偉大なる魔術師の贈りもの
願望欲望、その他諸々、一遍静かにさせましょう。
波一つ立たない凪いでいる水面で、オレはこの子を救おうか。
集中しろ、余計なこと考えないようにしないと失敗する。
「テオさんに起こった魔力核再生は、奇跡です。わたくしなどには」
「もっかい奇跡を起こします、んで、奇跡じゃない普通のことにします。大それたことじゃないんだ魔力核治療は」
大口叩いて奮い立たせろ、足が震えないように床に固定させろ。
オレは医者、ただの学生だけど臨時の天才ドクター!
やってやるぜ、この子に世界で一番の贈りものだ。
「元気になりたくないわけじゃないだろ? ……まだ、気にしてんのかよ。昔お祖父さんお祖母さんお父さんお母さんお兄さんお姉さんに言っちまったこと、後悔してて許されないとか思ってるんだな? やめろよ」
「忘れるわけには」
「いいの!」
「あいたっ」
はい、不敬罪~!
お姫様のデコ弾いてオレとっ捕まるぜ……どうしたんだ俺のテンション……緊張しすぎててやべえ振り方してやがるな!?
落ち着けぇ、落ち着けぇ、患者さんとの信頼関係構築し直し!
「キミがンな顔してるより、元気になってくれたほうが家族は喜ぶ。そうですよねお父さんお母さん」
「そうよ、ティア。当たりまえでしょう」
「ティア、お父様とお母様は君が健康に過ごせることをなによりも望んでるよ」
不安そうにしていたご両親さんも引き込むと、二人はシェレアティアさんに寄り添った。
親。俺にも親がいた。覚えてないからいいけどさ、今オレがどうやって暮らしてるかとか考えてたりすんのかな──。
頭を振らずに無駄なことを考えようとする自分を見つめる。
静かに、ただ静かにいればいい。
「キミはがんばり屋さんだ。なんで褒めてあげないんだ? 治りたいって思ってない?」
「褒める、ところがありませんもの」
「バカじゃねーの? ホントにないと思ってる? 親御さんの顔見てみろよ」
キミが長生きしたくない理由が見下していた少年のモンになりたくねーっつーなら、胃の中むしゃくしゃするけど納得してやるよ。
今オレに感情はいらない、この子を治すことに徹すればいい──結婚しなくたって幸せにしてやらあ。
「キミの家族もキミのお友達もキミが大事だ。それ以上に、キミに自分のこと大事にしてほしいって願ってる」
「やり方が、わかりませんの……」
「そこでオレの出番です。見ててね」
疑似魔力核を手の平の上に浮かべる。
やっぱ綺麗だよなこの子の魔力の色。せっかくなら、いい感じにお祝いっぽくしたいなぁ。
治療プロセスを涼しい顔に見せかけて必死に組み立ててるオレもがんばり屋さんだぜ!?
ここまではたぶん順調だったのに、向こうのほうで悲鳴と大騒ぎがして集中がぶれた。
あ──女の人が倒れてるぅ!! クリスティアーナ様も顔真っ青でクードに支えられてるし、シェレアティアさんも気絶寸前!!
──どうしよ…………お気遣いが足りなかった。
「続けなさい」
フェリチェスカ様、阿鼻叫喚の中デリケートな大手術させるなんてアンタ、スパルタだな!
別室とか用意してもらって──ダメっすか。
なんだよこれ、愛の試練? 婿の試練? 魔導士認定試験?
なら──……グダグダ言ってらんねーな。
ずいっと目の前に差し出すと涙目になっちまうけど、キミはキミのこと、ちゃんと見てほしい。
「これがキミの魔力核、原寸大。体の中にちゃんとあるから大丈夫だよ。これは複製だ」
「ひ……っ」
「なぜ……そんなにも岩のようになっているのだい?」
「この周りの白いのは元は魔力で、薬で固められたまま癒着してしまっているんです。お嬢さんの魔力核自体はとても小さく、これは、言わば魔力流出防止の壁ですね」
コンコンと音を鳴らして臓器にあらざる固さを知ってもらう。
元オレの魔力が鉄壁の守りをしてるけど、飲みすぎだ、他の臓器を圧迫するほど肥大化してるし重量オーバー。
飲んで飲んで飲みまくってるんだろうなあこの子、腹減らねえ代わりにずいぶんしんどかったんじゃねーかな。
がんばりすぎもよくねーよ。
「オレは今からこの邪魔なものぜんぶ引っぺがします。なんの不純物もついていない魔力核に戻して穿孔を治療します」
「そんなことが、できるというの……?」
「できますよ、します。さっきフェリチェスカ様と契約を交わしたので、オレはそのとおりにするだけです」
並んだらお父さんにも似てるけど、お母さんのほうにより似てるな。
んー……そんな、怖いって顔しなくていいよ、痛みはちっともないはずだから。
怖くない怖くない、これプレゼントだって言ったじゃんー!
