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無力だった子どもの真実



 今朝の目覚めはまあまあよかった。

 庭師のじいさんに貰った植木鉢に水魔術で朝ご飯をやって、ご機嫌に部屋を出た。

 しかしまあ、次から次に悩みってのは出てくるもんでよ。

 単純バカのオレはモヤモヤを抱える技術は習得しきれてないんだわ。


「あれ、テオ。どうしたんだい?」

「ちょっとな。ステフに聞きたいことがあって」


 授業は三時間目からだしダラダラ飯食っててもよかったんだが、どうにも食堂にいづらくなって早くに抜けてきた。

 自力で解消しきれなくてよお、新寮監督生として忙しく動き回ってる友達の隙間時間を狙わせてもらった。

 集合時間に余裕を持って動く優等生相手だからできるよろしくねー行動だな。

 このあと会議だっつってた。悪いちょっと相談乗ってくれ。


「どうしたの? またなにか思い詰めてる?」

「……メルクがさ、昨日からちょっと変じゃん? オレなにかしちゃったのか聞きたくて」

「あぁ──」


 一月に一度の食堂の席替え、七月と、夏休みに入る八月は右隣が六年寮生内で一番優しい雰囲気のメルク──メルクル・ウッドだった。

 昨日の朝飯は和やかーに食ってたのに昨夜からやけにピリピリしてて、幼馴染み二人がみょーにオレに向けて気まずそうな視線寄越してくんだよな。

 あの、オレに対して無愛想極まってたサミヤス・ロッテンヤンすら神妙でさ!

 シェレアティアさん来訪のあとにちょこっとロッテンヤンと話したって報告してもスルー気味だったメルクは、だいぶ様子がおかしいんだ。

 これまでのオレだったら本人に直接聞いちまってたけど、困ったときのステファン・グレグリーってわけで尋ねにきた。


「今はそっとしておいてあげてほしい」

「了解。……なに驚いてんだよ?」

「理由を追及しないんだね?」

「誰にだって内緒にしておきたい事情はあるだろ」


 そう答えると感心したように目を細めるステフは、階段を上がる音に開きかけた口を閉じた。

 視線を向けると、メルクの用心棒の一人、フレデリック・サーマナが来たところだった。

 二人の間に無言のやり取り発生。ステフは頷いてオレに向き直った。


「メルーのコンプレックスをテオが刺激してしまったんだ」

「コンプレックス……?」


 オレが? なにを?

 原因がオレならやっぱ内容を知りたいけど、今聞かないって言ったばっかだし、うーん、どうしよう……。

 唸らないように眉間に皺を寄せるだけで我慢してると、ステフは窓辺に背を預けた。


「身長だよ」

「身長?」

「テオは背が高いよね。六フィート四インチもあるって聞いて驚いた」

「まあ、欠食児童のわりにはデカくなったよな」


 食っても食っても腹が減てる量が足りてなかってのによく育ったもんだ。

 部屋の中に入っていった寮生でオレの次に背の高い男に納得いかない気持ちがあるにはあったが、不満を出さずに考えてみる。

 昨日、オレ、シェレアティアさん担いで走ったな。

 シェレアティアさんとメルクってあんま背の高さ変わらねえんだ。たぶんメルクは五フィート一インチくらい。

 オレに担がれるかもしれないからゾッとしたとか?

 いや、シェレアティアさんしか持ち上げねーし。


「メルーは背が低いのを気にしててね……その件で、結婚の話が出ている女性と近々トラブルに発展しそうなんだ」

「メルクを追いかけてきた五年生の女の子と? ステフ……?」

「君は『背なんて低くてもメルクはいいヤツだよ』なんて言うのかもしれないけれど、その言葉を本人に告げてはならないよ。誰しもが他人では想像できない悩みを抱えているものだ」

「ああ、わかってる。てかおまえはどうしたん? なんでそんなへこんでんの?」

「僕が助言できる分野ではないだろう? 的外れなことを言うからね──今後も友達の力になれない自分が悔しいんだ」


 オイオイおまえが無力感に襲われんなよ。

 誰にだって苦手なことはあるって。オレが知らない約六年でさんざん山ほど文句言われてきたんだな?

 恋のご相談はおまえにはすんなって周りからも言われてるけどよお……。

 ごめんっ、でもオレおまえのおかげで寮生活順調なんだ!


