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青春の訪れ



 友達ができた。

 この学園に来て初めて友達ができた。いや、まぁ、厳密には違うんだけどさ、オレとしちゃ記念的第一歩ってわけよ。

 天井の色もベッドのシーツも窓の外の景色も黒と白のグレーの暗い制服も、なんも変わっちゃいない。

 だが、友達ができた。

 心持ちってのが違うんだよなぁ。

 ホントオレめんどくさがりだしマメじゃねーから、鏡眺めて身だしなみってのもテキトーでさ。毎朝ちょちょっと締めてるネクタイを気持ちビシッとめに整えて、自分の顔面も点検する。

 妙に浮っついてる自覚があるし、興味が湧いたのがバカだった。

 きめーなオイ。やっべえやっべえ。

 はしゃいだてめぇのツラなんざ見るモンじゃねーよ。


「落ち着け。飯食いに行くぞ。メシ!」


 っしゃ、気も引き締めてこーぜ。閉じた口は一直線に引っ張りながら部屋の外鍵を閉める。

 短時間の不在でも施錠絶対が寮の規則だ。入学後即失くしてから真鍮製の鍵には紐を通してベルトに括りつけている。首から提げてたこともあったっけな。

 オレもいっちょまえに六年生、九月からは最終学年だし、この習慣も直したほうがいいかもしれない。


「よ」

「お、おぉ……」


 無駄に深呼吸してたら、丁度隣から昨夜やっとまともに会話した同級生が出てきたとこだった。

 上擦る返事にデカい欠伸をかましたコイツは、オレの友達二号──いや~四号かぁ?


「ソトドラム、飯行かねーの?」

「行くよ!」


 行くに決まってんだろ。今日の朝飯からスペシャルなんだ。

 晩餐革命を果たしたあとの初飯に期待が膨らんで顔がにやけちまいそうだ。

 楽しみでたまんねー!!


「どんくらい多くなってんのかねぇ?」

「倍は欲しいよな」

「な。マジで足んなかったもんなあ」


 食ってるモンは違くても庶民だろうが貴族だろうが腹は減る。とくにオレらはすくすくめちゃ食う成長期。寮は一一歳から一八歳までが暮らしてるけど配膳上の理由ってヤツなのかぜんぶ同じ量だったっぽい。

 昨日はひょんなことからみんなが飯の量に不満があった事実がロテーして、トントン拍子に改善案がまとまっての、寮長先生経由で調理担当者に意見が通った。

 さすが王子サマまでいる学園の寮だ。対応がジンソクである。

 五年半以上一緒に暮らしてたのにロクな交流がなかったヤツらと意気投合できたし、飯はすげーなぁ。


「あ、おはよう、ニコ、テオ」

「はよ~っすステフ。顔色いいじゃん」

「昨日は熟睡できたからね」

「腹の具合大丈夫だった?」

「うん、ありがとう、大丈夫。テオのおかげで朝ご飯が楽しみなんだ。入学してから初めてだよ」

「オレは、べつに……」

「感謝は素直に受け取ってほしいな」

「──おう」


 マジでステフいいヤツだ。育ちがいいとか滲み出るとかってこういうこと言うんだろうな。

 いい意味でいいとこの坊っちゃん代表だ。朝っぱらからピッカンピッカンで神々しいしてれるじゃねーか。

 オレの表情筋は昨夜からフルスロットルで稼働中。これじゃダメだな鍛えてこーぜ。あけっぴろげじゃ恥ずいだろ。


「んだよトモルゥ……」

「いーや、おまえマジでわかりやすいんだな」

「喧嘩なら買うぞ」

「売ってねーよ。なあステフ?」

「ニコは口が悪いんだよ。言い方はともかくだけど、テオと仲よくなれて嬉しいんだ、僕達」

「……そっか」

「そうそう! ソトドラムさまさまだかんな」


 オレよりステフよりちっさいニコラウス・トモルゥは大食漢なんだそうだ。

 口は悪いし人相も悪めだが、週末食いだめしに町の食堂にせっせと通ってたオレに『早く言ってくれりゃよかったのに。食いモン実家からめっちゃ送ってもらってたんだぜ?』って落ち込んでたし根はいいヤツ。態度は褒められたモンじゃねーがオレもどっこい、人のことは言えない。

 階段を下りてくにつれて下級生やら先輩やらが増えていく。


「おはようございます先輩方」

「おはよう」

「おはよーっす」

「おはよう……」


 避けられまくりのオレに、普通の挨拶!

