね」

 美術部先輩たちの黄色い悲鳴を思い出した秋人だった。



「先生、俺は駐車場に車入れてくるんで先に行っててください」

 当夜は車を校門前に停止しながらそう薫と桜子に言った。

「ここで待ってるぞ」

 校内の駐車場は予約制だったが今回急遽車を使うことにしたので使用できなかった。民間の駐車場を探すしかない。


 校門前で待ってるとの薫の返事に、当夜は難色を示した。

「いや、秋人の出番は午前中でしょ。先に行ってください。俺は明日でも見れますし。」

 との当夜の言葉ももっともなので薫は頷く。当夜はさらに桜子に言った。

「桜子さん、すいません。こんな事頼むのおそれおおいんですが、俺が戻ってくるまで先生の護衛お願いできますか?」

「ああ、勿論。私の所為で余計な手間をかけさせてるんだから、当然だよ」

「Sランクの探索者(シーカー)に護衛されるとか、先生一生の思い出っすね」

「まあな」

 にっこりと笑う当夜に薫は苦笑した。男子として女性に護衛されるというのはどうなのかと思う気持ちは多少はあるが、明らかにこの中で戦闘力が一番低いのが自分なので、否やはなかった。


 当夜は心の中で

「計画どおり!!(ニヤリ)」

 とほくそ笑んでいた。これで二人は校内でも別行動することはないだろう。後は当夜はできるだけゆっくり駐車場を探して、昼くらいまで二人でデートさせれば完璧だった。


「康子さん、ミッションコンプリートっす」

 車を発進させながら、当夜はうんうんと頷いた。

 実は康子に二人の仲を取り持ってほしいと頼まれている。当夜もこの組み合わせは悪くないと思っていたので、協力体制を取っているのだ。


「俺、先生にはしっかりしてて、優しくて、気立てのいい嫁さんもらってほしいっす」

 薫は朽木家の大恩人だ。おそらく、巌や一馬、聖夜だって大賛成だろう。今まで薫の女運は最悪だったが、桜子が恋人になれば一発逆転だと当夜は思った。



 秋人のクラスは一年B組。東校舎の2階である。

 薫と桜子は校内案内図を見て歩き出した。薫はともかく桜子にとっては見るのも聞くのも初めてのものばかりだった。にぎやかな模擬店も、手作りの出し物も物語の中でしか知らないものだった。


「おお」

 と感嘆の声を上げながら歩いている。あちこちきょろきょろしているので危なっかしい。

「桜子さん、危ないですよ。こっち」

 薫が手を差し伸べる。彼にはたいした意図がない行為だったが、桜子は思わずその手をまじまじで見つめてしまった。


「あ、いや、その変な意図はなくてですね、迷子になりそうだったから」

 薫もはたとその行為が「手をつなごう」という意味合いに見えることに気が付いて慌てた。桜子はクスリと笑ってその手を取った。

「ありがとう。確かに迷子になったらあなたの護衛を任されているのに申し訳が立たないな」

 桜子の言葉に薫は苦笑を浮かべた。



「ここかな」

 東校舎の2階の階段を登るとそこは怒号と悲鳴で溢れていた。


「行列こっち最後尾です!並んでください!!」

「チケットこちらで購入してください!」

 叫び声に薫は首を傾げる。

「模擬店じゃないよな。チケット買わないと入れないのか?」

 様子を見ようと行列から飛び出して伸び上がった。長身の薫はその向こうで奮闘している智輝に気が付いた。


「智輝くん!」

「あ!神崎さん!地獄で仏だ!丁度よかった!!こっち来てください!!」

 智輝の言葉に首を傾げながら薫は桜子を伴って列の先頭に向かう。

 順番抜かしをする二人に殺気のこもった視線が突き刺さった。


「すいません。サングラス外してもらっていいですか?」

 サングラスは当夜が絶対つけていけと言うから掛けていただけなので、智輝に言われるまま薫がサングラスを外す。

 殺気が一瞬で収まった。それまでの喧騒が嘘のように廊下は静まり返った。


「こちらは、如月秋人くんの保護者の神崎さんです。身内なので身内レーンに通します!」

 宣言して智輝が片方のドアを指さす。ドアには大きく「身内」とマジックで書かれた紙が貼ってあった。


「すいません。助かりました」

「??」

 訳のわからないまま薫は言われたとおりにドアを潜った。


「今の何?」

 クラスメイトがぽかんと口を開けながら呟く。夢か幻かと目を擦った。

「秋人の保護者。すさまじい美形だろ」

「あの殺気立ってた行列が魂抜かれてるじゃん」

「あれは抜かれる。気持ち分かるわあ」

 列整理に必死だったクラスメイトは薫のありがたい効能を拝むのだった。

秋人「この石膏像動かすのか。面倒だしババっとやっちゎうか」

美香「ひっ、如月君!何やってるの」

秋人「あ、その…てへ」

美香「笑って誤魔化さない!もうっ」

秋人「怒られちゃった///」

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