傷ついた子ども達の現在
夕焼け空の下の、学園一のデートスポット。
裏庭に吹いたそよ風に揺れる髪を耳にかける仕草を遠目に見て、やっぱすんげえ綺麗な子だなって思ってしまった。
早く行けばいいのに、近づけない。
しばらく見つめてたらこっちを見た目と目が合って、シェレアティアさんは最初に会ったときみてぇな微笑みを瞬時に浮かべた。
オレはしっかり思い出す、この子、切り替えが異様にうまいんだった。
重たくなった脚を動かしてこっちもなんとか笑顔を作る。
「テオさん。ごきげんよう」
「こんちは──」
斜め前の椅子に着いて、朗らかに微笑む妖精さんにどうやって切り出すか少し迷った。
オレの言葉はどれもみんなシェレアティアさん傷つけるんじゃないかって不安になる。
けど、なんも言わねえのも失礼な話だし無茶があるってモンだ。
ぶつかってくしかねーんだよ。
「緊張、してるかな?」
「いいえ」
保温魔術がかかってるティーカップの湯気が滲んでる。
シャッキリしろよテオ・ソトドラム。
この子は自分を責めがちなんだからさ、辛い話はとっととけりをつけようぜ。
「オレは緊張してる。だってさ、どうがんばってもキミを泣かせそうじゃん。クードから、話聞いてきた。オレの魔力暴走の治療の遅れは、キミのせいじゃないからね」
「いいえ。あなたに長年に亘って苦痛を強いてしまったこと、お詫びのしようがございません」
「そういうのはいい。べつに欲しくない」
虚勢がぐしゃって崩れそうな子に速攻言い返しちゃうし、やっぱオレどうしようもなく下手クソ。
ちゃんとおしゃべりしろってんだ。
「キミが悪いわけじゃないだろ? キミが主導したんじゃないしさ──てかさー、これ言ったら怒られそうだけど、正直嬉しかったんだ。てめぇの腹ぺこでキミを元気にできて、ヒーローの気分」
「怒りますわよ……!!」
「うん。でもね、そんくらいオレは気にしてない」
「お人好しが過ぎませんこと?」
「貴女に出会えたことで私の人生は報われたのです」
──我が心の女王陛下、私だけの白百合がご存命であればいいのです。
さーてさっそく泣かせてんぞ!
やべえな、どうしようって打開策を探ってたら、シェレアティアさんがでけぇ目をさらにまん丸くさせてから、こらえきれないみたいにほんの小さく吹き出した。
なになに、そういう雰囲気だった?
てか、泣きながら笑ってポロポロ涙こぼれてるけど、大丈夫? ねえ大丈夫!?
「テオさんは、思い込みが激しい方ね。わたくしの言った言葉を曲解して、自己暗示をかけてらっしゃるわ」
「魔術展開、してました? 今?」
「ええ、けれど、無表情ではなくて──キリッと、大人びた風情で……」
「具体的に、どういう面してました?」
「賢そうでしたわ……もう少し未来のあなたが、しているような、大人びた、お顔……」
「ん〰〰! 落ち着いて! とりあえずお茶飲もうか!!」
背中さすっていいのかわかんねえけど、もーシェレアティアさんはパニックっぽいしできる対応しとこうぜ!!
なに、どういうこと? どういう意味? 賢そう……いつものオレは賢そうじゃない!? うわ〰〰!! オレもパニック!!
──恥っ! 恥ずかしい!! 今すぐ寮に帰りたい!!
オレも深呼吸だ、やべぇ、頭悪すぎじゃないか?
魔力暴走は未来の自分から借りてる力ってのをどう解釈したら将来のてめぇを召喚すんだよ。召還ってか演技? 無自覚の成り代わり? とんでもねえバカじゃん。
「申しわけありません、取り乱して……」
「いや、キミが泣いてるよかぜんぜんいいんで。うん。笑ってもらってるほうがいい」
「はい──」
「混ぜっ返すのもなんだけど、キミが引きずらないように一応言っときますよ。キミもオレも悪くなくて、クードも必死だったってことで、オレの治療の話は決着させましょう」
にっこりと、先輩風吹かして言ってみたらさ、オレとキミ今日はとことんミスマッチみたいできょとんって表情されちまう。
なに、今度はどうくる?