 すんげえな、飯は結束感を高めるんだ。


 五階建ての寮は最上階から七年生、六年生、四年生と二年生、五年生と三年生と新入生、一階が食堂とか自習室とかって風に割り振られてて、地味に毎日移動が面倒だ。

 部屋数は入寮生が年々減ってくからあまってくけど、朝のこの時間はみんなが一斉に食堂に向かうから人数が多いように錯覚する。寮生が全員そろわねーと朝飯が始まんないからな。集団生活の連帯責任ってヤツだ。晩飯はわりかし自由なくせに朝は結構厳しいでやんの。

 周りからの声かけに頬を引きつらせながら一つ一つ返してって、緊張しながら六年生のテーブルに向かった。

 全八名のうち五人が席に着いてたし、準備万端な飯は、感激だ、昨日の倍以上盛られてる。


「おはようみんな。早いね、僕達が最後なんだ?」

「やっぱ気になってさ~! テオもニコラもおはよ! 君達の皿、すっげえ量だよ」

「しゃあ! やったなソトドラム!」

「おう! ステフのもバッチリ少なくなってるな。果物だけになってる」

「僕はこれでいいんだ。よかったね、テオ」

「うん。あんがと」


 図体がデカいせいか規定の分量から朝は二倍、夜は三倍ないとひもじい思いをするオレは、長いこと我慢してたし腹持ちのコツを研究していた。

 一方、身長はそこそこだけど食が細いステフは毎朝毎晩無茶して完食してたらしい。

 花瓶を借りたのをきっかけに友達になれたオレは、ステフがへんてこな表情で夕飯を食ってたのが気になった。親切にしてくれる人には義理堅いのよオレ。

 んで、ついでにオレが飯の少なさに校内で倒れた笑い話まで披露するハメになり、めっちゃ叱られ、革命完了って寸法だ。

 貴族は領民を飢えさせないのが義務だ役目だ云々から、後輩達のことまで考える同級生が眩しかったな。

 じつは全員のフルネーム覚えられてないんだけど、みんないいヤツ。

 談話室で消灯まで談話したのもマジで初だった。


「皆さん、おはようございます」

「おはようございます」


 縦に並んだ長テーブル七個の正面には教壇風の卓がある。

 今日も見事に真っ白けっけな髪とひげをたくわえた寮長先生が席に着き、お行儀のいい挨拶が始まる。


「本日も自然の恵みに感謝をし、命の糧を拝受します」

「我ら一同自然の恵みに感謝をし、命の糧を拝受します」


 デコに拳を当てて胸に当てるを二回繰り返す。習慣ってのは偉大だね。オレですら堂々できちまう。

 にしても今日の朝飯、昨日とぜんぜん違うじゃん。

 最初からセッティングされてておかわりできる雰囲気じゃないから端から諦めてた。こうも融通が利くなら我慢なんてすんじゃなかったなぁ。

 分厚い肉になってる主菜に泣きそうになりながらナイフを入れてると、正面の端正な男前、セナなんとかくんが微笑んだ。


「君達の皿は大盛りですごいね。ソトドラム、しっかり食べるんだよ」

「──うん」


『うん』ってなんだよ、もうちょっとマシな返事ができねーのかよ。

 経験値がないんだよな。

 両隣正面斜めに同級生がいるのにいっつもだんまりしてたから相槌まで下手だ。和やかな食事どきってのは鼻を痛くさせるもんらしい。


「トモルゥの果物は加熱されているのか?」

「俺の国だと生じゃあんま食わねーし。おまえのはヨーグルトに変わってんだな」

「ここまで細かく注文が通るとは思わなかった。それに、この蜂蜜は我が領の特産品だ」

「そうなんだ。えっと──キミのとこ、蜂蜜が有名なのかい?」

「ああ。興味があるなら手配をするが食してみるか?」

「いいの!? じゃ、じゃあ、お願いするよ」


 見た目すっげえ冷徹な感じなのに面倒見がいい、左斜め前方の──フレなんとかくん。

 王室にも献上してる超高級品もあるそうで、高いのは買えないとモニョついたら金は不要だとあきれられた。けど口調が優しいのな。

 身長だけでいったらオレが飛び抜けてでっけえんだけど、周囲からは一〇歳くらい下のガキに思われてる気がしなくもない。

 イメージは悪かったみたいだけどな!

