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少年の女性になる暴走



 根性とか気合いとかそういうの、たんまり準備したってよぉ。


「シェレアティアさん!」

「急いでいますので……ごきげんよう」


 目を伏せてそう言われちゃあ引くしかない。

 しかも周りにいる貴族の女の子が『しつこいわねこの上級生』みてーに見てくるからやべぇしんどい。

 シェレアティアさんが編入してきて一週間。

 オレはまともに話しかけられずに全戦全敗、避けられまくってる。


「また言えねーじゃん……」


 編入おめでとうすらちゃんと伝えられてない。

 なぜロコツに距離を取られてんのか納得がいかないが、今度もまた女子の集団の背中を見送るのだ。

 四年生への編入生は、元いた自分の魔法学校の中級一年のカリキュラムを前倒しで完了させてからやって来る。単位の取得は前期から入ってるなら後期から、後期の子は五年生からが通常らしい。

 んでもシェレアティアさんの元いた学校は学園との相互性ってのがないらしく、入るまえも入ったあとも山ほど課題を抱えることによってギリギリセーフで入学を許可されているそうなのだ。

 これはクリスティアーナ様情報だから確かなモンで、かなり心配。

 あの子ぜってえ無茶するだろ。


「あぁもうどうすっかなあ!」


 シェレアティアさんが努力家なのは知ってるし、ハチャメチャに美少女なのは誰もが認めるところでよォ、しかも女学院出身ときてる。

 バリバリに負けず嫌いな一面は鳴りを潜めて切なくなるような儚さがあるから、いっつも数人の女子生徒に囲まれててやりにくいったらありゃしねえ。

 こちとら勇気出して異性の後輩の中心にいる子に向かうんだが、毎度毎度最後は追い払われてベコベコよ。


「また悲しそうだった……」


 嫌われてるんじゃなさそうだ。

 目を合わせてくれないわけじゃないし、もの言いたげって様子で逃げていく。

 手をこまねくしかないオレには、ペンダントだけが心の支えになっていた。


     §


 とうとうお上品な女の子達から睨まれるようになってしまったテオ・ソトドラム(しつこデカキモ野郎)は、好きな子をつけ狙うふてぇ男に成り下がった。

 ここは本校舎中央棟二階の廊下、大きく取られた窓からは裏庭に置かれたベンチでシェレアティアさんがお友達とおしゃべりしてるところがよく見える。

 上からじぃっと眺めてるオレ、マジ不審者。

 けどよぉもう近寄れねえし、七月に入って試験も軒並み結果がわかって後期も来週で終わりだぜ。夏休みに入ったらあの子に会えなくなっちまう。

 好きな子に振られまくりのオレは滑稽なからかい対象で、あの子の情報が着々と集まってきていた。近くにはいけないけど絶好のロケーションを確保して見つめてるオレ、いじらしいよな。

 いや、ンなことねーわ。普通に引く。


「テオさん、こちらにいましたの」

「難航しているね」

「クード、クリスティアーナ様……」


 人気のない廊下にザ・ロイヤルな二人がそろってやって来た。

 おいおい校内で並んでるのなんてこれまでほとんどなかったぜ?

 シェレアティアさん効果すげえのな、そこまでオレ憐れかねえ。


「すいません……あの、こうするしかあの子の姿見れなくなっちゃって」


 シェレアティアさんのお姉様に弁解すると、クリスティアーナ様は未練がましく首に提げてるペンダントに優しく微笑まれた。


「会話をするとテオさんに突き返されるのではないかと恐れているだけです。かえって申しわけないですわ」

「いえ……。自分で返せって言ったのに、女の子って、気まぐれですね」

「それでもテオさんはティアを見捨てないでいてくださいます。ありがとうございます」

「感謝されることでもないんで……」


 本人じゃないのに謝罪もお礼も違うよな。

 てかよぉ、ていうかよぉ、元凶がニコニコしてやがんのがイラつくんだわ。


「クード、おまえ、さらに引っ掻き回したりしてねえよな?」

「していないよ。拗れさせたいわけではないからね。二人には素直になってほしいだけだ」


 どうだかな。マジコイツの考えってロクなモンじゃねーし。

 やっぱ妹に対するスタンスが二人はかなり違いそうだ。クードはシェレアティアさんに辛辣くさい。クリスティアーナ様も厳しいけど愛があるんだよ。


「テオ。私はティアを嫌っているのではないよ。あの子は準王族、有事には私の代わりを務めなければならない。必然的に優しく諭すだけでは不足するのだ」

「にしたって、クリスティアーナ様と──あ、クリスティアーナ様も、準王族になる身分だったんじゃないんですか?」


 イトコってことは親同士がきょうだいなんだよな。

 なのにクリスティアーナ様は王国史入門の家系図に載ってなかったんだ。

 なんでなんだ?

