思いが錯綜する転換点
魔力暴走──魔力消耗症と難治性魔力欠乏症の治療ができる人になりたい。
失恋を自覚してオレの気持ちは固まった。
好きな子が腹減って辛い思いをしていた、オレより幼い子が腹減って辛い思いをしている。
空腹は貴族だろうが庶民だろうが人なら辛い。
だからそういう子が一人でも少なくなるように、オレができることをしたい。
あの日、医務室でズビズビ泣いて叫んだあと、悩んだらまず相談だと職員室に向かった。
どうすれば今のオレが魔力暴走で苦しんでる子とその家族の役に立てるようになれますか──って、あんま頭よくない言葉で質問しに行ったのだ。
授業中だったし職員会議中だったから部屋に残ってたのは若い先生二人だけだったけど、一人は大慌てで走ってって、もう一人から『ソトドラムくんはお医者さんになりたいのかな?』って怖え顔して聞かれてしまった。
そこがわかんなかったから質問したんだっての。
研究員っての? 病院の先生が診察するための後方支援的なとこに行きゃいいのか、前線にいりゃいいのか不明だったんだ。
急遽学年主任と学園副学長との面談に突入して、今のところオレの進路は『保留』になってる。
「貴重なお時間をいただきありがとうございました!」
「いえいえ。こちらもとても興味深い話を聞けました」
角度、真っ直ぐ、四十五度。
体幹を鍛えたから礼も様になってきた。
今日は今も現役で魔力消耗症の治療に当たっている臨床医のお偉い先生との話し合いだった。
『見送りはいらないよ、勉強がんばってね』って人当たりのいいおじいちゃんが杖突いて教室を出て行く。
──やっと終わった。
普通の空き教室でコンダンするかフツー。お茶も出せねえの却って気を遣うだろうがよ!
オレの失恋の経緯をグッサグサに聞かれたのは苦い気持ちにさせられたが、これも未来のためだから正直に話すしかねーんだわな。
とっとと鞄を持って部屋を出る。
最近はめっきり腹が減らなくなったが、それでも昼になりゃ空腹だっての。
ちょうど四時間目終了の鐘が鳴ったし、飯だ飯。
西棟三階の教室前の廊下ではいつもの二人が待っていた。
「ステフー! トモルゥー! 終わったぜー!!」
「お疲れ様テオ」
「おー、めーっちゃしんどかったー!」
「おまえと話してた白髪のじいちゃん、すげえな」
「なにが」
「目の色変えてガシガシ早歩きで帰ってったぞ。争奪戦極まってんなぁ」
「ランドルーヴェの医療博士課程と魔導士課程はもちろん、外部の医療学院も血眼だよね。どこもみんな《雷落としのソトドラム》に期待してるから」
どうなんだその呼び方。
まあ事実だけど、それ、失恋とセットで悲しいんすけどねぇ?
オレはこの二週間足らずで次から次に人と会っていた。今は色んな人とお話しして視野を広げよう月間なんだ。
つーのも、魔力持ちで医者になりたい人ってのは通常魔法学校卒業後に医療魔術学院っつーとこに進むんだ。
でも学園としちゃ《雷落とし》をいい就職口か魔導士課程に行かせて学園の名声を広げたいし、言葉は悪いけど学園卒業者でなくてもなれるただの医者にはさせたくないっぽい。
けどテオ・ソトドラムは魔力暴走未完治──魔力の異常消費は止んだのに無意識展開が治らないと完治じゃないらしい──で、魔導士課程に推薦するには卒業研究に取りかかってもいない。
だからなんてーか、コネ作らされてるっぽいんだよなあ。
あーでもよぉ、みんな試験の点数ばっか見ててオレがバカなの気にしてねえのが怖ぇんだ。
医者か研究者だぞ、偉いんだぞ、オレになれる底力があんのかって大前提が揃ってスコンと抜けてやがんだ。
「貴族になるには魔導士課程じゃねーとダメなんだっけか?」
「あぁ──」
「君としてはランドルーヴェ魔術大学院に進みたいんだろうけど、タナ・ソトドラムの末裔が選ぶ学校というだけで宣伝効果があるからね。人気者は大変だ」
「今のじいちゃんは外の人だろ? 金積まれたらどうすんの?」
「どっちに進めるとしても、ランドルーヴェから離れんのは、あんま」
