「札束が金庫におさまらないんで、庭にプールをつくったから遊びに来いよ」とのお誘いにのったところ(好事百景【川淵】出張版 第十三i景【プール】)
金持ちってば。
「札束が金庫におさまらないんで、庭にプールをつくったから遊びに来いよ」
突然のお誘いに俺は乗ることにした。
しばらく連絡をとっていなかった、古い友人である彼。風の噂で、一攫千金を果たして大富豪になったとは聞いていたが、まさかそこまでとは。個人でプールをつくるだなんて、いったい、いくらかかるんだ?
俺が屋敷に着くと、同じように招待されたのであろう男女が、すでに何組か。ひとりにひと部屋、屋敷から客間をあてがわれて、水着へと着替える。客が全員揃うと、彼が顔を出して、俺たちをプールのある裏庭へと連れ出した。
そこで俺たちは、驚愕の光景を目にする!
広い裏庭に、競技用としてもでかすぎる100m級のプール。だが、俺たちが驚いたのはそのサイズではなかった。
規格外のプールを満たしていたのは、塩素臭い水ではなく——札束だったのだ!!
この状況に解説を求めようにも、開いた口が塞がらない俺たちに、彼は笑いながら言う。
「いやあ、金庫におさまらないぶんの札束をどうしようかと思ってたんだよね。プールをつくって正解だったよ。
これ以上、増えたら困るけど——とりあえず、なんとかおさまってくれたみたいだ。
さぁみんな、遠慮なく札束のプールを泳いでくれたまえ」
泳げるかぁぁ!!!
そうつっこみたかったのは俺だけじゃないはずだが。戸惑いつつも、ひとり、またひとりと札束のプールに飛び込む。こんな体験、めったにできるもんじゃないと、俺もそれにつづくことにした。
かといって、札束をかきわけて泳げるわけでもなく。やれるのは、せいぜいその中に体を埋めてみるくらい。
ほどなくして、みんなプールサイドへとあがりはじめる。
俺が異変に気づいたのはすぐだった。
みんな、プールからあがった水着のあいだに札束をはさみこんでいたのだ。水着の中に、はいるだけの札束を詰め込んで、ぱんぱんに膨らませているやつまでいる。
さすがにそれはまずいだろうと、彼のようすをうかがうけれど、べつに気にした気配もない。
すると、ほかの招待客のひとりが話しかけてきた。
「なにやってんだ、あんたもいくつか、はさみこんで来いよ?」
それは泥棒じゃないかと咎める俺へと、そいつは平然と答えるんだ。
「おいおい、何のための水着だい?
プールに入れば濡れるのがあたりまえだろ。
そんで、このプールを満たしてるのは水じゃなくて札束だ——水着に札束をたっぷりふくませてプールからあがってきても、誰が気にする?」