 思い出したら膨れ上がる謎に、二人は『今さら?』みたいに顔を見合わせてる。

 すんませんね!

 いやあけど二人が仲よしなのは嬉しいよ。


「もしもの世であれば、クリスティナが準王族になり、ティアが私の婚約者になっていた可能性もあったのだよ」

「そうなのか!?」

「すべては巡り合わせだ。クリスティナのお母上はティアの母親の妹に当たる。だから本来であれば二人とも準王族になり、私と婚約することはなかった」


 頼む、地頭はな、魔力暴走が収まったってよくはなんねーのよ。

 家系図、家系図をくれ。

 がんばって理解したいからゆっくりしゃべってくれ。


「わたくしの母エメレーヌは生まれつき体が弱いためにエディケープル家の養女になりました。準王族の役目を果たせないからです。べつの家の子どもになったので教科書の王家の家系図にはエメレーヌもクリスティアーナも載らないのですわ」

「あぁ! じゃあ、クリスティアーナ様は血筋的には王族に近いけど、おうち的には遠いってことですか」

「そのとおりです」


 ありがてぇこっちゃなあ!

 親切に、わかりやすく、噛み砕いて教えてくれるとこ、優しいって言葉じゃ足りねえのよ。

 そっかあ、要はクリスティアーナ様のお母さんとシェレアティアさんのお母さんの健康が逆だったらその娘さんの立場も逆だったかもってことだよな。

 確かにそりゃあもしもの世界だ。


「ん? あれ、でも、家族名……クリスティアーナ様のお母様は結婚してないんですか……?」

「嫡男であった父が母に一目出会って恋に落ち、想いを寄せ続けて夫婦になったのですわ。わたくしの母は婚前からエディケープルで、結婚したあともエディケープルです。両親はいずれもわたくしのお祖父様お祖母様の息子で娘のままですのよ」

「ほーん……」


 処理能力ちょっと落ちちゃったぞ。

 クリスティアーナ様のお父様が恋に情熱的なタイプってことだな? お母様が絆されたのか最初っから惚れてたのかは知らねえけど、話してる感じ、どうやら恋愛結婚っぽい。

 へぇ、クードの未来の義両親は恋愛結婚推奨派ってこったな。


「エディケープルの先代当主であるクリスティナのお祖父様は、エメレーヌ様をそれはそれはかわいがっていらしてね。金銭に糸目をつけずあらゆる治療法を試し、成人になる頃には体調も回復された」

「お母様、お元気なんですね!」

「ええ」

「そしてその娘、クリスティアーナは優秀だった」


 どーしておまえ、そう含みある言い方しかできないわけ?

 おまえが誰と誰を比べてんのか察せないほどアホんだらじゃねーんだぞ。


「同じ祖父母を持つ準王族のティアはどうなのだろうね」


 ほらな。

 ぶん殴りたくなるの、オレ間違っちゃないよな? 好きな子コケにされて腹立つのは当然だよな?