「あっ……、まだ、お話を聞いてませんのね?」
「聞いたよ、オレが人体実験されてて、漏れ出てた魔力で人助けしてたんでしょ? あと一つ、アイツの隠し事をキミから聞くことになってんだけど──」
ピクって眉が動いて、下手なこと言えねえと禁句一覧に単語を追加して、顔色ころっころ変えてるシェレアティアさんを愉快でかわいい生きものを見守る気持ちで眺めてる。
キミってさ、面白いよね。
オレの心くすぐりまくり。
「わたくし、あなたのことが大嫌いでしたのよ」
「だろうね。──それだけ?」
ありゃ今度はちょっと怪訝な顔されちゃった。
うーん、どうして怒らないのーみたいなお顔されましてもね、初対面まえに大っ嫌いされてたってそりゃおかしくねーですよ。
「魔力暴走持ちが学園トップの成績取ってるのは普通に面白くないですよね? てか、自分は入れないのにアイツは入ってるって状況で複雑な思いがないほうがおかしいですよ。マジでそれだけなんですか?」
大したことねーなぁアイツの隠し事。肩透かしもいいとこじゃん。
かえって反応に困ってると、シェレアティアさんは溜息をついてから唇を紅茶で潤した。
うん……見ちゃうんだよな……。
「話し合わなければならない内容からずいぶん逸れてしまいましたわ。そして、お兄様からあなたと相談するようにと言われていた話については──今は少し、言いたくなくて」
「あぁ、なら無理にしなくていいよ。溜め込んで抱えて、キミが潰れちゃいそうな問題だったら自白魔術使ってでも聞き出したとこだけど──気持ち的に乗り気じゃないだけなんだよね?」
「そうです──ムードが大事な話題なので」
「ムード……」
おうむ返ししちゃったや。
雰囲気ってことだよね、どういうこっちゃ?
シェレアティアさんは兄貴そっくりに微笑んで終わらせて、静かに紅茶を楽しんでいらっしゃる。
そしてカップを置いてから、オレを真っ直ぐ捉え直した。
「テオ・ソトドラムさん。シェレアティア・ルーゼンヴェルキスナールル・カサブランカについて、あなたはご興味があって?」
「あります! めちゃくちゃあります!!」
「いささか長い話になりますけれども、聞いていただけますか?」
「もちろんです!」
覚悟が滲んでやがるぜ、どうしたんだろ、なにがキミを突き動かしてる? なに教えてくれるんだろ!
シェレアティアさんはほんのわずかにてれたような動きを見せたあと、姿勢を正した。
「我がルーゼンヴェルキスナールル家は、わたくしの祖母フェリチェスカが、国外から婿を取ったことによって王家より独立しました。準王族となったお祖母様が初代当主で、引退をなさったあとはわたくしの母が家長を務めております」
クードの家が男男男で継がれるのに対して、シェレアティアさんのところは女女女って続いてくって聞いたんだよな。
……なに? じつは婿候補がいるって話をされるわけ?
「シェレアティアは一人娘。わたくしは、生まれながらに准王族としての品格と、祖母と母よりも優れた能力を求められていました」
「あっ……」
「ご存知のとおり、わたくしは不出来な子でしたわ。二歳年上の従姉であるクリスティアーナお姉様にまったく敵いません」
ごめん、ごめんごめん、なんでオレ今変なとこで声が出たよ。
クソバカ野郎、物覚えよくなって調子乗ってんじゃねーぞ!?
