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3S探索者の代理人  作者: かんだ
第八章 代理人、文化祭へ行く
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1. 針と糸

第八章始まります。秋人くんの波瀾万丈スクールライフ編

 桜子が仕事から帰ってくると、神崎家の居間で男3人が難しい顔で唸っていた。

「ただいま。どうしたの?」

 桜子が尋ねると、薫は両手を挙げた。

「実はちょっと困った事態になって…」

 薫の言葉に、秋人も当夜もうんうんと頷いた。

「?」


 桜子が三人が囲っているローテーブルを見ると、そこには一枚の白い着物が畳まれていた。

「これがどうかしたの?」

 彼女の問いかけに秋人が深いため息を付く。

「文化祭の衣装なんだけど、丈が足りないんだ」

 秋人の説明はこうだ。


 文化祭の出し物を決める学級会ではいくつか案が出たが、多数決でお化け屋敷に決まった。

 女装カフェとか執事カフェなどの案も出たが、一年生は模擬店の出店は抽選なので準備不足に陥る傾向が多いため却下された。(秋人は知らなかったが、カフェ案は秋人の人気を集客につなげようという守銭奴学級委員長の魂胆だったのだが、ライバルを増やしたくないクラス女子の大反対で否決されたのだ)


「それで、僕は美術部の方の出し物もあるから、あまり長時間はクラスの方へは出られないんだけど…」

 文化部所属の生徒はクラブを優先するという暗黙のルールがある。

 秋人は美術部の方でも集客に使う気満々で部長がそろばんをはじいているので、結構忙しい。

 初日の午前と二日目昼からの2時間が、秋人がクラスの出し物に参加できる時間である。


 秋人はそれくらいの時間しかいられないなら店番か裏方くらいかなと思ったのだが、彼はじゃんけんで負け続けた。恐ろしいことに全敗した。智輝が大笑いするくらいの負けっぷりだった。秋人もまさか自分がこれほどじゃんけんが弱いとは思っていなかった。


「それで、幽霊の役目が当たっちゃったんだよ」

 秋人がため息交じりに言う。

 もちろん秋人は美術部の方がある。ずっとクラスの出し物にはいられないということは最初に話していたのだが、そこは慣例通りで構わないという事だった。学級委員長は何が何でも出し物に秋人を使いたいのだ。


「それで、僕が担当する幽霊のパートは女子生徒と入れ替わりになったんだ」

 秋人はそれで全部が決まったと思ったのだが、その後思わぬ弊害がでた。幽霊の衣装が女子のサイズで2着用意されてしまったのだ。


 1年前の秋人ならそれでも何とかなったかもしれないが、中学からこちら15センチ以上身長が伸びている。秋人が着ると、その白い死装束はつんつるてんである。

「試しに着てみたら、なんか子供みたいで…」

 秋人が閉口したのは、本当に運の悪いことに試着しているところを、たまたま美香に見られて「可愛い」と言われたことだ。

 秋人的にはその単語だけは避けてほしかったやつだ。笑顔が固まっている秋人を智輝が気の毒そうに見つめた後、ぽんと肩を叩いて、秋人にしか聞こえない声で言った。

「眼鏡巨乳先輩、相変わらず脈なしか?」

 智輝の腹に秋人のエルボーが決まったのをクラスメイトは見逃さなかった。


 というわけで、衣装の一着を持って帰ってきたのだ。クラスメイトからは着物だから丈は出せるからお直ししていいよと言われた。衣装を用意したのは老舗呉服屋の一人娘の笹川和音である。幽霊のもう一人を担当する女生徒だった。

「直してもいいよって言われてもねぇ」

 薫がため息を付く。


 自他ともに認める天才で、ありとあらゆる家事能力を天上のレベルで備えている薫は、しかし裁縫関連だけは苦手だった。家庭科で初めて作ったエプロンは「雑巾」と言われたレベルだ。

 当夜は、なんでも卒なくこなす男だが、そこはやはりお坊ちゃんなので家事能力は皆無である。最近は食事の後片付けや掃除、洗濯など仕込まれて出来るようにはなったが、裁縫は未知の領域だ。

 そして、秋人はこれまで針も糸も持ったことがなかった。縫ったことがあるのは自分の傷くらいだし、それもホッチキスで止めていたので論外である。



「楠本さんに毎回相談するのも申し訳ないしな」

 薫の脳内にいろいろな女性の知人が浮かんでは消える。当夜がぽんと手を打つ。

「先生、ほらあのデザイナーの凛子ちゃんは?」

「アイツに頼むと次のパンフレットで脱がされそうだからいやだ」

 薫が即座に却下した。

「ミドリさんは?」

 秋人が聞くも、薫は首を振る。

「秋人の写真を芸能事務所に送らせろとか言い出しかねないからダメ」

 うーんと三人が腕を組んで唸っているので、桜子は面白くない。


「なんで?」

「?」

 ぼそりと呟く桜子の問いかけに三人は思わず桜子の方を見る。

「なんで、私に頼まないんだ!!」

「え?」

 男三人がものすごく意外な言葉を聞いたという表情を浮かべる。それが桜子には大変心外だった。

「裁縫くらいできるし!和装なら得意だし!!」

「あ、そっか」

 薫が思わず頷くと、桜子はきーっと叫んだ。

「確かに薫さんより色々下手だけど、あなたが比較対象としては格上すぎるだけだからね!私の家事能力は女性としては普通です!ふ・つ・う!!」

 彼女の叫び声が神崎家の居間に響き渡った。

委員長「如月で集客してカフェをやるのが1番儲かると思う。女装とか執事とかさせたらウケるだろ」

女子一同「却下します」

委員長「なんでだよ」

女子一同「他所のクラスの女の子まで参戦してくるの避けたいです」

智輝「お前こんなに自分のことで揉めてんのに、よくそんな落書きしてられるな、あ、その著者近影ウケる」

秋人「何言ってるかさっぱり分からないんだもの」

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