「だよなー」
そのタナ・ソトドラムの末裔っての、ぜってぇデマだぜ。
テオ・ソトドラムというのは魔力暴走で記憶吹っ飛ばした憐れな子供に与えられた後づけの名前だと予想してんだけど、マコトシヤカに、オレがシフィロソキア王国初の魔導士の子孫だって噂されてる。
あの多重魔術理論の先生が間違いないって大興奮して広まったらしい──そうなんだよな、多重魔術理論の提唱者がタナ・ソトドラムで展開方式もおんなじだから真実味があるっつーか。
いいよべつに、いいんだけど、友達にまで誤解されてんのモニョモニョすんだよ……当然クードに相談に行ったら『静観だよ、テオ』としか言われねーし。
おうよ、仕方ねーから黙ってるわ。
くよくよ考えてもしゃーねーから飯にしようぜ飯。
オレの根本は揺るがねーんだ。
オレの願いの大元にあるのはあの子の涙とあの子の笑顔だ。
大人の思惑ぐるんぐるんで魔導士課程の指導教官や魔力暴走の専門研究所の職員、臨床医や治療薬の製造会社の治験担当者とか肩書きすんごい人達にめちゃくちゃ会わされてるけど、全員に腹減る苦悩を必ず言ってる。
ホントに、ホントにさあ、あの子が飢えない家の子でよかったなって思っちまう──。
「あァ? やけに静かだな」
「なにかやってるのかな?」
渡り廊下で本校舎三階に着くと、しんと静まり返って不気味なくらい誰もが無言だった。
吹き抜けになってる正面ロビーは人の往来も多いのに沈黙している。
なになに? なんでもいいけど飯が食いてぇ。
「テオ……」
「ん?」
「シェレアティア殿下がいらっしゃる」
「シェレアティアさん!?」
慌ててステフの目線を辿ると、ポツンと立っている銀髪の女の子。
ひとりぼっちで心細そうだけど、皆が遠巻きにして黙って見ている。
「可哀想だな」
ぼそっと一人言を呟いたトモルゥにバカにされてる気がして激しい苛立ちを覚えたが、俯かず姿勢を正している姿を見てると、どうしても悲しくなってくるのだ。
──キミはこうやって人の目に晒されてても、気高さを失わない。
なんだろうな、シェレアティアさんが“こうあるべきだ”って自分を奮い立たせてるのがひしひしと伝わってくるから『そこまで気を張らなくたっていいんだよ』って側に行きたくなるのだ。
──うん、行こう。
あの子の周囲に人は来ない、オレは落ちれる場所にいる。
最短距離一直線、オレ自身が雷になる。
オレの意識的魔術は雷を垂直に落とすイメージでやると成功率高いしイケるイケる。
「テオ!? なにする気!? テオ……!!」
「ソトドラム。アシストしてやる」
「ニコォ!!」
さすがだトモルゥ、恋愛してるヤツはかっけーな。
柵を乗り越えるよりお前の手を踏ませてもらうぜ。
オレは鞄を置いて制御具に意識を集中させる。
あの子に怪我させたらてめぇマジで許さねえぞ。
「来い!」
「──ああ」
床を蹴って全速力で走り、押し上げられて宙を飛ぶ。
目的地までの距離を狭めて一気に急降下するとき、心の中にあるのは静寂だった。
静かに、ただ静かに、あの子の元まで届く己を『見ている』。
──私の白百合。私だけの女王陛下。
膝を折った着地姿勢から顔を上げると、目をまん丸くしているオレの好きな子。
「シェレアティアさん! 久しぶり!」
もうな、もうな、ぺっかんぺっかんに笑ってんのが自分でもわかんのよ。
嬉しい~嬉しい~って小躍りするくれーマジで嬉しくてたまんねぇ。
なのによ……シェレアティアさんはふいっと顔を背けちまうの。
ド派手な音を立てた登場はけっこう愉快なもんだと思ったんだが、いいとこのお嬢さんには印象悪かったみてーだ。
お姫様だもんな、この子──。
「あっ、あの……あー!」
「──なんですの?」
「コレっすか!?」
「え……? これ、とは?」
「まだギリギリ会ってから一ヶ月経ってないっすよね? ほら、最後に別れたとき、オレキミの話ちゃんと聞かなかったから……」
言ってたじゃん! 仲いい人に突然避けられたら一ヶ月不機嫌だって。
有言実行ってコレじゃねえの?