忘れておけばよかったじゃねーか、クードはオレに下手こかせるために“事実”を言ってたんじゃねーんだぞ。
そんな笑顔を作らせたかったんじゃないんだよ、オレってホント、どうしようもねえ。
「誤解なさらないで。わたくしはお姉様と比べられてもそれを糧にしておりましたわ。力量差を真摯に受け止め、成長するべく努力を重ねましたの。わたくしへ向けられるのが期待ではなく落胆であっても、ルーゼンヴェルキスナールル家の嫡子としての誇りがありましたから」
「小さい頃から努力家だったんだね」
「ええ。お兄様のように天才にはなれないのなら、せめて秀才にはなるべきと──しかし、六歳を目前に罹患した魔力消耗症によってわたくしの未来は潰えてしまいました」
明るく、キミは言うんだ。
シェレアティアさんは間違いなく難治性魔力欠乏症の患者だ。
だってさっき、オレの目がぶっ壊れたんじゃないんなら、砂みたいにさらさらってかすかにこの子の魔力が散っていったのを見てしまった。
なんでもかんでも自分のせい自分のせいって責めようとするところからして、この子には自己肯定感ってのがぜんぜんねえや。見かけはあるけどハリボテもいいとこ。対外的なモンがあるだけでこの子自身を守っちゃくれねえ。
「魔力制御不良もお兄様は数時間、お姉様も数日で治まったのに……わたくしは、情けないですわよね」
あぁ、また、チリッと光がこぼれちゃってるよ。
この子、どうやっていつも押しとどめてんだ?
難治性魔力欠乏症は対処療法しかなくて、薬物投与によって魔力の動き自体を鈍くさせるんだ。
だから魔術も使えなくなる。
でもこうやって魔力を持って生まれた人間としてのプライドが傷ついたら、自分に否定された魔力核が悲しくなって暴れちまう。
克服したってのはウソじゃねぇかよ。
「……昔の名残でクードが厳しいって言ってたね。そのときのせい?」
「手がつけられないほど荒れましたから。言ってはならない言葉を家族にぶつけてしまいましたの。お母様にはなぜわたくしを産んだのかと、お祖母様にはなぜお母様を健康に産んでしまったのかと、……お姉様にはあなたなんていなければよかったと、我が身かわいさにとても酷いことを叫び続けていました。お兄様には一度見捨てられておりますのよ。正式な絶縁状を突きつけられております」
なぁ、笑って話させていい話題?
止めたほうがいいのか?
けどキミは、オレが黙らせたらまた長いこと許してくれないだろうな。
んじゃあもう聞くよ、聞くけどよ、ぜってーそのぶん以上におかわいい照れ笑いにさせてやっからな。褒めてやるからちょっくら待っとけ。
嫌だと言われても褒め倒してやると決めて、貴族の絶縁のお作法に相槌を打った。
「自暴自棄になって、部屋に籠もり、絶望していたわたくしは──とある少年との出会いによって救われました」
「……初恋の相手とか?」
嫉妬が抑えられなくて不貞腐れたガキみてぇな態度になったオレに、シェレアティアさんは微笑んで、言い渋るように目を伏せた。
「自分よりも憐れで可哀想な子どもです。お祖父様に連れられていったユミチカの家であなたを見ました」
「シェレアティアさんみたいな子に会ったら、忘れないと思うんだけどなぁ──?」
予想外すぎて、素っ頓狂な返事になっちまったじゃねーか。
えっ、覚えてねえ。ぜんっぜん覚えてねえよ?
当時の記憶ほとんどないからな……魔力暴走児あるあるだけどよ、完全に記憶から欠落するわけじゃねーし、なんで覚えてねえの? オレ!
「わたくし達対面したわけではありませんことよ。ガラスの壁越しにあなたを一方的に知ったのです。独りぼっちで椅子に座っている、表情が抜け落ちた物静かな少年でしたわ」
無表情ってことは、魔術ヒュンヒュンさせてたんかね。
この子が六歳手前ってことは、元友達に怪我させて、元親に捨てられた直後だったりすんのかな。
初対面の印象、すっとこどっこいより悪かったんだ。
「テオさんは、悪意というものに馴染みがありませんのね」
「ん?」
「わたくし、お祖父様に言いましたのよ。あの子のお友達になってあげると」
「え、優しいじゃん」
「優しくなどありませんわ。あなたといればわたくしの劣等感は刺激されず、優越感に浸れるのですもの。愚かなわたくしはあなたを利用したかっただけです」
「利用、ね。そんなに可哀想だった?」
「とっても」
ほぉん──お綺麗な顔しちゃってよぉ、あー、めんどくせー!