貴族男のたしなみ本に健康な魔力核の章も追加してほしいもんだぜ。
最愛とかってなんのかな──これで、オレのこと男として意識してくれたらいいんだけど無理くせえかな……。
ってオイオイまーた浮っついちまう、落ち着けやゴラ。
冷めろ──感情を揺らすな。
「フェリチェスカ様、剥離する魔力核外皮の保存容器を用意してください。恐らくこれが初めて採取できる残留薬物による結晶体です。貴重な資料なので研究機関に回してください」
「えぇ…………」
「わたくしまるで、実験動物ね……」
「そこまでとは言わないけど──オレはキミだけではなく魔力暴走に苦しむ子全員を救いたいのです。初めて行う治療法の被験体第一号なんでそう感じるのは無理もありませんが、こう考えてはくれませんか? キミががんばってくれるからたくさんの子が笑顔になれる。過去のキミごと救うチャンスをオレにください」
成分を分析をしたら体に負担のない凝固剤や増補剤が開発されるだろうし、魔力の研究も進むだろう。
キミはそんなこと知ったこっちゃない?
そうだね、オレは今キミのお祖母様にキレかけてんのかも。
長い間利用されてましてね~……『私の孫娘でなんてことを!』みてーな被害者面されたらフツフツしてきそうになってます。
無茶振りしてんのそっちだってなあー。オレって結構根に持つタイプ?
なんで、フラットにします、静かにします、無駄な感情に神経使わないように人間らしさを閉じときます。
「怖いです……」
「大丈夫。オレの魔力はキミを傷つけることはしません。ペンダントに誓います」
「イヤ……」
「どうすれば納得しますか? 同意がなくても行いますよ。キミの気持ちが安定するまで待ってられません。悠長にしてられない」
「先ほどから『キミ、キミ』と。わたくしの名前を忘れましたの?」
「シェレアティアさんに誓って、オレはキミを治します。これ──お約束の印」
屈んで彼女に花を差し出した。
岩みたいなゴツゴツをちょいっと形整えて、百合の花が咲くみてーにペローンってした。
なんかな、オレの魔術って教科書とはぜんぜん違う。こうなっててほしいーって考えると準備運動抜きに即成果を出してる。
静観展開のせいなのかな、魔力暴走のせいでもいっか。結果は同じだ。
内側のモンは回収完了して、外のものは茎があったほうが持ちやすいから加工すっか。
おおう──美人さんと百合、似合うぜ。でも受け取ってくんねー。
いいや、頭に挿しちゃえ。
臓器モドキで作ったお花の髪飾りだけどさ、うーん、そこまで引くもんかな? 綺麗なんだけどな……。
ま、こんくらいの失敗気にしちゃいられねえ。
白銀の百合の花びらの中から出てきたそれを光にかざして、ちっちゃいな……って変な顔しないように、今誰にも弱みを見せちゃいけねえから、冷淡に、事実だけを口にする。
「これがキミの魔力核。大体七歳くらいの大きさ。視認できる大きな穿孔は二つ、微細な穴が五つ、今にも空きそうなのが四箇所」
彼女の小指の第二関節くらいまでのサイズだ。ちっせ……そりゃオレと図体のデカさが違うけど──飴玉かよってくれーに小さい青紫。
「こんなに、小さな……っ」
お母さんにひっついて泣いてる姿に乱されないようにする。
可哀想だって遠慮したら失敗する。
「魔力消耗症になって育たなかったから小さいんだよ。持って」
イヤイヤってされてもオレの言うこと聞いてもらいます。
お父さんが受け取って、お母さんが慰めて、うん──やっぱキミ、自分を責めてちゃいけねーよ。
「こっからは、キミがキミ自身を認めないと治らない。楽で手間のかからない方法より、予後がいいほうを取ろうと思う。オレが介入したら人の力借りたって結局キミは自分を褒めてやんないでしょ。魔力暴走に必要なのは自己肯定感だし──それに、オレになんかあったとき、道連れにできない。だから自分で治してもらう」
脆すぎて怖いんじゃねーぞ、教えてくれんの、キミの魔力核が自分の力でなんとかしてーってやる気になってる。
やーっと自由に呼吸できて、頼もしいのな。プライドやたらたけーけど、それでこそキミだよ。
自分と意思疎通してねシェレアティアさん、魔力はキミを裏切らない。
今回の依頼人に事の説明すんのもお医者さんの立ち回りってことで、車椅子だからシェレアティアさんのすぐ傍までいけないお祖母様にご説明する。
「最初の計画では穿孔はオレが塞いで、彼女の魔力核内にオレの魔力か──より波長が合うお母さんの魔力を入れて、内壁に悪さをしている針のような物体との緩衝材にする予定でした。しかしいくら似てるといっても異物ですから抵抗されたら未熟な魔力核がさらに弱くなってしまいます。なので魔力核を圧縮して空洞をなくし、針自体を内部に吸収させたほうがいいと判断しました」
