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第二話 探索者ギルド

その内エイジの詳しい過去話にも触れていきたいですね。


 ところでさもあるのが当然みたいに扱ってたけど、『スキル』や『ダンジョン』なんてものは僕らの世界に元々あったモノじゃない。

 少なくとも子供の頃には見たことも聞いたこともなかったし、アニメやゲームの中にだけ存在する概念だったはずだ。


 それが変わってしまったのは今から10年前。

 僕らの世界と隣合っていた異界の境界がなんらかの原因で消滅して、二つの世界が一つになったあの日。

 それまで空想(ファンタジー)だったものは現実(リアル)になり、世界の常識は一変した。



 街に出れば動物の耳や尻尾を生やした異界人がそこら辺に歩いていて、TVを付ければスキル持ちだという人気アイドルが空を飛びながら歌っている。

 日本地図も形自体が変わって色々と地名が書き加えられているし、食卓にはモンスターの肉が並んでいる。

 ダンジョンから産出した摩訶不思議な力を持ったアーティファクトは人類の文明水準を百年単位で進歩させると言われ、死を待つしかなかった難病も今ではポーションや治癒魔法の登場でもはや死を恐れる必要はなくなった。



 これが今の世界の常識。

 15歳の僕ですら日常にこびりついた違和感に未だに慣れる気がしないから、大人の人になるともっと酷いことだろう。

 10歳未満の子たちからすると生まれた時にはもう()()だったから違和感もないみたいだけどーーそれは単に10年前の神災を経験していないからじゃないかとも個人的には思う。


 とはいえ時間の針は戻らないし、なにより小さな子たちに僕と同じような経験はさせちゃだめだ。

 だから起こってしまった悲劇も変わってしまった常識も時間をかけて少しずつ受け入れていくしかないのだ。


 さて、そんな僕が早速守るべき常識(ルール)がひとつ。

 探索者になるにはスキルの取得が大前提だ。

 そのためにはスキルオーブが必要、というわけでHRが終わるのと同時に教室を飛び出した僕がその足で向かったのがーー


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 ここ、探索者ギルドだった。

 なんとなく地元の市役所みたいな雰囲気のする建物に足を踏み入れておっかなびっくり受付窓口に向かうと、恐ろしく無表情な受付嬢さんに出迎えられた。


「あの、スキルオーブを買いに来たんですけど」

「スキルオーブのご購入ですね。では年齢確認が出来る身分証明書をご提示いただけますか?」

「あ、はい。これを」


 僕はまだ中学生だから自動車の免許もバイクの免許もまだ取れない。

 とくればそんな時に役に立つ身分証明書はなにかと言うと答えはこれ、学生手帳。

 以外と便利なんだよねコレって。


「久我エイジ様、ご年齢は満15歳。未成年の方だと登録書に保護者様の記入が必要になりますが、本日ご両親はこちらに来ていらっしゃいますか?」

「いえ僕は孤児なので。登録書は孤児院の先生にお願いしたのを持参してます」

「っ! そう、でしたか……お預かりいたします。無遠慮でした、大変申し訳ありません」

「いやいや大丈夫です。気にしてませんから、慣れてますし」

「……まだお若いのにご立派ですね、尊敬いたします。では記入漏れなどがないか確認しますので少々お待ちください」


 この受付嬢さん、ちょっと怖そうな印象だったけど思ったより優しい人みたいだ。

 それでいて必要以上に傷口に触れようとせず業務を優先する割り切り方。わざとらしく同情されてもやりにくいし正直このくらいの距離感が助かる。

 僕のことを対等な人間として扱ってくれているというか。

 探索者になったら僕の担当はこの人がいいなぁ。


 胸元のネームプレートに『氷川』と書かれた彼女は、僕の渡した書類と1分くらい睨めっこしてから顔を上げた。


「確認いたしました、不備などはないようですね。ではスキルオーブの購入に移りましょう。こちらをご覧ください」


 そう言って氷川さんが取り出したのは現物のスキルオーブーーではなくて、少々型落ちしたタブレット型端末だった。

 ほっそりとした指がディスプレイに触れると、なにやら読みやすくまとめられた資料が表示された。


「ご購入いただく前にまずスキルオーブの特性について少し説明をさせていただきます」


 ああなるほど、これがその説明で使う資料ってわけね。


「はじめにスキルオーブは実際に使用するまでどのようなスキルが発現するか判別する方法はありません。そしてスキルを一度覚えると新しいスキルを覚えることは出来なくなります。……とはいえ例外もあるにはありますが」

