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第七話 鑑定魔法

天使であるミルルカと出会ったエイジ。彼女は天使族の不思議な力でエイジのスキルについて解き明かしてくれるのだがーー。


ちょっと説明が多めの回です。


 天使という種族が異界人の支配階級である理由はなにか?


 それは彼らがスキルとは違う特別な力を持っているからだ、そう氷川さんが教えてくれたことを僕は思い出していた。


「『魔法』という存在について久我様は知識がお有りでしょうか」


 そのいきなりの問いかけに、少し悩んで僕は答える。


「それって『マジック・ユーザー』のことですか? ティア6の」


 マジック・ユーザーというのは攻撃スキルの一つで、探索者用の掲示板では『魔法職』と呼ばれていた。

 レベルアップ時に生命力(VIT)や筋力(STR)の伸びが極端に悪いってデメリットがあるものの、手数は多いし範囲攻撃にも優れて中・遠距離から相手を一方的に攻撃できる優秀なスキルだ。

 てっきりそれのことを言っているのかと思ったけど氷川さんは首を横に振った。


「魔法はスキル由来の力ではないんです。そちらは異界人の方の言葉に習うなら『魔術』と呼んで区別しているそうですね」

「へぇ~。じゃあ魔法ってのは」

「魔法とは天使族のみが使うことが出来る異能力です。魔術とは一見よく似ていますが、この二つには明確な違いがあります」

「違い?」

「魔法には魔術には存在しない効果を持つものがあります。その中で最もポピュラーなものを一つ挙げるとするならーー『鑑定魔法』でしょうか」






「うん、大体理解(わか)りました。もう目を開けていいですよエイジくん、お疲れさま~」


 そう言われて瞼を開くと、優しげな笑みを浮かべたミルルカさんの姿が真っ先に飛び込んできた。

 場所はさっきと変わらずに会議室のままだ。

 少し照明が眩しく感じるけど、でもまぁ眩むってほどじゃない。


「ありがとう、ございました。それにしても思ったよりすぐ終わるんですね。もっと時間かかるのかと」

「今回は『スキル』だけに絞りましたからね~。それにエイジくんも協力的だったので」

「僕なにかしましたっけ? ただ言われた通りに目を瞑ってただけで」

「うふふっ、わたしに心を開いてくれていたでしょう? 生物に『力』を使う時って相手が心理防壁を働かせていると通りが悪くなっちゃうですよ~。……ここだけの話、異界人への拒否感がある方ほどこの傾向が強くって」


 なるほどね。

 僕の場合は育った環境とか過去の体験のおかげで異界人に対する嫌悪感がないから、それが大きかったのかも知れない。

 にしてもミルルカさんの目線だと『力』を使う感覚ってどんな感じなんだろう。あと対象が無機物だったらどう違うんだろうとか聞きたいことは尽きないけど、


「いやぁお見事。ミルルカ様のお手並み、しかと拝見させていただきました。……それで結果の方はいかほどですかな?」


 揉み手をしながら近付いてきたギルドマスターに遮られてしまった。


「あっ、そうでしたね。忘れちゃう前に早く書き留めないと。ええと、どこかに紙とペンはあったかしら」

「それなら僕持ってますよ、シャーペンとルーズリーフで良ければ。学校帰りだったんで」

「……しゃーぺん? るーずりーふ?」


 会議室の隅っこに置いておいたスクールバッグから筆記用具を一式持って来てミルルカさんに手渡すと、彼女は不思議そうにそれらを眺めていた。

 学生の必須アイテムも異界のお姫様にとっては物珍しいみたいだ。

 まるで子供みたいにカチカチとシャー芯を出して遊んでたけど、僕に見られていることに気付いて「えへへ」と恥ずかしそうにはにかむ。


(うわっ、めっちゃ可愛い……)


 そのあまりの可愛さにあやうく悶え死にそうになる。

 天使族はビジュアルに優れていることでも有名で、ネットには天使の非公式ファンクラブなんてものまであったりする。

 僕はどっちかと言うと命の恩人に対しての感謝とか尊敬の方が強かったけど、でもミルルカさんを見ていると天使に恋をする人の気持ちも分かるような気もした

 まあ気持ち悪がられたら嫌だし本人には言わないけど。


 それはともかく、彼女がルーズリーフに書き付けているのは話の流れで分かったかも知れないけど僕がミルルカさんにかけて貰った『鑑定魔法』の結果だった。

 なんでそんなことしたかっていうと、それが僕のスキルが本当にユニークスキルかどうかを判定するのに必要だからだ。



 そもそもユニークスキルと普通のスキルにはどんな違いがあるのか?