ガキンチョお嬢様のプライドがぺぇぺぇ庶民で保てるならいいってモンだろうが、今違うんだろ? それをグチグチグチグチ……。
そういや、このルーゼンヴェルキスナールル家の紋章入りのペンダント、最近つくられたモンじゃないって話だったな。
おおーん……、なに、オレ、ペットにされそうになってたってこと?
お気に入りだったんだけどさあ、コレ、お姫様に下賜された首輪ってことかよ。へぇ~……。
「お祖父様には憐憫から生じた友情はただの施しだといさめられましたが、当時のわたくしは聞く耳を持たずに、あなたに名乗りを上げる日を指折り数えて待ちましたのよ。すると──魔力暴走が安定したのです。あのなんとも貧相で不憫な子どもを見下していれば、誇り高きシェレアティア・ルーゼンヴェルキスナールル・カサブランカでいられたと気づいたのです。わたくしは自信を取り戻しました」
悪いけどさ、キミの思いどおりにはいかないや。
怒られたいのか叱られたいのかたしなめられたいのかは知らないけど、優しくしたいとしか思わねーよ。
辛い思いしてる子を責めたりする趣味ねーんだわ。
オレ達すれ違いのまんまで、シェレアティアさんは身の上話を続けている。
「でも……そんなあなたが、お兄様とお姉様と同じく魔術大学校入学は当然の才能と知りました。学校側から規定年齢よりぜひとも早く来てほしいと乞われる人材だと──あなたは、わたくしと同じだと思っておりましたのに、テオさんは我が国にとって重要な存在で……勝手に裏切られた気持ちになったのです。消えてなくなってしまいたいと思うようになりました」
オレ、ご存知のとおりさ、気が長いほうじゃねーんだよな。
話まだまだ長いのかな。
ちんたらちんたら、てめぇのことつっつき回していじめてんの聞かされるのは、あー、つまんねえ、ぜんっぜん楽しくねえや。
立ち上がったオレはシェレアティアさんの背後に回り、肩に手を置いた。
今キミの見てるとさ、腹立ってしょうがねーんだよ。
正しいことってなんだろうね。
「テオさん──?」
「オレのせいで魔力暴走悪化しちゃったんだ。学園に入れなかったのもオレのせい。ぜんぶオレのせい。そうやってキミは自分を庇った。調べたんだけどさ、入学は九月始まり八月終わりで受験に生まれ月は関係ないよな。サラッとデマ混ぜるんだねキミ」
「あなたのせいで、入学試験さえ受けさせてもらえませんでしたもの」
「そりゃー、キミを大事に思ってる家族はオレに近づかせたくないよね。オレのせいで、キミが死んだりしたらとんでもないよ」
「……なにをなさっていますの? テオさん?」
「ちょっと、魔力制御」
知らねーよ、吹っかけられた喧嘩は買うことにしてるんだ。
でも、思い詰めて自滅したがってるキミの思うようにはさせないよ。
なーにがしたいんだお姫様、てめぇの安全顧みましょうよ。
「応急処置です、綻びからチラッチラチラッチラ魔力が漏れてたから目障りで。オレから作られた薬なら、キミを守れなくてなんだってんだよなあ?」
覆らない過去の話だ。
今のこの子は自力で学園まで辿り着いてる。親御さんもお祖父さんお祖母さんもオッケーしてるってことで、大丈夫ってことにしとこうや。
あーあ、振り向せないように女の子の肩掴んじゃってるよ。
だってさあ、なにしくさってんだって話になるじゃん?
根本原因てめぇかよって、傍にいられなくなる。
「あなたって本当にすごい方──こんなに体が軽いの、子どものとき以来だわ……。テオさん……、わたくし、神様に愛されていると感じた日をよく覚えておりましてよ」
「神様……?」
「わたくしに健康を保てる術を授けてくださった、海のように広大な魔力と愛情を持つ滅私奉公の御方。わたくしの人生を変えた贈りものが届いたのは、一二歳を迎える春でした。その魔力増補剤の開発に多大な貢献をされた方は大変素晴らしい人格者だと聞き及んで──わたくしの意識はライバル視をしていた少年から一気に移っていったのです」
「いいことじゃん──? でもさ、どこのどいつがそんなでたらめ」
「わたくしのお祖母様ですわ!」
「へぇ……」
そのっ、そのさあ! 『ふふふふっ』みてーなコショコショくすぐってくるむず痒い笑い方しないでほしいんですよね!