「落ち込ませてしまったね。僕のことより君の魔導士課程進学に関わる研究課題だよ。クオジドォール王太子殿下にご相談するんだってね」

「おう。でもさ、どうやって聞き出そうかなって」

「研究というものは自ら答えを探し求め、新たな世界に己を導くために行うものだよ。君のしたいことが一番だ。テオはこれまで『知らない』『教えて』と言ったら答えてもらえる環境にあったけど、これから選ぶ道は『知りたい』『見つけたい』という積極性、すなわち、君の意思が重要になる」


 昨日の出来事で気づけたのは、オレって一年の頃からずっと、自分の存在価値を知りたかったってことだった。

 クードとクリスティアーナ様の役に立ちたいって延々言っててさ、今は自分自身に関わる魔力暴走の知識とてめぇの能力がわかってきて、もっともっと、違う形で自分の真価ってのを発揮したいと思ってる。


「王太子殿下は君の絶対的な味方だけど、その優しさにいつまでも甘えていてはいけないよ。そして、場当たり的な発言は本来不敬に当たるから、よくよく考えてからものを言うんだ」


 あの大食堂でのやべぇ発言、ステフ、考えに考えて聞いてくれたんだよな。

 それこそ、グレグリー家から追放されてでもオレの健康をクードが損ねてるんじゃねーかって確かめるべきだと判断して実行した。あのあとサラッと王太子様と談笑してて腰抜かすとこだったよ。

 オレが雷落として魔力制御がなんとかなるまであのヘンテコな装置を持ち続けたし、感謝してもしきれねえオレの友達に、もうちょっとだけ頼ってもいいのかな。


「失敗できねえんだ。どうまとめりゃいいのかな?」

「僕ならペンを走らせるかな。要点を書き出して内容を整理するんだ。伝えたいことを簡潔に並べてみるといい」

「おう、やってみる。普通の会話じゃねーもんな──うしっ!」

「また必要な資料があったら遠慮なく言ってね。図書館に探しにいこう。じゃあ、健闘を祈るよ」

「サンキュ! あんがとなー! 会議がんばれよ!」


 ステフを見送って部屋の鍵を開けたところで、バッタリつーか、授業に向かうサーマナと再度遭遇。

 さっきの意思疎通っぷりが羨ましくてオレも頷いてみると、フッ……と笑って頷き返してもらえた。

 集団生活、大変だけど面白えや。


     §


 三時間目同じ授業を取ってたクードに、急遽入った予定。

 たまーにコイツ、どっか行っちまうんだよな。

 しょうがねえから飯食って改めて再挑戦。

 護衛のお兄さん達に挨拶して執務室に通してもらうと、ソファに座る王子様、威圧感マシマシ。


「やあ、テオ。よく来てくれた」

「用事は終わったのか?」

「ああ、じつにいい知らせを聞いたよ。さて──私が君に聞かされるのも朗報かな?」


 コイツにいつまでも頼ってちゃいけねえ。

 なんでもかんでも知ってやがって、黙ったり隠したりわざと邪魔したりするのにもすべて意味があるクオジドォール王太子殿下は、ある意味、オレの最強の敵。


「クード、オレは魔導士になる。魔力暴走で苦しむ子どもを救いたいからだ。そのためにも魔導士課程に進みたい。もしおまえが今先生達の頭抑えてんならやめてくんないか?」

「魔導士課程でなくても君が求める研究はできると思うが?」

「ああ、けど、最短距離を進みたいからランドルーヴェ魔術大学院の魔導士課程に行きたいんだ」


 オレは、オレの能力が普通ではないことを同級生達と話すことで知る。

 こうやって手の平の上に目の前の男の魔力核を模したものを浮かび上がらせるのは、友達にドン引きされるヤバくて頭おかしい行為だそうだ。

 魔力核に触れる、しかも人のモンを平気でいじろうと物体化すんのはマジで気が狂ってる所業だそうでさ。複製なんだけどなコレ。

 発動展開のヤツの感覚としては生理的に無理ってヤツらしい。

 クードは……、すんげえ喜んでるよ。


「ほう──それが君が編み出した魔力核の再現魔術か」

「魔力を司る魔力核が目に見えたら、格段にコントロールがしやすくなると思うんだ。魔力暴走の治療に使えるんじゃないかって思ってる」


 にしてもお耳が早いことで。

 つかコイツの魔力核は教科書どおりの完璧な菱形してんのな。魔力が周りを歪みのないまん丸で覆ってて、これぞ正しい姿って感じだ。

 説得用に再復習した数を間違えないように、オレはぐっと足の裏に力を込めた。


「でも、これをオレだけができても意味がない。シフィロソキア王国で魔力制御不良が一週間続く子どもは一〇〇人に一人。その内の三割から四割が魔力消耗症と診断されて一月辛い思いをしてるし、一年半以上魔力暴走に苦しんじまう子の数は調査できているだけでも毎年五人はいる。この数は貴族だけの調査で庶民にまで広めたらもっといるはずだ。オレは全員を救いたい。難治性魔力欠乏症になるまえに腹減らねえ生活を送らせてやりたい。けどオレの体は一つしかないんだ」