 分かりやすいところでいくと、ユニークスキルは他に同名のスキルが存在しない。

 氷川さんが初めにおかしいと気付いたのもギルドのアーカイブにスキル名が見当たらないからだったし。

 だけどそれだけじゃあ未発見の新スキルって可能性を捨てきれないから、確証としては弱い。

 ならどうして氷川さんはユニークスキルだと思ったのか、それは図画工作スキルが既存のスキルの法則性を無視しているからだと彼女は教えてくれた。


『赤色からは攻撃スキルが、緑色からは治癒スキルが、青色からは技能スキルが発現する。このスキルオーブの法則は一度説明したかと思いますが、実はユニークスキルだけはこの法則に当てはまらないんです。ーーそして久我様が購入したのは赤色のオーブでしたが、発現した図画工作スキルは名前の類似性から推測すると工作(クラフト)系スキル。この系統のスキルは本来、技能スキルに属しているはずなんです』


 そう聞いて脳裏に浮かんだのは濃い赤に青が溶け込んだバイカラーの宝石だった。

 それが原因なんじゃないかと思って氷川さんに聞いてみたけど、不思議なことに彼女にはなんの変哲もない普通の赤色のスキルオーブに見えたと言う。

 どころかバイカラーのスキルオーブなんてものは存在しないとも。


 そんなわけがないと頭を下げてもう一度ギルドに保管されているスキルオーブの一覧を見せて貰ったけどーー売約済みと書かれた欄にあったのは、僕の記憶にある姿とは似ても似つかないただの赤色の宝石だった。


 結局あのスキルオーブの正体がなんだったのかは分からず仕舞い。

 もう身体の中に溶け込んでいては確かめることも叶わないし、はたして僕が見たものか現実だったのかそれとも……。

 分かってるのはあの石の仕業かそうでないかはともかく、僕がユニークスキルに目覚めたらしいってことだけだ。


 だってのにその『スキル』も名前は分かるけど肝心の使い方がさっぱりなんだもんなぁ。

 例えるなら身体に突然尻尾が生えてきたけど、その尻尾を動かすのにどの神経にに命令を伝達させてどの筋肉を動かせばいいか分からないみたいな感じ。

 おかげでユニークスキルと持ち上げられたところで、今のところ有名無実のスキルと化しているのが実情だった。


 ちなみにこれ僕がおかしいわけじゃなく、ユニークスキルに目覚めた人は皆最初はそうらしい。スキルの法則から外れてるせいでユーザーと上手くパスが繋がってないとかなんとか。


 けど未知のスキルってことは誰も使い方を知らないわけで、じゃあ歴代のユニークスキルのスキルユーザーはどうしたのかって言うと、


「はい書き終わりましたよ~。エイジくん、これどうぞ」


『鑑定魔法』が使えるミルルカさんのみたいな天使族にお願いしてきたわけだ。

 今回は目立ちたがりなギルドマスターが無理を言って彼女に来てもらったけど、本当ならこっちの方から天使族のところに出向いて診てもらうらしい。

 ただその場合だとミルルカさんとは知り合えなかったかもしれないし、認めたくはないけどそこはギルドマスターに感謝するべきかも。……本っ当に認めたくはないけど。


「これが僕の……」

「そうです、エイジくんのスキルですよ」


 ミルルカさんから差し出されたルーズリーフを受け取る。

 軽い紙切れなのに不思議と重く感じる。

 きっとそれはここに書かれた中身に僕の探索者人生がかかっているからだ。


「おおっ、遂に。良かったねぇ久我くん、このわたしも立会人として感無量だよ。メディアの皆さんもほら、撮った撮った」

「おいカメラ! 絶対に映せよスクープだぞ!」

「あの、もう少し角度の方をなんとか出来たりとかは……」

「んごっ、痛っった! おいっ、✕✕新聞さん。アンタんとこのカメラ場所取り直すぎなんだよ!」

「〇△ニュースですー。久我さん! 今のお気持ちをお願いしまーす!」


 ……ってちょっ、邪魔くさああぁ。


 せっかく人が今から読もうとしてるってのに周りにたかってきてそれどころじゃない。

 ハイハイ分かりましたよ、これでいいでしょこれで。


 僕は手を水平に伸ばしてカメラが撮りやすいようにしてやると、ようやくルーズリーフに目を通した。

 そこには女の子っぽい丸文字で書かれた、まるでゲームの攻略wikiみたいな文章が並んでいた。




 スキル名:図画工作スキル

 スキルユーザー:久我エイジ

 スキルマスタリー:レベル1

 効果:器用(DEX)に上昇補正。『設計図(ブループリント)』を書き起こし、必要な素材を用意することで設計図通りのアイテムを作成出来るようになる。一度作成したアイテムは素材があればスキルにより自動で作成が可能。

 設計図は機構や使用する素材によって製作難易度が決定され、これはスキルマスタリーに準ずる。

 スキルマスタリーが不足している場合、このスキルは発動しない。




 ……え~っと。




 色々と言いたいことはあるし、試してみないとまだ分からないけどーーこのスキル、本当にユニークスキルなの?




作者の宮前さくらです。


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