 けどクードがただのバカじゃないのは知ってるから黙って続きを聞いた。


「彼女なりに努力はしてきた。しかしつねに年上の従姉と比べられ『クリスティアーナ様が準王族ならばよかったのに』と言われて育っている」

「わたくしの母とシェレアティアのお母様の生まれ順が違っていたら、病弱なのが誰ならばと、口さがない言葉を聞いてしまったことも多くあったでしょう」


 それに加えて、シェレアティアさんには魔力暴走があった。

 ハトコもイトコも入れた学園に入れなかった。


「二歳……、ほぼ三歳違うし妹なんだし、そりゃ二人に比べりゃ幼いとこだってあるんだろうけど……でも、シェレアティアさんにはシェレアティアさんのいいとこが……っ」

「シェレアティアがクリスティナより劣っているのは事実だ」

「クード!!」

「ティアはわたくしに対して辛い気持ちを抱えながらも姉と慕ってくれました。あの子が笑っていられるように殿下とわたくしはテオさんへの協力を惜しみません」


 全員の視線が窓の外のシェレアティアさんに向けられる。

 ……なんだよ、クード、おまえもずいぶん兄ちゃんの面してんじゃねーか。

 甘やかさないのも愛ってか? そっちのほうがシェレアティアさんのやる気もみなぎって燃えるんだろうけどな。

 なんだっけ、飴と鞭? この二人があの子を大事にしてきたんだな。

 オレだって……。


「心配してんだな、おまえも」

「妹だからね」

「だな。うん」

「ティアは、君にとっての運命だよ」

「そう言ってくれんなら、魔導士課程に進むアドバイスくれよ」


『時が来れば扉は開かれる』とかって曖昧にされてんだよな、研究課題のこと。

 時は有限なんだよ、準備させてくれよ頼むから。てかオレだってレポートとか寮生に手伝ってもらって書いたりしてるけどな、指導員をつけてもらうのが普通って聞くぞ、なんでオレにはいねーんだ。

 テオ・ソトドラム進学会議はどうなった、先生に掛け合ってもはぐらされてばっかでそろそろ泣くぞ。夏休みに入ったら七年生になっちまうだろうが。

 いい加減おんぶにだっこは情けねえし努力してぇのにガッツを削られんのはだいぶ苦しい。

 ……オレはもっと頭がよくなりたい。


「殿下──? なにをなさっていますの?」

「どしたおまえ?」


 クードが窓から離れて右の手の平を上に向けた。

 金色の玉が現れて、強くギラギラと光を放つ。

 雷よりかは大人しいけど、それにしたって前置きもなしに扱い始めるのは頭がおかしい圧縮魔力。


「あっ……テオさん、ティアが……!」

「え? うぇ──っ」


 見ーてーるー!

 憤怒の形相でこっちを見てる!!

 ガッツリ立ち上がって拳握って怒ってる!!!

 オレとクリスティアーナ様が密会してると思われた? 違う違う違う、クードいるから!

 てかてめぇしれっと死角に行きやがったな?!


「必ずティアはここに来る。正義感の強いあの子はテオをたしなめに重い腰を上げるよ」


 すでに立ち上がってるよ。

 ふーんてかおまえもティアって呼ぶんだな。ルルってのはなんだったんだバカ野郎──なにしくさってんだトラブルメーカー!! 人のこと言えないけど!! 強制お見合いさすんじゃねえ!!


「おまえぇー! マジ、マジふざけんな……!」

「どうどう、テオ」


 オレはな、初恋三ヶ月の新人なんだよ。

 わざと修羅場作るなんざ、なにしてくれてんだよ。

 逃げられまくんのはまだいいさ、でもな、軽蔑されて愛想尽かされて本気で『ルーゼンヴェルキスナールル家の紋章を与えるべき相手ではありませんでしたわ』とか言ってペンダント没収されたら本気で泣き喚くぞ。

 クリスティアーナ様だって頭痛いって顔してる。かわいい婚約者様を困らせんなよバカ。

 窓の外怖くて見られねー。

 近くで「あら、まぁ……」とかこぼされてると気になるけどさあ……どうなってんの、オレは胃が痛い!

 自分が正しいと思うものはパッとやっちゃうのがクオジドォール・ロゼフディロール・ポラリス様。

 んでコイツがすることは大体間違っちゃないから性質が悪いよ。


「君はティアを囲む女友達が羨ましいと思うかい?」


 なぜオレの左足首を見てやがる。

 てめぇとは長い付き合いだ、よからぬ企てをしてんのは気づいちまうんだぜ。


「テオ・ソトドラム」

「まあ……、そりゃ? 男は取り巻きさん達のせいで近づけないし、羨ましいは羨ましいよ」

「君の望みはシェレアティア・ルーゼンヴェルキスナールル・カサブランカを知りたいということだね」

「まあな。女子の群れに紛れて質問したくはあるかな。テオ・ソトドラム先輩をどう思ってるんですかーってさ」


 王太子の威力で自白させられて悔しくなるが、この友達はあの子のお兄様だから自供するしかなくてだな。

 いやでもなにこの質問。

 トンズラかますにしてもオレは咄嗟の魔術展開には慣れていなかった。静観派はここが辛いよ、魔力使わせろってやる気満々だと空回る確立が高くなる。

 クード、超いい笑顔。

 クリスティアーナ様は諦めた顔してる。

 やばくね? なんかやばそうじゃね?