つーか、イブカシんでても律儀に聞き返すとこやっぱいいよなぁ。
オレらが仲がいいかはさておきだが──って、シェレアティアさんなんか面白ぇ顔してんね?
「そうですね──怒っていましてよ……」
「すいません!」
「いいのです……足、痛みませんの……?」
「ぜんぜん!! キミのとこに来れたし!」
「っ──テオさん……それを、身につけてくださっているのですね」
「はい! シェレアティアさんがくれましたから!」
ペンダントを掲げるオレに、シェレアティアさんは長い睫毛を寂しそうに揺らしている。
でもほっぺ温かそう。
なんか、イヤな予感がすんの、オレだけ?
「あなたの心にはお姉様がいるのに──」
「そうじゃないって言ってますよね!?」
「けれど……。テオさん! 返して、くださいませんか──それはテオさんに渡すべきものではありませんでしたの……」
「どうしてですか!」
「苦しいからですっ……胸が痛むからです……」
なんでまた泣きそうなんだよ。
女の子って厄介だな、そう言われちゃオレ、返すしかなくね?
留め金を外したほうがいいのか迷っていると「テオ・ソトドラムさん」と名前を呼ばれた。
見事な反応、条件反射。
オレは体ごと振り返ってその人を見つめる。
「クリスティアーナ様!」
「今よろしいですね?」
「えっ……えぇ……?」
現在お取り込み中真っ只中ってヤツだと思うんすけど、クリスティアーナ様ともなると気にしないっぽい。
険しい顔でオレの前に立ち、お叱りの言葉を告げるときの威厳を放っている。
「あなたの非常識な行動によって女子生徒が二人医務室に運ばれました」
「へっ!?」
「なぜ階段をお使いにならなかったのです」
「それは……えっと」
まっとうすぎる文句に言い返せねぇ。
シェレアティアさんの元に一目散に駆けつけたかったって本心を言っても『階段を急ぐのではいけなかったのですか? そもそも校内で無闇に魔術を使うべきではありません』とかって叱られる。
オレ……クリスティアーナ様に叱られるのはすっごい辛い。
「あなたは体格が大きく小柄な下級生にとっては威圧的に見えると以前にお話したでしょう。忘れましたか?」
「覚えてます……」
「テオさんがロビーに飛び降りて、どれだけ周囲が恐ろしいと感じたか──迂闊では済まされませんよ」
「……すいません」
「お見舞いをするのはマリグレイス先生とお相手の方に許可を得てからです。いいですね?」
「はい!」
シェレアティアさんをちらっと見て、好きな子の前で怒られてへこんでるオレに目を細めるクリスティアーナ様は女神様みたいだった。
お姉ちゃんなんだなぁってほのぼのしちまう。
「ッテオさん!」
「はい!」
「返してください」
「いや、ちょっと待って──」
「返して!!」
ずずいって詰め寄られて、オレ、かなり嬉しいのな。
小柄なキミが目ぇ吊り上げてオレを睨み上げてくんの、なんかいいなって思っちまうの──当たり前だけどまずいけど、かわいいんだよ!