 無口無愛想の巨木で交友関係は王太子殿下とその婚約者様のみ。そりゃ、いけ好かねーヤツって思われてたよなあ。


「おい、ソトドラムだけずりーぞ! 俺にもくれんだよな?」

「君には定期的に渡しているだろう」

「そうだけどさあ。親父達のぶんは買ってんだしオマケが増えたって罰は当たらねーぜ? おまえんとこ砂糖の質もいいんだよな~。茶の産地なだけあるわ。卒業後もよろしく頼むぜ!」

「商談は父を介してくれ」

「冷てーなぁ」


 お向かいさん同士はざっくばらん。五年半同じ飯食ってたし当たりまえか。

 神経質そうなザ・貴族くんと陽気な商人の息子トモルゥでは相性が悪そうだと先入観メガネだったが、おのおの意外な交友関係を築いているらしい。

 五年半だもんなぁ。

 ちょっと寂しい気持ちにもなってると、セナなんとかくんがフォローしてくれる。


「トモルゥは五人きょうだいの真ん中で、皆違う国に留学しているんだよ。それぞれの国とのコネクションを持つためにね」

「へえ。すげーなおまえン家」

「まあな! 正直地元に残るか迷ったんだけど……、俺んとこ魔術後進国でさ。学園に入れたのはラッキーだったな。ここは天下の魔術大学校だし!」

「入学試験の振り落とし過剰で生徒数が減少し続けているのはどうかと思うがな」

「編入生、最終的にどのくらいになるんだろうね?」

「今年の四年生めちゃくちゃ豊作だよな。試験簡単になってんのかねぇ? お、そうだそうだ、ソトドラム、今度おまえの試験殺法教えろよ? 俺多重魔術理論苦手でさあ。おんなじ授業取ってるよしみでよろしく頼むぜ!」

「ああ、時間があれば──」


 オレには、隠し事がある。

 クードとクリスティアーナ様以外には黙ってる、必殺どころかペテン技。

 そうだよ、オレ、なんで周りと距離置いてたのかすっぽり抜けてんじゃん。

 参ったなぁ、バカじゃん、オレ。


 ──オレの魔術は、インチキなんだ。


 わかりやすく暗くなったテオ・ソトドラム(単純アホ野郎)に三人が顔を見合わせている。

 なんか言わないと。

 なに言やいいんだ。

 こういうとき、オレ、どうしてたんだっけ。


「ソトドラムくん。殿下は毎朝講義まえに執務室にいらっしゃるんだろう?」

「あぁ……みたいだな」

「昨夜のこととか報告してみたらどうかな? 殿下もきっとお喜びになるよ」

「なんで、ク……殿下が喜ぶんだ?」


 小柄で大人しい印象の右隣の──ええっと、たぶん、ウッドくん。

 唐突な提案にハテナを飛ばすと、まばたきしてからフッと笑った。


「君、やっぱりちょっと鈍いのかな? ボクも人のこと言えないけど、いつも心配かけてる友達には安心してほしいでしょ」

「そう、だね。そうだといいな」

「もう食い終わってるし、行ったら? 殿下が首をながーくして待ってるぜ~?」

「んじゃあ、そうするよ──我、生の源を我が身に受けましたこと天に感謝いたします! じゃ! お先!!」


 食い終わったら離席オッケーだし、ボチボチ何人か食堂を出て行ってる。

 質より安さと量で選んでる飯屋では声に出さない食後のお礼をさっさと述べて大股で廊下を突き進む。

 四階まで駆け上がって鞄を引っ掴む。

 机の上には薔薇が一輪、オレの部屋には不似合いだけど、友達ができた。

 まえからの友達に報告したい嬉しいことがある。

 オレが頼りにしてるヤツは、オレよりオレのことをよく知ってる。

 だから迷ったらクードに決めてもらってばっかだった。相手は王子様だし、オレはアイツの正しさを信頼している。

 だけど、今度は、たとえ反対されても従えそうにない。ついにオレにも反抗期到来なのかもな。

 間違いなく、アイツは喜ぶんだろうけど。


「──ホント、いいヤツばっかだよ」

「おや、おはよう、テオ」

「ん?! わ、わぁっ、すんません!! 勝手に、来ちゃった、みたいで──」

「テオ、くん……殿下、ご無事ですか?」

「大事ない。下がってくれ」

「かしこまりました」


 おい、おいおいおいおい。なに、なんなのいきなり。

 よく会う護衛のお兄さんに剣を抜かれて涙目よ。

 寮の自分の部屋のドアを開けたと思ったら一瞬で王太子サマの真ん前にご到着ってどんな大魔術だ?