てか、おい、キミっ、淑女だろ!!
なんで、オレの手に──キミのお手々、重ねてんの……?
「ねえ──、先ほど、わたくしの初恋を気にされる発言をなさいましたね。そうした感情が芽生えていたとしたら、恩人に対する憧憬が非常に似通っているものでしたわ」
「──スイマセン、こんなヤツで」
いやー! いやー!!
キミのお祖母様もさ、予想外だっただろうね! 男子禁制の学校に魔術科新設しちゃってさ、ぜったい編入させる気なかったじゃん。オレと鉢合わせしないように超念入りだったんじゃん!
魔力を保有する者として魔力がいかがなものかを知ることは義務だけど、キミは魔術が使えないから初歩の教えだけで充分だったってことなんだろうね。
──ね、本気でやめろよ。ほっぺたすりってすんのは許されることじゃねーぞ準王女殿下!!
「ええっと……神様と、にっくき少年が同一人物だって知ったの、いつですか?」
「わたくしの一四歳の誕生日に。あなたの魔力が人為的に流出させられていたと知ったのは、あなたと初めてお話しした日の晩よ。真実はどちらもお姉様から教わりました」
「クードじゃないの?!」
「ええ! お姉様はあなたという人を誰よりも早く一個人として見ていた方だったもの。編入試験を受けられる学年を目前に高揚していたわたくしに釘を刺したのです。『シェレアティア、あなたが今こうしてケーキを食べてお茶を飲めているのはどなたの犠牲の上にあるか知っていて?』と」
暴露したの、てっきりクードだと思ってたけど、そうなんだ──クリスティアーナ様が。
言わずにはいられなかったんだろうな、この子、無事編入できたらオレにツンケンせずにはいられなかったんだろうし、可能性摘んどきたかったんだろうな。
オレはその大恩人の妹さんを危険な目に遭わすふてぇ野郎なんですよねえ……!
「あなたの魔力によって救われていたのに、あなたを長年逆恨みしていて──もう、恥ずかしくて恥ずかしくて……、それ以来、夢を見るようになりました」
「どんな──?」
「安心して、心穏やかなものばかりよ。小さなわたくし達が無邪気に遊んでいたり、文通をしていたり、テオさんとわたくしが語り合う姿でした。後悔が形になったものでしたけれど、現実にするにはどうすべきかを深く考えさせられましたの」
丁寧に促されてまたオレは席に着いた。
そっちはかなりゆとりがあってよろしいことですけど、こっちはハチャメチャに混乱してきたぜ?
まさかの、運命の出会い計画シェレアティアさん立案の可能性。
えっ……やめようよぉそういうのお! 簡単に期待しちゃうからマジやめて。
男は単純なんです──好きな子にニコッてされたら勘違いしちゃうんです。
こっちはなあ、キミが好きで好きで大好きだけどハンカチ噛み締めて結婚のお祝いしねーとなんねー立場なんだぜ!?
あぁまったくもう!!
「お忙しいお顔。もっと困らせて差し上げますわね。これを、お受け取りになって」
「お手紙……?」
まだ受け取んねーぞ、鞄から出された淡いグリーンの封筒が百合の葉っぱの色~ってつい思わず触りそうになったけど、既の所でセーフにした。
「わたくしのお誕生日会の招待状です。今月末夏休みに入ってからですけれど、我が邸で行われますわ。身内だけの小さな会ですから来ていただけませんこと?」
「キミの身内って──国王陛下とか、来たりする?」
「わたくしの父母、祖父母、お姉様のご一家、お兄様のご一家もいらっしゃいますけれどごくごく身内ですわ」
「お祝いしたい気持ちはあるよ、けど、オレ庶民だからそんな席には行けない」
「いいえ、あなたは出席する義務がありましてよ」
「義務……?」
「ロゼフディロールの小父様がテオさんにお会いしたいのですって。御子息のご友人がどんな方なのか気になっておいでですのよ」
「ほーん……そっか……わかった、行く……」
ちょっくら趣向を変えた出頭命令ってとこだな。
オッケーオッケー、気合い入れて行くわ。国王陛下から直々に面貸せって言われたら行くしかねーじゃん……!