「さらに縮めるというの……?」
「はい、それが一番安全です」
「それを、ティアにやらせると──!」
「彼女がやらないと意味がない」
魔力保有者は幼少期に魔力核内に棘や針のような組織を持ち、魔力暴走が起きるのは内部からの刺激によるものだと提唱した学者もいる。
ま、魔力核の外が揺れるか、中が揺れるかは個人差なんだろうなー。
知れば知るほど奥深いんだぜ魔力核って、そんでな、魔力核ってのは肉体の主の絶対の味方でいたいもんだ。
「シェレアティアさん。魔力核の形が変わってもキミはキミだよ。怖いことなんてなんもない。小さくしたらたしかに魔力の量は減るけど、そのぶん扱うのが楽になるから魔術だって自由に使える」
この子、魔術が使えないのになんで学園に来られたんだろうって考えてた。
たぶん、金積んで入ったんだろうし──途中で通えなくなること前提なんだろうぜ。
実習系は座学の点数で稼いで、さも魔術が展開できるふりをするんだ。
矜持だけはクソデカなのに、ンな矛盾することしないでほしいな。
──マジでこの子、ほっとけねえ。
どーする、オレ……このまま先生風やってるのもちょい疲れてきたぜ。もうさ、やるしかないならさ、オレにも好きなようにやらせてほしいな。
片膝突いて見上げると、綺麗な青紫が曇ってしまう。
「テオさん……跪く意味を、あなたもうご存知のはずよ。あなたにこんな負担を強いる──」
「一緒に青春しましょ」
「……青春?」
「オレはキミに嫌われててもいいんですけど、魔力はそうはいきませんよ。魔力はキミに従いたい、魔力核はキミを守りたい。『今まで見向きもしなくてごめんなさい、これから一緒に生きようね』って声かけたら、喜んでキミの力になる。オレはそのサポートをします」
「あなたなにを仰ってるの……?」
「事実です。お父さんお母さん、彼女をもっと抱きしめてあげてください。──愛されてるって感じるでしょ? そんな感じで、自分のことも愛してあげてくださいね」
かっこよく、見えてるかな、オレ──。
見えてないっぽいけど、うん、やるしかねぇ。
「オレは名前が変わったけど元気に生きてる。キミにも元気になってほしい。オレはキミに出会えて幸せだよ。ここにいるみんなキミが大好きだ」
「ティア、大好きよティア、わたくしのかわいい娘……」
「ティア、お父様とお母様がついてるからな」
「意識するのは手の中の疑似魔力核でいい。そのまま、ぎゅーって、キャラメル溶かす感じでいて。怖くないから、ご両親が傍にいるだろ」
「テオさん……っ」
「大丈夫オレも傍にいる」
よしっ──魔力核、呼応し始めた。
ゆっくりなぁ、ゆっくりゆっくり……そう、そこの穴塞いで──おおう完璧ぃ! うまいじゃん初めてにしては上出来だよー! 天才! 天才! 大天才!
やっぱキミも褒められたら伸びる子じゃん?
うんうん、シェレアティアさんいい子だよね、かわいいよねー! 役に立ちたいよな!
おうよ、オレは手出ししないからてめぇのためにいっちょ盛大に変形してくれや。
見てる──オレは見てるだけ──脱走しそうな魔力の方向を変え、魔力核が一五歳のこの子の形になるようにしっかり見てる。
「ティア……!!」
「失神しただけです、数分したら意識が戻ります」
──よくがんばったね、とんだ誕生日になっちまったね。
ぐらりと傾いた細い体が痛々しい。手の中から滑り落ちた魔力核を拾って角度を変えながら執拗に観察し、シェレアティアさんの額に触らせてもらって体内も確認。
手袋してるからセーフっすよね。
「全身に魔力が巡って、のぼせたみたいな感じになってますが無理に冷やしたりしないでください。心配いらないです、不安だったらお医者さんに見せてください」
「ええ……」
「本当に君は、神のようだね……」
「いえ、そんな。契約こなしただけなんで」
その言葉にご両親の顔が強張った。
また失言──? 俺の独断じゃねーし! ビジネス、難しいぜ……。
オレはよお、恩を売りたいわけじゃない。
テオ・ソトドラムは恋愛結婚派なんだ。お国のためにってのも恩義があるからってのも両方ヤなんだ。
つーか、怯えられてる?
大成功したのに確証がねーから喜べないのかな……。
どうしよ、オレ、ちゃんとやったよ。
「フェリチェスカ様。治療内容についてご説明しますね」
仲間外れみてーになってる元王女様に声をかけるとえらい顔して睨まれた。
なんでだよ……、傷つくんだけど……。
いいや、責任は果たすぞ。じゃねーとお医者様から戻れねーし。
オレは医者兼研究員志望の一般学生だっつーの!
