第一話 久我エイジは探索者になる
リハビリがてら久しぶりに書いてみました
(2023/5/27 主人公の名前を変更しました。平賀→久我)
「んでよ、親父が誕生日祝いだってスキルオーブ買ってくれてさ」
とある学校の昼休み。
みんなが思い思いに昼食を食べている教室の一番後ろ。
見るからにヤンチャしている風体の三人組が机を突き合わせて盛り上がっていた。
「ウッソマジでぇ!? いいなぁ!」
「じゃあ金城くんってもうスキル使えんの?」
「おう昨日試してみたけどバッチリ使えたぜ。ほら見てみろよ」
その中でもとくにガラが悪くて偉そうな少年、金城がおもむろに指を立てると、その爪先にボッと火が灯った。
「発火スキルだ。どうだ、凄ぇだろ」
「「おおお~っ!」」
金城は肘まで制服を捲り上げているから、なにか細工を仕込むスペースがあるようには見えない。
しかも不思議なことに炎の高熱で指を炙られているはずなのにまるで平然としている。
「金城くん、それって熱くないの?」
「ああ、炎耐性もスキルの一部なんだってよ。最初は俺もビビったけどな、なんつーか風呂に手ぇ突っ込んだくらいの熱さって感じ?」
そう言って金城は実際にもう片方の手を直接炎で炙って見せたが、やはりなんともないようだった。
肌はおろか毛の一本も焦げ付いてすらいない。
ならマジックで使うような見せかけなのかと思えばそんなことはなく、金城が机の中から取り出したルーズリーフを火にくべると激しく燃え上がって一瞬で消し炭になった。
「……すっっ、げぇぇ! マンガの主人公みたいじゃんソレぇ!」
「なっ! なっ! すげぇ~、いやマジでやべ~ってコレ!」
「はっ、たかがスキルぐらいでそんな驚くなってお前ら。こんなもん今時珍しくもねぇだろ、ガキじゃねぇんだから」
テンション高くはしゃぐ子分ふたりにやれやれと肩をすくめてみせる金城。
そんな彼らの様子が気になっていたのだろうか。
近くに座っていた女子グループの一人が席を立って金城に近づいた。
「ねぇねぇ金城くん。それってもしかしてスキル?」
「っ、あ、雨鳥」
文武両道で品行方正、腰まで伸びた長い黒髪と日本人形みたいな整った顔立ち。
セーラー服を押し上げる胸の膨らみは女子中学生の平均を遥かに上回り、足もスラリと伸びたモデル顔負けのスタイル。
我が中学の絶対的アイドル、雨鳥乙女さんだ。
「なんだ聞こえてたのか。いいだろ、この通りさ」
金城は雨鳥さんに見せつけるように指から放出していた炎を腕全体に纏わせた。
火力が増したせいか途端に周囲に熱気が溢れる。
「へぇ……発火ってことは攻撃スキルだよね。結構高かったんじゃない?」
「あん? いや分かんねぇ、親父はなんも言ってなかったしーーそいや雨鳥もスキル持ってたよな」
「うん、お父さんが心配性でね。万が一の時はこれで身を守りなさいって」
「ふぅん」
金城はなんでもないように話してるけどスキルオーブはとても高価なアイテムだ。なにせ危険なモンスターが蠢くダンジョンからしか産出しないんだから。
とくに攻撃スキルが得られる赤色のオーブは人気が高くて軽く新車が買えるくらいの値段がしたはずだ。
とてもじゃないが中学生にプレゼントするにはやり過ぎで、つまりそれだけ彼らの家が裕福だってことだ。……羨ましいったらない。
「スキル覚えたってことは金城くんはダンジョン潜るつもりなの?」
「あ~……まぁ、いずれはな。パーティー組んで潜るのもアリかな、なんて」
「そうなんだぁ。探索者ってカッコいいよね~、わたしもいつかなるつもりなんだぁ」
「雨鳥が!? マジかよ!?」
「えへへ、意外だった?」