久しぶりに会うと前よりずっとかわいく見える。
この子こんな小っちゃかったんだな~、やっぱ妖精さんのお顔だな~って心が浮かれちまうのなんのって。
オレの不敬な感情が、顔に、出ちまったんだろうな……。
シェレアティアさんが急に怯えた様子になって、ぽろっと一粒涙を流した。
真剣な思いでいるとこに不真面目な態度取られるし、この子はお姫様だし、デカくてゴツい男の不届きな思いときちゃ不潔で気色悪いよな──。
「……テオ・ソトドラムさん。当家の家紋入りの装飾具は、あなたが持っていても意味のないものです。お返し願えますね」
「オレには白百合が大事なんです!! カサブランカが……シェレアティアさん、オレ、これだけは、キミにも渡したくない。オレの」
「わたくしなど大切になさらないで!!」
一ヶ月ぶりの癇癪は身を切り裂くような悲痛なものだった。
オレの手が動こうとするのを制して、クリスティアーナ様がシェレアティアさんの前に出る。
「ティア。一度人に渡したものを取り上げるのは正しいことなの?」
「今はお姉様は関係ありません」
「そうね。けれどあなたの姉として道徳を説くのは間違っていないわ。ティア、あなたが准王族でテオさんが平民だからまかり通ると思っているの? 友人なら聞いてくれると言うのかしら」
「……違います」
「シェレアティア。カサブランカの花がテオさんの元に来た経緯をけっして忘れないように」
「っ……はい……」
「クリスティアーナ様! シェレアティアさんを泣かせないでもらえると……」
「この子を先に泣かせたのはあなたでしょう、テオ・ソトドラムさん」
やべぇ、お姉様本気で怒ってらっしゃる。
どうしよう将来万歳したいお相手に厳つい目つきで蔑まれてるぞ。
バレてる、バレてる、シェレアティアさんを不埒な目で見てたのぜってぇバレてる!!
あたふたして一回返すっきゃねえかと混乱してると増えてくれる応援。
「お三方ー、目立ってますよー」
「シェレアティア殿下。お初にお目に掛かります、ステファン・グレグリーと申します。テオ・ソトドラムとは同学年で、隣におりますニコラウス・トモルゥと共に寮で生活を送っている者です」
「どうも、初めまして。留学生のニコラウス・トモルゥです」
「……シェレアティア・ルーゼンヴェルキスナールル・カサブランカです」
「あ……」
キミの家の名前はルルじゃない。
躊躇ってから名乗ったシェレアティアさんは、オレに目線をくれたりしない。
「殿下、ご歓談中のところ大変申し訳ないのですが、テオに食事を取らせたいのです。我々は大食堂に行く途中でして」
「お昼、まだでしたの──? テオさん!」
「いや、あの、ぜんぜん平気平気!!」
「平気なものですか! どうしてあなたは自身を省みないのです!」
あれ? クードとクリスティアーナ様、オレがもう腹減りじゃないって言ってない?
魔力の流出、ダダ流れが治まってるから腹あんまり減らなくなったんすよ、だから大丈夫なんですって。
──キミの白百合がオレの中心になったからだよ。キミによって生かされてるんだ、キミはテオ・ソトドラムに生き続けたい理由もくれた。
「シェレアティアさんもお昼まだなら、来る……?」
「お時間があるなら私の席をお譲りしましょう」
「わたくし……校舎の案内に……」
「なんの騒ぎですか?」
「申し訳ありません先生。テオ・ソトドラムさんと、シェレアティアが、少々」
「あぁ──」
先生、なんすかその『あぁー』って。
そりゃオレの失恋有名ですけど? 失恋のショックで雷落として魔力暴走ほとんど治した稀代の天才って有名ですけど!
学園内で一人でいたら取り囲まれてああだこうだ聞かれるくらいに醜聞だらけですけど!