 同級生達が貸してくれた本の中に偉人伝のシリーズがあった。医療魔術を貴族の特権治療から平民も受けられるように広めた第五代魔導士の言葉がさ、ようやくカチってハマったんだ。

 突出した才能を持った人間がたった一人いても、その能力を活用できなきゃ意味がねーし、一代限りじゃなくて後世に残すには正しく広く多くの人間に伝える方法を築き上げないとなんねーの。


「感覚的に受け入れにくいっぽいから安全基準だってしっかり設けて、国から認められる治療法を確立させたい。魔導士課程学生の研究プロジェクトは国が支援してほぼ全額負担してくれるだろ? オレは苦しんでる全員に治療を行き渡らせたいんだ。人材を育成するには資金が必要で、研究するにも金が必要。だけどぜったいに妥協したくないから、おまえの理解を得たい。協力してほしい」

「王太子を財布代わりにするつもりかい?」

「国が財源になってくれるような、価値のある研究をしたいってことだ。在学中、あと一年だけど、オレがこの国にとって重要な人間だって証明する」


 大丈夫かオレ……大口叩いてるけど大丈夫かな……?

 支離滅裂になってきてねーかな、カネカネ言ってるけど下品じゃねーかな?

 言いたいことはたぶん言えたと思うけど、クードの表情が読めねえや。成功か失敗かわっかんねえ。


「テオ」

「……なんだよ」

「座りたまえ。いつまで立っているのかな?」

「邪魔しますっ!」


 ズドンと向かいのふかふかな応接セットに腰掛けると、クードは足を組んで、珍しく黙って考え込んだ。

 どしたんだ? そんなまずいこと言った?


「研究論文はなにを書くつもりだい?」

「魔力核複製について書きたいけど資料が集まらないし、天候操作魔術のほうがいいかなって。やりたいのは魔力暴走のほうだけど時間がねえ」


 この顔は、最適を選んでる。

 押しとくか? 今すぐユミチカの家でやらせてくれって。

 けどなあ、安全も大事なんだよなあ! なにがどうなるか不確定要素いっぱいなのが魔力暴走だもんよ。


「君は、目標ではなく手段の一つとして大学院を使うということだね?」

「いや……魔導士になりたいはなりたいよ」

「なぜ?」

「おまえの妹さんに、惚れてるから」

「ほう──」


 めっちゃ喜ぶねおまえ。

 こちとら庶民だぞ!


「あの子が結婚してもさ、謁見くらいできるようになりたいし」


 あ、ちょっと機嫌損ねた。

 えー? えーっと、いやでもさ、そこまで高望みはしねーよオレ?


「それに、卒業後だっておまえと友達でいたいじゃん! 欲張りになったんだ! 欲しいものぜんぶ手に入れる。それには魔導士課程に進むしかない。以上だ!」


 言いきると、クードはなぜか、ちょっと寂しそうな顔をした。

 動く気にならないのはいいよ、んでもさ、魔法で紅茶は淹れないでほしいかな。飲むけど……いや飲みますけど。

 どうしたコイツ、今日はやけにセンチメンタルじゃん。


「私はねテオ、君に大きな隠し事を三つもしているよ」

「ふうん」


 砂糖を四杯入れると、クードもホントに珍しく砂糖プラスミルクまで入れた。

 言いにくいことを言おうとしてるんだな?