 無我夢中で両手を挙げたら腰でぷらんぷらん鍵が揺れてる。鍵、扉も閉め忘れてきたかも。バレたら反省文なのにさぁ……。


「もうこんな時間か。テオ、講義に向かうとしよう」

「え、ああ、うん──だな?」

「鞄も忘れずに持ってきたようだね。教科書は忘れていないかい?」

「たぶん……?」

「テオ。ぼんやりしていないで行くよ。遅刻はしないに越したことはない」

「おー……」


 五分遅刻したら閉め出されて授業受けらんないしな。

 ちんぷんかんぷん怒濤の展開、食ったばっかで胃も腹もビックリ仰天おぼつかないが、ちんたらしてる暇もねえ。

 今朝もキラキラてんこ盛りな金髪碧眼の王子サマのあとに続いて執務室を出る。見張り番をしてた護衛のお兄さん達に再度謝り、右脚の踏み出しを強くする。


「寮で昨夜愉快な出来事があったと報告を受けているよ」

「もう知ってんのかよ──なぁっ、クード、寮にいる、ステファン・グレグリーって知ってる? オレアイツに花瓶借りてさ、んで、夕飯食って、その後いろいろあって、寮のみんなと仲よくなったんだ。朝飯も一緒に食ってきた。腹いっぱい!」

「そうか。心を開ける友人がいるのはいいことだ。よかったではないか」


 五歳のガキだってもうちょっとマシな報告できるだろーぜ。

 耳早すぎな王子サマのうんうんと頷いてる様子に羞恥心が込み上げる。やべえよオレ、本気で情緒磨かねえとまずいじゃん。

 ま、まあ、それよかさ、テオ・ソトドラムのトンデモ魔術がめきめき上達してんのな。ベキベキ骨が折れなかったのは不幸中の幸いかねぇ~。


「なぁ、クード。オレ、とうとうここまで勝手にやっちゃうわけだけどさ……」

「実害は出ていないよ」

「護衛さん達めっちゃ驚いてたじゃん」

「私の警護をするのが彼らの職務だ。勤勉だろう?」

「オレ侵入者だし……これ以上」

「君はよく執務室に来ているではないか。私が招待をするより先に君が到着していただけのことだよ」


 ああ言えばこう言うっつうか、なんなのコイツ、やっぱときどきだいぶおかしい。

 絶妙にゆっくり歩いてんのも教育のタマモノなんかねぇ。

 オレは父親や母親、家族の顔なんてこれっぽっちも覚えてないけど、本物の両親よりクードのほうが厳しくて優しいと思うわ。

 マジ、オレのなんなのおまえ。


「どうした?」

「おまえさあ、なんでそうオレに甘いんだよ……」

「君が自らに対して杜撰だからだ」

「……そんなことねーし」

「私はテオの自己評価を信用してはいない。──ああ、そうだ。クリスティナが昨日の振る舞いを反省していたよ」

「え、どうして!?」

「衆目を集めている中で君をお茶会に誘っただろう? 彼女らしからぬ軽率な行動だ」


 急に話題をすり替えたと思ったらクリスティアーナ様を否定する。

 困ったけど、戸惑ったけどさ、嬉しかったんだぜ。授業の取り方もわかんなかったオレのこと、一番最初に助けてくれた生涯の恩人。

 そんな人を悪く言われたらいくらおまえだろうがキレるかんな。そもそもおまえがおかしな質問しろって言ったから起こった事故じゃねーか!