「スキルリセットが出来るアーティファクト、でしたっけ?」

「ええ、その通りです。……久我様はよくご勉強されていますね」

「えっ、いやそんなそんな。調べるのが趣味なオタクってだけなんで、そんな褒めてもらうほどのことでも」


 まあ実際褒めてもらうほどのことじゃない。

 昼休みに話す友達がいなくて、暇潰しにまとめサイトを巡回してたら偶々知ったっていう悲しい経緯なもので。


「それならばご存じかと思いますが、この『産み直しの秘壺』は現在米国政府の管理下に置かれています。民間の個人使用が許可された例は今までありませんし、なので事実上スキルの付け替えや覚え直す手段は無いとお考えください。ーーここまでで質問はなにかありますか?」

「大丈夫です」

「わかりました。では次の説明に移りますね」


 氷川さんが画面を横にスワイプすると、今度は色鮮やかな宝石たちが映し出された。


「これが……」

「はい。防犯上引き渡しは購入後となっておりますが、こちらが現在ギルドに保管されているスキルオーブの一覧になります」


 スキルを目覚めさせるアイテムというからもっと突飛な見た目をしてるかと思ってたけど外観は普通の宝石みたいだ。

 濃い色に淡い色、形も様々なものがあるけど、よくよく観察するとすべて赤、緑、青の光の三原色をしているのが分かる。


「これらのスキルオーブは大別して三種類に分けられます。赤色のオーブからは攻撃スキルが。緑色のオーブからは治癒スキルが。青色のオーブからは技能スキルが発現することが分かっています。しかし先ほども申し上げたように、それ以上のことは実際にオーブを使用していただくまでは分かりません」

「なら同じ色のオーブの中ならどのオーブを選んだとしても発現するスキルは完全にランダムってことですか?」

「そう言っても差し支えないかと。世界で六例のみ確認されている『ユニークスキル』を除けば、他のすべてのスキルには同名のスキルが存在しますがスキルオーブの形状や色合いとの関連性は無いというのがギルドの結論ですので」

 

 ……なるほどなぁ。

 前もって調べてたから氷川さんの説明は知っていることも多かったけど、やっぱりスキルオーブってギャンブル要素が大きい。


 なんせチャレンジ出来るのは実質人生で一回きりで、賭け金(チップ)は将来独り立ちする時のためにコツコツ貯めてきた僕の全財産。

 これでゴミスキルなんか引き当てようもんなら立ち直れる気がしない。


 購入する際の注意事項を氷川さんが懇切丁寧に説明してくれていたけれど、最悪の未来を想像してしまった僕はまるで身に入らず右から左へと流れていってしまった。


「ーー説明はこれで以上になります。こちらのリストにある商品でしたらお買い求めいただけますの自由にご覧ください」


 自由にって言われても。

 いやぁ、どうしよっかなぁ……悩むぞコレ。


 リストをざっと見た感じ、やっぱり攻撃スキルを覚えるとダンジョン攻略が圧倒的に楽になるのもあってか赤色のオーブは在庫も少ないし他のオーブよりも値段が高い。

 ぶっちゃけ用意してきた予算ギリギリだ。

 ダンジョンに潜るなら防具と万が一のためのポーションも用意しておきたいけどこれじゃ足が出る。


 じゃあ逆に治癒スキルの緑色、技能スキルの青色はどうかと言うとこちらは赤色よりも値段が一回り安かった。

 これなら最低限の装備とアイテムも一式揃えられるだろうし、何より自分で回復や解呪ができたり、罠の解除やアイテムの鑑定が出来たりするから汎用性という一点では赤色とは段違いだ。


 ただし、いわゆるヒーラーやサポーターっていう後衛寄りの役割(ロール)だとパーティプレイが必須で、右も左も分からない駆け出しの時分はパーティー探しに随分苦労するらしい。

 探索者用の掲示板に書かれていたアドバイスの受け売りだけど、現役のプロが言ってるんだから間違ってはないだろう。



 ーーで、そこまで分かったのはいいとして結局どれを選ぶのが正解かってことだよね。



 赤か、緑か、それとも青か。


 悩めば悩んだだけどれを選んでも正解に思えてくるし、どれを選んでもハズレな気もする。


(どうしよう……)


 この三択に僕の探索者人生がかかっている。

 そう考えたらまるで選べる気がしなくて僕は途方に暮れた。




作者の宮前さくらです。


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