そりゃな、平気な顔して疑似魔力核持ってるけど現物じゃねえし、一言くらい誰かねぎらってくれよ。
シェレアティアさん起きなくて不安なの、オレもだぞ……。
「彼女の魔力核は元のサイズから半分以下の大きさになりましたが圧縮は無事に成功しています。途中の魔力核の外郭融解のみオレのほうで手伝わせてもらいましたが再形成には手を出していません。ぜんぶ彼女自身が変わりたいと願った気持ちによるものです。穿孔もすべて塞がっています」
「そうですか……」
もっと喜べばいいのに、なんでそんな、微妙そうな顔してっかなあ……。
はしゃいでくれよ、オレ……大したことしなかった? しないほうがよかった?
「目が覚めたあともしばらくは魔力の不安定さがあると思いますが、波形の近い者が傍にいることで安定します。夏休み中しっかり休養すれば五年すぐの復学もできますし、魔術展開も必ずできるようになります」
「なぜわかるの──あなたにはなぜそれがわかるというの?」
「頭に答えが出るんです。彼女を見てるとどうなるかがわかるんです、これから出る症状とかも。完璧まんまだとは思いませんけどね。だから、目を離さないであげてください」
「クオジドォールもクリスティアーナも優秀な子だけれど──あなたを見ていると天才とはなにかを考えさせられますね」
──え。なんだそりゃ。
ムッカチーン! ってきたぞ!
なんだこのバアさん……褒め言葉どころか貶してきやがった。
オレ短気なんですゴメンナサイ、反省なんて火に焚べてやらあ。
喧嘩上等だぞババア──。
「そうやって悪意のない比べ方してきたんですね。オレが簡単に助けちゃって気に食わねーですか? 元に戻しますか? お前ごときがって顔してますよ」
「テオ、口が過ぎる。そうではなくて──っ!」
「これ、返します。なんか今持ってたくない」
右手だけでペンダントを外してフェリチェスカ様の手に押しつけた。
左手にあった疑似魔力核は、目の前で、姿を消してやった。
「なんてことを……!」
「これレプリカだって言いました。本物が潰れて砕けてたらどうしてたんですか? 成功したからよかったっすね。契約どおりです、ご質問は」
「──お願いだから帰ってちょうだい」
ええ、ええ、帰ります帰ります。
なんだよなんだよ、なんなんだよもう!
化け物見る目ぇしやがって、マージで失敗できねえからオレかなり追い詰められてて!
一言褒めてくれたら癇癪起こさなかったよボケェ……!
泣きそうな気持ちになりながら外へ向かう回廊を歩いていると、後ろから駆けてくる一人の女性。
「テオさん……! お待ちになって!」
「クリスティアーナ様……」
「妹を救ってくださって、本当にありがとうございました」
あ……やっぱ、あなただけなんかな、オレをわかってくれんの。
違いますよね、てめぇでもわかってるんです、ムチャクチャ緊張してて、気ぃ緩んだら泣けてきただけっす……。
最後の最後で好感度爆下がりの失態犯したあ…………勢いでペンダント返しちまったけど、あちらさん的にも大事な女の子にオレみてぇなの寄せつかせたくねーよなぁ……。
どうすりゃよかった?
「がんばりましたね」
「オレ……がんばりましたよね」
「ええ! がんばってくださいました」
こんなふうに言ってくれたら!!
ぜんぜんっ……気持ちよく帰れたのに……。
「ぶっつけ本番で! 準備なんてなんもさせてもらえないで! めちゃくちゃがんばったのに!! ──誰も褒めてくれなかった」
「なぜでしょうね、ティアが目覚めたら皆を叱りつけるに決まっていますわ。さあ、テオさん、寮までお送りしますわ」
「パーティー……」
「主役が退場してしまったのですからお開きですよ。大丈夫です、参りましょう」
「一人で帰れます……」
「今あなたを一人になどできませんことよ」
クリスティアーナ・エディケープル・クレパスキュール様。オレの女神だった人。
すげえぜオレ、三家の馬車全制覇。
友達はこの大切な一日が最悪に向かわないように、楽しくもない話を聞いてくれた。昔にあった温かい出来事も教えてくれた。
オレはあの子から貰ったものを本人以外に突き返してしまったことを後悔してるし、重い鎖を外せてホッとしてもいた。
恋とか政略とか向いてねーんだよ、難しく考えるくせがついちまったよ。
オレがオレのためにできること、あの子にためにしたいことってなんなんだろう。
ご閲覧ありがとうございました
あと2話で完結です
大前提ラブコメです、引き続きお楽しみいただけたら嬉しいです