「どうどう。テオ、興奮すると血流がよくなるよ」

「クード!」

「私達の言動はつねに批判されている。彼女はシフィロソキア王国王太子の婚約者だ。批難に晒される言動は厳に慎むべきだろう」

「そうかもしんないけど、おまえが! クリスティアーナ様の……」

「私も君にばかり肩入れをするのはいかがなものかと忠言を受けたばかりだ」

「……そうかよ」

「感情論は不要と諭しておいた。私は恋に友情に青春を謳歌している。文句を言われる筋合いはないのだ。学生の間は自由に友人付き合いをして生涯の友を得よとのお言葉を国王陛下から賜っている。これ以上の許可はないだろう?」


 まさか王様に確かめてみようかなんて脅したんじゃねーだろうな。

 公明正大を心がけてるとのたまいながら、たまにとんでもない発言をしれっと口にするからクードは敵に回しちゃいけねえナンバーワンだ。

 当然だが、クリスティアーナ様の敵には誓ってならねぇ。

 寮のヤツら、お人好しなステフやズバズバ直球なトモルゥ達とも平穏な関係でいたいもんだな。


「私は君の判断を喜ばしく思いたい。好ましい変化は歓迎するに限るよ」

「おまえ、オレの父ちゃんかよ」

「せめてお兄さんにしてほしいと言っているだろう。テオ、あまり心配させてくれるな。クリスティアーナが気を揉んでいる。私も君の幸福を願っているのだ」

「うっす──あのさ! コレ、近いうちにみんなに言おうと思ってる。どう説明したらいいか、一緒に考えてくんねーかな?」


 左足をわずかに掲げると、クードは口角を上げて目尻を下げた。

 不まじめなオレがこの学園に在籍してられるからくり、成績優秀者であるわけ、未来の王様王妃様に面倒見てもらってる理由──クードと友達だと言いきれない原因。

 魔力暴走。

 本当なら、ごくごく小さいときに収まる一過性の制御不能。

 これのせいでオレは、八歳からまえの記憶をぜんぶ消してる。

 途中をすっ飛ばして結果が出んのも、試験を受けたら頭ン中に答えが浮かぶのも、ぜんぶぜんぶ、オレが自分の魔力を制御できないからだ。

 魔術が得意なんじゃなくて、魔力に振り回されてるだけのとんだウソつき。

 無闇に口外するなって二人に言われてた。先生からも止められてるし、オレを育てた場所の関係者も全員『事実に蓋をするのは悪いことではないんだよ』ってコンコン説教してきた。

 けど、オレ、友達ができたんだ。


「なんとかしたいんだ。──今さらかな?」

「魔力を喪失してしまいたいと嘆いていた君が己と向き合いたいと望むようになった。クオジドォール・ロゼフディロール・ポラリスの名において、協力を惜しまないと約束しよう」

「オレ、がんばるわ」

「ああ。私がクリスに嫌われてしまわないように研鑽を積んでくれたまえ」

「おっす。やっぱそうだよな! おまえはクリスティアーナ様のこと大好きじゃねーとな、クードじゃねーもん!」


 足首に巻いてる制御具を壊したの、何回目かも覚えちゃいねえ。

 一日に何回もぶっ壊してた時期に比べたらマシだけど、年々頑丈になんのに力比べかってくらい魔力もほとばしってやがるからきりがない。

 諦めてたんだよ。友達なんて、作っちゃいけなかった。

 貴族からは嫌われてるだろうって避けてた。

 ズルがバレたら世話になった人に迷惑をかける、軽蔑されるって一人を選んだ。

 友達ができたんだ、オレ!


「オレ、医務室寄ってくから」

「転ばないように気をつけるんだよ」

「へいへーい」


 見る人が見れば一発でわかる、オレの“実家”特製リング。

 腕より足のほうが邪魔になんねーからここにしてるけど、割れたら皮膚も裂けるし歩きにくいんだよな。

 マジで、着地に成功したオレ偉すぎる。四階から飛び降りたようなもんだろ? 運がよかったよな。

 人気がないのを確認して廊下に飾られている額縁に手の平を押し当てた。

 隠しアイテム転移陣を利用すれば、お手軽気楽に医務室までご案内。

 オレの頭、これを真似したんだろうなぁ。


「テオ・ソトドラム、医務室に入室します」


 金色の魔術紋が浮かび上がり、水の壁をくぐった感覚を抜けると、背筋がピンとしてるおばあちゃん先生が待ち構えていた。

 ここでもクードお得意の根回し済みなんだ。アイツ、寮にもスパイを潜ませてそうだぜ。


「先生~、久しぶりに怪我しちゃったんすよ」


 秘密裏に通いつめるたびに自分に嫌気が差していた。

 だってさ、魔力暴走を引き起こすのってホントのホントにお子ちゃま時代だけなんだ。なのに身の丈に合わねえ身分詐称ででっけえ魔術大学校に入っちまった。しかもよくわかんねーけど学費免除らしいじゃん。劣等感が拭えないのもしょうがなかったんだ。