こちとら恥だらけの人生よ──。
「会えたのが嬉しいのはわかりますが学校とは公共の場です。自分の感情を優先してはいけませんよ」
「スイマセン……」
「先生。お手間を取らせてしまいますが裏庭の案内もお願いできますか?」
「ええ。ルーゼンヴェルキスナールルさん、時間がかかりますが構わないですか?」
「──はい」
「シェレアティアをよろしくお願いいたします」
当事者除いてさくさくっと話進めてるよクリスティアーナ様。
裏庭、裏庭かぁ。ガゼボもあるし裏庭って魔法大学院と行き来できるんだよなあ。
コッソリな、コッソリ、魔法大学院に進めたらシェレアティアさんと昼休みにあそこで会えたりしねーかなって夢見ちゃってるわけだ。
ま、儚い望みってヤツよ。
「ティア、楽しんでいらっしゃい」
「ありがとうございますお姉様──皆さんも、ごきげんよう」
「ごきげんよう! また今度!!」
元気だけは出して返したがシェレアティアさんはすっと背中を向けるしトモルゥは溜息を吐く。
クリスティアーナ様、ステフ、トモルゥ。
こん中でペンダントの行方について最も正しく導いてくれそうな人に向き合った。
「クリスティアーナ様。これ、返さなくていいですよね?」
「持っていてあげてください。あの子のことを思ってくださるのなら」
「っす」
「ちょーっといいですかー。エディケープル嬢、貴女ってだいぶ抜けてます? ゴッ……!!」
「テオ、それ以上はいけない、ニコが失神する」
「おめー、喧嘩ならオレに売れよ」
町で悪漢を取り押さえていた警備兵の動きを真似して鎮圧し、さらに締め上げようと動いていたオレをステフが止める。
いや、けど、コイツ、クリスティアーナ様バカにした。
クリスティアーナ様をバカにするヤツ、王太子だろうと友達だろうと許さない。
「そういうのが誤解される原因だっつってんだよ!!」
「アァ!?」
「エディケープル嬢、貴女はルーゼンヴェルキスナールル嬢のお姉様なんですから、コイツの件で劣等感を刺激すんのは“可哀想”です」
「──そうですわね。考えなしでしたわ」
「んなこと!」
「ソトドラムのバカが即注意しないと抜けちまうのが悪いんですよね?」
「えぇ、急がなければと思って──元を正せばあなたのせいですわね、テオさん」
「オレ!? はぁ、そうなんでしょうね……」
フンと鼻を鳴らしてトモルゥがステフに小声で話しかける。
なんでも解決ステファン・グレグリーは頷いて、落ち込んでいるクリスティアーナ様に提案した。
「クリスティアーナ様。僕のぶんの昼食を召し上がっていただけませんか? ニコラウスから話があるようです」
「承知しました」
「ほい、じゃあ行きますよー。そこのボケも早く来い」
「ボケ? てめぇがボケ」
「テオさん、参りましょう」
「はい!」
オレ、見事なまでにクリスティアーナ様の忠犬なんだな。
逆らおうなんて思ったこと一度もねぇの。クリスティアーナ様だぜ? クリスティアーナ様に楯突くぐらいなら三日三晩地に這い蹲ってやる。
「おまえ──あー……頭痛ぇ! エディケープル嬢、なんでこんな面倒くせえ教育したんですか」
「トモルゥ、おまえいくらクードの友達になったからって」
「テオさん、お静かに」
「……うっす」
「ハァ……やだやだ! マーヤ~……」
おいおまえ、こっちがてめぇの国の言葉わかんねぇだろうってしっちゃかめっちゃかに罵るんじゃねーよ。翻訳機能搭載済みの脳なもんでな、婚約者さんに向けての愚痴だろうとバッカバカにされてんの気づいちまうんだからな。
「いいご友人に恵まれましたね」
「そうっすか?」
「えぇ。けれど、あなたとトモルゥさんはお二人とも反省文です」
「──はい」
「ティアも言っていましたけれど、テオさんはご自身を省みることを覚えてくださいね。あの子のためにも」
「はい……」
あー、似てます、姉妹ってやっぱ似ますねー、でも、シェレアティアさんとクリスティアーナ様が従姉妹ならクリスティアーナ様とクードも似てるのが自然じゃね?
込み入った話? 今聞くことじゃない? それはそう。
てか、オレまだ誤解されんのどうすりゃいいんだ。
あの子頑固だからなー。
オレはな、天の神より女神だった友達とその婚約者に誓って、クリスティアーナ・エディケープル・クレパスキュール様への思いに邪なモンは存在しないって胸を張れるんだ。
だぁれがクリスティアーナ様に横恋慕なんかするもんか。
そんな事実があるんならテオ・ソトドラムの記憶なんかいらねーよ。
一人の男の覚悟と、一人の女の憂いと、その他いっぱい。
混沌としながら確かな変化が刻まれた日、ランドルーヴェ魔術大学校大食堂にて、情緒五歳児未満と王太子サマの薔薇は、トモルゥ先生による恋愛指導を受けるのだった。