「そりゃそうだろ。あの雨鳥が探索者ってーーあ。……なぁ、ならさ。俺と一緒にダンジョン潜んねぇか? パーティーの枠まだ埋まってねぇし、雨鳥ならスキル持ってるしさ」
雨鳥さんの反応に感触アリと見たのかここぞとばかりにアピールする金城。
金城が彼女に惚れてるのはわりと周知の事実だし千載一遇の機会が訪れて必死になるの分かる、けど雨鳥さんは中々に手強かった。
「ん~ゴメンね。やめとく」
「な、なんでだよ。どうせ探索者になるなら俺と一緒でもいいだろっ」
すげなく断られるも、諦められないのか追いすがる金城。
そんな金城に雨鳥さんは優しく言い聞かせるような口調で答えた。
「んとね、実はわたしのお父さんって探索者ギルドに勤めてるの。それで、わたしがもし探索者になる気ならお父さんの知り合いの探索者さんを紹介してくれるって……だから、ね?」
「っ! ……そうか。なら仕方ねぇか」
「でも誘ってくれたのは嬉しいよ。金城くんも頑張って、わたしも陰ながら応援してるからっ」
「お、おうよっ! 見てろって、すぐ上級探索者になってやっから」
うわあ、上手いなぁ雨鳥さん。
お父さんをダシにして断りつつもしっかりフォローまで入れてる。
金城を悪しからず思ってるならギルド勤めのお父さんとやらに金城のことも頼めばいいだろうに、そうしないってことは脈はなさそうだ。
当の金城は気付いてないっぽいのが哀れというかなんというか。
それにしても雨鳥さんと金城が探索者になる、ねぇ……。
たしかにスキルを覚えればダンジョンを探索するのに必要な資格試験は受けられる。
一夜漬けで余裕と噂の筆記試験と実技試験をクリアすれば、晴れて国家資格を持ったプロ探索者になれる。
だから最初の関門となるスキルオーブの購入費さえどうにか工面できれば探索者になること自体は結構簡単だ。
けど幾ら強力なスキルがあったってダンジョンは決して侮っていい場所じゃあない。
ちょっとしたミスであっさりと命を落とす、それがダンジョンだ。
そのあたりホントに分かってるのかなぁ?
(……ま、僕が気にすることじゃないけど)
誰に聞かせるでもなく心の中でそう呟いて僕は隣の席のやり取りから視線を戻した。
ふたりが本当に探索者になるなら両親なり探索者ギルドの職員がダンジョンの危険性も含めて説明してくれるはずだ。
それに雨鳥さんとも金城ともただのクラスメイトで友達でもなんでもないし、お節介を焼いたところであっちが戸惑うだけ。僕の出る幕はないだろう。
だから勝手に好きにしてくれってのが本音だ。
でもま、ちょっとタイミングがタイミングだけに他人事とは思えなかったのはあるけど。
5月26日。
奇しくも金城とは一日違いで僕は15歳になった。
15歳になればスキルオーブを買えるようになる。
そしてスキルを覚えれば命の危険と引き換えであるけど探索者としてダンジョンに潜って大金を稼げるのだ。
僕がお世話になっている孤児院が閉鎖するという話を聞いたのは、今から半年ほど前のことだった。
10年前に起きた大災害以降、爆発的に増えた孤児に対し国からの予算は減額され続ける一方でやむを得ずってことらしい。
猶予はたったの一年。
つまり来年の春過ぎにはあの孤児院で出会った人たちと離れ離れになってしまう。
それまでにまとまったお金を稼げればあるいは。
絵に描いた餅かも知れないけど、ただの中学生に過ぎない僕がそんな大金を稼ぐ選択肢は他にない。
だから僕は。
『久我エイジ』は探索者になる。
誰かに憧れたからでも誰かにおだてられたからでもなく、自分の意思で僕自身の願いを叶えるために。
作者の宮前さくらです。
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