 しょうがないで終わらせるのもヤメだヤメ。

 オレだって、オレだってさ、友達と過ごす青春、送ってみてもいいじゃんか。


「ソトドラムさん。医務室ではお静かに」

「はい、すいません」

「お座りなさい。サルセス先生には連絡してあるから、治療が終わったら授業に行くのよ」

「うぇ~……? オレ、あの先生苦手なんすよ。王国史も苦手……」

「ソトドラムさんが得意な授業も先生もいないでしょう」

「オレ、マリグレイス先生は好きっすよ」

「懐かれたものねぇ」


 怪我するたんびに内緒よってお菓子くれる先生のこと、嫌いになれる生徒がいんのかね。

 テキパキ手際のいい処置を受けて、今日も卵型のクッキーを貰って医務室をあとにする。

 授業はとりあえず聞くけど、オレの異常に悪い記憶力は細かい年数なんざ覚えちゃくれない。んでも試験のときには正解が頭に出てくっから、ちょいっと一工夫で不正解にする──のに、いざ答案が返ってきたら丸がたくさんあったりするからオレが信用ならねーのはホントにそう。


 寝落ちしそうになりながらなんとか一コマやりきった。

 終礼のあとは皆べつの行き先に向けて立ち上がる。

 次は違う授業で教室が使われるからオレも退散だ。


「テオ!」

「あれ? ステフ、次ここなんだ?」

「いや、君が怪我をしたってクオジドォール殿下が仰っていてたから……」

「なんだ、ぜんぜん平気だよ! マリグレイス先生に完璧に治してもらったし」

「そうかい? あんまり無茶しちゃダメだよ」

「おお」


 こういうのってこそばゆいんだなぁ。

 心配されて嬉しいのってあんまよくないよな。

 ステフ、ホンットいいヤツだよ。人徳の塊みてーだ。

 友達の結婚祝いの貯金っていつから始めりゃいいのかな。

 うぇ、やべ、クードにお茶会の服貸してくれって頼むの忘れてた。


「僕次西棟だから。君は?」

「オレ、なし」

「いいなあ。あ、大食堂、忘れずに行くんだよ。今日申請しておかないと来週からも食べられないから」

「そういやそうだった。サンキュ!」

「どういたしまして。昼は殿下と取られるのかな? お弁当の量増えてるといいね」

「だな!」


 うちの学園の授業は選択制だ。

 一年生のときにクリスティアーナ様に連れられていった教員室でガチガチに日課を組んでもらったから、五年生からわりと暇している。

 校内は無駄に広いしどこにでもベンチがあるからテキトーに寝て──タンマ。オレ、弁当忘れてんじゃん!

 授業には使わないけど、改良されて大容量になってるはずのオレの昼飯、毎朝必ず受け取ってるめちゃうまな昼飯、忘れてんじゃん!!


「ステフ! マジあんがとな!!」

「うん? ちょっ、テオ! 君、足怪我してるんだろう?! 廊下は走らない!!」

「へいへーい! 了解!」


 これが、オレの青春。

 恋愛もさ~、いいとは思うよ? クードとクリスティアーナ様の関係には憧れあるしさ。

 でもよお、ああいうのはできるヤツがすればいいと思うんだよな。二羽狙うとなんとかって言うじゃん。

 テオ・ソトドラムは断然友情に生きるね。

 オレのわがまま魔力はしてほしくねーことばっかやらかすし、自分の怪我も治せない。

 けどいつか、友達の役に立てる使い方ができたらいい。


 ──オレの学園生活、こんな楽しくていいのかな。


 同い年のヤツらが言っていた。後悔も悩みもない人生なんてあり得ないんだそうだ。

 だからたぶんオレは、ようやく今頃になって人間を始めたんだと思う。

 朝飯うまかったし昼飯もうまいだろうし、今夜の晩飯も楽しみだ。


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