とりあえずなにが必要なのか、お召しもの買わないとな。もう先輩卒業しちまうから借りられないしさ。貯金はあるんだぜ……!!
予定を頭に叩き込んでいたオレは、唇をツンと尖らせてるつまんなそうな女の子を見つけちまった。
──キミに出会ってオレさ、ロクでもない感情ばっか覚えてくよ。
「わたくしのお誕生日会でしてよ。わたくしのために来てくださいな」
「うん──」
「それと、編入のお祝いの品、まだ受け取っていませんわ。ご用意してくださったのでしょう?」
「あれは……っ! キミが逃げてたんじゃん……!」
「明日はお休みですから、来週いただける?」
「いやっ、その……この国の貴族のルールをど忘れしたときに買ったんで──」
「構わなくてよ。わたくしに贈りたくて選んでくださったのでしょう?」
「構いますから!! もぉお、困らせないでください……! もー! 帰りますよ!!」
シフィロソキア王国はなあ、みだらにプレゼントのやり取りしねーから! 貴族はとくに婚約関係にないとしねーんだってキミはちゃんとしやがれよな!?
キミは知っててオレを困らせる!
逃げるが勝ちだと立ち上がったが、空間の歪みを察知して咄嗟にシェレアティアさんの周囲に魔力壁を張っていた。
んでも先に張られてたのはそこじゃなくてさ、ガゼボの内側と外側が、完全に別世界になっていた。
「ごめん……夜だ……」
「え? あら──っ! まあ! 空の色がぜんぜん違いますわ……」
「ごめんっ、迎え来てるよね?」
懐中時計を見て驚愕だ、夕食の時間に差しかかってやがる。
空、夕焼けのまんまだったしてっきりまだ余裕があると思ってたのによお!
「キミに帰りの時間意識してほしくなかったんかなあ……? あー、やっちまったあ……」
魔術が解かれれば辺り一面真っ暗で、しょうがねえ、しょうがねえから……っていう言いわけで、シェレアティアさん転ばせたら大変だから、昨日貰ったハンカチじゃねえけどお手々包み込ませてもらうぜ。
「テオさんっ」
「馬車の乗降場まで送る、急ごう」
「いいです、わたくし一人で……学校の敷地内ですし……」
「いいから、行きますよ」
「遠慮しているのかしていないのか、わからない方……あなたの本心が見えないわ」
「本心?」
「殿方がなにを考えているかわかりません。テオさんは奇々怪々ですわね」
「そりゃどうも……」
直接触るのはダメだけど布噛ませたらいいだろうとか、自分の基準作っちまってるんですよこっちはな。
どーせろくでもないっす、あー、お年頃……。
というわけでオレは口を開かないようにしてエスコートモドキしながら好きな子のお手々引くわけさ。
シェレアティアさんも黙っちゃって、ぽうっと地面照らしている魔術で出したランタンのほうだけ向いていた。
馬車は目前ってとこで、シェレアティアさんは立ち止まってオレの鞄を引いた。
「どした?」
「なぜわたくしの誕生日会に招待されたのか、お友達に相談をして、正確な答えをお求めになってね」
オレ一人じゃ回答すんのは無理ってこと?
キミ、なかなかオレをムッとさせんの得意じゃん。
シェレアティアさんはなんでかハンカチをオレの鞄に結びつけると蝶々みてーにひらっと動いて、オレのペンダントを手に取った。
おい、だから距離が近ぇっての!
「パーティーにいらっしゃるときには手袋をしていらして」
「了解です」
「来週も、再来週も、あなたからの贈りものを楽しみにしていましてよ」
「ういっす──はい! わかりましたあ!!」
「結構です。ごきげんよう」
オレの肩にまで頭届かねえちっせえ子がさあ、見上げてくるとさあ、上目遣いになっちゃうからそんなかわいい面拝ませないでくださいませんか!
あー……、本気でどうにかしないといけない。
年下の女の子に振り回されて喜んでるの、取り返しがつかなくなっちまう。
ご閲覧ありがとうございました
もう少しドタバタしながら完結に向かいます
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