 コイツにそんなモンあったんだねぇ。


「まず一つは、君が装着している制御具についてだよ。三種類支給されているものを君は全種類つけているね」

「うん、そだよ」

「内二つは用途が異なり、とある目的のためにつけさせている装置だ」

「人体実験?」

「そのとおり」


 おおう……おまえですら良心が痛むえげつないことしてんのか。

 オレが三色の石つきの制御具をつけ始めたのは学園に入る直前だったかな。

 コイツってなんでも準備できんだな。


「赤い石のものは、君の体調や魔力波形を随時計測している。なんのためだろうね?」

「なんのため……オレのデータを取る用……? ──論文用か!?」

「ご名答! すぐに聞き返すのではなくまずは自分で考えるようになったのだね!」


 拍手までしてくれるとこ申しわけねーけど、普通に初等部レベルだかんな。

 オレ今一七歳だ、秋には一八になるんだぜ……。


「魔力暴走の症状の一つに激しい飢餓感があるだろう? だがなぜ魔力制御不良によって空腹に苦しむのか、因果関係を証明するのは難しかった。研究機関は人から取れる数値が欲しいのだが、幼い子どもに絶命に至るまでの飢えを体験させることはそうできることではない」

「そりゃそうだ。人はみんな命を守られる権利を持ってる。貴族も、平民も。オレにはないってか?」

「ああ、そうだね、ないと言えばないかな。君は生みの親に捨てられている。名前を失くした少年は我が国の実験用ネズミなのだ」


 ぶっこんでくんなー。

 てかマジで、オレの名前ってテオ・ソトドラムじゃなかったんだ。


「君に対して保護責任があった者は、君への処遇に一切の抗議や糾弾をしないという契約書にサインをした。保護者の義務を放棄する代わりにその子どもの人生に関与しない条件を喜んで呑んだそうだよ。よほど魔力暴走児の君が疎ましく恐ろしかったのだろうね」

「人身売買になってないだろうな」

「もちろん、抜かりなく手続きは行われた」


 だろうね。

 つか、末恐ろしい八歳児だな。すんげえなあ、そこまでやるのか王太子……。

 でも納得。

 おまえ、オレに魔導士課程進ませたかったっぽいし、本人の希望そっちのけで準備してたってわけか。


「ここで食わせてもらってた料理、腹持ちがかなりよかったんだ。魔力増補剤とか安定剤とか入れてたか? 寮でもなんか混入してたな? いい数値取れたんだろーな?」

「非常に有用なデータだよ。対照実験の資料としても活用できる。一般的な魔力量の同年齢の少年と比較できる素晴らしいものだ。これで一本論文が書けるはずだったのだが──、君自身が行いたいことを見つけられて私はとても嬉しいよ。ぜひとも君のやりたい研究をやってみるといい」

「赤い石で取ったデータさ、おまえがいいとこに投げておいてくれるか?」

「すでに研究機関とは共有しているよ」

「さっすがー」


 マジでコイツ同い年かよ、国のトップに立つ男は違うねえ。

 さてさてそんなクード様だけど、次も言いたくなさそうじゃん?

 おまえよっぽどヤバいこと隠してんのな、てめぇがロコツに挙動不審気味になってんの、空から砲弾が降ってくるってか? 


「二つ目は? この白い石はなにに使われてたんだよ?」

「難治性魔力欠乏症の患者の治療薬を製造するために、漏れ出る君の魔力を転送させていた」

「転送……?」

「君に適切な治療を受けさせなかったのはね、君一人の犠牲によって多くの命を救えたからだよ」


 軽く聞いた質問に強ばった声で答えられて、オレからも余裕が失くなってしまった。

 カップの水面を波立たせないように、できるかぎり音を立てないように、静かにソーサーに置いたつもりだった。しかしカチャンという食器の音がやけに軽薄に響いた。

 クードは立ち上がり、執務机にしまっていた小冊子を寄越してくる。

 銀行の通帳だ。


「これは、君の健康を害することによって救われていた子ども達の親が、魔力提供者への謝礼を研究機関に寄付した金額の一部と、我が国の医療の発展に寄与した偉大なる魔術師への報奨金だ。テオ・ソトドラム、受け取りたまえ」


 珍しく眉毛下がっちまってさあ、なに、後悔してんの?