「手段は選ばないのはテオの得意分野だ。君にチャンスを与えよう」

「てめえっ、制御具……!」


 左足首に嵌めている三本の輪のうち一本を破壊された。

 痛ってぇぞクソ野郎!! 人に傷負わせて婚約者の肩を抱くとか許されねーぞ!!


「クリスティナ、私達は去ろうか」

「ですが──」

「ここにいてはお邪魔だよ」

「おまっ、おまえ……ふざけんなよ!?」

「テオさん……殿下が申しわけありません」


 いやいやいや、待って待って、待ってくださいよお!

 オレの魔力暴走はですね、制御具が正常に機能していることを前提にひとまず治まってる状態でして、無意識魔術は完治してないんですよ。腹減りはなくなってもまあまあ不安定なんですって。

 壊された制御具と直近に考えていた内容と足元の変化に、オレは短い悲鳴を上げた。


「待て待て待て待て! 足! 靴! 女にはならねーぞ?! 女にはならねーからな!?」


 靴底が平らな革靴が女子生徒の踵のあるヤツに変わってやがる!

 スラックスが、おいおいおい、ロングスカートに替わってくぞ?

 あのな、あのな、どうしてそうじっくりと下から変身していく感じなんだ?

 オレが女になってもゴッツイだけだろうがよお!!


「どぅえっ……! いっでえ……!!」


 女子の靴バランス取れねえよ! どうして踵がこんな細えの!

 べしゃって床にすっころんだオレは、もうやだやだ、目を開けていたくねえ。

 だってよお、首にくすぐったいの当たってんじゃん? これ、どう考えなくても髪の毛だぜ。女の子みてぇな長い髪が生えてきやがった!

 しかもなんだよ、声もオレのモンじゃなくなってるし!


「ぐっ……、あ……、うぐっ……!」


 しかも、魔力核が、急に熱い。

 燃えちまう、枯れちまう、オレの白百合、オレの女王陛下、オレのシェレアティアさん。


「……冷静に、冷静になれ。静観だ──静観……。オレは魔力と友達だ」


 キミは友達だけど友達じゃなくって、こんなバカなところを見られたくない。

 そそのかされて女になった出歯亀男だってバレたくない、バレてたまるかあ!

 オレは黒いストッキングに覆われた足首から制御具を外して廊下の端へと投げ捨てた。

 これでケガして転んだだけの女っていう体裁は──ペンダント、外したくねえな。

 リボン、このお綺麗に結ばれてるヤツをオレに直せるか? できねえな、どうするよ、リボン外さねえとこれ隠せないぞ。

 なんかやだー! 女の子の服のボタン外すのなんかイヤー!


