表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3S探索者の代理人  作者: かんだ
第八章 代理人、文化祭へ行く
121/128

2. メグミ

 キー局の楽屋で、桜子は鏡の前で説教を食らっていた。康子が鬼の形相で桜子の横に立っている。それをメンバーが遠巻きに見ていた。


「それで、衣装を縫い直したと」

「そう」

「それで徹夜で目の下に隈がこんなに?」

 ため息を付きながらアークエンジェルの契約スタイリストのメグミがため息を付く。

「だって!」

「はいはい。少し冷やすからじっとしてて」

 メグミの言葉に桜子は閉口する。

 徹夜するつもりじゃなかったのだがつい意地になってしまったのだ。それでも出来は上々だったし、渡した時の三人の尊敬の眼差しは桜子を大いに満足させた。



 メグミは掌か冷気を出して桜子の目の周りに当てた。彼女はあまり魔力が多くなかったので探索者(シーカー)としては大成できなかったが、桜子たちのような女性探索者(シーカー)の事情をよく分かってくれる得難い存在だった。

 女性特有の身体的な悩みや、男性からのやっかみや嫉妬、ライバルからの謂われない悪意など上げればキリがないが数々のトラブルに適切な助言をくれ、アークエンジェルが人気集団になるために色々尽くしてくれた、なくてはならない存在だ。

 形としては外部スタッフだが、メンバーの気持ちは今でもパーティーメンバーである。


「はい、もういいわよ」

「ありがとう」

 桜子は礼を言いながら、いそいそとランチボックスを取り出した。収録までの短い時間で皆がお昼を済ませていた。残るは桜子だけだ。


「何それ」

 リサが尋ねる。

「お、お弁当」

 桜子の答えにアークのメンバーが何事かと寄ってきた。

「ちょ、あんた徹夜で着物直してさらに弁当まで作ったの?」

「いや、違うくて」

 ヨナの疑問に桜子は口ごもった。

「ああ、神崎先生かぁ」

 弁当をチラリと見た康子の言葉に、全員がぎょっとしてその弁当を見た。


 彩よく詰められたハンバーグと人参のグラッセ、ホウレンソウとベーコンのバター炒めとフライドポテト、だし巻き卵、ご飯はおにぎりになっていて2つとも味が違う。

 まさに「できる女のお弁当」と言わんばかりのラインナップだ。


「桜子、あんたいつ嫁もらったのさ?」

「いや、嫁じゃないし」

「出し巻美味しそう、いいなぁ」

「あげない」

 ヨナと久美の言葉を無視して桜子は弁当を死守する。康子がジト目で桜子を見ているのに気が付いて、桜子は目を反らした。


「秋人が学校に持っていくお弁当見て、「美味しそう」って言ったら次の日から一緒に作ってくれるようになったんだ。3つ作るのも4つ作るのも変わらないからって」

「え?今日だけじゃないの?」

 アークのメンバーは毎日一緒に過ごすわけではないので、メンバーが桜子のお弁当を見るのは今日が初めてだった。


「あんた、食費出してる?」

 康子がため息を付く。薫がここまでしてくれるとは正直想定外だ。そこまで世話をかける予定ではなかった。


「出すって言ったんだけど、報酬は前渡しでもらってるからって受け取ってもらえないんだ」

 桜子だって料理を自分で作ることもあるので、弁当が3つと4つでそんなに変わらないなんてことはないのは分かっている。

 さらには、夕飯も急に自分が遅くなった時でも、ちゃんとラップして置いてくれてるし、着替えに自室に戻っている間に秋人か薫が気が付いたら温めてくれていたりする。

 そして、その後桜子が食事を終えるまで、一緒にテーブルでお茶を飲んだりして、ぽつんと一人で食べなくてもいいようにしてくれるのだ。


「ふんだりけったりってやつだな」

「至れり尽くせりね」

 ヨナの言葉を康子が訂正する。

「なんとか食費だけでも受け取ってもらえないかなぁ」

 桜子だって無報酬でここまでしてもらうのは心苦しいのだ。たとえ薫本人が料理が趣味だとしても。



 素早く桜子以外のメンバーが視線を交わす。

「それじゃあ、今度お礼にってどこかに食事にでも誘ったら?」

「え?」

 康子の言葉に桜子はぎょっとした。

「いや、無理無理。そんな高等テクニック私にはないよ」

「毎朝のお弁当のお礼に、今度のお休みに夕飯をご馳走させてくださいって言えばいいだけよ」

 リサの当たりまえといわんばかりの言葉に桜子は頭を抱えた。

「簡単に言わないでよ」

 と言いつつお弁当は完食である。

「美味しかった。ご馳走様」

 手を合わせる礼儀正しさにメグミが苦笑する。


「桜子にそんなマメな彼氏がいたとは知らなかったわ」

「彼氏じゃないです。同居人ですー」

「すんごいイケメンだよ。見たら目が潰れるレベル」

 ヨナの言葉にメグミは興味津々だ。皆で見せろ見せろとはやし立てられ渋々桜子が出したスマホの待ち受けは確かに恐ろしい美形だった。


「モデルさんでもこのレベルはなかなかいないよ」

 メグミが感嘆の声を上げる。

「本職は弁護士さん」

「この顔で?」

「この顔で」

 康子の言葉にメグミは思わず小さく呻いた。人気スタイリストとしてあちこちの現場に赴くが、ここまでの美形にはなかなかお目にかかれない。


 そんな事を話しているうちにADがやってきた。今日はアークエンジェルは全員でテレビに出るのだ。

「アークエンジェルさんたち、出番です」

「はい」

 5人が楽屋を去るとぽつんとメグミだけが取り残された。彼女は一つ大きくため息を付いた。


 メグミも昔は彼女たちと一緒にダンジョンに潜っていたのだが、いつのまにか追いつけなくなった。彼女のジョブは魔法剣士だったが、いかんせん魔力が伸び悩んだ。たまにそんな風に魔力回路が貧弱で成長しない者もいるのだ。


 アークの皆はそれでも一緒に行こうと言ってくれたが、ある日彼女のミスでヨナが片手を失う大怪我をした。もちろんリサが治したが、その頃は彼女もレベルが低かったこともあってヨナはなかなか復帰できなかった。毎晩痛みに苦しむヨナを見続けていたメグミの方が先に心が折れた。


「辞めたい」

 と言ったのは自分からだった。すっかりダンジョンに潜ることが怖くなったのだ。

 自分が怪我をするのはいいのだ。でもまたメンバーを傷つけるかもしれないと思うとダメだった。そこから、好きだったファッションの世界で修行して彼女たちの人気に一役買うようになった。その事は、今でも間違っていなかったと思っている。


 でも心のどこかが軋むように痛むのも事実だった。

桜子「ほら、出来たわよ」

秋人「わあ、凄い!桜子さん上手ーー」

当夜「マジで長くなってる。あ、袖も」

薫「凄いですね、売ってるやつみたいだ」

桜子「ほほほほほ」

秋人、当夜、薫「(機嫌なおって良かった)」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