 こういうとき、おまえに合わせて難しい顔すれば正解なんかな。

 オレが言ったんだぞ、てめぇをちゃんと使えるヤツに操縦してほしいって。

 すげえじゃん、無駄になるだけだった流出魔力の再利用までしてくれて、しかもそれが人の役に立ってたなんて……え……。


「なんだこの……っ、とんでもない額!!」

「君の命を削ることによって多くの者を救済したのだ。これでも少ないくらいだよ」

「いやいやいや、個人で持ってていい金額じゃないって! 国家予算並みじゃねーの!?」

「いずれ必要になる資金だよ」

「研究に使えってか……?」

「大事に取っておくといい。額が額だから口外はしないようにね」

「おー……」


 人生二、三周しねーと使いきれない額の一部でもお小遣いに回せてたらなって思うけど、ま、クードが今の今まで黙ってたのには相応の理由があるわけだ。

 オレの利用価値を知ってる男が、ダチの空腹と引き換えにしてでも欲しかったもの。

 向かいに座り直した王子様がまーだもにょってるから、もういい加減あきてきたし笑ってやった。


「今さらおまえの評価は変わらねえよ。早く言えば?」

「君に健やかで楽しい学園生活をいくらでも提案できた私は、適切な助言をすることがなかった。私の妹の命のほうが大事だったからだ」

「うん」

「君が空腹にあえいでくれたからシェレアティアは生きている。君の尊い犠牲によって我が妹は元気になった。感謝しているよ」

「自己肯定感が魔力暴走を治す重要な鍵だしさ、なにが原因で大事な資源が枯れるかわかんない。おまえの判断はいつも正しいんだ」

「裏切られたとは思わないのかい? 君の不安定さを私やクリスティナはあえて放置していたのだよ」

「王族って大変だなって気分。黙ってたのも辛かっただろ」


 いやいやそこまで驚くなって。

 そりゃおまえの思惑はさ、オレを人間扱いしてなかったかもしれない。

 でも兵器よかよっぽどいいじゃねーか。

 テオ・ソトドラムの魔力暴走が巡り巡って好きな子の命を救ってたとか、どんな英雄譚だって。


「よく隠してたよな~。クリスティアーナ様も辛かったんじゃないのか?」

「何度か泣かせてしまったよ」

「わりとおまえもしんどかったんだ? お疲れさん、ちょっとは肩の荷下りたか?」

「──ああ。君が立派に成長してくれて、私は改めて確信したよ」

「なにを?」


 オレの保護者面しまくりの同級生は、三つ目の秘密は明かさずに紅茶をたしなんでいる。

 いや、言えよ、優雅に茶しばいてないで言えよ。


「そう焦るものではない。最後の一つはティアから聞くべきだ」

「あの子に関係してることなのか?」

「大いにね。テオ、私の妹はわがままで、幼い頃からその立場に悩み苦しんできた。あの子の言葉を否定せず、どうか受け入れてあげてほしい」

「なんでもハイハイって頷くのはやめたんだ。いくらてめぇの頼みでも無理だな」


 ガッツリお断り申し上げると、王太子殿下は目をみはって、超超満面の笑みになる。

 オレだってなー、いつまでもてめぇに従ってばっかじゃねーんだぞ!

 将来王様になる友達と対等で健全な友情を保つためにはさ、オレのおつむでも考えるのも重要なわけよ。

 そりゃおまえはいつだって正しかったけど、これからずーっと正しいかは不確定なんだしさ。

 てかマジでキランキランに喜んでるのな。

 おまえもよくわかんねえ男だよ。でもま、オレに頼られるのが嬉しいのは知ってんだぜお人好し野郎。


「兄貴の気持ちはちゃんと聞いた。あの子の話も真剣に聞くし、ぜってえ無理させないってのは誓うから。けど、オレがどう感じるかまではおまえにも制限できねーぞ」

「あぁ、テオ──君は空高く飛翔していくのだね」


 雷落としのソトドラムだから落下するほうが得意だけどな。

 ここで運命の恋の予言を聞いたのも三ヶ月まえか。

 オレの人生を変えた三ヶ月だったな。


「テオ。私の名前でガゼボを予約してある」

「あの、裏庭にある鳥籠みたいなやつか」

「ティアには午後の講義は休むようにと兄命令で申し渡しているからすでに待っていることだろう。行ってあげてくれ」

「ほいよ。つかさ、おまえからもあんま無茶しないように言っとけよ。あの子ちょっと詰め込みすぎ」

「注意はしているさ。だが素直に聞いてくれる性質ではないのでね、苦労している」


 やれやれって顔してるおまえ、兄貴だねぇ~。

 自分を劣等生とか言っちゃう子だもんな、編入試験受かったバリバリの秀才なのにもどかしいよな。

 あの子ホントにすごい子なんだけど、オレはもう知ってる。

『オレなんかよりずっとすごい』って、あの子にも、友達にも、テオ・ソトドラム(つねに成績最上位)が言っちゃいけない。

 自認に反してオレは入学当初から最優秀で、オレがてめぇを下げるのは許されるこっちゃないんだよ。

 最終的に、やっぱどうしたって完全味方なヤツに見送られて、オレは次なる試練に挑みに向かった。


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