「精神まで女になってんじゃねーぞテオ・ソトドラム! しゃらくせえ!!」


 幅の広いリボンをほどいて立て襟の隙間に鎖を落とす。

 胸の前──うぇ……でけぇ山の上でぷらぷらしてる黒い布は引き抜くと、血が滲みそうな傷口をきつく縛った。


 ──我が高潔の白百合よ、私を追い詰めないでください。


「終局、収束、極限に至りて朝露は凍てつく」


 オレがはしゃぐんじゃなくて魔力をその気にさせるのが静観展開の真骨頂。乳掴んで己の不気味さに身震いしたら静かになれたわ。

 おうよ、女だな、でけえな、肩こりそう。廊下で自分の胸まさぐってんのマジやべえ女だな、うしっ、落ち着いた。


「魔力もべつの姿に変えるか……」


 魔力の気配で対象を判別できる人もいるらしい。

 オレは魔術展開中にどう変わってんのか自覚がないし魔力ごとごっそり引っ繰り返してやる。

 生き恥はよぉ、これ以上稼いじゃなんねーのさ。


「貴女の囁き、貴女の輝き、貴女の導きに敬意を表し、御身と心の麗しさ、お声の柔らかさと清らかさ、ひとときお借りいたします」


 シェレアティアさんの魔力構造を模倣しながら、白百合で再生されたオレの魔力核を氷漬けにする。

 水を広げるかのように体内に魔力をまとわせ、指の先まで変わった性別を上塗りしていく。

 テオ・ソトドラムよ、石化せよ。


「ここにいるのは──女のわたくし」


 海の如き魔力を凝固するべく垂直に雷を落下させる。

 女王陛下の匂い立つ美しさを香りに変える。


 ──あの子への恋が、わたくしの血肉になる。


「……成功しちゃった、わね。マジかぁ……」


 魔力の原風景を眼裏に呼び覚ます。

 たぶん元々の形より細長くなったんだろうオレの二代目魔力核クン、その結晶は雪のような銀色に変わっている。

 オレの魔力って水色に近青だからぜんぜん違うや。大成功じゃん!

 表面は、シェレアティアさんの繊細ででも豪胆で高貴な感じと結構似てる。

 あの子の髪キラキラしてるし、魔力も銀色でおそろいなんだなー。銀の髪と青紫の目でほんっとお人形さんもビックリの美形でよぉ……。


「つかマジで波長が似てるな。寄せすぎたか……?」


 てかこれ、なんか、研究に使えそうじゃね?

 疑似魔力核を生成できたら魔力暴走で悩む子どもにコントロール法を指導できるんじゃないかな?

 禁忌にも抵触しないし治療行為でもないし有効なアプローチとして活用できるかもしれない。

 レポートにまとめたいけど、レポートの書き方がいまいちわからないんだよなあ。

 ま、今はそれどころじゃねーってな。


「あとは、あの子を待つだけですわ」


 だって立てないもんこんなヒールじゃ。

 一人で歩けるわけもねえ。女の子って大変なのな。

 靴脱いでペタペタ医務室に行くのは敵前逃亡だし、この機会にちょーっとだけでもシェレアティアさんの内面聞きたいじゃん。

 せっかく女になったんだ、女の子同士で恋バナしようぜ!

 耳を澄ませるとあの子の足音が聞こえてくる。

 魔力が最早テオ・ソトドラムじゃねえから大丈夫大丈夫いけるいける!


「テオさん……、テオ・ソトドラムさんは……いらっしゃいまして──?」

「来ちゃったあ~」


 いやあ、ドキドキ!

 バレねえよな、バレるわけがねえ、外見わりとお嬢様風だしやってやろうや! 脚とか手首も植物の茎かってくれー弱いし、喉の隆起もないし、茶色の長い髪は女の子だろ?

 くせで胡座を掻いていた足をそれっぽく直して、今丁度転んで手当てしたとこですうーって雰囲気にする。

 階段を上ってきたシェレアティアさんは床に座り込んでる女子生徒を見つけると、小動物みたいにぴゃっと驚いてぱたぱたと駆け寄ってきた。


「どうしました? お怪我をなさっていますの?」

「え、えぇ……足を挫いてしまって……」

「痛みますのね?」

「少し……こうしてリボンで締めますと、和らぎましてよ」


 合ってる? この口調でお嬢様は合ってんのか?

 薔薇のような百合のようなお淑やかさを真似してるんだけど、できてるか? 庶民の演技力は通用しちゃう?


「淑女が衣類を乱すものではありませんわ。御手を。お立ちになって」

「あっ……はい……」

「私に体を預けてください。小柄ですがあなたを支えることはできましてよ。医務室にお連れいたします」


 えっ……シェレアティアさん、王子様にもなれんの──?

 眉を顰めてたけどフワッと笑って華奢なお手々を差し出してくるから、オレ、思わずときめいちゃってる。

 えぇ~!? かわいいのに格好よくて、強くて、凛々しくって、でもこれ以上にないほど女の子。


 オレの妖精さん──惚れる♡ 惚れてる♡


 しかもだな、やっべぇいい匂い。髪からお花の匂いが漂うんだぞ。

 どーしよう、どーしよう!

 女の子同士って、こんなに距離が近いの知らなかったぜ!!


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